86話 昇格
サハギンたちを倒し終わり、ダンジョンが消えゆく虹色の世界を経験後、全てのコアを苦労して集めてから、土産に燻製肉の山盛りを蛟に渡して防人は帰宅した。そうしてマナを回復させて次の日。
「水場だと蛟は圧倒的だよなぁ。さすがはCランクのソロタイプ」
リビングルームで昨日の戦闘を思い出しながら、ソファに凭れかかり伸びをする。疲れたけど、満足できる戦闘だった。雫がまたもや血だらけになったけど、大丈夫だったし。この娘、少し危なっかしいから心配だぜ。
『蛟が量産できた暁には、水場のダンジョンなどぶっ叩けるのですが、蛟はスペシャルなのでサハギン1000匹を倒しても出現するかわかりませんので、手に入らないでしょう。なので、数は揃えられませんね。戦いは数だよ、兄貴』
「俺は雫さんの兄貴になった覚えはないです」
ムフンと鼻息荒く得意顔で話しかけてくる雫さん。なにやら意味不明なこともあるが、たしかに蛟はそんなにいないんだろうなぁ。残念だぜ。
まぁ、それは良いだろう。それよりも、重要な驚くべきことがあったぜ。
「雫、どうやら俺たちはレベルが上がったみたいだぞ?」
手をワキワキと動かしながら、体内のマナの流れを感じとる。今までよりも、増大している感じがするのだ。
『そうですね。どうやらレベルアップしたみたいです。サハギンエンペラーは格上でしたし、ここ最近、大量の魔物を倒していました。魔法最大効率変換を合わせると、今までの数十年分程度はマナを吸収したかと思います』
体内に吸収できるマナは決まっている。要はお腹いっぱいだとそれ以上は吸収できないのだが、ここ最近は倒しまくっていたから、常にお腹いっぱいの状態だった。それに加えて、魔法最大効率変換があったから、予想以上に育つのが早かったか。2ヶ月か、3ヶ月か? 3に上がるまでにかかった年数はもう思い出したくないな。
まずはステータスを確認。逆境成長で手に入れたポイント380も振り分けておく。レベルアップで手に入ったステータスポイント200と合わせて580のスキルポイントだ。
天野防人
マナ700→800
体力30→100
筋力30→100
器用40→100
魔力420→700
いい加減、魔力以外も上げておかないと、先々厳しそうなので、体力、筋力、器用も上げておく。
『では、私も上げちゃいますね』
天野雫
マナ200→300
体力150→300
筋力150→300
器用670→700
魔力50→200
雫もさすがに器用度以外を上げないと厳しいと思った模様。無理もない。サハギンエンペラーに完全に押し負けていたからな。普通に押されていたから、そろそろ全体の能力を見直したってところか。
「もう総合ステータス1800か。簡単に上がるもんだよな」
Cランクのカンストは2000。もうあと少しでカンストだ。Bランクのカンストはいくつぐらいなんだろ?
『Bランクはカンスト4000だと思われます』
Bランクのカンストはいくつぐらいなんだろ? わからないな。ステータスが敵の強さの指標になるからな。さっぱりわからないな、うん。
「上を見てもきりがないよな。さて、他のスキルは全てレベル4になったわけだが、等価交換ストアーもスキルレベル4になった。スキルレベル3の時は何も起こらなかったのに、スキルレベル4は面白い機能が追加されているぞ」
『アイテム性能値再設定:Cコア1000』
遂にストアに新たなる機能が入った。売値はCコアを1000個。迷うことなく投入して買いだ。サハギンのダンジョンで手に入れたCコアは2269個。買うしかないよな。機能ってのはゲームでも初期に解放すると、後々有利になるもんだし。
ボタンを躊躇うことなく押下すると、いつもよりいっそう禍々しい漆黒の粒子が等価交換ストアから生み出されて、俺の体内に吸い込まれていった。……これ、体に悪くないよな? ちょっと不安を覚えるぜ。
『やりましたね、防人さん。早速使ってみましょう』
「オーケーだ。えと……どうやって使うんだよ、これ。こうか?」
説明書が欲しいと思ったが、すぐに理解した。
『火炎花:Cコア1』
これを触ると効果と性能が表示されたのだ。
『火炎花:周囲を100度の環境に変える。繁殖不可。成長期間30日、効果期間3日』
恐ろしい性能の花だ。正直使いみちがない。だが、そこにプルダウンの三角マークが付いた。触ると数字の部分が変更できた。性能を変えたアイテムを新たに登録できるようだ。元のアイテムは一覧から消えない模様。どんどん温度を下げると……。
『熱花:Dコア1、周囲を50度の環境に変える。繁殖不可。成長期間10日、効果期間10日』
もうひと息。ポチポチっとな。
『春の花:Eコア1、周囲を25度の環境に変える。繁殖不可、成長期間3日、効果期間30日』
と変わった。素晴らしい性能だ。これから冬にかけて役に立つだろこれ。
性能を落とすことにより、効果期間などが変わったのだ。これぞ魔法の花だよな。スキルレベル4で、面白い使い方ができるぞ。
次はこれを変えてみよう。
『氷結花:Cコア1、周囲の環境をマイナス50度に変える。成長期間30日、効果期間3日』
これをこうしてっと。
『冬の花:Eコア1、周囲の環境をマイナス5度に変える。成長期間3日、効果期間30日』
素晴らしい。これは素晴らしい。
思わず拍手をしちまうぜ。早速ラインナップに入れておく。売値はEコア3個と。900円ってところだよな。うん、これで冬も怖くない。凍死者もいなくなるに違いないぜ。
残念ながら効果を上げるのは無理なようだ。まぁ、仕方ないか。そこまで求めるのは贅沢ってもんだよな。
『あ』
「ん? どうした、雫?」
ラインナップに加えることにしたら、雫がなにか言いたそうに口をパクパクさせてくるが、なにかあったか?
あったか……。これ、罠かぁ? すぐに雫の言いたいことにピンときた。だが……もうラインナップに入れちまった。新機能追加で珍しくはしゃいじまったよ。
『等価交換ストアーのアイテムはどうやら防人さんの意思により、本来の形と変わっていますから、きっと大丈夫ですよ』
慰めるように、小さな手で俺を撫でる素振りをみせる雫さん。……うう〜ん、そうかなぁ? 嫌な予感がするぜ。
「どちらにしても、素知らぬふりをしなきゃならんし、1週間は様子見だな……」
とりあえずおいておいて、だ。
「続いて、ダンジョンコアとボスコアが等価交換ストアでなにと交換できるか、見てみるか」
ポチポチと見てみると、Cランクのダンジョンコアは基本は予想通りのポーションだった。
『スキルレベル4アップ10%ポーション』
『スキルレベル3アップ50%ポーション』
『スキルレベル2アップ100%ポーション』
『ステータス200アップポーション(総合2000制限)』
その他に多様なスキルがある。まぁ、順当にスキルだよな。
『防人さん。『トラップマスター』一択です。これを取れば、高ランクのダンジョンも対処できます』
ふんふんと鼻息荒くスキル一覧を見ていた雫が指を指す先には知識系統のスキルが表記されている。
『限定1:トラップマスター』
「デメリットは?」
当然あるよな? ないとは言わせないぜ。
『罠を作るのには、クラフトスキルが必要です。『罠術』がスキルで手に入りますが、罠を設置するのにも、解体するのにも、優れた複雑なアイテムが必要なんですよ』
「泣ける仕様だこと」
トラバサミを設置するには、まずトラバサミを用意しろということかよ。泣けるぜ。
『トウモロコシ畑にトラバサミが落ちていたりして、4人の悪戯者を罠にかけるために気軽に設置したりはできないんですよね、残念ながら。それでも役に立つとは思いますよ』
「たしかに知識があるとないとでは大違いだからな。了解だ。取得しておく」
ポチリと押下してゲット。禍々しい漆黒の粒子が身体に入り込み、頭がクラリとする。やはりすぐにレベル4となり、トラップマスターの持つ罠の知識が入ってきたが………。
「魔法爆弾を設置するには、魔法爆弾を作らないとだめだと。気休め程度にしておくしかないか」
複雑怪奇な罠しかない。いや、あるにはあるんだが、ククリ罠なんてどこで使うんだよ、まったく。
持っていると持っていないとでは、違いがあるだろうし、まぁ、良いさ。罠があるとわかれば、避けることもできるしな。
「では、次。サハギンエンペラーのコアは何に交換できるのかな、と」
等価交換ストアの一覧を確認していく。と、面白い物をみつけた。
「『変装の指輪』だってよ。良いなこれ」
『変装の指輪:マナにより姿形を変えて変装する。効果時間1時間』
『これは背丈プラスマイナス1メートルまでならば、どんなものにも変装できます。見かけが変わるだけで、中身は変わらないので触られたらバレますけど。それに加えてマナ感知を使われると一発でバレます。マナが不自然に身体を覆っているので』
マナ感知に引っかかるのか。それでは使えない。
「そうなのか……」
『面白グッズなので、アークデーモンに変装してシャワー室に入ってきた人がいるんです。慌てて装備を取りに裸で外に出て恥ずかしかったです。その人が次の日にシャワー室に入っているときに、なぜかすべての壁が透明になって、大変なことになりましたけど。ふふふ』
うん、なんでいつもスケールのでかい悪戯をするのかな? 体験談だよな、それ。
含み笑いをする小悪魔ちゃんを横目に、変装の指輪にタッチする。効果時間を変更できるみたいだ。
即ち、効果を下げることができる。と、するとだ。もしかしてもしかするか?
『化粧の指輪:マナにより髪と顔の形を僅かに変える。効果時間12時間』
交換っと。ころりと鈍い光をみせる銀の指輪が現れる。安物のシルバーアクセサリといったところか。指輪のマナもほとんど感じない。予想通り、これなら見抜かれる可能性は低そうだ。
「雫、ちょっと嵌めてみて」
これは雫に持っていてもらいたい。俺が持っていても使い道がないからな。
『わかりました。『全機召喚』』
はい、どうぞと無意味に全機召喚を使う雫さん。そうして左手を差し出して、テレテレと照れる。
「あのな……はぁ、まぁ、良いか」
薬指に嵌めて欲しいんだろ。だけどなぁ。
「愛の告白もなしに義務的に薬指に嵌めてほしいのか、雫さんや? 悲しいだけだと思うがな?」
ニヤニヤと笑って雫へと指輪を摘んでみせる、
「クッ……なんでテンプレを外してくるんですか、防人さんは! まったく、まったくもぉ〜。そう言われたら薬指に嵌めてもらうわけにはいかないじゃないですか。中指にお願いします」
プンスコ頬を膨らませて、怒る雫だが、それで薬指に嵌めて、喜ぶのは痛い女だけだぜ? 男はドン引きしてしまうだろ。それにドン引きしなくても、意味なく薬指に指輪を嵌めてあげるなんて悲しいじゃんね。本物の時はどうするわけ?
「了解だ」
中指に嵌めてあげると、指輪は縮まり自動的にピッタリに嵌まった。さすがは魔法の指輪だよな。
「まったく……いつか、告白と一緒にくださいね?」
「未来は誰にもわからないが、覚えてはおくぜ」
ふふっと悪戯そうに微笑む雫へと、俺は肩をすくめて答えるのだった。ハードボイルドだろ?