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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
13章 繋がる世界

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250話 運命操作

 艷やかな金髪をサイドテールにちょこんとまとめた、美しい碧眼の美少女は得意げに、フッと鼻を鳴らした。


「大成功なのです。『運命変転ターニングポイントチェンジ』により、天津ヶ原コーポレーションの面倒くさい人間たちは九州地方へと向かったのです」


 天井も壁も床もその全てが鈍い金属の光沢の部屋。かなりの広さであり、壁には端末用モニタが嵌め込まれている。天井からの光により部屋は明るく、漆黒のモノリスが円を描くように床に聳え立っている。


 多数のモノリスからは赤いラインが伸びており、幾何学模様の魔法陣が描かれている。その中心に立ち、神機フォーチュンは空間の狭間から垂れている煌めく一本の黄金の糸をツンとつつく。


「見事だ。よくやったフォーチュン」


 部屋の壁に寄りかかり、腕を組みフォーチュンの様子を見ていた神機アレスは、パチパチと気のない拍手をしてフォーチュンを褒め称える。


 ギリシャ彫刻のような顔立ちの微男子アレスをちらりと見て胸を張るフォーチュン。ちなみに昔々ならモテたかもしれない顔立ちなので微男子だ。アレスに対して、そんな失礼なことを考えながら、フォーチュンは宙に浮く黄金の糸をそっと揺らしてみせると、髪をかきあげて口を開く。


「黄金の糸は既に確定された未来を映し出しているのです。天野防人とやらは確実に九州遠征に向かったのですよ」


「素晴らしい! 儀式魔法陣により補正されているとはいえ困難だったんだよね? いや〜、おっさん感動だわ。君たちの力を復活させて良かったよ」


 パチパチと拍手をしながら、オモイカネが部屋に入ってきて、ニヤニヤと厭らしそうな笑みで褒めてくる。フォーチュンは冷たい視線をオモイカネに向けて軽く頷いてみせた。


 嫌味なおっさんだと、内心で舌を出す。レベル8に戻ったは良いが、何回スキルを使ってもシルキーらしき存在に妨害されたために、危険とは知りつつも儀式魔法陣に頼ったのだ。君たちの力では足りないからねと、オモイカネのセリフには込められている。嫌味なやつなのです。


 だが、その甲斐あって敵は目的地を誤認した。北海道とは正反対の九州に向かうことにしたのだから。あそこは激戦区だと情報を得ている。天野防人もただではすまないとフォーチュンは予想していた。


「しかし儀式魔法陣を使って良かったのかのぅ? エレメントは副作用もでかいぞ。しかもこれだけの儀式魔法陣に使ったエレメントコア。余波により高レベルダンジョンが生まれる可能性はでかいのでは?」


 オモイカネの後ろから、顔を渋面にしてドワーフの神機バッカスが言ってくる。今フォーチュンを囲むモノリスは全てエレメントコアだ。その力を利用して、フォーチュンは自身のステータスを大幅に底上げしてからスキルを使った。大成功とはなったが、世界の理に多大な影響をエレメントコアは与える。エレメントコアが放つ波動は、近辺で高レベルダンジョンを発生させるだろう。


 現在取り戻した研究艦は見かけは戦艦に見えるが、中身は解体してしまっていた。使える機材を再利用してバッカスが最新の研究所へと変えたのだ。そこにダンジョンが生まれるとまずい。もうエンジンすらも取っ払ったので、この艦は飛ぶこともできず逃げられないからだ。


 しかも資材が足りないので、苦肉の策として織田家とかいう現地民にコンタクトを取り、資材その他諸々を手に入れている。やり直しは困難なのであるからして。


 バッカスの不安はわかるが、フォーチュンはオモイカネの言葉に従っただけだ。責任は目の前のおっさんにあるのですと、オモイカネに責任転嫁しておく。


 アレスもバッカスも同様にオモイカネがどう答えるか視線を向ける。皆の視線を受けて、特に気にする素振りも見せずに、オモイカネはヘラヘラと笑い手を振る。


「安心して良いよ。おっさんは元々このエレメントコアは元の世界と繋げるために使う予定だったんだ。ダンジョンが発生する際の次元の歪みをゲートクリスタルにより歪める。歪めた次元の扉は元の世界に繫げるというわけ」


「ダンジョンの発生を利用するつもりじゃったか………。フォーチュンのスキルによる支援があれば、たしかに上手くいく可能性は高い。しかし、それをすると、さらに凶悪なダンジョンが生まれる可能性があるぞ?」


 もじゃもじゃと生えている顎髭を触りながら、バッカスが考え込む。クラフトの神だけあって、副作用がどれぐらいか予測できるのだ。


「問題ないよ。元の世界と繫がれば、すぐに軍隊が来てくれる。高レベルダンジョンといえど、他の神機と合流すれば、攻略できるだろう?」


 バッカスの不安を打ち消すように、手をひらひらと振ってオモイカネは笑う。その顔をフォーチュンは観察するが、嘘は言っていない。嘘は言っていないが、博士の考える想定どおりにいくとの保証もないが。


「それにだ。ダンジョンを支配下における可能性もあるよね? フォーチュン、管理者権限を変更できるアイテムは見たかな? 道化の騎士団とやら、ピクシーたちがいるという騎士団。レイと名乗る少女は確実にピクシーだと思うんだけど」


「あのオタクぶりは、ピクシーの可能性は極めて高いのです」


 何度か天津ヶ原コーポレーションでフォーチュンはレイと名乗る少女を見たことがある。言動の中に交じるオタクネタはこちらの世界のものではない。ピクシーかナジャ、いや、戦闘力が高いことから、ピクシー一択である。


 なにしろ、天津ヶ原コーポレーションで年末に記念撮影をしていたが、レッド嫉妬マジシャンズ、セリカちゃんの振り袖を焼き尽くせとか叫んでいたので間違いないだろう。そして、セリカとやらがナジャであるとも思われる。


 なぜならば、バニラアイスの力は炎を打ち消すのさ、と打ち合わせをしておいたのか、寒空の中でバニラアイスを用意して対抗していたのだ。二人とも相変わらずの漫才っぷりを見せていた。アイスは寒いから食べられないやと言うので、スタッフの花梨が貰っていたので分けてもらった。濃厚なミルクの味わいが口に広がり、甘くて美味しかったのです。


 オタクネタで正体を看破される悲しい少女ピクシーとナジャ。本人には内緒にしておいた方が良いかもしれない。


「そうだろう? だが、おっさんが天使を介して管理者権限を使用しても、まったく反応がなかったんだ。対抗しているようには見えなかった。使用されたこと自体気づいていなかった。完全に管理者権限が奪われている。何かしらのアイテムをコアストアから手に入れたと思うんだよね」


「スキルの可能性は考えられないのか?」


 オモイカネの推測に、眉を顰めてアレスが口を挟むが、首を横に振って否定をしてくる。


「スキルにはデメリットがある。きっと人の身では耐えられない破滅的なものだ。恐らくはスキルだとしたら、その性能から予想するに、デメリットは機械的な思考と人類への敵対心を持つことだ。が、道化の騎士団を率いる平コノハも、裏の支配者であるだろう天野防人も高い戦闘力とまともな思考を持っている。恐らくはアイテムだ」


 人差し指を振って、オモイカネは研究者としての顔を見せながら、部屋内を歩き回る。研究者としては優秀な男だ。妖精機を作った博士の次に優秀と言われていることはある。それ以外が駄目な男なのだが。


「この世界。おっさんたちの世界と違うところがある。それはダンジョンに付き添うように現れたコアストアの存在だ。恐らくは救世主を求めたこの世界の人々の願いが具現化したと思われる。もはやおっさんたちの世界ではできない方法だ」


 概念を固定化されたために、元の世界では人類に有利なものは生まれない。だが、この世界は違う。固定化されていないので、何かしら人類のためのものが生まれるのではなかろうか。オモイカネの推測はなるほど、起きてもおかしくない内容だった。


 コアストアの性能は破格すぎる。なにしろ金にならないゴミであったモンスターコアを自動販売機が通貨の代わりに引き取ってくれるのだから。知ったときは驚いた。


 管理者権限へのアクセススキルが存在する場合、デメリットもなるほど、もっともな副作用に思える。ダンジョンのスキルは便利で強力なものほど、そのスキルを使い物にならなくするデメリットが存在する。もしも人類側の管理者権限にアクセスできるようなスキルなら、オモイカネの言うようなデメリットがある可能性は高い。違うデメリットでも、似たりよったりであるだろう。


「おっさんが考えるに、ダンジョンと密接な関係にあるコアストア。それを一部であるが操作できるスキル持ちが天野防人だ。彼は聞いた限り人間として強すぎる。デメリットの少ない的確なスキルをコアストアから手に入れてパワーアップしているんだよ。たぶんピクシーが手伝っている。彼女は知る限りの全ての戦闘スキルを網羅しているからね」


「たしかに貴様の言うとおりだろう。妖精機共が元の力を取り戻していると想定しても、天野防人の英雄譚ともいうべき逸話を聞くに人間であるにしては強すぎる。もっとも効率的なスキル構成をしていると考えれば納得のいく話だ」


 オモイカネの予想にアレスが同意する。フォーチュンもその話には賛成だ。バッカスは何も言わないが、無言での肯定を示しているにすぎない。


 ダンジョンコアから望んだスキルを取得する。それは不可能であるために、人類はデメリットの少ないスキルをエレメントの力でなんとか付与して神機を作り出している。元は魔物の創造と同じシステムだ。すなわち、色々なスキルを覚えるリソースはない。その代わりに極めて強大な力を持つのだが。


 最近になってスキル結晶を売るという、元の世界の科学者たちが聞いたら腰を抜かすか、嘘だと跳ね除けることを天津ヶ原コーポレーションはやってのけている。元からコアストアの一部にアクセスすることができるならば可能な話でもある。現にオモイカネは腰を抜かして驚いていた。コアストアとはそれほどのものなのだ。


「でも、天野防人が管理者権限を変更できるアイテムを常に持ち歩いている可能性もあるのですよ」


「いやいや、ないね。彼は僕の予想するに慎重で用心深い男だ。きっとシルキーの守る家に隠しているはずだ。普通ならば、それだけでアイテムは奪われない。きっと家にあるよ」


 シルキーが守る家屋は要塞と同じだ。しかも以前と同じ力を取り戻しているとなれば、1万の兵士でも陥落することは叶うまい。たしかにその可能性の方が高い。持ち歩いていたら盗まれる可能性が常にある上に盗まれても気づきにくいからだ。


「ただでさえ、手強いシルキーがいるホームタウンで戦争をするつもりはない。織田君に使い魔を潜ませていたのは渡りに船だったよ。おっさんたちが、まさか隠れている使い魔に気づかないとでも思ったのかね」


「気づいたのは私なのです」


 フォーチュンは空間把握に似た運命スキルを持っている。そのスキルはあらゆる隠蔽を無効化するのだ。アクティブスキルなので、使用しないと気づけないが、初対面の相手には必ず使っていた。そうしたら、織田信広と織田陽子の影に使い魔が潜んでいたのだ。


「監視者は自分が監視されていることには気づかないとよく言うが、天野防人もまさか自分の使い魔を反対に利用されているとは思わないだろうね」


 オモイカネは楽しそうにせせら笑いながら、自身の作戦が上手くいっていることに機嫌良さそうにする。


「『運命変転ターニングポイントチェンジ』は、精神攻撃でもない、運命の選択肢に少しだけ介入するスキルなのです。決まれば誰も気づかないフォーチュンの絶対スキルなのですよ」


 アドベンチャーゲームのキャラの次の行動をプレイヤーが選ぶように、織田信広は自身の行動を運命という名の糸で操られていた。後生大事に精神耐性の護符を握りしめていたが、これは精神攻撃ではないので、絶対に気づけない。哀れなるピエロとなっていた。


 運命の糸に従い、織田陽子が天野防人に密告しに行き、彼らは九州へと向かうことに決めた。変転された運命は記憶の齟齬を発生させて、北海道での事柄を九州地方で見たと勘違いさせて。


 使い魔にも同様に誤認させた。本人には効かなくても、使い魔にはフォーチュンのスキルは通用する。使い魔という端末から情報を得た天野防人も九州に地球連邦軍がいると誤認したわけだ。


「だけど、まだシルキーが誰なのかわからないのです。本体が誰かわからないと対応するのが難しいのですが……」


「目星はついているんだろう? それなら後は建物内で見極めれば良いんじゃないかな?」


「本命は………猫娘。次点は植物知識を持つ少女なのです。たまに見かける二人なのですよ。滅多に見ない二人なので、条件にピッタリ合うと思いますです。もう一人大穴で男に化けている可能性もあるのですよ」


 あのビルに出入りしている人間。その中で怪しいのは二人だ。攻撃スキルを持たない少女。本命は……猫娘で良いだろう。次点は植物系統のスキル持ちであろう大木君にしようと思ったが、少女には見えないので、とても残念だが諦めておく。


 二人が見つからなかった場合、大木君で良いと思うのです。仙人系統も取得していると思うので、シルキーの条件に性別を抜けば、ピッタリと合うかもしれない。合うと決まったのです。その決定に他意はない。ないったらないのですよ。


「よろしい。では管理者権限において命じ」


「待つのです。ないアイテムを探すように命じたり、いない相手を殺すように命じると、我々の行動は破綻することがあるのです。ここは私たちを自由にさせると良いのですよ」


 管理者権限にて命じようとするオモイカネに、冷静な口調でフォーチュンは淡々とした感じを作り、口を挟む。


「………ふむ。フォーチュンの言うとおりだね。この話は推測にすぎない。命令は杓子定規になるから気をつけないといけないか。わかったよ」


 オモイカネはフォーチュンへと、頷いてみせて俯き僅かに考え込むと、パチリと指を鳴らす。


「フォーチュンよ。管理者権限により命じる。天津ヶ原コーポレーションの本社にて運命のスキルにて隠されているアイテムを偶然見つけるように。隠されているアイテムの優先順位は管理者権限にアクセスするものを最優先にすること。そして邪魔をしてくるやつは殺すんだ。これならば大丈夫だろう?」


「了解なのです。天野防人たちが九州に向かい次第、強襲しますです」


「天野防人は九州でサンダルフォンが相手をする予定だから、時間稼ぎはできるはず。慎重にお願いするよ。おっさんのお願いだ」


 拡大解釈がいくらでもできそうな命令だと、内心でほくそ笑みながら、真剣な表情を作りフォーチュンは頷き、ちらりとアレスたちを見ると、微かに口元を緩めていた。


 管理者権限変更のアイテムを使うなとは言わなかったですねと、フォーチュンはその瞳を光らせる。どうやら運命変転は上手くいっているようなのです。


 オモイカネは運命の女神が自身の運命を変えることができないと思っているようだが、それは勘違いだ。そのことを後で知るだろう。

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― 新着の感想 ―
狐娘サラッと密告してて草
[一言] 管理者権限を変更する装置、自覚するだけなら聖と同期させた時のカプセルマシンが転がってるかもだけど普通に使うと自然派に覚醒するだけになりそうだしなぁ。
[一言] 微男子は草生やさせられます 草www
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