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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
13章 繋がる世界

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273話 異変

 防人は天津ヶ原コーポレーションに急いで戻ってきていた。博多の街の様子を確認していたら幼女が突然博多のラーメン屋から飛び出してきて、大変大変とラーメン屋のドアを潜るように言ってきたのだ。潜ったらその先は自宅でした。幼女の能力は本当にチートすぎであると思います。


 そして、今にも死にそうな人が二人、目の前に倒れていたので、慌てて聖に回復してもらった。セリカと幸は問題なく侵入者を倒せた模様。俺がステータスポイントを上げたのはまったく気づかなかったそうな。現実は世知辛いなぁと、痛感したぜ。そりゃ、都合良くは気づかないか。


 どうやら簡単に倒せたのも、相手側に理由があったようで、今は癒やした二人と握手している。


『神機アレスの管理者権限を破棄しますか?』

『神機フォーチュンの管理者権限を破棄しますか?』


『どちらもイエスだ』


 イエス以外ないだろと、二人の管理者権限を破棄しておく。二人の身体に紫電が走り、管理者権限は破棄された。これで二人は自由になったわけだ。


「感謝する。こんなからくりであったのか」


「人間がこんなことをできるなんて……本当に人間です?」


 肩を回しながら、ギリシャ彫刻みたいなアレスが助かったと笑い、フォーチュンが俺をジロジロと疑い深そうな顔つきで見てくる。


「お礼は後で言うのです。まずは北海道に向かって、バッカスの管理者権限も破棄してほしいのですよ」


空間扉ゲート


 管理者権限を破棄したところ、フォーチュンという少女はすぐに空間魔法を使い、転移陣を作り出したので呆気にとられてしまう。この子は元の雇用主を早くも裏切っていないか?


 慌てているので、理由は簡単に想像できる。この子たちは最初から裏切る予定で本社に来たのだろう。そして、裏切る予定の仲間も助けてほしいと。罠じゃないかと疑っちまうが、罠ではないのか?


 管理者権限を破棄しても、元の主に忠誠心を持っていれば、裏切ることはない。巧妙な罠ではないかと、フォーチュンとアレスを観察するが


「ふふふ。あの司令官ぶりたいアホの博士をようやく殴れる時が来た。この日をどんなに待ち望んだことか」


 アレスが不気味にも思える暗い笑みで槍を磨いているので、嘘ではないっぽい。本気の笑みだな、これは。


「博士? 地球連邦軍の司令官は軍人じゃないのかい?」


 なぜか俺にピッタリとくっついているセリカが首を傾げて不思議そうにすると、アレスはそのとおりだと、苦々しい顔になる。


「金田博士だ。あの机上の空論ばかりを振りかざすロマン主義の。なぜかオモイカネとか名乗って、俺たちにもそう呼ぶように命令をしていた」


 ロマン主義と言うところで、馬鹿にしたようにハッと笑うアレス。その博士が気に食わないのだろうことは明らかだ。え? 地球連邦軍って、軍人が司令官じゃないのか?


「金田? あの管理者権限を弄ってばかりの、僕の理論は先に進みすぎて誰にもわからないんだと嘯く落ちこぼれ?」


 素っ頓狂な声音でセリカは驚きソファから立ち上がる。それほど意外な人間の模様。


「貴様らがいなくなったあとに戦闘があって、優秀な科学者のほとんどは死んだのだ。残った科学者で管理者権限を操作でき、一応理論などは知っていて、現実を顧みないが優秀だったのは金田だけだった。お前らにもなにかしら仕掛けていたと言っていたぞ?」


「あ〜。あやつはたしかに理論とかは優秀であったと覚えておるのじゃ。ダンジョンに打ち勝つ方法といった景気の良いことをよく口にして、希望に縋る人々には人気があったの」


 忌々しそうに顔を歪めるアレスに、後ろ手にして雪花は苦笑を浮かべる。扇動が得意な博士だったのだろうなぁと、なんとなく考えていると、セリカが深刻そうな表情を浮かべる。


「そういえば最終調整をしてもらっている時に、あの博士もいたよ。あの時は大きな作戦を前に、とりあえず顔を出しておきたかっただけだろうと思っていたんだけど……思い返せばここに来てから僕の行動に変なところがあった。なにか仕掛けていたんだな」


 ギリッとセリカが歯を食いしばり、恐ろしい表情へと変わる。思い当たることがあったのだろう。たぶん余計なことをされたんだろうな。


「さらに言えば、あの博士は自身を改造して、体術、闘気法と光魔法を7にしてましたです。エレメントコアを身体に埋め込んで、新人類になったと笑ってましたが、言動も行動も顔も体臭もおかしなおっさんになっていたのです。精神に異常をきたしていたと思います。いえ、元からだから精神は異常はなかったです」


 辛辣なセリフを吐くフォーチュン。そのセリフを聞いて、俺の肩によじよじと登ってきた幼女がウンウンと頷く。幼女にもその酷さを同意される敵の司令官……同情するぜ。


 だが、雫はやけに静かだな? こんな時は競うようにおちゃらけるのに。


『私、金田博士ってあまり接点がないんですよ。博士が話しかけるのはセリカちゃんや、雪花ちゃんや、ティターニアでしたし』


「ふ〜ん、そうなのか。それならわからないよな」


 なぜ話し掛ける相手が限定していたかは……わからないな。まさかな、気のせいだろう。装甲の厚さとかではないよな?


 なぜか不穏な空気を雫さんから感じ取るので、スルーすることにしてフォーチュンへと向き直る。


「話はわかった。それじゃ、敵の本拠地に案内してくれるんだな?」


「もはやろくな戦力はないはずなのです。バッカスが操られても、押さえますし、もしサンダルフォンがいてもアレスなら動きを止められます。その隙に管理者権限を破棄してもらえれば、戦闘は楽勝です。大成功間違いなしなのです」


 フフンと胸を張ってフォーチュンが得意げに答えてくるが、罪悪感はそこにはないようだ。


「生ネズミを食料として配布するアホは死ぬべきなのです」


「それは仕方ないな」


 ネズミ? ネズミを食料にしていたのか? うちもネズミを食べることはしないので、酷い話だ。燻製肉? あれは謎肉ということで、俺の中では決着がついています。


「自業自得というわけですね。金田は私の胸ばかり見てきていましたし」


 聖がウンウンと頷き、金田博士とやらと話したことのない雫さんが悔しそうに自身の装甲を手で確認しているが、見なかったことにしておく。まぁ、男として弁護をしておくと、分厚い装甲に目がいくのは仕方ないことなんだよ。セクハラ的な行動を口にしないところを見ると、その点は普通のおっさんなんだろう。女性にとっては、気になる視線だったんだろうがな。


「それじゃ、金田博士の家に訪問に行くか。……本当にSランクのダンジョンを作り出せる力はないんだな?」


「うむ。我らもその情報には驚いている。Sランクダンジョンを作り出すなど正気の沙汰ではない」


 最初に博多シティを襲った2度目のスタンピードについて尋ねたが、どうやらアレスたちにもその質問は意外だったらしい。ということは、俺の考え過ぎで、やはりストーカーの仕業だったんだろう。


 重々しく頷くアレス。彼もこの情報の危険さを理解して深刻そうにしている。まぁ、この話はまた今度だ。自由にダンジョンが作れる敵への対応方法はさすがに俺も思いつかない……。自由に? 本当に自由に? 少しそこに違和感を持つが、考えるのは後でだ。


「慎重に行くぞ。馬鹿でなければ警戒をしているはずだからな」


 アレスたちの管理者権限が破棄されたことに、相手も気づいているはず。歓迎会の用意をしているのは間違いないと、皆が頷くのを見ながら、にゃんにゃん隊をドローン代わりにゲートに向かわせる。


 待つことしばし。


「誰もいない?」


 にゃんにゃん隊からの思念を受けて、眉を顰めてしまう。使い魔越しに見えるのは、ガランとした巨大な金属製の建物だった。空を飛んでいた戦艦を基地に改造したようだ。


 が、警戒しているはずの敵の姿が見えない。したしたと走って、使い魔たちは部屋を覗いていくが、誰にも遭遇しない。


「フォーチュン、バッカスには思念を飛ばせるかい?」


 セリカが俺の言葉に小首を傾げて尋ねると、フォーチュンが動きを止めて、思念を飛ばそうとする。だが、すぐに深刻そうな表情で答える。


「飛ばせないのです。妨害されているのではなく、相手がいない時の反応なのですよ」


「これはまずいかもしれないよ、防人。金田はフォーチュンたちが裏切ることに薄々気づいていたのかも」


「心当たりは山ほどあるな。常にあの男に対して、我らは辛辣な言葉を吐いてきた」


「あんのかよ。そこは心に仕舞い込んで、密かにチャンスを狙えよ」


 こいつらも馬鹿だろ。いや、管理者権限をなんとかできるとは考えていなければ、不満を口にするか。


「しょうがない。もう遅い感じもするが俺たちも行くか。そもそもその博士は何を狙ってきたんだ?」


「もちろん、元の世界とこの世界の接続なのです。妖精機はダンジョンの破壊を目的に送られました。その経験を基に元の世界のダンジョンを破壊する方法も入手する予定でしたが、金田はそもそも元の世界と接続すれば良いとの説を提言しました」


「これは危険な賭けだった。世界を繋ぐということは、敵にも気づかれる可能性が極めて高くなり、この世界にも元の世界のダンジョンが侵入することになる。金田が言うことによれば、人類の生き残りを移住させて、世界を繫ぐゲートは破壊。あとはこの世界で暮せば良いとのことであった」


「なるほどなぁ。それは絶望しかない人類にとっては魅力的だよな。俺も同じ立場でそんな提案をされたら乗るかもしれない」


 フォーチュンの作ったゲートを潜り抜けて、基地に足を踏み入れながら考える。まだまだ弱いダンジョンと、科学力の低い、だが人口はまだまだ残っている人類がいる世界。人間のいつもの業だ。話し合いではなく、侵略で物事を片付ける予定だったんだろう。


「そのために、この世界にゲートクリスタルという空間を接続する魔法具を最初に飛ばしたのです。その魔法具を使い、元の世界に設置してあるゲートクリスタルと接続すれば、ゲートは開く予定なのです」


「どうやら遅かったようだぜ。読まれていたな。お前らがいない間に、ゲートを開く予定だったんだろうよ」


 にゃんにゃん隊が見つけた格納庫のように広い研究区画に移動して嘆息する。


 ひんやりとした金属の部屋。なにやら巨大な金属製のリングが部屋には設置されており、ケーブルが接続されて、端末機器が設置してある。こういうの見たことあるぜ。他の惑星に行くための機械だ。


「動かしたんだろうな。恐らくは妨害が入らない一番のチャンスを狙ったんだろうが……これはなんだ?」


 金属製のリングは壊れていた。バチバチと火花が散り、その前には多くの死体が積み重なっている。白い翼を生やしているところを見ると、天使たちだ。


 そして、巨大な竜が1体、天使たちの上に重なって死んでいた。部屋の壁を突き破り、その巨大な体躯はピクリとも動かずに倒れていた。


「この竜は見たことがあるぞ。昔に見たタイプだ」


 竜は死んでいても、その巨大な力を感じ取れた。子供の頃に出会った竜に酷似している。神秘的な存在感をビシビシ感じるのだ。


『これは……私も見たことはありません。初めて見るタイプです』


「天使たちが力を合わせて倒した……というには強すぎる敵だな。誰が倒したんだ?」


 雫が驚いているが、俺も同様だ。いったいここでなにが起こったんだ?


 嫌な予感をしながら竜の死体に触れようとすると、空気に溶けるように消えていった。前と同じだ。その死体は残ることはない。あとにはむせ返るほどの血臭と天使の死体だけとなった。


 しばらく辺りを調べたが、なにもわからずに、セリカが目ぼしい機械を回収して帰還することになったのであった。


 誰が竜を倒したのか? いや〜な予感がする。この世界のGMが追い払ったのだろうか。勢力争いってのはどこにでもあるからな。


 と、すると勝利した奴はどうなるんだ?


『異界の始原の力の欠片を入手しました。等価交換ストアのレベルが8になりました』


『スキルを作成できるようになりました』


『スキルを作成するのには力が足りません。異界の始原の力か、この世界の始原の力を全て入手してください』


 ご親切に等価交換ストアさんがレベルアップしたことを教えてくれる。消えていった竜の死体から力を吸収したのであろう。前回は等価交換ストアに進化したが、今回はスキル作成か。


 始原の力っていかにもな名前だ。たぶんGMを倒さなくてはならないんだろう。もしかして、雫の世界のGMとこの世界のGMを両方倒さなければいけないのか? いや、竜の死体があったことから、もしかして雫の世界のGMは、この世界のGMに殺されているのでは……。よくわからないな。情報が少なすぎるぜ。


 最悪なことには変わらない。現実は世知辛い。ラスボスはラスボスらしく、動かないで勇者を待ち受けていてほしいんだが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、何やら作者さんの作品群で重要ワードな始原が出始めましたな!ドラゴンは恐竜時代滅んじゃって不貞寝していた始原の者だったのだろうか。
[一言] オッパイ星人であったか・・・気が合いそうだな博士!! ぬ?なにやtグワァー
[良い点]  “防人たち”と“地球連邦軍”そして“ダンジョンの意思”の三つ巴の戦いが始まると思っていたところ、急転直下の展開! [気になる点]  な、なんか無し崩しに退場させられた地球連邦軍(・∀・)…
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