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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
1章 ダンジョンと共生する世界
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8話 国軍

 自動販売機。等価交換ストア。強くてかっこいいハードボイルドなおっさんの固有スキルの力である。なんと、その能力は魔物の心臓であるモンスターコアを使用して、アイテムと交換できるという画期的なスキルであった。


 その力により、世界はなんとなく平和となった。


『防人さん。全然平和になっていませんよ? 現状を見てください』


 廃墟ビルの屋上。ペントハウスのソファにて寛いでいた天野防人は、ふふ〜んと鼻歌という、おっさん的公害を撒き散らしていたが、雫のツッコミにため息をつく。


「まぁ、コッペパン一つで、Fランクモンスターコア5個はきついかぁ?」


 モニターを宙に映し出すと、収益が表示される。等価交換ストアーの現在の収益だ。


 設置してから3日経っていた。世界は大きく変わるかもと、おっさんはそわそわしていたが、あんまり変わらなくて安堵していた。なぜ安堵したかというと、独占しようとする奴らは見る限り、ほとんどいなかったからだ。あれから5台ずつ増やして、現在東京は15台の等価交換ストアーを設置してあるが、特に大きな動きはなかった。


「まぁ、こんな結果だもんな。売上は不振だこと」


 ため息をついて、モニターに手を添える。ゴツゴツした指で結果をなぞる。


『売上利益:12488G、86F、35E』


 Gランクばかりだ。驚くところは、Eランクコアを誰かが入れているところ。たぶん内街の奴らだ。なにか売っているアイテムが解放されるか確認のために入れたのだろう。残念。対象がない場合はボッシュートなのさ。


『ゴブリンなら頭を使えば勝てると思うのですが?』


 幽体状態の雫がソファの上で足をプラプラ振って、つまらなさそうに呟く。たしかにそのとおりだとは思うのだが……。


「アーチャーが厄介だ。ゲームみたいに低レベルのノーマルゴブリンだけで構成されていれば良いが、奴ら必ずアーチャーを連れているからな。実に面倒くさいし、怪我をする可能性を考えると、ゴブリンは無理めだな」


 腕を組み目を細めて考える。やはりそこがネックになったか。当然だな、奴らは微妙にずる賢いから、簡単な罠などには引っ掛からない。そして大人と同じ力を持つ、と。


 トントンと肘掛けを指で叩く。雫がそのリズムに乗って、ふんふんとちっこい腕を振って、身体をクネクネさせて可愛らしく踊り始める。暇らしい。


 この娘はアホ可愛いなぁと思いながら、仕方ないとため息をつく。


「Fランクがゴブリンだけだと思われているのかもな。ランク表を誰か……花梨にでも作らせるか。Fランクで倒し易い奴を教える必要がある。特にスライムをこんなに狩ったら、それを主食にしていた大鼠が暴走するかもしれないしな」


 スライムとビックローチは大鼠の主食だ。水を手に入れるために、廃墟街の人々は夢中になって倒しているだろう。少し危険でもある。


『お人好しですね。混乱の中で育つハングリー精神があると思いますよ?』


 優しい目つきで優しくないセリフを言う雫に苦笑で返す。お人好し……。たしかにお人好しに天秤は揺れるだろうが……。


「俺のためでもある。稼ぎ方がわかれば、俺も強くなれるからな」


『それなら、お好きなように。私は貴方についていくと決めてますし』


 細い肩を竦める可愛らしい美少女の姿に癒やされる。ツンデレなんだからと言いたいところだが、こいつは意外と嫉妬深い。ツンデレじゃなくて、ヤンツンデレかも……うん?


「む、国軍がストアーにやってきたぞ?」


 外壁の見張りをさせているカラスから信号が入り視覚を共有する。外壁の錆びた門が横にギィと軋むような音をたてながらスライドをして、横幅が広い軍用ジープを3台、歩兵輸送車を一台通過させている。


「内街様にしては動きが早い。大事だと考えて他のストアーを調査しに来たか。占拠するには数が足りないからな」


『そうですね。軍なんて去年のリザード大行進の時に見たのが最後ですよ』


 防人と感覚を共有できる雫も真剣な表情で、敵の構成を見て、同じ判断をくだす。問題はないだろうが……。


「これはチャンスだな。内街の奴らがなにか変わったか」


 武器は銃頼り? それともスキル持ち頼り? 敵を倒せる新型を作った? 興味深い。


「敵の倒し方を教えるのはやめだ。見せてもらおうか、内街の奴らの力というものを」


 フッと鼻で笑って、目を瞑りカラスに集中しようとして、そわそわもじもじと雫が身体を揺らしていることに気づく。


「なんか気になることあったか?」


『ガーン! 今の普通に言ったんですか? ガガーン。どう返そうか考えていたのに』


 ぽかんと小さなお口を開けて、何やらわけのわからないショックを受けている雫に首を捻りながら目を瞑るのであった。






 国軍。もはやダンジョンによる被害が大きすぎて、銃を撃つかどうか、自衛隊を出動させるか話し合って、延々と国会で決まらなかったために元自衛隊が国会を占拠。その後、軍となったものだ。


 その瞬間、日本は軍事国家となった。他の国々と同じく。結局非常時は武力が物を言う。全ての国で例外はなかった。話し合って解決できる相手ではなかったのだ。魔物とダンジョンは。


 その軍の車両が排ガスを噴き出しながら、装甲を増設させ、チューンナップをしたハイパワーを見せながら移動をしていた。


「まったく廃墟街に行く必要があったのかね? 佐官の私が行く必要があったのかね?」


 ノリの利いたパリッとした黒い軍服を着る30代の神経質な男が、苛つきを隠さずに運転手へと不満を口にする。運転手はハンドルを操りながら、恐る恐る答える。出発してから、数えるのも嫌になるほど繰り返された会話だ。


「申し訳ありません、丸目少佐。今回、議会の方はこのことを重要視しておりまして。全てのコアストアーが同じ品物を売っているか確かめるようにとのことです」


「ちっ、内街のだけでいいじゃないか。現場を知らない上は無茶を言う。どうせ同じだ。同じ」


「一応確認しませんと。すぐに終わると思いますし」


 なんで佐官が出張るんだよと、運転手も愚痴を言いたかったが、グッと我慢する。佐官は偉い。尉官との壁は分厚いのだ。そして、運転手は少尉だ。ダンジョンアタックにでも配置換えされたら、たまったものではない。


 廃墟街は数回来たことがあるが、相変わらず人の住むような場所ではないと、周囲の様子を見て僅かに嫌悪を示す。


 窓ガラスもない、ひび割れた壁が目立つ廃墟ビル。店舗も焼け焦げてあるものもあり、品物どころか、棚すらない。家屋だって、扉は傾き、泥だらけの部屋が目に入る。


 その中でも暮らしている者がいることに驚く。汚れた衣服に痩せ衰えた体の、暗い視線を向けてくる住人たち。道路を走るジープが珍しいのだろう、壊れたビルの陰から、泥と雑草だらけの家屋から顔を覗かせている。


「酷いものだ。こんなところに住むやつは、人間ではない。そう思わないかね?」


 運転手の嫌悪の表情に気づいたのだろう。同じように嫌悪の表情で、外を丸目少佐は見ながら言う。同じ考えを持ってしまったことに、嫌な気持ちになりながらも運転手も頷く。


「奴らは税金も払わないクズたちだ。まったく、私が首相ならば、排除する政策を打ち出すのだがな」


「はぁ……しかし、どうやって? 奴らは魔物と同じく逃げ隠れするらしいですよ?」


 排除できる程のリソースの余裕はもはやないことを知りながら運転手は問いかけると、ムッとした表情となって腕を組み、少佐は押し黙ってしまう。


 ヤバい、皮肉を言い過ぎたかと思って、焦りながら媚びを売ろうか考えていると、ちょうど無線が鳴った。丸目少佐をちらりと見てから、手に取る。


「こちら指揮車。なにかあったか? オーバー」


「コアストアーを発見しました。オーバー」


「了解。すぐに向かう」


 斥候が見つけたらしい。アクセルを踏み加速する。どさくさ紛れに、今の会話を丸目少佐が忘れてくれるようにと。


 ダンジョンの付近にコアストアーは出現する。科学者の予想通りに、コアストアーはダンジョンから少し離れた廃墟ビルの角にあった。予想外なのは、多くの廃墟街の住人が集まっていたことだ。


 皆は水を手に入れるために集まっていたとわかる。ボウルや、水筒、タンクなどの入れ物を手にしているからだ。水は入れ物に入っていない状態で空中に現れる。その時間10秒足らず。最初は水を無駄にしたものだ。


 だが、内街には確保してある浄水場からの水がある。特に水は重要視されていない。


「おい、国軍の奴らだ」

「おかーさん、あれなぁに? 走ってるよ〜」

「車というのよ」

「何しに来たんだ?」


 廃墟街の住人がこちらを見て、ヒソヒソと話し始めて、丸目少佐は顔を歪ませてハンカチで口を覆う。


「蹴散らしたまえ。臭いがこちらまで漂ってくるようだ。服に染み付いたらどうするつもりかね?」


「はっ。了解しました。解散させろ」


 嫌悪しかない声音での指示に従い、運転手が命じると、歩兵たちがトラックから降りてきて、アサルトライフルを構え、腰を落とし膝をつく。


「散れっ! 今からこのコアストアーを調査する。近づく奴は警告なく射殺する!」


 空に向けて、兵の隊長の軍曹が短銃を腰から抜くと、パンと空へと向けて撃つ。


「銃だ!」

「逃げよう!」

「早く来なさい」

「おかーさーん」


 廃墟街の住人たちは、虫のように散らばって逃げていき、フンと満足そうに丸目少佐は鼻を鳴らした。地面には彼らが持ってきていた器がゴロゴロと転がり水が溢れて、びしょ濡れになっていた。


「さっさと調べたまえ」


「了解です」


 すぐに結果はわかるだろう。コアストアーの使い方は簡単だ。


 歩兵が警戒しながら、コアストアーに近づき確認するが、首を横に振る。同じ結果なのだろう。


「ちっ。だから言ったではないか! さっさと次に行くぞ。もう1、2個調べれば良いだろう」


 苛立ちを隠さない丸目少佐だが、運転手の少尉としてはそうはいかない。


「一応手順に従い、調査をしなければなりません。少々お待ちを」


「チッ、まったく科学者というやつは! 救いようがないな、こんな仕事ばかりで高い給料をとる! さっさと片付け給え」


 命令を無視するつもりはないようで、しばらく科学者の手順とおりに確認をしていく。強度は? 隠された機能はないか? まったく同じ物なのか? 写真を撮って、カンカンと叩いて、時間が過ぎてゆく。


 と、警戒していた兵士から無線連絡が入ってきた。


「指揮車へ。ゴブリン及びホブゴブリン、それとゴブリンナイトが接近しています」


 チッと舌打ちする。恐らくは銃声を聞いて集まってきたのだ。警告とはいえ、銃を使わせるのではなかった。


 どうするかと逡巡する中で


「仕方あるまい。私が片付けるとしよう。銃弾は貴重だからな」


 丸目少佐が面倒臭そうに車を降りていく。


 さすがにそこは嫌がらないのかと、運転手は安堵する。佐官の力ならば、ゴブリン程度、相手になるまい。


 佐官とはそういう者たちだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 化石燃料の時刻採取が出来ないであろう荒廃した日本でどうやって自動車を動かしてるんだ?
[一言] 丸目少佐…う~ん、スキルはベタに刀剣関係だったりするんでしょうか。天麩羅? 実戦を経て強くなったタイプなのか、元々の才能なのか。気になります。
[一言] そもそも、国が討伐報奨金とか出すようにすれば、少子化で行き詰まった日本は無理でも、アメリカとかだと民間軍事会社や軍需産業が好景気なるからモンスターから有機肥料位にしかなら無くても充分回せる気…
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