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私を嫌い、王家を裏切った聖騎士が、愛を囁いてくるまで  作者: 江本マシメサ
第二章 王女は戦地へ身を投じる

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救護院での暮らしについて

 ちょうど食事の時間だからと、食堂に案内してもらう。

 思っていたよりもこぢんまりとしていて、十名ほどが飲食できるテーブルが二組あるばかりだった。

 本日の夕食は、蒸したジャガイモと白湯。パンを焼く余裕さえないらしい。

 ジャガイモはひとりにつき二個与えられる。食堂にカトラリーの類いはなく、皮つきのままのジャガイモを鍋から取る仕組みらしい。


「食器を洗う手間を省くため、ここでの食事は大抵手掴みで食べられる物なんです」

「まあ……そうでしたのね」


 とにかく人手不足だということで、手間は最低限という中で暮らしているようだ。

 修道女たちは各自で持ち込んだ手巾にジャガイモを置き、黙々と食べていた。

 それに倣って、私たちもハンカチを広げた上でジャガイモをいただいた。

 一応、塩ゆでしているとのことだが、ジャガイモそのままの味わいだった。

 そんなジャガイモを、ありがたくいただく。


 その後、メアリさんに私室を案内してもらう。寝台が二台置かれた二人部屋である。ミーナと一緒に使えるように手配してくれたらしい。


「事前に他の修道女と同じ扱いをしてほしいと希望されていたので、食事や入浴時の配慮はありません」

「ええ、わかりました」


 食事は朝と夜の一日二回、お風呂は三日に一回だという。

 どれも調理や風呂の準備に修道女の手を割かないために、最小限の頻度で行っているようだ。

 ちなみに聖騎士たちは朝昼晩の食事に、毎日入浴できる環境らしい。それを聞いて安心した。


「今日はゆっくりお休みください。本格的な奉仕活動は、明日よりお願いします」


 説明を終えたメアリさんは、会釈して去っていった。

 窓際に置かれた椅子に腰をかけ、ふー、とため息をついていたら、どこからともなくスノー・ワイトが現れる。


『あー、もう、どこに行っても血の臭いしかしないわ』

「仕方がありませんわ。ここは屍食鬼と戦って負傷した聖騎士たちを治療する、救護院ですから」

『そうだけれど……。まあ、ここはマシね』


 スノー・ワイトは私の膝に跳び乗って丸くなる。もふもふの毛並みを撫でていたら、なんだか癒やされてしまった。

 ミーナのほうを見ると、羨ましそうな視線を向けているのに気づく。


「ミーナも触ってごらんなさいな」

「しかし、妖精さまを撫でるなんて」

「大丈夫。よく眠っているわ」

「で、でしたら」


 スノー・ワイトを撫で、ひとときの癒やしを味わったのだった。

 その後、ミーナが王都から持ってきた品を紹介する。


「ヴィヴィア様、私、〝携帯魔石風呂〟を譲ってもらったんです」

「携帯魔石風呂、ですか?」

「ええ。冒険者などが野営をするときに、入浴できる画期的な道具らしいのです」


 なんでも冒険者だったミーナの叔父から、餞別せんべつとして渡されたのだとか。持ち運びできるように、魔法仕掛けの収納箱に入れられているらしい。

 ミーナが旅行鞄から、手のひらサイズの小箱を取り出した。

 表面には呪文が刻まれており、指先で摩ったあと床の上に設置する。すると、大きな浴槽が箱から飛び出してくる。


「まあ! こんなに大きな浴槽が入っていたなんて」

「驚きですよね」


 浴槽に埋め込まれた魔石に魔力を込めると、あっという間に湯で満たされる。


「この魔石は月明かりの晩に外に置いておくことにより、魔力を溜められるそうです」

「便利ですのね」

「ええ。話を聞いたときには驚きました」


 浴槽の中で体を洗ったあとは湯を抜く。湯は魔法の力を使い、一瞬で蒸発される。

 再び湯を張って泡を落としたあと、今度は体に付着した水分ごと蒸発してくれるようだ。


「湯布すらいらない、というわけですのね」

「画期的ですよねえ」

「本当に」


 これはドワーフ族に作らせたとっておきの品で、値段は付けられないという。ミーナの叔父曰く、フランツ・デールではまともに風呂も入れないだろうから、という言葉とともに託されたらしい。 


「お風呂が三日に一度だったなんて。叔父が言っていたことが当たるとは思ってもいませんでした」

「そうですわね」


 ミーナの叔父に感謝し、ありがたく使わせていただこう。

 そんなわけでミーナと交代で入浴し、消灯時間前に布団に潜り込んだ。

 スノー・ワイトも、私の布団に寝転がる。


『大聖教会のリネンよりも、ゴワゴワしていて寝心地が悪いわね』

「建物の中で休めるだけ、贅沢なことですわ」


 屍食鬼に襲撃を受けて炎に呑み込まれた村では、天幕の中で寝泊まりしていた。それを思えば、今がどれほど恵まれた環境にあるのかひしひしと痛感してしまう。

 その話を聞いて納得してくれたのか、スノー・ワイトは『おやすみなさい』と言って眠り始めた。


「おやすみなさい、スノー・ワイト。ミーナも」

「ヴィヴィア姫、おやすみなさい」


 目を閉じたが、心が落ち着かないからか眠れそうにない。

 それから何度も寝返りを打っているうちに微睡まどろんでいく。

 意識が遠ざかりかけていた瞬間、遠くから叫び声が聞こえた。

 何事かと思って起き上がる。


『きっと患者の声よ』

「あ――!」


 起きていたのかとコソコソ話しかけると、『何度も寝返りを打つ人の隣で熟睡できるわけないじゃない』と言われてしまった。丁重に謝罪する。


「女性の声でしたね。もしかしたら、夕方に治療を受けた聖騎士でしょうか?」

『そうかもしれないわ』


 手元に置いてあった魔石灯を灯し、寝間着の上からガウンをまとう。


『ちょっと、どこに行くのよ』

「様子を見てきます」

『放っておきなさいよ』

「でも、気になりますので」


 ミーナは深く寝入っているようだった。起こすのも悪いので、そのままひとりで行こう。


『ちょっと待ちなさい。あたしも一緒に行くわ』

「よろしいのですか?」

『ええ。あなたひとりだと、心配だから』

「スノー・ワイト、ありがとうございます」


 そんなわけで、スノー・ワイトとふたりで患者の様子を見に行くこととなった。

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