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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
13章 繋がる世界

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266話 再暴走

 少女はデュランダルを一振りすると、ポイッとどうでも良いかのように投げ捨てる。デュランダルは空間に溶けるように消えていき、仕舞われたことを確認する。そして、死んだサンダルフォンの血で沼のようになっている中で、楽しげな笑みを浮かべて身体を回転させる。


「見た見た? マスター、私の活躍見たかな? 見ちゃったかな? 見惚れたかな? おっと、これ以上は有料になりまーす。なんちて、エヘヘ」


 クフフと袖に隠れた手で口を押さえて、楽しそうに笑う少女。トントンとスキップして、両手を広げて舞う。


『モンダイナイセイノウダ』


「そこはぁ〜、よくやったぞと、褒めるところですよ〜。ナデナデして、私がポッと頬を赤らめるんです」


 不満そうな演技をして、口を尖らせて少女は倒れた木々の中にいつの間にか現れた蠢くスライムのような小さな肉の塊を見る。


『カンサツタイショウノナカデサイキョウヲサンコウニシタ』


 肉の塊は触手を生み出して、ゆらゆらと揺らして答える。


「お姉ちゃんと会うのが楽しみです。それよりぃ〜、この天使はヘタレでしたよねぇ」


 少女はサンダルフォンを倒した後に散らばっているエレメントコアを身をかがめて拾い集めていく。しばらくして、エレメントコアが山のように集まり、ふぅと少女はかいてもいない汗を拭うふりをすると、肉の塊へと顔を向ける。


「このまま、これを使うんですか?」


『カンサツタイショウヲミツヅケルタメダ』


「古今東西、試すなんてことをするのは危険だと思うんだけど、マスターの言うことだし、別にいっかな」


 エレメントコアの山に手を翳して、マナを注ぎ始める。エレメントコアが光り輝いていき、眩しいほどに辺りを照らす。


「我が名……我が名……マスター、私の名前は何にするんすか? 可愛らしい名前を希望しちゃうんすけど」


『スキニシロ』


「そういう創造物への無関心は裏切りの原因になっちゃうんすよ。う〜ん……どうしよっかな〜」


 コテリと首を傾げて、どうしよっかな〜と、少女は顎に手を当てて考える。だが、すぐに名前を決めたと顔を上げて宣言する。


「私の名前は、ティアにします。ティア・ドロップ。いい加減すぎるかな? でもこれで良いですよね?」


 ビシリと親指を立てて、ティアはニコッと微笑み名前を決めた。肉の塊はゆらゆらと揺れて


『スキニシロ』


 と、淡々とした口調の一言を返す。


「酷いなぁ。もう少し興味持ってくださいよ〜。こんなに可愛らしい下僕なんですから。あれ、マスターの性別ってどっちですか?」


 腰を屈めて、胸を突き出すように揺らして、ニフフと悪戯そうな笑みで身体をくねらせて聞く。


『ココハマカセタワレハモウヒトリヲカンサツニイク』


 肉の塊はティアの質問に答えずに、溶けるように消えていく。チェッと言って、ティアは再びエレメントコアに手を翳す。


「しょうがないなぁ、お仕事しますよ、お仕事」


 再び膨大なるマナを注ぎ込み、邪気のない無垢な笑みで口を開く。


「ティア・ドロップの名において、現れいでよ、新たなる秩序を創る我が主の名において……。マスターの名前ってなんだろう。この祝詞も忘れそう。ま、良いよね。ダンジョンよ、世界を浄化するために生まれいでよ!」


 セリフの後半で、クスクスと笑いながらティアはマナをさらに篭める。と、いよいよエレメントコアは光り輝いて、天へと向かう光の柱を作り出した。


「さぁ、私はBランクなんてケチケチしたことは言わないよ。ワクワクドキドキする戦いを楽しんでね」


 光で顔を照らされながらティアは呟き、光の中に消えるのであった。


「天野防人。会うのが楽しみだよね。ふふっ」


 コロコロと鈴のなるような可愛らしい言葉を残して。






 博多シティの司令センターは大騒ぎになっていた。窓がないために、蛍光灯が司令室を照らす下で、多くの人々が走り回り、怒号を発して混乱のさなかにあった。


「いったいなにが起こったのですか? 現状を報告しなさい」


 丸目大佐は司令室内で、混乱して慌てふためく兵士へと落ち着いた声音で指示を出す。


 この落ち着いた姿を見て、焦って騒いでいた参謀たちは落ち着きを取り戻し、オペレーターが現状の再確認をして報告をしてくる。


「南西約65km先に突如として光の柱が生まれました。続いて光の柱が収まると、数平方kmの敷地を持つ巨大な要塞らしき建物が出現。ヘリを偵察に向かわせたところ、多数の魔物が出撃、ヘリは撃墜されましたが、情報は動画にて送信されております。動画共有します」


 司令室に設置されている大型モニターに、撃墜されるまでにヘリが撮影した敵の要塞が映し出された。コンクリートで建てられたような、世界大戦時に使われたような古いタイプの要塞だ。巨大な要塞は高さ100メートルはある城壁を持ち、さらに高い要塞が奥に控えている。無骨な外観であるが、だからこそ、威圧感を見る人に与えてきていた。


 それを見て、丸目大佐は眉根を寄せて、顔を顰める。周りにいる兵士たちも、映し出された内容に、驚愕の声をあげてしまう。


「なんだあれは?」


「スタンピード……なのか?」


 そこには魔物の群れが映し出されていた。先日と同様の種族のように見える。ボルケーノリザード、サラマンダー、ポイズンコンピー、アーマードトリケラトプス。だが、どことなく違う。なんというか色合いや角の数など、どことなく違う。


 しかも整然と列を作り、行進をしていた。魔物にはあり得ない行動をとっていた。


「まさか……上位種か? 全て上位種?」


「ば、馬鹿な。そんなことあり得るか!」


「あれだけの魔物が産まれたのか!」


「しかも、軍のように整然と行進をしているぞ!」


 皆、敵の魔物の姿にピンときたのだ。僅かに違う色彩の魔物。その力はランクが一つ上の魔物であると。


「こちら、偵察ヘリアルファワン。旋回して敵の数を確認していきます」


 動画内が揺れて、ヘリが旋回していることがわかる。ヘリのパイロットは敵の全容を確認しようとしたのだろう。要塞に近づきながら、敵の様子を撮影しようとする。


 だが、不用意に接近しようとするのは致命的なミスであった。敵の様子から対空攻撃はないと踏んだのであろう。速度を落とすことなく要塞に接近していたが、要塞内から現れた魔物にパイロットは驚きの声をあげる。


「あれは……ベヒモス! ベヒモスがいます。ベヒモスです!」


 高さ30メートル、全長100メートルはあるだろうサイのような体躯。しかしながら、その皮膚は虎のような金色の毛皮で覆われており、頭から生やす3本のトリケラトプスのような角は青白い水晶のようであり、紫電がバチバチと音を立てて奔っている。


 有名すぎる魔物ベヒモス。軍での教育課程で必ず教わる、かつて幾つもの都市を破壊し尽くした恐るべき魔物だ。


「まずい! ベヒモスが2体、3体……合計5体! あ、あれ? ベヒモスってあんな色の毛皮だったか?」


「回避しろ!」


 複座であったろう、もう一人のパイロットが鋭い声音で警告を発する。


「は? ぬおっ! 回避します!」


 パイロットは警告の意味を悟り、急速旋回をする。なぜかは動画に映るベヒモスを見て、司令室の面々も理解した。


 ベヒモスの角から発する紫電が大きくなりエネルギーを収束していたからだ。そうして、ベヒモスはヘリの方向へ向くと、雷のビームを放つ。


 膨大な光の奔流がヘリへと襲いかかる。が、すでに旋回していたヘリは回避できると思われた。しかし、極太の雷の奔流は無数に分裂して、鋭角に曲がってヘリを追いかけてくる。


「くそったれ! ホーミング付きか」


 罵りの声がパイロットの最後の言葉となった。爆発音が響き、動画が揺れてプツリと映像が途切れるのであった。


 その光景に兵士たちはゴクリとつばを飲み込み、言葉を失う。今見た光景が信じられないのだ。


「……すぐに戦闘機を緊急発進させなさい。戦車隊は郊外にて戦列を作り迎撃態勢をとるのです。そもそもここの司令官はどこにいるのですか!」


 丸目は司令センターへと、帰還の挨拶に来ただけであったのに、高官が見当たらないことに不審な表情で尋ねる。


「はっ! 新しく任官なされた九鬼司令官を始めとする高官の方々はその……勝利を祝って宴会をするべく料亭に行っております。今までの司令官である大友司令以下参謀たちのほとんどはクビになりましたので……」


 言いづらそうに話す参謀に、唇を噛み怒気を纏う。


「スタンピードが終わったと油断していたんだな! そうか、兵士もほとんどを予備役に回してしまったか! タイミングが悪すぎる……」


 司令官たちは不在、兵士も大量に解雇していたことに、舌打ちをして丸目は苛立ち、思わず素を見せてしまう。スタンピードが発生したタイミングが悪すぎる。引き継ぎも上手くいっていないようだし、軍として行動をとることが極めて難しい状況だ。


「今司令センターにいる、さ、最先任の士官は、そのぅ……丸目大佐であります」


「なに? クッ……。仕方ありません、予備役の再召集、武器を用意、頭を下げろっ!」


 指示を出そうとして、目を見開き目の前の参謀に蹴りを入れる。


「い、った、なにがひえっ!」


 吹き飛び、ドカンと机に当たり倒れ込む参謀が痛さに顔を顰めて抗議をしようとして、目の前を槍のような舌が通り過ぎていったことに顔を青ざめる。


「きぇぇぇい!」


 裂帛の叫びをあげて、丸目は腰に下げている日本刀を抜き放つ。ガッと鋭い一撃を振り下ろし、攻撃してきた舌を叩き切り、返す刀で何もない空間に斬りかかる。


「ギィッ」


 斬りかかった箇所から、爬虫類のような鳴き声が響き、緑色の血が噴き出してくる。そして、空間から滲み出るように虹色の皮膚を持つカメレオンが現れて、よろよろと崩れ落ちた。


「魔物っ! どうやって司令室に!」


「壁から気配を感知しました。……壁抜けができるタイプのようですね」


「し、しかし、その能力をたとえ持っていても、なぜ司令室に現れるんですか?」


「頭の良い魔物が頭にいるんでしょう。どうやってかは分かりませんが、こちらの内情も見抜かれているようですね」


 『水晶粉クリスタルパウダー』を使用して、隠れている敵を浮き彫りにすると、各所から悲鳴と驚きの声が聞こえてきた。


 このままだと、指示を出すこともできないと、丸目は次々に現れるカメレオンたちを叩き斬りながら、迷いを見せるが


「ギャー、でかいトカゲにゃー」


「なんだ、こやつらは? はっ、まさか魔物を生み出していたのは、この司令センター? とんでもない秘密情報を私は掴んでしまったのか?」


「馬鹿なこと言ってないで倒すにゃ! そこらじゅうにいるにゃん!」


「待て。これが誰の陰謀か確認する必要があるのでは、あぁ、邪魔だトカゲめっ!」


 戦闘音の中に、聞き慣れた声が聞こえてきて、ニヤリと丸目はほくそ笑む。


「どうやらもう一人の先任士官が来たようです。彼女を中心に基地内の敵を掃討しなさい。私は敵軍を迎撃します。風魔大佐なら、この程度の魔物はすぐに片付けることができるでしょう」


「はっ。了解しました!」


 兵士が敬礼をして、足早に部屋を出て行く。


 自身は指示を飛ばすことに専念することに決めて、刀を仕舞う。そうして、矢継ぎ早に指示を出していく中で、肝心なことを口にする。


「平コノハと天野防人に防衛の要請をしなさい。彼らを主として迎撃態勢を構築します。出来うるならば、あの要塞を天野防人に攻略させなさい」


 あの男ならもしかしたら、なんとかするかもしれないと思いながら、丸目大佐は忙しく司令官代行として働くのであった。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 上官不在で指揮を取るとか丸目大佐実に主人公してますなwww。 [一言] オタク知識持ちは、テンプレ展開を予想してくるから厄介ですな、でも自然派で肉塊触手ラブな敵方の妹キャラとか彼方此方の性…
[一言] おやおやおや?(予想が全然違ったなんて言えない)
[気になる点] >そこには魔物の群れが映し出されていた。先日と同様の種族のように見える。ボルケーノリザード、サラマンダー、ポイズンコンピー、アーマードトリケラトプス。だが、どことなく違う。なんというか…
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