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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
外伝

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310/327

外伝 調査

 もはや誰も通うことのない寂しき小学校は、今やならず者の集団の仮拠点となっていた。パリパリとガラスの破片が歩くたびに音をたてる。珍しいことにアンティークの柱時計が壁にかけられており、偽観葉植物が埃を被って、廊下に転がっている。ポスターは色褪せてなにが書いてあるのか判然としない。設置された窓ガラスは欠片が残っていれば良いほうで、殆どは窓枠のみで不良が割るほど残っていない。


「寂しき建物だと思わないか? なぁ、ここは昔は子供たちが教育を受けるための施設だったんだぜ?」


 黒ずくめの格好をした俺へと、案内係はチラリと視線を向けるとつまらなそうに肩を竦めて廊下を先に進んでいく。


「愛想のないやつだな」


「防人の黒ずくめの格好を見て、愛想を良くする人間はあまりいないのにゃ」


「さよけ」


 それはつまらないことだと、苦笑しながら案内係の後をついていき、元校長室に連れていかれた。小学校の校長室なのに、やけに立派な扉が開かれると、何人かの人間が待っていた。ソファに偉そうに座っている女性、壁際にしかめ面をしてボウガンを手に持つ男たち3人。


「よく来たね、あんたが天野防人かい? 廃墟街最強の男」


「風評被害には困っているんだが、天野防人であることは間違いないな」

 

 飄々と答えながら、俺は帰蝶の対面に座る。ギィとスプリングが軋み、埃が僅かに舞う。断りなくソファに座った俺を護衛の男たちは不満そうに眉をピクリと動かすが、帰蝶がなにも言わないので行動は起こさなかった。どうやらよく訓練されているらしい。


「お茶は期待できそうにないし、依頼を聞こうか」


 俺の隣に花梨が座るのを横目でチラリと見てから帰蝶と名乗る女性へと声をかける。名前の通り優雅な服装であれば見とれたかもしれないが、軍の戦闘服を着込み防刃だろう重そうな上着も着ているので色気はない。髪も短く切ってあり、顔立ちはきつそうな美人だが、化粧もしておらず、色香でこの集団を纏めているわけではなさそうだ。歳は30代後半といったところか。


「話が早いことはいいことだと、あたしゃ思うね。あんたに頼みたいことは簡単だ」


 ズイと身を乗り出して、俺の顔を面白がるように観察しつつ帰蝶は依頼を口にする。


「お宝があるビルのリビングメイルを倒してもらいたいんだ。あいつは魔法じゃないと倒すのは困難だって聞いたんだよ」


「あぁ、リビングメイルか。なるほどな」


 なぜこいつらが俺に依頼をしてきたか理解できた。そうかリビングメイルがいたからか。珍しい魔物だな……。


「リビングメイルって、なんだにゃん?」


「ん? 花梨は知らないか。まぁ、滅多に現れる魔物じゃないしな。リビングメイルは中身のない全身鎧が魔物なんだ。銃なら粉々にできるが、他は魔法しか倒す方法はないと言われている。とはいえ、滅多に現れない魔物なんだが、なんでそんなやつが宝のある場所にピンポイントにいるんだ?」


 花梨が不思議そうに首を傾げるが、たしかにリビングメイルは珍しい魔物なので、聞いたことがないのも無理はない。レアな魔物らしく俺自身いままでで数体しか見たことはない。


 初めて見たのはかなり昔の話で、叩いても突いても金属の塊なので倒れないために、大勢の人間が犠牲になった。その後出張ってきた軍があっさりとAP弾で粉々にしたんだけどな。


 最近だと、俺が一体倒した。あいつは鉄の塊だから、ボウガンや鉄パイプでは、ろくにダメージは与えられないが、魔法には脆弱なんだ。だからEランクだった覚えがある。その噂を帰蝶は嗅ぎつけたんだろう。魔法使いなんて、滅多にいないからな。実戦レベルとなると俺ぐらいだろう。


 面倒くさい敵なのはたしかだ。俺に依頼が来た理由はわかったが、リビングメイルは宝を守るような性質はないはず。人間を求めて、たんに徘徊するだけだった。


「魔物の性質なんざ、あたしゃ知らないね。でもお宝の前に陣取っているのは確かなのさ。報酬は5万円。どうだい? 破格だろ?」


 現金での交換という珍しい取引条件を告げてきて、妖艶にその口端を曲げる帰蝶。


「ふ〜ん………」


 リビングメイルが宝を守っている、ねぇ……胡散臭い話だ。蝶ではなくて、毒蛾の匂いがするな。周りの連中の中にはニヤニヤと嗤っている者もいるので、この依頼がろくでもないことだけはわかった。


 わかったのだが、5万は美味しい。俺の懐を暖めるためには、危険な梯子も登らなくてはならないのだ。


「前金で3万だ。それだけ胡散臭い依頼だとは理解しているだろ?」


 パチリと指を鳴らして、目を細めると、帰蝶は懐からあっさりと金を取り出して、テーブルに置く。


「話が早くて助かるよ。それじゃあ今から行くよ。そのお宝の場所にさ」


「今から? 準備が必要なんだが」


「あんたは魔法を使い、リビングメイルを倒す。道中はあたしらが護衛するよ。ほら、お前らもさっさと準備しな! その金は特急料金まで入っているんだからね」


 呆れてしまう俺だが、帰蝶は容赦しないようだ。仕方ないかと、テーブルに置かれた札を手に取り、懐に仕舞い、隣の猫娘の肩を掴む。


「俺は愛があるからな。手数料がいくらかは聞かないぜ?」


「とんだ歪んだ愛だにゃあ。どんな愛にゃよ?」


「ペット愛」


「殴っていいにゃん?」


 言外についてこいよと意味を込めると、花梨は頬を膨らませて不満そうにしながら小突いてくる。ここまで胡散臭い依頼はないからな。猫もペットとして連れていかなきゃならないと思うんだ。





 久しぶりに聞くエンジン音に、俺は感心していた。かなりの速さで走っているために、ちょくちょく車体が跳ねて、椅子に座っている俺は尻が痛い中で、周りへとさり気なく視線を送る。


 あれから驚いたことに、帰蝶率いる『油売り』の連中はなんとトラックを持ってきた。軍用の兵員輸送用トラックに、貨物運搬用大型トラック、合わせて2台。俺は今、荷台に花梨と他数名の男と座っている。帰蝶は貨物用のトラックの助手席が定位置らしい。


 兵員輸送用トラックは、本来は幌のはずだが、弓矢対策なのだろう。ベニヤ板で補強されており、ゴブリンアーチャー程度の放つ矢なら防げるように改造されていた。廃墟街で使うことを前提にしている珍しいトラックだ。


 時折ゴブリンが現れるが相手にしないで通り過ぎる。やはり文明の利器は魔物よりも強い。車があれば比較的安全に廃墟街も移動できるんだからな。


 それにしても、車とはおそれいった。いまや、ガソリンなんぞは、もはや廃墟街では手に入らない。外街でもしっかりとした理由がないと使用許可は下りないはずなのに使っているということは、こいつらは役人と太いパイプがあるんだろう。


「どこまで行くんだ?」


 久しぶりの車の揺れに懐かしく思いながら隣の男に声をかける。


「お前は覚えなくても良い場所だ」


 一言を返すと、黙りこむ。どうも、こいつらは寡黙でお喋りが嫌いなようだ。ガタンと再びトラックが揺れる中で、男たちは腕組みをして目を瞑っており、お喋りを一言もせずに早1時間経過していた。


「愛想がないとモテないぜ」


 俺のからかいにも、男はむっつりとした表情を崩さない。やれやれ、つまらないことだこと。


「どうやら東京湾に向かうようだにゃ」


 寂しく廃ビルが並び、道路には放置車両が放置されている中で、もはや錆びて泥に覆われた道路標識を目敏く見つけて、花梨が俺の裾を引っ張る。俺も外を見ると、通り過ぎていく道路標識の案内先を見て頷き返す。


「久しぶりの海だな」


「あちし、海って見たことないにゃん。大きなプールみたいなものにゃんにゃん?」


 聞いたようなセリフを耳にして、苦笑いを浮かべちまう。若いなぁ、この猫娘は。


「俺はプールを知っているお前に驚きを覚えるぜ」


 ゲゲゲと顔を引きつらせる花梨。プールなど、廃墟街どころか外街でも知る子供はいない。まずいことを口にしたと気づいたらしい。なので、猫耳の生えた頭をポンポンと撫でてやり、俺は優しい笑みを返す。


「大丈夫だ。俺は優しいから貸し2つ程度にしておいてやるよ」


「どこらへんが優しいんだかにゃあ」


 優しいぜ、俺は貸し2つ程度で終わらせるんだからな。


「………到着したぞ」


 花梨と世間話をしつつ、さらに30分後、寡黙な男が自分から口を開いた。


「到着か」


「大きなビルにゃんね」


 人気のない公園前にトラックが停車して、油売りの連中と共に俺と花梨も下車すると、巨大な複合施設が目の前に聳え立っていた。昔はアミューズメントパークと呼ばれた施設だ。遠目に海が見える。


「この複合施設の中にいるのか? リビングメイルとお宝が」


 もはや遊ぶために訪れる者などいない。なんの文字が書かれているのかわからない傾いている巨大な看板が虚しさを表している。


「悪いが、ここには遊びに来たんじゃないんだ。そこの地下駐車場が入口さ」


 帰蝶が肩をほぐしながらトラックから降りて入口を指差す。コンクリート製の地下駐車場は瓦礫で半分入口が埋まっており、洞窟のように暗い口を開けていた。風鳴りが亡霊の叫び声に聞こえるBGMつきだ。雰囲気たっぷりだな、こりゃ。


「それじゃあ、お化け屋敷だけしか楽しめなさそうか」


「あんたは軽口を叩かないと死んじまう病気にでもかかっているのかい?」


 呆れた表情で、帰蝶は部下へと顎を振る。数人の部下が入口に駆け寄ると、瓦礫を取り除いていく。瓦礫はすぐに取り払われて、意外なことに発電機が姿を現す。


「発電機があるのか?」


「そうさね。お宝を手に入れるのにあたしらは長い間準備をしてきたんだよ。動かしな」


 帰蝶の指示に発電機を部下が動かす。ドルルと発電機が振動して、バンバンと音がして、暗闇に覆われた駐車場の天井につけられた裸電球に灯りがつく。


 駐車場の真ん中に設置されており、明るくはなるが、その分、端あたりは暗さを増し、視界を通さない。魔物が潜んでいてもおかしくない場所だ。


「あんたは守られてりゃ良い。現れる魔物たちはあたしらが片付けるからね」


「そりゃどうも」


 帰蝶の部下がボウガンを手に、訓練された動きで展開する。帰蝶も恐れる様子を見せずに中に入っていくので、俺も続こうとし立ち止まる。用意しておかないといけないことがあるな。


「花梨、愛するお前をこんな危険な場所に連れていくことはできない。なので、ここで待っていてくれ」


「ここで愛を使うと、残りは勇気だけになるにゃんよ」


「あぁ。それで充分だろ」


 花梨の肩を掴み、耳元にこっそりと囁いておく。猫耳をピクピクと動かして、クスリと花梨は薄く笑う。


「了解にゃ。それじゃあ愛はここに残っておくにゃんね」


「任せた。それじゃあ行ってくる」


 影法師のコートをはためかせて、俺も駐車場に入っていくのであった。


 どうにも不気味にして、怪しいダンジョンの攻略と行くか。

アースウィズダンジョン《等価交換ストア≫を駆使して世界救済を目指します〜1が発売しています。サブタイトルが変わっています。良かったらお手にとってください。雫の可愛らしいイラストが挿絵にありますよ〜。

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 胸囲の格差社会 大きく写ってるほうが小さいなんて… [一言] 油売りとその娘 裏切らないといいなぁ
[一言] >ここで愛を使うと、残りは勇気だけになるにゃんよ 身代わりでも使ってそうw しかしこの猫娘、こうして見るとヒロインっぽいぞw 防人しゃん、髭剃ったら二十代でも通用しそうなグラフィックでした…
[気になる点] 今回初めてイラスト見たけど…いや防人さんイケおじやないか〜い!!
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