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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
1章 ダンジョンと共生する世界
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4話 ホブゴブリン

 ホブゴブリン。一言でいうとヤベー敵である。ゲームのオーガレベルだといえばよいだろうか。そのステータスは大人の首を簡単にねじ切れる。ちなみに、オーガの場合は身体を引きちぎってきます。


 なんだか、1段階敵がゲームより強くなっている感じがするけど、たぶんスキルのせいだと俺は推測している。ゲームなら、常に相手と同等か上のスキルレベルとかだと思うが、現実だとスキルレベルが人類側の方が低いから、強く感じるんだと思うのだ。

 

 そんなホブゴブリンさん。仲間が火事にあったので、慟哭の叫びをあげている。うんうん、わかるよ、悲しいよね。でもこれって戦争なのよねと、おっさんは後退り逃げようと企む。契約ではホブゴブリンはいなかったです。逃げても契約不履行にはならないはず。


 だが、当然仲間を倒した敵はロックオン済みだったようで、ホブゴブリンは地面を抉るように土を跳ねながら、ドスドスと走ってくる。自転車ぐらいの速さだろうか。持久力もあるので逃げ切れまい。ましてや敵は3体だ。


「覚悟を決めるか。『水球ウォーターボール』」


 バレーボール大の水球を生み出すと、焚き火の中へと放り投げる。ジュッと音がして焚き火の明かりは消えてなくなり、煙と共に突然暗闇の世界へと変わる。


 ホブゴブリンも突然暗闇になって、暗視があると言っても戸惑って立ち止まった。防人はその隙を見逃さなかった。


「ていっ」


 野太いおっさんの声とは思えない、やけに可愛らしい声を出して、防人は先頭のホブゴブリンへとヒョウのように飛びかかる。ホブゴブリンの胴体をつま先を入れるように突き出して、踏み台にするとその頭の上で逆立ちをする。


首捻ネッキングスクリュー


 僅かに身体を光らせると勢いよく頭を掴んだまま回転をした。ゴキリと嫌な音を立てて、ホブゴブリンの首が180度回転し、血の混じった泡を吹き出し、ドウッと倒れる。


 倒れ込む寸前に、防人にしてはやけにちっこくなった身体を回転させながら、空中へと跳躍する。


 一匹が殺されたことに怒りを覚えて、すぐ近くのホブゴブリンが空中を回転するたぶん防人に綺麗な右アッパーを繰り出す。昇竜がその拳に宿ったかのような一撃に、回転を止めると、両手をそっと突き出して、ホブゴブリンの拳に添える。


 そのままするりと腕沿いに流れる水のように小柄な体で受け流す。驚きで目を見張るホブゴブリンの眼前に落ちていき、目を合わせると同時に蹴りを放つ。


『ムーンサルトキック』


 靴の爪先を立てて、ホブゴブリンの脳天へと蹴りを叩き込む。衝撃でクラリと身体を揺らして白目を剥くホブゴブリンの首へと足を引っ掛けると、背面飛びをするように、くるりと縦回転をする。仰向けに首が曲がり、やがて限界を超えて、ゴキリと音をたてると、先程のホブゴブリンと同じように倒れ込む。


『ラッシュ』


 倒れる敵から足を外して、体勢を戻そうとする恐らく防人へと、最後のゴブリンが武技を使ってくる。武技とは魔力と近接攻撃を混ぜた、魔法よりも効果範囲は狭いが、攻撃力が強力な技だ。先程から防人っぽい子が使っていたのも同じく武技だ。


 両手を握りしめて、ジャブからのストレート、ストレート、ジャブと身体を仄かに光らせて、ホブゴブリンは連撃を繰り出す。


 腕をクロスさせて、その猛攻を耐え抜こうとする防人かもしれない存在。だが大人の筋力の数倍を誇るホブゴブリンの繰り出すパンチに、身体を覆っていた影法師は破れていき、その姿が顕になる。


 そこには煌めく艷やかなセミロングの黒髪、おとなしそうな目つきと、ちょこんと小さなお鼻に、桜のような色の唇を持つ可愛らしい顔立ちの、小柄な少女がいた。おっさんの姿は影も形もない。きっと奇跡が起きたのだろう。おっさんさようなら。


「見ましたね?」


 優しい声音でホブゴブリンへと告げるその目の奥にはおとなしさが欠片もなく、危険な光を宿している。その光を見て、気圧されてホブゴブリンは知らず後退り、少女はそれを見てがっかりした口調となる。


「敵を見て、気圧されるとは、ホブゴブリンは所詮ホブゴブリンでしたか。では、こんにちはの挨拶もそこそこにさようなら。防人さん、合わせてください」


『あいよ』

 

 思念を少女が送るとすぐに防人の声が返ってくるので、満足そうにニコリと愛らしく微笑む。


影刀シャドウブレイド


 小さなおててを指を揃えてピッと伸ばす。闇が集まり2メートルほどの長さを持つ刀へとそれは形を変えていく。漆黒の闇はすべての光を吸収して、希望すらもないと相手に思わせる力を感じさせた。


 ヒュンと風斬り音を残して少女が剣を振り、袈裟斬りにホブゴブリンを斬る。その身体に斜めに闇の輝線が残り、じわじわと敵の身体は切り口から崩壊していく。慌てて崩壊するのを抑えようと、ホブゴブリンは切り口を押さえるが、崩壊は止まらずに、ボロボロと灰となって、地へと散っていくのであった。


 フ、とその光景を酷薄な笑みを浮かべて見届けた少女は口を開く。


「私の名前は天野雫あまのしずく。地獄で閻魔さんに私にやられましたと被害者の会を作りたいと頼んでも良いですよ?」


 腰に手を当てて微笑むその少女の姿は美しかった。腰に手を当てたり、座って頬杖をついたり、ピースをしなければ。


「防人さん。今のセリフはどのポーズが良かったでしょうか? やっぱりドドドと効果音が鳴りそうなへんてこでかっこよい立ち方?」


 こうかな、それともこのポーズかなとアホな行動を取る少女に、呆れたような声が返る。


『厨二病を患っている雫さんや、そろそろ監視に見つからないように戻るぞ。意外とホブゴブリンのラッシュでダメージ受けただろ?』


 雫の腕は少し赤く腫れていた。ホブゴブリンとそこまでステータスが変わらないために、ダメージを負ったのだ。短期決戦をしてダメージを抑えるために、雫は武技を使いまくり戦闘を終わらせた、もうマナは空っぽだ。実際は余裕はなかった。戦略の勝利であったのだ。


「むぅ、仕方ないですね。わかりました、今度外街に行くときは甘いものを買ってくださいね?」


『金があったらな。『残機交換。防人メイン』』


「そこは愛らしい少女の願いを聞き届けてほしいです。『残機交換雫スタンバイ』」


 その言葉が放たれた瞬間に、少女の姿は異形へと変わる。どんな異形か? それはおっさんの形をしていた。少女からおっさんに変わるなんて異形以外に言葉はないと思います。


 異形と言われても美少女との格差だから仕方ないよなと、あっさりと納得するおっさんは、魔物の死体を見下ろす。燃え尽きたゴブリンの灰の中や、影刀により崩壊したホブゴブリンの身体から丸い5センチ程の石が見えた。よく見ると黒く濁っている水晶玉だ。


「魔物からこの水晶玉が出た時は、万能エネルギーである魔石だとか騒ぎになったもんだが……ただの水晶だったんだよな」


 手のひらの上で防人はコロリと水晶を転がす。これさえあれば、エネルギーは解決だと昔は騒ぎになったもんだ。使いみちもわからんのに。


 だが、どれだけ調査しても、ただの水晶であった。スキルでクラフトを持っている人間に加工させると、なにか凄い魔法の道具などになるのではと期待されたが、何もなかった。クラフトスキルレベルが低いのか、元々水晶であったのか……。この水晶。モンスターコアが魔物たちの心臓であることは明らかだ。


 魔物たちは繁殖しないのである。蛹となって化け物娥に変態したり、より高位に進化はするが繁殖はしない。すべてダンジョンがこのコアを素に作り出すのだ。卵から成長した成体まで。


 なので、何かの役には立つのではと研究されて数十年。おそらくはもう研究を止めている。何かしら使えるなら、魔物を狩ることをするはずだからだ。そうなれば、もう少しマシになっていただろうし……俺も考えを変えたかもしれない。

 

 ここは暗闇で誰にも見られていない。防人は戦闘での手加減をしないと知られているので、寄り付かない。


 が、念の為に『影の部屋』を作る。四畳半の小さな部屋だが、スキルによる透過を防ぐ。


 指をパチリと鳴らして、残ったマナを使う。


『影の部屋』


 暗闇の壁を持つ部屋が生まれるので、コソッと入る。猫背になって抜き足指し足忍び足。誰かが通報しそうなレベルの挙動不審なおっさんだ。


 中に入ると狭いが気にしない。残り全てのマナを使う。これで今日はゼロだ。


『等価交換ストアー』


 2メートルほどの高さを持つ半透明の緑がかったモノリスのような薄いボードが目の前に現れるので、モンスターコアをジャラリと取り出す。


 ボードにはたくさんのアイテム名が映し出されているが、その殆どはグレーアウトしている。


 その中の一つを選択すると、文字が大きくなる。


『チェーン店:必要残りアイテム数Eランクモンスターコア 2/10000』


 ホブゴブリンのモンスターコアをボードに入れていくと、水の中に入っていくように、僅かに表面に波紋を生み出して、消えていった。


『コンプリート! 等価交換ストアーにチェーン店機能が搭載されました。1台設置するのに、マナが10必要となります。維持マナ量は使用時に差し引きして、燃料として使用されます』


 そうして、灰色であった文字が赤くなり、ロックが解除されたことを示した。


 反転した文字をなぞるように触り、おっさんは感無量と声を出す。


「長かった……。自分が強くなるのに10年。チェーン店機能を解放するのに10年か……。その間に世間は変わって、魔法学校か冒険者ギルドでもできて、俺は古い人種と切り捨てられるかとも恐れていたが……。もっと酷い世界になっちまったな」


『次はクリームパンを解放しましょう。絶対ですよ? 美少女との約束ですよ?』


 雫の食欲に塗れた声が聞こえてくる。


「あのさぁ、俺はこの20年を思い出して、感無量で涙を流しているんだよ。もう少し気遣ってくれて良くない?」


 ここは涙を流して、やりましたねと喜ぶシーンのはずとおっさんは思念を送ると


『だから待っていました。本当はチョココロネとクリームパンをお願いしようと思って止めたんです。私って優しいですよね?』


「はいはい。優しい、優しい」


 まぁ、雫はいつもこんなんだよなと嘆息してしまうが、すぐに気を取り直し、ニヤリと笑う。


「喜べ、雫。俺が世界の救世主になる時が来たぞ」


『そんなことより、メロンパンも追加でお願いしていいですか?』


「駄目です」


 世界の救世主を、そんなこと呼ばわりするんだからと、等価交換ストアーを見ながら苦笑をする防人であった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 書籍化ということで読み直しに来ました!吸収率高い人の末路的に鍛えすぎると魔力を吸収しすぎて魔物化とかハードな世界観ですな! [一言] おっさんの能力は財閥総司とか偉い人が持ってたら部下に集…
[良い点] おっさんさようなら!さようならおっさん! [一言] 作者様はおっさんが好きなのか嫌いなのか……これが愛?
[一言] 等価交換ストアー、一体どんな機能なんでしょうか。 というかチェーン店?使えないはずのモンスターコアが有用な素材になるんでしょうか? わくわくしますね!
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