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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
14章 好景気を作り出す企業

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290話 新市場

「さすがはコノハちゃんね〜! お母さん、誇らしいわ。こんな凄い物を作るなんて!」


 コノハは屋敷に帰宅して、お母様にこれからの道化の騎士団の商売を説明した。当初はどんな缶詰を作るのかしらと、微笑ましげにしていたお母様であったが、話が保温の魔道具になったところで、真顔になり目の色を変えて、満面の笑みでコノハを抱きしめてきたのであった。


「ふ〜ん、たしかにそれは凄いわね。ねぇ、道化の騎士団はそんなに人材はいないわよね? 私の部下を回すわよ?」


 ちょうど一緒にリビングルームで寛いでいたお姉様が感心した表情で提案をしてきた。最近のお姉様はお母様の後継者として、後を継ぐために忙しいので姿を見るのは久しぶりだった。


 コノハは平家の後継者争いに加わる気はない。分家としてのんびりと道化の騎士団を経営していくつもりだ。自分の手の届く範囲でやっていきたいのである。


 もちろん無理だとわかってはいる。現実問題、自分の会社は大企業となるだろう。それでも多角的経営ではなく、自分のやりたい仕事だけを選ぶことができると思う。あれもこれもとは、私では到底無理の話だ。


 フレアお姉様は強大な権力と財産が欲しい性格なので、最近はとても忙しい。


「今日の見合いも駄目だったのですね、お姉様」


「仕方ないわ。私が仕事の話を振ると、無能な回答しかしてこないんだもの。当たり障りのない回答でも良いからしてくれれば、夫候補にはしてあげたのに!」


 少しだけ苛立ちを見せて、お姉様は唇を尖らせるが、そこまで気にした様子はない。いつものことなのである。


「もう経営コンサルタントと見合いをすれば良いのでは?」


 最近忙しいフレアお姉様。見合いで忙しかったりするのだ。そして、彼女は有能な人間を求めている。その水準は恐ろしく高く、彼女に合う男性は見合いではいない。


 なぜかというと簡単な話だ。お姉様が求める水準の有能な男性は、独立独歩、自分の力でやっていこうと考えているので、逆玉の輿などは狙わないのである。


 なので、見合いには良くてそこそこの人間が来る程度であり、ほとんどは逆玉の輿を狙う無能な男性のために、フレアお姉様のお眼鏡には適わないのであったりする。


 正直、きつそうな見た目と高慢な性格に耐えられないと断られたとの話の方が簡単だったのだが、平家の長女を狙うために見合いをするような男性はそんなことは気にしないのである。コノハが見た漫画は嘘だったのだ。現実はとっても打算的なのであるからして。


「まっ、見合いのことはどうでも良いわ。それにしても、さすがは天才神代セリカね。この仕事、かなり太い稼ぎになるわよ。源家や足利家には漏れていないわよね?」


 頭の中で算盤を弾き、きっと家門ですぐに私を手伝える人材をピックアップしているのだろう。ツリ目の少しだけ厳しいと見られるだろう顔立ちは思考の海に入っている。黙っていても美人だが、少しキツめな雰囲気は否めない。


「フレアちゃん。無駄よ〜? 神代ちゃんが他の家門に声をかけていないわけないじゃない。元々彼女は源家と縁が深いし、夫は足利家と仲が良いからね。コノハちゃんがいなかったら、反対に私たちが仲間はずれにされていてもおかしくなかったわ〜」


 私を抱きしめながら、お母様が良い子良い子と久しぶりに頭を撫でてくる。少し気恥ずかしく感じながらも、お母様に撫でられるまま口を開く。


「たしかにレイがいなかったらと、私も恐ろしく思いますわ。でも、運は天に味方したのだし、このチャンスをフルに使うつもりですわ」


「逞しくなって〜。お母さん、コノハちゃんの成長がとっても嬉しいわ。もう昔の縮こまっているコノハちゃんではないのね〜」


 レイに出逢う前の力がなく空回りしていた頃のことだろう。レイと出逢って、私は大きく変わったのですわ。


 最近までは流されるままに団長役をやっていましたが、今は自分からやりたいことをしている。廃墟街に住んでいる人々を雇用していき、会社を大きくしていくのだ。多少なりとも、困窮しているという言葉では済まない悲惨な生活をしている人たちに助けの手を差し伸べたい。


「ねぇ、清はどこにいるわけ? あいつの会社からも少し人材を出させましょうよ」


「清ちゃんは風香ちゃんとデートよ。夜には帰ってくるかしら〜? うふふ」


「源家と組んで、私を追い落とそうとしているのね。風香はそんなに与し易い相手ではないのに、困った弟ね」


「デートって、一応言ってあげないとだめよ? 今日のデートは魔法麻繊維の市場に食い込める会社の設立の話のはずよ〜」


 ヘッと笑い飛ばすお姉様に、ニコニコと笑顔でなぜかお母様はお兄様の今日の行動を把握しているかのような話をしている。やはりわたくしには、平家の当主は絶対に無理だと思わせる一幕だ。


 あらゆる情報を集めることができると思わせるお母様だが、そんなお母様の情報収集能力でも神代セリカが保温の魔道具を用意していることを知らなかった。この時点で、神代セリカもただならぬ能力を持っていることがわかる。防諜もしっかりとできているのだ。優秀な人材が多いに違いない。


「製粉会社を買収していたから、てっきり保存食を用意するための事前準備と考えていたから油断したわ〜。で、保温の魔道具を作成するのは神代コーポレーションだけではないのよね?」


「はい。半々ずつ作ろうということになりましたわ。独占すると競争力が失われるからって」


 僅かに目を細めて呟くお母様は少し怖い。だけど、魔道具製作は半々でと告げたら、にっこりと機嫌が良くなった。


「そういった考え方が秀逸よね、あの小娘は。なら、道化クラウンと神代コーポレーションで魔道具を作れるのか。小売業者への販売ルートは確保してあげるわ」


「源家も同じ考えを持つはずよ。これは忙しくなってきたわね! 過去に家電製品で盟主を争ったように、魔道具製品の盟主を争う戦争の始まりだわ〜。足利家も魔法麻で一歩先に進んでいるしね!」


 神代セリカのやり方を素直に褒めるフレアお姉様。そして楽しそうに目をキラキラと輝かせて両手をパンと打ち鳴らし、お母様が張り切る。


「まずは人材ですわ、お母様。廃墟街の住民に募集をかけたいと思います。福利厚生も考えないといけませんし」


「土地の確保から始めないといけないわね。安全な土地がどこか冒険者ギルドに問い合わせをするところから始めないと」


 どんな仕事にも、多くの人々がかかわる。市場が大きければ大きいほど、雇用も増えていくのだと思いながらコノハも二人においていかれないように気合を入れるのであった。気合を入れないと、いつの間にか会社を奪われそうだし。そういったところは身内にも容赦しない家族なのである。




 1か月後。3月も中旬、そろそろ桜も咲き始める時期にコノハたちは保存食と保温魔道具を販売する会社を用意した。株式会社『道化クラウン』だ。


 天津ヶ原特区の冒険者ギルド前に開いた店舗『道化』。たった1か月であるのに、金と資材、そして人を費やして急ピッチで開いたのである。


 店内には保温の魔道具と、保存食が棚に並んでいる。残念ながら、見本だけが強化ガラスの中に入っているだけだが。元廃墟街なので、そこらへんはまだまだ信用できないのである。


 保温の魔道具に合わせて使える保存食も並んでいる。60度という温度のために、熱々の食事とはいかない。温かい食事であるだけなので、ラインナップに苦労した。コノハはレイと共にウンウン唸って考えたものだ。


 それで作ったのが、初級ポーションを僅かに混ぜたパンやおにぎりが数個入っている主食用に値段は300円である。多少なりとも疲労が回復して、味も隠し味程度なので問題ない。


 あらゆる食べ物が温かくできるので、他には燻製肉や干物だ。料理はまだまだ試行錯誤が続くことになるだろう。他の食品会社が参画する前に急いで用意しなければならなかったので仕方なかったのである。


 うまくいけば良いと祈りながら、コノハは周りを見る。既に開店の噂話は広がっており、人々は興味津々でコノハたちを見ていた。


 そんな注目を受けるのは、コノハとレイだけだ。メイドが隅に立っているが、他は武田信玄が少し離れた場所にいるだけだ。


 お母様たちは内街で開店する2号店の挨拶に向かっている。内街では、冒険者向けではなく、家庭やレストラン向けだ。


 保温の魔道具を、コアストアから手にいれた木の棒で作るのは同じだが、繊維をとって紙にして、スクロールとして作った。ナイフの柄に嵌めたり、皿の底に貼ったり、温かくして料理をより楽しめるようにしたのだ。


 高級レストランでは、そういったものが喜ばれるし、他にも家庭で使う用に、子供でも安全と銘打って、簡単に温められるとか、赤ん坊のミルクを温めるのに最適など、様々なアピールをしている。きっと保冷の魔道具も作ることを画策しているのは間違いない。


 最近は魔法の作物などが増えてきたので、そういった料理に使う方法も考えられている。見た目が燃えているパンや、冷気を視覚として見ることができるのに、凍っていない不思議な果実など、驚きの作物が大量にあるので、張り切っていた。


 コノハとしては、まずはメインの冒険者たちへとアピールをする。この仕事で付与職人を100人雇用した。それ以外にも、店員、倉庫の管理人、事務員などなど。元廃墟街の人たちを雇用できて、嬉しい限りだ。


 次はこの商品が冒険者の皆さんに受ければ良いと、コノハは内心ではフンスと気合を入れる。


「皆さん、今日売り出すこちらの商品は初めてのお手軽な生活用魔道具となると思います。保温の魔道具という品物は、きっと冒険者の皆さんの食事に潤いを齎すと思います。どうぞ買っていってください! 自信の一品となっております」


 店員が会計カウンターに座りニコリと微笑む。売れるかしらと、少しだけコノハは不安だ。温かくなくても良いと思われたらどうしよう。ハラハラして、周りの様子を窺う。


 画期的だと言いながらも、これまでも同じような物はある。カップラーメンなどもあるのだ。いらないと思われて売れないと、初期イメージが悪くなる。第一印象はとても大事なものなのだ。


 だが、レイが片手をあげてとんでもないことを口にした。


「天津ヶ原コーポレーションが誇る治安用使い魔の猫は、保温の魔道具の魔力で温めた燻製肉が好きな個体がいる。出会った際に餌付けをしておけば、万が一の時に、優先して守ってもらえるかもな? 可能性の問題だが」


 なんというずるい発言。わたくしは驚いてレイの顔を見てしまうが、気にするつもりはないようで、薄っすらと笑みを口元に浮かべていた。


 その反応は劇的だった。少なくとも命を賭け金にしている冒険者や、家族に冒険者がいる者は顔を見合わせてひそひそ話を始める。


「万が一に助けに来てくれるのか?」


「いや、単なる宣伝だろ」


「だよなぁ………」


 ゴクリとつばを飲むと、空笑いをして


 勢い良く入店してきた。


「この保温の魔道具1個ください」

「私は家族の分で3個!」

「俺も妻のも入れて2個だ!」


 わあっと、会計カウンターに殺到して、押し合いへし合いして買っていく。これならあっという間に売り切れることだろう。廃墟街の人たちは命を守る方法に敏感だ。当たり前の結果である。


「ちょっとレイ! あんなこと言って良いの?」


 レイの横腹を肘でつつくと、仮面の少女はクックとおかしそうに笑う。


「皆は宣伝文句だとわかっているし、万が一の時には周りの人間を守るように使い魔は設定してある。さらに餌付けの際に頭を撫でる特典をつけておけば問題はあるまい」


「卑怯な感じもしますけど……まぁ、売れるのが最優先ですものね」


 呆れを含んで返すが、出だしは売り切れ完売にしたかったのだ。


 まぁ、良いでしょうと、あっという間に売り切れそうな保温の魔道具を見て、増産しないといけないですわねと、コノハもクスリと笑うのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「天津ヶ原コーポレーションが誇る治安用使い魔の猫は、保温の魔道具の魔力で温めた燻製肉が好きな個体がいる。出会った際に餌付けをしておけば、万が一の時に、優先して守ってもらえるかもな? 可能性の…
[一言] 平清は名前、行動、細目、何を考えているか分からないと裏ボスフラグがバリバリ立っていましたが、何も考えていないモブ中のモブだったというのが、意外でした。
[良い点] 自分も猫派なので闇猫をください、作者様!(; ・`д・´)! [気になる点] 最新話まであと少し、、、 [一言] ありがとうございます!
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