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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
15章 終わる世界

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295話 復活

 防人はゆっくりと目を開いた。瞼を開くと、心配げに雫が俺を覗いているのが目に入る。どうやら意識を失っていたらしい。


「目が覚めましたか、防人さん」


 俺が目を醒ましたことに気づいて雫は喜びの声をあげる。周りで慌てる気配を複数感じるので、顔を動かすと、セリカや雪花が笑顔で近寄ってきていた。


 体はひんやりとして、金属の感触があるので、人工空間のティルナノーグではないらしい。俺はティターニアに勝利して、元の空間に戻ってきたようだと、安堵の息を吐く。


 正直、やばい敵だった。自身は姿を現すことなく、分体のみで戦闘をするとは、いやはや女王の名に相応しい。チェスでもキングは前に出てこないからな。


「え? 知らない天井だ?」


「ちょっと雫。ふざけるのは止めてほしい。僕は死ぬほど心配したんだからさ」


「いえ、きっと防人さんはこのセリフを一度は言ってみたいと思ったはず。その思考を読んで代弁しました」


 ニコニコと笑顔で答える雫にセリカがふざけることなく、珍しく真剣な顔で怒る。それだけ俺の容態がまずかったということだろう。


「まぁ、いつもどおりで安心したぜ」

 

 ふざけているように見えながらも、雫の手は震えていたので、かなり心配をかけてしまったようだ。ゆっくりと立ち上がると、ポンと雫の頭を撫でて笑う。


 雫は俺の様子を見て、ホッと安堵の息を吐くと頭を撫でられるままに嬉しそうに目を閉じる。心配かけてすまなかったな、パートナー。


 柔らかな目で雫の頭を撫でていると、セリカも頭突きをしてくるので撫でておく。嬉しそうにセリカも目を瞑る。そういえば手が復活しているな。


「雪花ちゃんの主様は死ぬ気か? ティルナノーグは維持のためのマナ消費が激しい。逃げるなり隠れるなりできなかったのかの?」


「雪花の問いはもっともだ。それを敵が考えていないわけがないと推測できれば満点だったな。芝生のような平原が広がるサバンナだったんだ」


 しかも、目に見えない隠れ家付きだ。あの時の俺のマナは3200程度。神級が使用できるぎりぎりのマナしか残っていなかった。あと少し粘られていたら俺の負けだった。勝敗を変えたのは、ほんの少しの差だったんだ。


 俺を責めようとする雪花はその答えを聞いて顔を顰めて黙り込む。ティターニアの悪辣さを理解したのだ。


「幸運と運命の導きがなければ、貴様は死んでいた。これまでの行動が勝利を呼んだのだ。ここまで全力で魔物を蹴散らしながら駆けてきたのだぞ」


「そうですね。これまで妖精機や神機を仲間にしてきた防人社長の徳のお陰でしょう」


 アレスと聖が歩いてきて、俺が助かったことを喜んでくれる。たしかにそうかもな。俺はティターニアと1対1の戦闘をしたが、1人ではなかったわけだ。全員がいなければ、俺の命の灯火は消えていただろう。


「二人ともありがとうよ。で、幸と命は?」


 頭を下げて礼を言いながら、周囲を確認する。壁も天井も金属製の広間であった。壁際には洗面台があり、埃まみれであるが長いテーブルと椅子が配置されていることから、食堂のような雰囲気だ。天井にはもはや何も映し出さないモニターがつけられており、カウンター越しに厨房が目に入る。天井はどういった機械を使っているのか、天井自体が光っており、電力がきているのがわかる。


 キョロキョロと物珍しく見渡すと、いつもならば突撃してくる勢いの幸たちが、椅子を並べて仲良くスヨスヨと寝ていた。


「複数の分体を作り、全力でスキルを使い続けていたからな。疲れたんだ、そっとしてやれ」


 静かな声音で、アレスが教えてくれると雫もうんうんと


「かなりさっちゃんは動揺して、慌てて建物の支配を行い、防人さんを探していましたからね。あれだけ慌てているさっちゃんは初めて見ました」


「雫もじゃな。思念が届きませんと、幸に負けず劣らず慌てていたし、涙ぐんでいたからの」


 雪花がくすくすと笑って、雫をからかう。


「私も心配していましたからね。まさか思念の妨害まで可能だとは予測もしていませんでした。敵として戦ったことがなかったので、甘く見ていました。すみません、防人さん」


 だが、照れることなく素直に答える雫。そこがセリカと違うところだ。彼女は雫が慌てふためき恥ずかしがると思っていたらしく、少し残念そうにしているし。


 まぁ、その性格が可愛らしいんだがと笑いながら、気を取り直し現状を把握するべく話を戻す。


「なぁ、ここは結局どこだ? 俺はどこに転移させられたんだ?」


 その問いは予想外だったのか、キョトンとした顔になると、雫は小首を傾げつつ、にこりと微笑む。


「ここは『奈落』最下層のドームです。即ち目的地にいる、ということですね。だいたい7時間、防人さんは寝ていました」


「それは幸運だったな。ティターニアに感謝の言葉をかけないといけないな」


 宙に表記されているログを見て、クックとほくそ笑む。


『ティターニアコアを入手しました』


 ログにはそう表記されていた。女王様をどうやら捕まえることができたらしい。あれだけ強かったんだ。期待しているぜ。



 ドームはまだ生きているらしい。電力はもちろん水も出るし、コンロに火もついた。寝ていた幸たちが目を覚まし、理子を召喚して料理を作らせる。さすがは料理特化の少女である。簡単な料理と言いつつ、全てが絶品だった。


 そうして1時間ばかり休憩をして、マナが完全回復したことを確認する。再生された手を見ながら、つくづく治癒魔法はチートだなぁと思いながら、等価交換ストアを喚びだす。


『妖精機661、妖精の女王ティターニア:ティターニアコア1個』


 どうやら問題なく交換できるようだ。ここで交換できなければ大幅に作戦を変更しなければならなかったから、ひと安心である。


「さて、ティターニアを召喚する。なにか気をつけることは……なんで幸はみかん箱を用意しているんだ?」


「……多分必要。このみかん箱は木製で味がある」


 むふふと平坦なる胸を張る幸。なんなんだと雫へと視線を向けるが


「あ〜。たしかに必要かもしれませんね。気にすることはありません防人さん。召喚しましょう」


 なぜか手をポンと打ち、納得する雫。なんなんだと、セリカたちへと疑問の表情を向けるが、誰も彼も俺を見てくれない。聖だけは首を傾げているので、ティターニアを知らない世代なんだろう。


「ま、喚べばわかるか」


 危険はなさそうだしな。雫がニヨニヨと悪戯そうに口元を緩ませているのは気になるところだけど。


「ティターニア召喚っと」


 ポチリとボタンを押下すると、空中に漆黒の立体型魔法陣が描かれる。滑るように空中を漆黒の線が球体状に複雑に描かれていき、少しの時間で書き終える。


 そうして、球体の中に少女の姿が現れると、ガラスが割れるようにパリンと砕けて空気に魔法陣は消えていく。


 膝を抱え込み、眠るように目を瞑っていた少女がゆっくりと宙から降り立ち、目を開く。


 ウェーブ状のプラチナブロンドの髪は肩にかかる程度の長さで、煌めく黄金の瞳は本物の金よりも美しい。撫で肩でスタイルは雫さんに似ており、背も低い。妖精の女王として想像した姿とは違った幼い少女であった。


「はわわわ。化け物。化け物だよぅ。魔王が現れたよぅ」


 なぜか涙目になりブルブルと身体を震わして、キョロキョロと辺りを見回すと幸の持っている木箱に気づいて、トテチタと小走りで近づく。幸が木箱を手渡すと、慌てて木箱を被って姿を隠した。


「わ、妾は妖精の女王ティターにゃ。あいだっ、噛んじゃった。ティターニアだよぅ」


 涙の混じる弱気な声が木箱から聞こえてきたので、戸惑ってしまう。え? なにこれ? 妖精の女王だよな?


 皆が目を逸らして、雫が代表で気まずそうに答えてくれる。


「彼女こそは妖精の女王ティターニア。言ったじゃないですか、人間はその真の姿を見たことがないと」


「そういや、言ってたな」


「コミュ障なんです。いつも分体で話していました。ネット越しだと性格が別人のような人っているじゃないですか。ネトゲで格好良くて性格の良いキャラの中の人は似ても似つかない性格の人だったり。それと同じで分体越しだと堂々と喋るんです」


「へー。ソウナンダ」


 なんだかとっても残念な気分になるのはなぜだろうか。激闘を繰り広げた相手だからこそ期待はでかかったのかもしれない。


「でもね、彼女は優しい性格なんだよ、防人。……あ〜、とりあえず優しい性格なんだ」


 口籠りつつ、適当な答えを言ってくるセリカにジト目を向けてしまう。


「そういう適当なフォローはされた方も傷つくからやめておけよ、セリカ」


 誰それは悪いところがあるけど、優しいんだと語尾に優しいとつけておけばフォローできるわけじゃないんだぞ。わかっている相手は傷つくだろ。


「怖かったよぅ。命を吸われて死ぬ感覚……アバババ」


「どうやら一番心に傷を負わせている誰かさんがいるみたいだよ?」


「反省はしていない」


 ガタガタと木箱が激しく震えて、ティターニアの心底恐怖しているとわかる泣き声が聞こえてきて、極めて気まずい。手加減していたらこっちが死んでいたんだから仕方ないだろ。


「ティターニアは混乱したです。ほら、飴を食べるです?」


「平静の魔法をかけましょうか?」


 そっと飴を差し出す命と、治癒魔法で癒やしますかと聖が優しく声をかける。ますます俺は気まずくなるが、ここで引き下がるわけにはいかないんだ。悪いな。


「ティターニア。お遊びは終わりだ。妖精機のコアが保管されている場所へ案内をしろ」


「ふぇぇぇ。怖い。怖いよぅ。でも、妾は妖精の女王。他の妖精たちを守る義務がある。再び死地へと仲間を向かわせたりはしないんだょう」


 泣き声をあげながらもティターニアは俺の言うことに逆らう。お遊びは終わりだと告げれば普通になるかと思ったが、普通に怖いらしい。演技ではないのか。ますます気まずい。


 ……だが、仲間の妖精を護るためか……その方法は賛成できないが、立派な精神を持っているんだな。


「安心しろ。人類が敗北を決定づけられていたのは、前の世界だろ? この世界では勝利は目前だ。確実に勝利をするためにも、手伝いが欲しい。きちんと給料も払うし、福利厚生もしっかりするぜ」


「ダンジョンに、か、勝てる訳はない。人類では無理」


「大丈夫です。防人さんが勝利をもぎとります。見てください。この人が人類に見えますか? それに嫌なら拒否すれば良いんです。防人さんは管理者権限を放棄してくれますので」


 弱気なセリフのティターニアに、雫がどこからどう見ても人類の俺の姿を指差す。アメリカンジョークかな?


 だが、なぜか木箱はピタリと震えが止まると、疑問の声となる。


「そ、そういえば……勝てる? 本当に管理者権限を放棄する?」


「勝利は目前だと言ったろう? こんな暗いところで引きこもるよりマシな選択になるだろうぜ。もちろん管理者権限は放棄する。雫たちを見ればわからないか?」


 自信に満ちた声音で、俺はティターニアに告げる。少しの間、沈黙が続き


「わ、わかった。それじゃ案内する。そちらの方がマシな選択になるかもしれないから。私とソロで戦闘して勝利するぐらいの人だし」


 そうして木箱はガタゴトと動き、俺たちを案内してくれるのであった。


「半世紀に渡る戦争が終わる可能性………。私たちが戦い続けたさん――」


「3年間の戦いが報われる時ですね!」


「そうだね、雫! さぁ、希望の道を歩むとしよう!」


 ティターニアの声を阻んで雫とセリカが大声を上げて歩き出す。何かを誤魔化しているようだが……。


「防人しゃんはあたちがまもりゅ!」


 いつの間にか幼女に戻った幸が俺の頭によじよじと登って、片手を上げて気合いを入れる。


 ま、妖精なんだ。俺よりも年上でも別に良いかね、と苦笑しつつ俺も後に続くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幸が合法ロりだっただとっ?!(笑)
[良い点] 皆さん、しずくさんじゅうななさいとかなんですね!つまりロリも合法です!
[一言] つまり全員合法。防人、勝利である。
感想一覧
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