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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
15章 終わる世界

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303話 最後の謀略

 防人は周囲を見渡し、ため息混じりに薄く嗤う。クックと含み笑いをしながらゲートを歩み出る。


「気が早すぎだ。俺が帰ってくるとは考えなかったか?」


 本来は『奈落』の研究所。セリカが修復した次元の扉が置いてある広い実験室であるはずだった。だが、俺の目の前の光景は違った。研究所などでは決してない。


 いや、何もなかった。


 地平線の果てまで、ただ虹色の平坦なる空間が広がっていた。まるで、ゲームのグラフィックが作られていないかのように。テスト用に用意された物のように。


 見覚えがある。よーくこの光景は見覚えがある。ダンジョンコアを手に入れて、ダンジョンが崩壊する際の姿だ。何でもない、ただの空間である。


 踏み出ると、虹色の地面はフワリとした感触を返してきた。硬そうには感じない地面だ。


 のんびりと俺はその空間を歩き始める。本来はセリカたちが出迎えをしてくれるはずであるのに、誰もいないが、俺は気にはしなかった。


 散歩でもするように歩きながら、目をスッと細めて呟くように言う。


「昔、俺はゲームをやったことがある。子供の頃の話なんだがな。勇者が大魔王を倒しに行く王道ストーリー。でも、そのゲームは俺が思うにハッピーエンドじゃなかった」


 誰もいない空間。何もない世界を歩き続けながら、淡々とした口調で話を紡ぐ。


「その大魔王ってのが、他の世界から来たらしいんだ。穴を空けてやってきたらしい。勇者は大魔王を倒しに、その穴を潜り抜けて、別世界に行く。そうして、大魔王を倒すと、その世界は平和になる。大魔王が倒されたことにより、世界に空いた穴が塞がり、元の世界へと戻れなくなった勇者たちはその世界で暮らすことになりました。めでたしめでたし」


 一息で話を終えると肩をすくめてニヤリと嗤う。


「当時の俺は嫌な奴だったのか、素直にハッピーエンドとは思えなかった。別世界から帰れなかった勇者たちが可哀想って話じゃない」


 周りを見渡して反応がないか確認するが静かなものだ。やはり気にせずに自分の考えた内容を話す。たしかに心が捻じくれた子供だったんだろうと思いながら。


「実は元の世界には真の大魔王がいたんじゃないか? 勇者を滅ぼしても、いつかは再び勇者が生まれるかもしれない。そんな法則があると大魔王が思ったら、解決策は倒すんではなくて、放逐するんじゃないかってな。戦う必要もない。生贄は別世界。自分には痛くも痒くもない。勇者がダミーの大魔王を倒したら、大袈裟なエフェクトを見せて平和になったと見せかけて、次元の穴を塞げば良い。それで終わりだ。勇者は疑問に思わず、別世界で暮らすだろう。勇者の血筋は別世界の物となり、大魔王は天敵のいない世界をゆっくりと支配すれば良い」


 ふぅ、と息を吐き俺は話を終えると、ニヤリと嗤う。


「俺という存在を倒しても、いつの日か『救世主』という概念を持った者が生まれるかもしれない。それは人間ではないかもしれないし、自分を倒せる力を持つものである可能性は極めて高い。そんなことになったら、おちおち枕を高くして眠ることもできないよな」


 まだ反応はない。


「シゼンの存在は不可解だった。なぜ、別世界で待ち構える必要があるのか? そしてどうして俺という存在を強くして、いかにもなラストバトルを用意していたのか? 賞品は別世界の始原の力。なるほど? 素晴らしい報酬だ。そうして、始原の力を手に入れた俺たちは次元の扉が閉じてしまい、別世界で仲良く暮らす。そういったエンディングのはずだった」


 ゲームに似た世界でも、この世界はゲームではない。世界を支配しているゲームマスターはいるが、プレイヤーのことを考えることなど、露程もなく自分が勝利するためだけにルールやイベントを作っていた。


 そんな存在が、俺たちがちょっぴり悲しくなるハッピーエンドを用意してくれる訳はない。あいつの望みはただ一つ。俺がこの世界からいなくなり、別世界の神にでもなることだった。神となれば、もはや自分に干渉はできまいと考えたのだ。


 仕組まれたことに疑問なく、俺は雫と幸せな余生を過ごした。そんな謀略だったのだ。


「この世界を作り変えて、俺が神として戻ってこようとしても不可能にするつもりだったんだな。例えていえば、無線の波長を変えるようなもんだ。雫のいる世界で神として人類復興をしていれば、世界を変える時間は充分にある。そう考えて」

 

 お馬鹿なティアが生贄だったのではない。本当はあのシゼンという少女が、いかにもなラスボスが生贄だったのだ。ダミーのラスボスであったのだ。よくぞ考えたものだと感心しちまうぜ。


「だが一つだけミスをしたな。『闘争』を司る。嘘でも『闘争』とは言わない方が良かったな。生き残ることこそが闘争だと俺は考えているので、違和感を覚えちまったんだ。『闘争』を司るのに、俺と決戦を望むなんて、おかしな話だ。そうして、裏の謀に気づいたので、俺だけすぐに戻ってきた」


 これで俺の言いたいことは終わりだ。息を吐いて立ち止まる。


「感想を聞かせてもらいたいもんだ」


「チエクラベデマケルトハオモワナカッタ。キワメテシゼンニミエルヨウニシタノダガ」


 俺の目の前に、空間から肉塊が滲み出てくるように現れて、ようやく言葉を返してきた。ドクンドクンと脈打つ心臓のような肉塊であった。血管が触手のように辺りを泳いでいる。


「シゼンデハナイ。そなたのソンザイハシゼンデハナイ。ユエニ放逐することにしたのだ。天野防人よ」


 みるみるうちに流暢な口調に変えながら、肉塊は言う。口がないのに、話せるとは便利なものだと俺は感心しつつ答えてやる。


「建前を言うなよ。俺という概念が生まれていることを恐れていたんだろ? ほんとうに『救世主』なんて概念が生まれたか分からない。そうだろ?」


「貴様は侮れぬ存在。貴様風に言うと、我は賭けに負けたということになるのだろう」


「わかっているじゃないか。肉塊君。いや、地球のダンジョンコアと呼べば良いのか?」


 なかなかの返しをしてくる肉塊君に薄笑いで答えてやる。地球のダンジョンコア君にご挨拶だ。


「なんでスキルや魔法が使えるのかと考えたんだ。法則を変えるにも早すぎだ。俺が出会った時は、竜はただ一言で世界の有り様を変えちまったからな。だが、こう考えると納得行く。何らかのパッケージを用意しただけでは? たとえば……そう、ダンジョンコアだ」


 1から作る必要はない。設定済みの物を設置すれば終わりだったのだ。簡単な話じゃんね。あの一言で始原の力を宿した骸を竜はダンジョンコアへと変えていたのだ。夢で見た紅き結晶はダンジョンコアであったのだ。


「………」


「あの時、既に地球自体がダンジョン化していたんだ。あの空間の歪みはそのせいだった。とっくに俺たちはダンジョンの腹の中で暮らしていたのに、ちっとも気づかなかった。情けないことだが、仕方ない。いつもは目にできるダンジョンしかないからな。まさか地球がダンジョンになっているとは夢にも思わない」


 ダンジョンの中で暮らしていたから、スキルや魔法、そしてステータスポイントなど、ゲームのような設定が通用したのだ。あまりにも巨大なダンジョン。惑星サイズのダンジョンの中で俺たちは暮らしていたのだ。


「正解だ、天野防人。では、賭けに負けた我がとる行動もわかるであろう」


「あぁ、結局やることは同じだ。ボスを倒してダンジョンコアを回収する。いつもやっていることを、今回もやるだけだ」


 宙に浮く肉塊君。全長100メートルはある巨大なる魔物は、口もなく、顔もないのに、なぜか楽しげな感覚を俺に与えてきた。


 気のせいだろうか? いや、きっと気のせいではない。


 結局はなんだかんだあっても、俺たちは最後に戦いたかったのだ。ダンジョンに懸けたこの人生。惑星サイズのダンジョンを攻略できるなんて、最高だぜ。ダンジョン狂いとして相応しい報酬だ。


 肉塊君も戦いたかったのだ。俺という敵を排除したかったのだ。ダンジョンコアとして。ダンジョンを攻略するチャレンジャーを撃退したかったのだろう。


 結局、最後は俺だけとなっちまった。即ち、昔となんら変わらない。一人のダンジョン狂いとして、戦うだけになったようだ。雫と別れたのは残念だが、彼女の目的は達成できた。これからの彼女の人生は幸せであってほしい。


 そしてこの戦いはこの世界に住む俺が決着をつけたい。肉塊君をたおすのは俺なのだ。俺でなくてはいけない。これは俺の身勝手な意思だ。


 俺は肉塊君を見上げながら、力を解放する。


闇化ダークモード


 己の中から人の意思が混在した闇となって膨れ上がり、俺という存在を闇へと変えていく。


「む? それは?」


 虹色の空間を闇に染め上げながら、俺が闇へと化すと、肉塊君は疑問を口にする。そうだろうそうだろう。予想外の力だろうな。


「Lランクダンジョンコアで交換したのは、『意思集束』。自分の意思を集束させて、魔法などの成功率を上げることができるんだが……俺って、所有者のいない意思も回収できるからな。雫の世界の浮いた意思エネルギーを持ってきた。いわゆるリサイクル。天津ヶ原コーポレーションは自然に優しい企業です」


 肉塊君の予測できるパワーを上回っておかないと、殺られちまうからな。冒険者ってのは準備万端に用意をするものなのさ。


 今の俺は雫の世界の意思エネルギーを回収したために、パワーは倍以上になっている。シゼンと戦いながら、こっそりと集めるのは本当に苦労したぜ。


「一言貴様に言っておこう」


「ん?」


 闇に変えた俺が闇の翼を生やして浮遊すると、肉塊君がなにか言ってくる。なんだ? 冥土の土産か?


「貴様は狂っている」


「知ってた」


 ブハッと、失笑してしまう。ラスボスにすら言われるとはな。知ってた、知ってたよ。


 俺はダンジョンに狂っている。ダンジョンの魔物と戦うことが一番楽しいのさ。


「では、戦闘を開始しようか、肉塊君。おっと、それとも名前があったら、そう呼ぶが?」


「肉塊君で良い。名前など私には必要なきもの。それは観測者にその存在を決められるということだからだ」


「哲学は苦手でね。それじゃ遠慮なく」


「ラストバトルといこう」


 お互いの意見は合った。後はどちらかが勝利するかだけだ。


『闇よ、踊り狂え』


『光よ、舞い踊れ』


 闇と光が世界を染め上げようと踊り狂う。ぶつかり合い、相殺されていく。


 虹色の空間。周囲を気にすることもない。全力全開で戦おうじゃないか。


 防人は己の力を解放しながら、楽しげに嗤った。

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― 新着の感想 ―
タイトルにただただ感心しちゃったわ。
[良い点] ダンジョンに狂ってる主人公と注目してくるダンジョンの主とかある意味相思相愛ですな!にしても相手の側が光使ってて主人公悪役な力使ってるこの構図(笑) [一言] そういえば、平行世界ならこの世…
[一言] 何この展開グッド101回押したい(一回ポチー)
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