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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
13章 繋がる世界

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269話 神級魔法

 博多シティは大乱戦となっていた。キラービーの群れを倒すべく銃で迎撃したいが同士討ちの可能性があるために、兵士たちはどうしても引き金を引くのを躊躇ってしまう。


「壁際に移動して、斜め上、上空に向けて撃て! そうすれば味方には当たらん!」


 隊長が喉を枯らして指示を出し、銃撃が始まる。バラバラと乾いた銃撃音が響き、キラービーへと命中すると、あっさりと身体を砕く。


「たしかに脆いみたいです!」


 華が槍を手に、鋭い踏み込みから連続で突きを繰り出す。その攻撃は宙に浮く花びらを食べていたキラービーたちへと正確に命中していく。空を飛ぶキラービーはその身体が脆く、体液を噴き出して、あっさりと地へと墜ちていく。


『金属網』


 手に持つ金属の欠片を組み合わせて、純がキラービーをスキルで作り上げた金属製の投網で覆う。キラービーが網で地に落ちて藻掻くのを見て、全身鎧を着込むフルアーマー大木君がとどめを刺す。


「武技、トンボ切り!」


 おりゃあと叫び声をあげて、ハエたたきのように手に持つ槍をキラービーに叩きつけて倒す、安全第一のちゃっかりものである。ちなみにトンボ切りは武技の名前ではない。


 周りでも多くのキラービーを次々に倒している。数は多くとも敵の強さはたいしたことはないと、兵士たちは士気を上げる。


 しかし、脆く倒しやすいキラービーは数で押し、自爆攻撃で敵を倒すために召喚された魔物だ。銃撃で倒せても、低空飛行で目の前に迫られれば、同士討ちが発生する。近接戦闘でも、多すぎる敵に手数が足りず倒しきれない。


 倒しきれなかったキラービーは昆虫の無機質な複眼を人間たちに見せながら、羽音をブンブンとさせながら尻にあるレイピアのような細長く鋭い針を向けてくる。


『ファイナルストライク』


 身体を紅く光らせて、格上をも倒すキラービーの自爆攻撃。針はその鋭さを増し、人間へとその禁忌の闘技を発動させた。


「しゃー」


『影縛り』


 影に潜ませておいた闇蛇たちが、守りの影を展開する。矢などの攻撃を防ぐ魔法は、『ファイナルストライク』に対して極めて相性が良い。紅き輝線を奔らせて、兵士たちに迫るが、一瞬その輝線を止められると、そのまま針は虚しく地に落ちる。


 だが、数で押す戦法をとるキラービーは、闇蛇の防護を免れて、抜けてくる針もある。命中すれば、死を齎す一撃。雨のように死の一撃は降り注ぎ、兵士たちはその一撃が当たると、一瞬紅く身体を光らせて、苦悶の表情で地へと倒れ込む。


 キラービーの一撃はその名の通り、人間へ一撃死を齎す。


「くっ! お嬢様、お下がりを!」


万能盾ファランクスシールド


 険しい表情でコノハのメイドが前に出て、両腕に取り付けたバックラー程度の小さな可変型万能盾を展開させる。カチャカチャと盾が音を立てて、その形を変えてカイトシールドのような大きさへと変わると、いくつもの光の盾が周囲に壁のように生み出された。


 キラービーの『ファイナルストライク』の紅き一撃が降り注ぎ光の盾とぶつかる。光の盾が淡く光り、ヒビが入っていく。


「くっ。敵の攻撃が強いですね。危険手当はたっぷりとください」


 攻撃を防ぎ盾を維持しながら、口調はわざと軽くしているメイドにコノハは微笑み、マナを集中させる。


「良くやりましたわ。これで片付けます!」


『道化のボール』


 道化の姿へと変わったコノハはその手に1つのボールを生み出すとお手玉をする。みるみるうちに、ボールは増えていき、宙へと浮く。


『驚きの爆裂ボール』


 腕を振るってコノハが闘技を発動する。ボールはキラービーへとぶつかると爆発して敵を砕く。ボールは空を埋めるキラービーの群れを爆発させていく。


 道化のボールは投擲されたあとにも、どんどんと増えていく。マナが尽きない限り、永遠に放たれる道化の驚きのボールだ。


「この闘技で倒し尽くしますわ!」


 腰からマナポーションを取り出して、一息で飲み干しながら、コノハは全てのキラービーを倒さんと気合を入れる。


 その中になぜか黒いボールが混じっており、キラービーへと向かった。


『闇神球』


 音をたてずに、漆黒の球体は放たれると、キラービーの群れを貫いて郊外へと飛んでいく。貫いただけではない。通り過ぎたあとには空間の歪みが発生し、黒き亀裂を作る。亀裂は周辺のキラービーやマザーラフレシアを勢いよく吸い込んでいき、貪欲に呑み込む。


 城壁の上にいる全ての魔物は吸い込まれて、その遺骸すら残らない。壮絶な威力の魔法であった。


「あ、あら?」


 なんだか一発だけ、わたくしのボールに見えないわと、額に一筋の汗をたらりと流すコノハ。


 防人はその姿を見て、うんうんと満足げに頷く。コノハさんの神級魔法凄いよな。俺は感動しちまったぜ。


「相変わらず酷いのじゃ」


「そんなことより、キングベヒモスたちも倒したか?」


 郊外へと飛んでいく『闇神球』を操りながら、様子を窺う。空を斬るように飛んでいくちっぽけな球体は、その跡に空間の亀裂を作り、地上にいる魔物のみを全て吸い込む。光をも吸い込む程の強力な威力に対抗することができずに、アーマードトリケラトプスたちは、その巨体を浮かせて吸引されていった。


『やりましたよ、間違いありません! さすがは防人さんです。神級の威力はとんでもないですね』


「なんだか嫌な予感しかしないんだけど」


 雫さんが興奮気味に言ってくるが、不安しか残らないぞ。


 闇鴉の視界に映る『闇神球』は、途上にいたボルケーノリザードをも吸い込み、後方で悠々と歩くベヒモスに接近する。


『雷帝雨』


 ベヒモスたちも脅威となる魔法が発動したと感知したのだろう。対抗魔法として、天から雷撃の嵐を降り注がせる。大地が吹き飛ぶ程の圧倒的な破壊力を見せる『雷帝雨』。周囲の森林を吹き飛ばし一瞬の内に灰へと変えながら、収束していき『闇神球』の前へと向かう。


 しかしキングベヒモスたちの放った『雷帝雨』は帝級でも防げる一撃であるのに、闇の球体はその全てを吸収して、速度を遅くすることもなく、キングベヒモスに迫る。


『風神剣』


 だが、キングベヒモスに命中する寸前に、フードをかぶり仮面をつけた少女がどこからか飛び出してくると、『闇神球』へと剣を振り下ろす。


 緑色に覆われ、強大なマナを内包した剣の一撃とぶつかり合うと空気が振動し、衝撃波が発生する。数十kmは離れている俺たちの下へも衝撃波は届き、暴風となり、たたらを踏んでしまう。


 見ると、『闇神球』は掻き消されており、神級の威力を見せるように、地上に大きなクレーターを残すのみであった。


『む? 神級を打ち消すのは神級のみのはず。あの少女………』


「そうじゃな、神級の使い手」


 真剣な表情で雫が目を細めて険しい顔になると、雪花もゴクリとつばを飲み込み、驚愕の表情となる。


 が。


『パクリ。パクリです。仮面をつけた少女なんて、私のパクリです。訴えます。訴えましょう。有能な弁護士を用意してください。特にあの装甲辺りはパチものの証明です』


 プンスコ怒って、両手を振る雫さんであった。空に浮き、剣を肩に担ぐ少女へと怒りを隠せない模様。


「違うじゃろ! そこではないじゃろ」


 ふざけ過ぎだと、雫へと怒鳴る雪花。だが、ケロリとした表情へと雫は変えて答える。


『想定どおりです。キングベヒモスが妨害してこない時点で隠し玉を持っていると思われました。ですが、発動を許して打ち消すといったテンプレの強者ムーブは防人さんには通用しないんです。ね、防人さん?』


「そのとおりだ。発動前に止めるべきだったな。魔法陣が消えていないだろ、雪花」


 頭上に描かれた魔法陣は未だに消えてはいない。俺はニヤリと笑い、待機状態にしていたもう一つの魔法を発動させる。


『闇神の裁き』


 人差し指をクイと動かして、もう一つの神級魔法を発動させる。瞬時に俺の頭上にある魔法陣は消え去り、天へと漆黒の光となって飛んでいく。


 そうして、キングベヒモスたちの頭上へと漆黒の光は飛んでいき、


 大地を闇に覆い尽くすかのような、漆黒の柱が六本地上に降り注ぐ。


 空気を歪めることも、暴風を巻き起こすこともなく、無音の攻撃は静かにキングベヒモスを覆い尽くす。キングベヒモスは闇に溶かされるように、抵抗の鳴き声をあげることもなく、その姿を消していった。


 漆黒の柱は6本だ。即ちキングベヒモス5体と………。


 要塞型ダンジョンに降り注いだ。同じく要塞型ダンジョンも消えていき、その傍らで慌てて逃げる謎の少女の姿も目に入ってきた。


「はぁ? なんで神級魔法が残っているのじゃ?」


 あんぐりと口を大きく開けて、唖然とした表情で雪花が俺を見てくる。だよな、不思議に思うよな。それが狙いだったんだ。


「本来同じ属性の魔法は同時に発動できない。だが、マナタンクは、裏仕様があるんだ。本来の俺のマナを使用しているわけではないのか、同じ属性魔法でも、二重に使用できるんだよ。俺とマナタンクそれぞれで。妨害されることを予想して、二重に発動をさせておいたんだ」


 マナタンクを覚えた時に二重に魔法が使えると理解できたのだ。魔法発動の仕様はマナの供給先によるとわかったので、隠し玉として用意できたんだぜ。


「はぁ……驚くまいと思っていたが、雪花ちゃんの主様は本当に規格外じゃの」


 ふへぇと、諦めたように疲れたため息を吐く雪花。俺としては、それよりも神級の効果の方に驚いていた。


 空間の歪みに吸収したから、コアは手に入らないと考えていたのだが


『スペシャルモンスターコアS5個入手しました』

『モンスターコアA10247個入手しました』

『モンスターコアB34986個入手しました』

『モンスターコアC2064個入手しました』


 空間の歪みに等価交換ストアは接続されていたのか、謎仕様によりコアは格納できていた。なんつーか、等価交換ストアは本当に素晴らしい。


『アハハハ! あの無様な姿を見てください。きっと本当は使い魔に視線を合わせてニヤリとか、笑って強者テンプレをする気だったんですよ。ふふふ、黒い虫みたいに逃げ惑っていますよ。逃げ惑うが良い、アハハハ』


 お腹を抱えて、大笑いする雫さん。楽しそうにニヤニヤとベヒモスがいた場所を見ている模様。どうやら自分のパチものが現れたことに、かなり怒っていた様子である。どことは言わないが少女であると判断できた雫とはある一点が違うしね。


 少女があたふたと逃げ惑う姿にご満悦の俺のパートナーに苦笑を浮かべつつ、消えた要塞周りに使い魔を偵察に向かわせる。要塞は欠片も残らず消え去って、草木の一本もなく綺麗に更地になっているが


「ちっ。攻略はできていないか」


 更地の中心に、ポッカリと地下へと続く階段が残っていたことに舌打ちをしてしまう。神級を防ぐ仕様とはどんな仕様だと苦々しく思うが、ダンジョンだしな。もう2、3撃、神級を撃ち込めば倒せるかも。


「まぁ……。かなり魔力も吸収できたみたいだし、逆境成長も発動したし………ゆっくりと攻略をするかね」


 膨大な魔力を体内に吸収したことを俺は感じとっている。だが、身体の具合は悪くないし、もう少ししたらレベルアップも可能かもしれない。


「あの少女がきっと元凶だろうぜ」


 わかりやすい強者っぽい少女だからな。誰かさんに似ているかもしれない。


「まぁ、ダンジョン発生の元凶じゃろうな」


「それなら、今度ケーキでも奢ってやるか。たっぷりとコアを貰えたしな」


『私のお礼が先ですよ、防人さん』


「そこは任せた」


 フンスと胸を張る雫に笑いかけて、肩の力を抜く。実はマナが空っぽになったんだ。一休みさせてくれ。


 簡単に倒せたように見えるが、結構ぎりぎりだった。神級の魔法が妨害されていたら、やばかった。この都市はめちゃくちゃになっていただろう。


 まぁ、ハードボイルドに余裕の笑みで腕を組んで立ってみせるけどな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 元々がエグイ状況だから、劣勢になったらほぼ巻き返せないので、いわゆる無駄なピンチが存在しないのは実に素晴らしい。
[一言] 偽雫さんことティアが早々にへっぽこになってしまって、それはそれでかわいい気もします。 いやしかしどうなる事かと思ってたら防人さんはチートですねぇ。でも北海道とか本社の件とかまだまだ予断を許さ…
[気になる点] >『驚きの爆裂ボール』 ・・・トランプ版もあるのかな? 語尾に♠♡♢♣使ったら強者感が増しそう
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