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28話 全機召喚

 ゴブリンキングは初めての人間の到来に喜びを隠せなかった。新たに創造されてから、数日。この部屋での待機も飽きてきたが、動くことは許されなかったからだ。意思も凍結されており、時折、侵入者が現れると覚醒する。それがネズミや昆虫の類でも侵入者と判断した。


 だが、戦いを挑んでくる敵はいなかった。ここまで辿り着く敵もいなかったことに苛立ちを覚えて………ようやく侵入者が現れたことに喜んでいた。


 侵入者は一人。たった一人でこのダンジョンの最奥に来るとは、かなりの腕なのだろうと、戦えることに喜びながら、待機している配下に陣形を作らせて、『親衛隊強化』を使用しておく。


 敵の姿が現れるまでの準備はできた。あとは敵を待ち構えるだけだと、部屋に繋がる鉄の扉が開かれていくのを見て、怪訝に眉を潜める。


「グギャ? 一人だったはず?」


 扉が開いた先には小柄な身体の少女と、ヒョロリと背の高い男が黒ずくめの服装で立っていた。二人いたのだ。


「予想と違って悪いな。俺たち少し非常識な存在なんだ」


 ヘラリと男が肩をすくめて、散歩での挨拶をするように言ってきて


「宇宙人、超能力者、未来人でクラブを作りたいところですね。ちなみに私は宇宙人推しです」


 ライフルを持った少女も、軽い口調でからかうように言ってくる。


「殺せっ!」


 ただ一言、ゴブリンキングは指示を出した。配下が一斉に動き出し、一糸乱れぬ行動を己の意思で操ってとらせる。


「では、今回は正々堂々といきますね。答えはゴブリンらしくギャッギャッと吠えるだけで結構です」


 少女の言葉に怒りを覚えて、戦端は開かれるのであった。



 防人は大部屋の中を素早く見渡す。100メートルの広さを持ち、柱も何もない。シンプルな土の地面からなる洞窟の大広間だ。


 ゴブリンキングの前に盾持ちのゴブリンナイト5匹。剣持ちが20匹、ゴブリンシャーマンが10匹で、その後ろに鉄のフルフェイスヘルメットの上に錆びた王冠を載せているゴブリンキングが見えた。


「タワーシールドとは泣けてくるね。あれは、ライフル弾でも貫通できないんじゃないか?」


 体格の良いゴブリンナイトを隠す分厚く細長い鉄の盾を、地面を支えに構えている盾持ちナイト。5体とはいえ、ゴブリンキングの前に立ちはだかり、守っている。


 呆れながら立つ防人は肉体を持っている。


「大剣は役に立ちませんね。常に切れ味が変わらない魔法の大剣では、攻撃力に難がありますので」


 大剣を地面に放置して、猟銃を構える雫も肉体を持っている。


 すなわち二人とも肉体を持っていた。残機スキルの特殊召喚。『全機召喚』である。1日に1回、1時間だけ、二人同時に存在することができる奥義だ。デメリットは二人とも殺されると死亡。二人とも現れているので当たり前だが。


 危険ではあるが、ゴブリンキングを倒すには必要だと雫からの提言に迷いなく防人は了承した。


「殺せっ!」


 再度ゴブリンキングの叫びが聞こえて、一斉に敵は動き出す。


「防人さん、敵はゴブリンキング一人です」


「あいよ。キング一人の意思で動くんだろ?」


 鋭い声音で雫が忠告してくるのを頷いて、捻じくれたシャーマンの杖を腰から外して構える。少しは魔法の発動に補正がかかるらしい。


 黒ずくめの男は魔力を集中させて、手を振るう。


「ニャンニャン隊。いでよ」


 その言葉に合わせて、影虎や影猫、そして影蛇たちが防人の影から次々と抜け出てくる。


 影虎は10体、影猫は20体、影蛇は20体。計50体。数での戦いと聞いていたので、事前に用意しておいたのだ。道中でもマナは一切使わず温存し、ステータスは魔力を特化して上げてある。


「ゴブリンたちを片付けろ」


「みゃぁ」

「みゃぁ」

「みゃー」


 シテテテと影虎たちは足音をたてずに、ニャンニャンとゴブリンたちへと駆けてゆく。ゴブリンナイトたちも迫る影虎へと、同じく駆けてきた。


「ムンっ!」


 先頭を走る影虎の頭に、剣を振り下ろしてくる。影虎はその一撃で頭を潰されてかき消えるが、敵を倒したことにより、気を良くしたゴブリンナイトが頭を上げた瞬間に銃弾がめり込み、その頭を吹き飛ばす。


「フニャー」


 影猫が、その横をすり抜けて次のゴブリンナイトの顔に爪をたてて襲いかかる。ゴブリンナイトは慌てて影猫を掴み取ると、その握力でネジ潰すが、その隙に頭に狙い撃ちをされて、身体をのけぞらせて倒れる。


「リロード」

 

 雫は膝立ちとなり、空薬莢を抜いて、素早く新たなる弾丸を猟銃に入れる。


「銃士を先に倒せっ! シャーマンよっ」


 次々と銃弾に倒れていくゴブリンナイトを前に、ゴブリンキングが手を振るい、唸るように指示を出すと、シャーマンたちは杖を翳して、火球を生み出すべく詠唱を開始し始めた。しかし、空を裂き防人の魔法が放たれてシャーマンたちに向かう。


火槍フレイムランス


 詠唱中であったために無防備となっていた3体のシャーマンたちの胴体に、3メートルの長さを持つ炎でできた槍が突き刺さり、瞬時に燃やしていく。


「対抗魔法!」


 手を振るい、ゴブリンキングは敵の魔法を打ち消すために叫ぶ。


魔法破壊マジックディスペル


 シャーマンの数人が火炎の槍へとマナをぶつけて、その構成を打ち消す。残りのシャーマンたちは詠唱を終えて、魔法を完成させて、杖を向けてくる。


大火球ビッグファイアボール


 未だに影の使い魔たちに翻弄されて、接敵できないゴブリンナイトたちの頭上を飛び越えて、大火球が飛来する。2メートルほどの4つの火球は空気を熱しながら、防人たちに襲いかかるが、雫はナイトを狙い撃ち、微動だにしない。その前に防人が立ちはだかり、パチリと指を鳴らす。


氷結障壁アイシクルシールド


 手のひらサイズの氷の障壁が4つ。火球の前に現れて防ぐ。爆炎が命中したことにより、爆風が巻き起こり防人たちの被るフードやローブ、影法師を打ち消す。


 防人は魔力の上昇により、精度も威力も、何より発動と操作性が大幅に上がったことを感じていた。例えるならば、ガチガチの粘土が水のように流れるような滑らかさを得て、ゲームのキャラのようにこちらの意思どおりに簡単に操ることが可能となっていた。


 そのため、小さな小さな氷の盾でも、敵の魔法をあっさりと防ぐことができたし、敵が使った今のマナを扱う魔法も模倣することが可能となっていた。


 激しい熱気が防人たちの顔を熱するが気にせずに、ニヤリとナイフのような笑みを浮かべて指を振るう。


「いいもんを見せてくれてありがとうよ。『魔法破壊マジックディスペル』」


 その指先から波紋のようにマナが吹き出し、爆炎を一瞬のうちにかき消す。フッと笑う防人だったが、顔を顰める。


「これ、マナをそのままぶつけるから、消費半端ないのね」


 魔法破壊を放った途端にマナをごっそりと削られてしまったのだ。なにこれ、使えないじゃん。普通の魔法で対抗した方が良いじゃんね。


「スキルなく初めて見た魔法を真似できる貴方が頼もしいとともに、恐ろしく感じちゃいます」


 雫がププッと面白そうに笑みを見せて、これはスキル必要だったのと、防人は意外に思う。たんにマナをぶつけるだけじゃん。


「それができないのが、普通なんです」


 ちょろちょろと絡む影虎たちを排除しようと、ゴブリンナイトたちが右往左往する中で、引き金を引き、また一匹撃ち抜く雫。


「さよけ。ま、使用できるんだから、良いだろ。使い道なさそうだけど。それに対抗できる方法はあるぜ」


 腰に付けた使い捨ての数本のナイフを指の間に挟み込み、顔の前に持ってくると、防人は新たなる魔法を使う。


火槍付与エンチャントフレイムランス


 ナイフを軽く放り投げると、その刀身は炎の槍に包まれて宙に浮く。


「火槍は遠隔操作可能。付与もできるみたいだし、これならどうかなっと」


 クイッと人差し指を振るうと、火槍はシャーマンたちへと加速して向かう。


『ま、魔法破壊マジックディスペル


 ゴブリンシャーマンたちが、青褪めて対抗魔法を使うが、鋭角な軌道を描いて火槍はその魔法を回避する。


「ナイフを核としているからな。鋭角な軌道をしても集中は切れにくいんだぜ」


 タクトのように指を振り、ゴブリンシャーマンたちの魔法を回避させて、その胴体に命中させていく。苦悶の表情を浮かべてゴブリンシャーマンたちは燃えていき、その身体から火槍は抜き出されて、再び宙に浮き他のシャーマン達へと襲いかかって燃やし尽くす。


「盾持ち! シールドにてかき消すのだ!」


 その火槍を信じられない思いでゴブリンキングは見ながら、盾持ちを自身の周囲に集める。


『オーラシールド』

魔法破壊マジックディスペル


 盾を構えて、身構える盾持ちナイト。頭上に火槍が迫るので、慌てて赤いオーラを纏わせる盾を掲げて防ごうとして


『ハイパーリローダー』

『アーマーブレイク』


 その隙を雫は見逃さなかった。猛禽のように鋭い視線にて尽きぬ銃弾の嵐を撃ち出す。薄い鉄板程度の鎧なら簡単に破壊する銃弾を漆黒の粒子を纏わせて。


「ふふっ。遂に新人類になりましたか。次は行きなっ、ダガーと叫んでくださいね」


「雫さんや、何気に操作中は集中するので無理です」


 火槍を気にすれば銃弾が。銃弾に注意を向ければ火槍が。と、ゴブリンナイトたちはその連携の取れた攻撃に翻弄されて次々とやられていった。


 二人は軽口を叩き合いながら敵を倒していく。


 ドサリとゴブリンナイトたちが倒れ伏し、残るはゴブリンキングのみとなる。


「お、おのれっ! こんなことで! 『ソニックスラッシュ』」


 憤怒のゴブリンキングは大剣に武技をまとわせて、衝撃波を刃の形へと形成し、雫達へと目掛けて振るう。音速の衝撃波が刃となって、目の前まで迫りくるが、バチリと弾けて霧散する。


「な?!」


 絶大の自信を持って放った一撃が打ち消されて、動揺するゴブリンキング。それを薄ら笑いとともに防人は指を振る。

 

 いつの間にか完全に透明な氷の障壁が張られていた。一瞬の内に発動させていたのだ。


「おかわりだ。どうぞお食べ」


 火槍付与を新たに腰から抜いたナイフにかけて、ゴブリンキングに向かわせる。だが、ゴブリンキングは闘志を失わずに、牙を剝いて剣を振るう。


「舐めるなよっ! 『闘気剣オーラーソード』」


 目の前まで飛来した火槍を赤いオーラを纏う大剣にて、ひと薙ぎで破壊すると、闘志を剥き出しに駆け出してくる。


火球ファイアボール


 接近してくるゴブリンキングに防人は片目を細めて火球を打ち放つ。


「舐めるなと言ったぁ!」


 同じように切裂こうとゴブリンキングが大剣を振るおうとするが


「いやはや、舐めてはいないよ? 『吹き荒れろ』」


 指を下に防人が振ると火球はゴブリンキングの目の前で爆発して逆巻く炎となる。逆巻く炎はその身体を燃やそうとするが


「があっ! 『咆哮ハウリング』」


 立ち止まり足を踏ん張り体を反らし、咆哮にてゴブリンキングはその波動を打ち消す。


 チュイン


 そして、その隙を狙い、ヘルムのスリットに滑り込むように漆黒の銃弾が滑り込んだ。


 ゴブリンキングは目を貫かれて脳まで破壊の嵐は吹き荒れて、ガクリと膝をついた。そしてそのまま大剣を取り落とし、血をヘルムの中から垂らすと、ズスンと倒れ伏すのであった。


『ハイパーブリッツ』

 

 猟銃から硝煙を流し、雫は冷徹なる視線で空薬莢を捨てて、フッと笑う。器用の高さは正確にして未来予測のできる射撃を雫にもたらす。僅かでも隙を見せれば、雫は銃さえあれば確実にゴブリンキング程度なら倒せるようになっていた。


「だから、来世はゴリラになった方が良いと言ったんですが」

 

「まぁ……あれだ。完全勝利?」


「完封できましたね、防人さん。マナは空っぽとなりましたが。銃弾も残り数が厳しいです」


 二人は息のあったコンビネーションにて、あっさりとゴブリンキングを倒したことに笑い合う。実際は紙一重の戦闘でもあったのだが。マナが満タンでなければ、戦いたくない相手だ。


 なんにせよ、初めてのダンジョン攻略を終えた二人であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >1日に1回、1時間だけ、二人同時に存在することができる奥義だ なるほど 2人でにゃんにゃんするにはまあ十分な時間だな(おっさん並みの感想)
[気になる点] >ゴブリンシャーマンたちが、青褪めて対抗魔法を使うが、鋭角な軌道を描いてヒラリと火槍はその魔法を回避する。 >「ナイフを核としているからな。鋭角な軌道をしても集中は切れにくいんだぜ」 …
[気になる点] 前話で主人公が魔力を6倍以上にあげたけど 何が変わったのかがサッパリ不明な展開
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