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決意

 結婚に賛成できないが、代替案は誰も考えつかない。このままでは、本当に聖騎士たちが王宮へ押しかけてくるだろう。

 その先に待っているのは――教皇の復活に違いない。

 枢密院の者達が結婚を反対するのは、ここにある。ワルテン王国の王女である私が枢機卿と結婚し子どもでもできたら、教皇復活に一歩近くなるのだ。

 もちろん、私は枢機卿の思い通りになんかさせない。身分は返上するつもりだし、仮に子どもができたとしても、王位継承権は持てないよう契約するつもりである。

 考えもなしに、結婚をすると言っているわけではないのだ。


 このままでは、永遠に打開策について話し合ってしまうだろう。まったくもって時間の無駄だ。そう思って、結婚以外の代替案を挙げてみた。


「では、わたくしが大聖教会へ奉仕へ行く、という方向性で納得いただけないでしょうか?」

「王女殿下が奉仕活動をするだと!?」

「ワルテン王国の王女が、大聖教会にへりくだるなんて、あってはならない」


 我慢できなくなり、テーブルを拳でドン! と叩く、すると、しつこく言い立てる声は静まった。


「もうすでに、国や各々の自尊心や立場を気にしているような状況ではないのです。王家だけでなく、国家そのものの存続の危機が迫っております。一刻も早く、内戦が起きないように手を打たなければなりません。わたくしは大聖教会へ行きます。その間に、よき解決方法を考えておいてくださいませ!」


 もうこれ以上話すことはない。そう思い、会議室から去った。

 私室に辿り着いた瞬間、膝の力が抜けてその場に頽れる。


「ああ、ヴィヴィア姫!」


 ミーナが体を支え、顔を覗き込む。


「顔色が真っ青です。それに、お手が――」


 叩きつけた拳が、真っ赤になって腫れていた。ミーナはすぐに氷嚢ひょうのうを用意し、冷やしてくれた。


「お兄さま……陛下に手紙を書きませんと」

「え、ええ」


 もう休んでいるだろうから、面会に行ったら負担になるだろう。そう思い、議会の決定を手紙に認め、兄に伝えた。 


 その後、湯を浴びてから布団に潜り込む。ぐっすり眠れるほど、私は強くなかった。


 ◇◇◇


 翌日、兄と話し合い、大聖教会への奉仕活動が正式に決まった。

 枢機卿もこの件に関して納得し、双方の関係が良好になるように導く平和の使者として、私を受け入れてくれたという。

 ミーナも一緒に奉仕活動に参加してくれるようで、それだけは心強かった。

 大聖教会へ向かう当日、兄は私を抱擁し、わんわん泣いていた。


「ヴィヴィア、すまない。わ、私が弱いばかりに――!」

「どうか、どうかお気を病まずに……」


 ぐすぐすと涙ぐんでいた兄が、耳元で囁いた。


「ヴィヴィア、どこへ行っても、お前が信じたいと思うものを、信じ続けるんだよ。そうすれば、きっと救われるから」


 それはどういう意味なのか。わからなかったが、時間がないので頷いておいた。


 兄から離れると、今度は義姉が私のもとへ駆け寄って抱きついてきた。

 ワルテン王国よりも大国から嫁いできた彼女は、私とあまり話したがらなかった。きっと嫌われているだろう。そう思っていたのだが、それは間違いだったらしい。

 義姉は涙ながらに訴える。


「ごめんなさい! あなたを守ってあげられなくて!」


 かける言葉が見つからず、私は抱き返すことしかできなかった。

 義姉は最後に、「これまでありがとう」と言葉を残し、離れていった。

 いつか再会したときには、本当の姉妹のようにお喋りできるだろうか。

 そんな未来を、ほんのちょっとだけ願ってしまった。


 長年、慈善活動以外で王宮から出た覚えなどなかった私が、大聖教会に行くために外の世界へ一歩踏み出す。

 奉仕の期間は定められていない。謀反を起こさないための、人質となるのだろう。

 それでもいい。兄の治世が、少しでも平和になるのならば。

 王女として、誇りに思える。


 大聖教会の総本山たる大聖堂は、ワルテン王国の郊外に建つ。

 馬車で一時間半といったところか。

 大聖教会側が用意した、純白の馬車が停まっていた。周囲には護衛の聖騎士たちが白馬に跨がっている。


 馬車からひとりの騎士が降りてきた。

 白い聖騎士の制服に身を包む、背が高い青年である。

 絹のように艶やかな、金の長い髪が風に揺れた。目と目が合った瞬間、声をあげそうになる。

 目の前に現れた美貌の青年に、見覚えがあったから。


「あなたは――レイナート!?」


 私の反応を見た彼は、ふっと口元に笑みを浮かべる。

 それは、再会を喜ぶ微笑みではない。他人を小馬鹿にするような嘲笑であった。


「飛んで火に入る夏の虫、というのは、あなたみたいな女性ひとを言うのでしょうね」

「虫? わたくしが?」


 あまりにも失礼な発言に、唖然としてしまった。

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