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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
外伝

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322/327

外伝 恩讐

 指揮車『木空』内で、毛利は憤怒の表情を見せていた。端末嵌め込みのテーブルを苛立ちで蹴り飛ばす。固定されている作戦用テーブルからガツンと大きな音が響く。


「全然話にならないじゃないか! レイスはゴブリンナイトレベルの強さを持つのではなかったのか?」


 レイスに取りつけた小型カメラから送られてくる映像は毛利にとって悪夢そのものであった。華々しい成果を持って発表するはずの『踊る鎧(ダンシングメイル)』計画。神代セリカが研究していた人造魔物計画であり、レベル3程度の兵士を作り出す計画だ。


 弾薬が乏しくなっている昨今、銃を使用せずにダンジョンを攻略できる兵士を作り出せるのは画期的なことである。毛利は密かに神代セリカの支援をしており、最終段階で奪い取った計画であった。毛利としては奪い取ったつもりはない。何しろ資金や人をかなり投資していたのだから、当然成果は自分の物と思っている。


 レイスは戦車や装甲車どころか、アサルトライフルの放つAP弾にも敵わないが、ゴブリンキングのダンジョンを破壊できるレベルの兵士を即席で製造できるという、結果を出せば素晴らしい功績となる代物だ。


 ダンジョンを攻略し、スキルレベル3のポーションを安定して回収できるとなれば、戦力増大はもちろんのこと、クラフト系もレベルアップできて、生産能力も著しく向上するだろう。世界は一変することになる。


 結果が出れば、あとはなんとでもなる。兵士の素材など廃墟街にはいくらでも転がっている。実験体として使われれば非難してくる連中も、その性能を知れば口を閉じると考えていた。矛盾しているが、世間とはそのようなものだ。使えるとわかれば、手のひらを返す、それが世間だ。


 しかし、それも結果が出ればの話だ。神代セリカが弾き出した性能を見て、毛利の想定ではゴブリンキングのダンジョンを数人のレイスの犠牲で攻略できる予定であった。第一段階、第二段階の目標などたいした目標ではないと考えていた。


「天野防人はスキルレベル3だったのではないか? 魔法使いである奴はそこまで強くないはずだろう? それになんだ、あの使い魔は? レイスよりも遥かに強いじゃないか!」


「し、しかし風魔少佐の情報では確かにスキルレベル3だと。なぜあれだけの戦闘力を持っているのか不明です!」


 怒気を纏わせた毛利へと、青褪めたオペレーターが報告をする。モニターに映し出されたレイスは次々と撃破されていっていた。被験者たちのバイタルが停止して、DEADと表示が変わっていく。


 オペレーターたちの目にもモニターに映る戦闘は信じられないものであった。レイスはたった1体でアラクネを倒せるはずの性能を持っている。量産のために性能はダウンさせているが、軽々と車をスクラップにできる膂力、纏った魔力の鎧は強靭であり魔法耐性も持ち、スキルレベル3の魔法使い如きに後れはとらないはずであった。


 しかし、モニターにはそのスキルレベル3の魔法使いが作り出した使い魔の漆黒の虎に倒されている。当初は予想外の戦闘力を持っており、そのためにレイスは不意打ち気味に倒されたが、すぐに対応して使い魔を倒せるはずであったのに、使い魔はあろうことか、漆黒の毛皮に漆黒の鎧を着込んだ。そして、その性能は跳ね上がり、爪はやすやすとレイスの鎧を切り裂き、着込む鎧はレイスの拳を簡単に防ぐ。


 どちらが戦闘試験をしているのか、これではわからない。しかも………。


「また1体撃破。8番も撃破されました! だ、駄目です、まったく相手になりません。化け物です」


 群がるレイスたちに宙を飛ぶ漆黒の槍が高速で襲いかかっていた。レイスたちは漆黒の風がその体を通り過ぎるたびに粉砕されて地へと散らばっている。レイスのスピードは時速にして100kmは超えているはずなのに、そのスピードを遥かに上回り、レイスたちを槍は砕いていく。


 腕をクロスさせて防ごうとしても、紙細工のように腕ごと身体を貫通させて、躱そうとしても恐るべき速さで正確に命中させて、漆黒の槍は速度も威力も衰えることなく空を飛び交う。


「くっ。魔法使いを狙え!」


「駄目です! 槍持ちが防御系統のスキルを使っており、接近ができません!」


 残るレイスたちを防人へと向かわせようとするが、間に武技『エイミング』を使用した後藤が立ちはだかり、槍を振るいレイスたちを受け流し跳ね飛ばすので、近寄ることもできなかった。


「兵士を向かわせろ! あの生意気な奴らを殺せ!」


 ついにレイスの性能試験を取り止めることにして、毛利は防人たちを殺すように命令する。まだ3体レイスは手元に残っている。殺したあとに性能試験をすれば良いと悔しい思いと共に命じた。アサルトライフル持ちの兵士ならば、人間など相手にならない。


「はっ! ……毛利副所長、神代様から通信が入っています」


 毛利の指示に従おうと、周囲を警戒している兵士へと命令を出そうとしていたオペレーターが通信が入ってきたことを伝えてくる。怒りの表情をそのままに、通信機に毛利は手をかける。


「神代セリカ! 君の研究成果は嘘ばかりじゃないか! あっさりとレイスたちは倒されているぞ? スキルレベル3の魔法使いにブリキの玩具のように破壊されている。どうなっているんだ?」


 顔を真っ赤にして怒鳴る毛利に、通信機越しのセリカの声音は平然としていた。


「そうなのですか? 僕は正確な数値を弾き出しています。レイスはスキルレベル3の性能を持っていますよ。保証します」


「実際に倒されているのだ! 戦果がなければ、性能は裏打ちされないんだぞ! この責任は君にとってもらうことになる! レイスを作る素材として、密かに持ち出した魔道具も少なくないんだ!」


 あっさりと毛利は責任転嫁をした。自分が研究したわけではない。神代セリカが研究したからだと、先程までは功績を奪うつもりであった男はいけしゃあしゃあと宣う。


「それは困りますね。ですが、大丈夫です。レイスには隠された能力があります」


「隠された能力だと?」


 ピクリと眉を跳ね上げて、今回の失敗をどうやって神代セリカに負わせようかと考えていた毛利は怒鳴るのをやめると、興味を見せる。


「はい。レイスを操作しているのは、マザーとして作成した命令用の水晶です。指揮車に搭載されており、オペレーターの命令は実際は水晶を経由してレイスへと送られています」


「そんなことは設計段階で確認している! それがなんなのだ?」


「実は搭載されている水晶からレイスへと魔力を送り込むことも可能なのです。それにより、レイスの戦闘力は短時間ですが数倍の性能となるでしょう」


「そんな機能があったのか……本当かね?」


「はい。本当は僕の命を守るためのカードにしたかったのですが、このままではその前に犯罪者にされそうなので仕方ありません。『悪夢解放ナイトメアリリース』と命令水晶にいえば稼働します」


 理路整然として、軽やかなる美しい声音が通信機から聞こえてきて、その内容に毛利は思案した。確かにその性能であれば、あの魔法使いたちはあっさりと殺せるだろう。


 毛利は顎を擦り、顔を俯けて考え込むが、すぐに決断して、顔をあげる。


「命令に変わりはない。兵士たちを天野防人へと向かわせろ」

 

 毛利はその隠された機能とやらを使わずに、兵士たちを送ることに決めた。その顔には迷いはない。


「おや? 切り札を切らないのですか?」


 からかうような声が通信機から聞こえてくるが、毛利は鼻で嗤った。


「私を馬鹿だとでも思っているのか、神代セリカ? そんな怪し気な機能を使うつもりなど毛頭ない!」


 毛利の言葉に、暫し沈黙が降り


「アハハハ。やっぱりアニメや小説のようなテンプレ展開にはならないんだね。そりゃそうか。貴方は優秀ですから。特に自己保身については一級品だ」


 可笑しそうに笑うセリカの声が通信機から響く。そのセリフに毛利は顔を険しくする。毛利は馬鹿ではないのだ。そのような見え見えの罠に引っ掛かるつもりはない。


「やはり罠だったか。貴様、帰ったら覚えていろよ? 新しい研究所も奪い、どこぞのひひ爺の妾にしてやるからな!」


「それはごめん被るよ。それにもうその罠も発動したしね」


「なに? なにを言って? ………まさか!」


 余裕綽々のセリカの声に、ハッと毛利は気づく。


「今のが起動キーとして認証されたのか!」


 今の会話自体が起動コマンドだったと悟り、嫌な予感から指揮車から出ようと身体を翻そうとするが


 遅かった。


「こ、これは?」

「ひいっ!」

「なんだ、この黒いのは?」


 コンソールの隙間、作戦机の下から黒いタールのような物が湧き出してきた。オペレーターたちが黒いタールのような物に触れるとそれはスライムのように蠢き、足から徐々に覆っていく。


「なんだこれは? これはレイスを覆った物と同じ? ちいっ」


 天井からも黒いタールのような物は滴り落ちてきて、毛利の肩に当たる。手で掴んで剥がそうとするが、手にもくっつき侵食していった。


「あぁ〜」


 一人のオペレーターが身体全体を包み込まれると肉が溶けて黒い骨となり、すぐにその姿も溶けて黒いタールのような物の中に沈んでいく。


「クッ! 謀ったな、神代セリカ!」


 自身も身体を侵食されて溶けていく中で、毛利は怒鳴る。既に指揮車の殆どは黒いタールに覆われている。


「ふふっ。君は良いパートナーだった。資金や人脈も役に立ったよ。でも、そろそろ自分だけで研究を進めたいし、他にもパトロンはいるんだ。だからさようなら毛利副所長。あぁ、貴方の隠し持っていた資料は全て回収させてもらったから安心してほしい」


「おのれっ、ふざけやがって……」


「君の生まれの不幸を呪うが良いと言いたいけど、毛利一族に僕は恨みがないんだ。まぁ、最後に偉大な研究の実験体となったことを喜んでほしい。研究者冥利につきるだろ?」


 通信はその言葉を最後に途切れて、毛利は黒いタールに覆われて、藻掻いて逃げようとするが、やがて全てを溶かされて黒いタールのような物に混ざるのであった。




 廃墟街を疾走するジープの助手席に座るセリカは薄っすらと酷薄な笑みを浮かべる。銀の髪が風を受けてキラキラと輝く。


「良かったにゃ?」


 運転する花梨がセリカへ横目を向けてくるので、肩をすくめる。


「あぁ、僕の研究も大詰めさ。毛利副所長はもう用無しだ。後は僕だけで研究は進められる」


「少し可哀想な感じもするにゃんね」


 死んだ毛利副所長は悪党であったが、それでも長い付き合いで、資金提供をセリカが受けていたことも知っている。なので、少しだけ花梨は毛利を気の毒に思う。


「死ぬことになると知っていれば、ここには来なかっただろうにゃあ」


 元々そう仕組んだのはセリカと自分なんだけどにゃと猫耳をピクピク動かす。花梨は自身の情報収集で、毛利副所長が所長へと出世するために、セリカを捨てることを知っていた。なので、セリカへと報告して、天才のアルビノ少女は今回の謀略を立てたのだ。


「内街のお偉いさんが、廃墟街で死ぬことになるにゃんてな」


「坊やだったのさ。ふふっ、僕の言ってみたかったセリフナンバーワンだよ。やったね花梨」


 可笑しそうに笑うと、首につけた骨伝導インカムを取り外して、セリカは空へと放り投げる。地面へと落ちて、カシャンと音をたててインカムが壊れる。


 2人の少女を乗せたジープは砂煙をたてて廃墟街を去っていくのであった。

アースウィズダンジョン《等価交換ストア≫を駆使して世界救済を目指します〜1が発売しています。サブタイトルが変わっています。良かったらお手にとってください。雫の可愛らしいイラストが挿絵にありますよ〜。

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] そんなんだから仲間になっても、いつまでも情報共有してもらえないですよ、セリカさん!
[一言] >スキルレベル3 確かに防人しゃんのレベルは3だった、しかし後からレベルアップしないとは言っていないw ダンジョンを第一段階にすべきでしたねw >大詰め で、その後自分もしくじって、おっさ…
[一言] 毛利秀就「私の父! 諸君らの愛してくれた毛利輝元は死んだ。何故だ!」
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