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私に忠誠を誓った騎士はもういない

 幼少期の忘れられない思い出――。

 五つ年上の美しき従兄いとこ、レイナートは私の前に片膝を突いて誓った。


「ヴィヴィア、あなたを命に替えてまでも守ります」


 当時、私は八歳、レイナートは十三歳だった。

 従騎士だったレイナートは本気だったようだが、幼い私はただのごっこ遊びとしか思っておらず、偉そうに言葉を返す。


「レイナート、わたくしだけではなく、国王となったお兄さまも守ってくださいな」


 そんな我が儘に、レイナートは言葉を返した。


「それでは、アーデルヘルム殿下も、誠心誠意お守りいたします」

「あら、その言い方だと、お兄さまはおまけのよう」

「私はヴィヴィアの騎士ですので」


 レイナートはずっと俯き、普段、他人になど絶対に見せない首筋を露わにしていた。

 うなじにはホクロがあった。きっと永遠に誰も知ることがない秘密だろう。


 レイナートは言っていたのだ。自らを〝ヴィヴィアの騎士〟だと。

 それなのに、レイナートは裏切る。

 両親が屍食鬼グールに襲われ、共に命を落としたという大変なときに、彼は王家と対立関係にある大聖教会の枢機卿の聖騎士となったのだ。


 屍食鬼というのは、人々を喰らう魔物である。三百年ほど前からワルテン王国に出没し、噛まれたら三日以内に干からびて死するというおぞましい存在だ。

 唯一治せるのが、大聖教会の錬金術師が作る〝聖水〟なのだ。

 両親は聖水による治療を拒絶し、そのまま帰らぬ人となってしまった。

 国王と王妃が崩御したため、急遽兄アーデルヘルムが即位することとなった。

 当時、十八歳だった兄は病弱で、玉座に座るだけでもやっとという状態だったのだ。

 それでも、兄は立派に戴冠式を勤めあげた。

 これから大変だろうが、レイナートと三人で力を合わせて頑張ろう。

 なんて話していたのに、レイナートは王家を裏切って大聖教会側についたのだ。


 なぜ、どうして?

 疑問は尽きないが、レイナートに何度手紙を書いても返事なんて届かなかった。

 私たちは裏切られたのだ。

 絶望し、涙した。自分の半身を失ったと思うくらい、辛く悲しい出来事だった。


 けれどもそれから五年が経てば、悲しみや絶望は別の強い感情となる。

 それを奮闘する力とし、私と兄はなんとかやってこられたのかもしれない。


 ただ、大聖教会と国の枢密院の小競り合いに中立的な立場を貫くのも、そろそろ限界だった。

 兄は五年の時を経て、憔悴しょうすいしきっていた。

 このままではいけない。そう思いつつも、具体的な解決策は思いつかないまま――。


 枢機卿の暗殺計画までちらつくようになり、全力で阻止する。そんな状況の中、大聖教会より和平交渉が届いた。

 それは、私と六十代の枢機卿の結婚であった。

 頭を抱えたのは言うまでもない。  

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