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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
12章 芽吹く世界

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234話 砦

 大昔、中世の頃の話だ。ヨーロッパでは100年戦争というものがあったらしい。そこでは城攻めもあっただろう。若い頃にテレビで見た山城。丘に建てられたリアルな山城を見て、昔の兵士は勇気があるもんだと思ったものだ。剣や槍を片手に攻めるなど正気ではない。


 高い城壁に、複雑な細い通路。防衛するのに最適な城は銃を持っていても攻め落とせないと思ったもんだ。観光をしたいと思ったけどな。結局ヨーロッパに観光などは夢物語になったんだが。海外旅行は今や世界一贅沢な旅行プランになっているしな。


「とはいえ、俺も城攻めをするんだが」


 苦笑をしつつ、石造りの壁に手を添える。ざらざらとした感触を感じながら、マナを集中させていく。


土穴トンネル


 魔法が砦の石壁に浸透し、サラサラと崩れていき穴が空いていく。人が通れるほどの大きさになったので、肩をすくめて入る。魔法って偉大だよな。


 なにかの魔法付与がされていたみたいだが、俺の魔力が上回っていたらしい。耐えきれずに崩壊した。中に入ると、ガランとしており、敵の気配はない。狭い石造りの廊下が延々と続くだけだ。


「内部は広そうなのに、敵がいないぞ?」


「内部スキャンは完璧じゃないけど、恐らくは悪魔の絶対数が足りないんだと僕は思うよ」


「あぁ、野戦を選んだってわけか。援軍が来ないならそれしかないよな」


波紋凝集暗黒槍ウェイブダークランス


 手のひらを通路の影へと向けて、暗黒の槍を放つ。暗黒の粒子を宙にばら撒き、通路の隅に命中する。


「グゥッ」


 空間から滲みだすように、頭を吹き飛ばされた貴族服を着込んだ男が現れて、よろよろとよろけて倒れ伏す。大柄な体躯の男はトカゲのような尻尾を生やしており、びたんびたんと跳ねさせたが、すぐに力尽き静かになった。

 

「空間に隠れていても、無駄だぜ」


『不意打ちボーナス、ダメージ8倍ですね、防人さん』


 俺を不意打ちしようとしていたのだろう。こっそりと隠れていたみたいだが、看破できるので恰好の的でしかなかった。雫さんがニコニコと可愛らしく笑顔で腕を振っている。


『ちなみに今のは時を操る悪魔将『アガレス』ですね。固有スキル『運命阻害』を使用していたに違いないです。見つかるという運命を阻害して自信満々に不意打ちを仕掛けようとしたのでしょう』


「………こいつ、悪魔将だったのか。あぁ、スペシャルモンスターコア、しかもAランクか? これで敵を倒した? 外の敵は終わりか?」


 眉を僅かに顰めて、倒れている悪魔を眺める。この弱いやつが悪魔将? こいつがボスだったのか?


「いや、この手のボスは前線には立たん。謁見の間で待ち構えるはずなのじゃ、主様よ」


 改造和服をひらひらとなびかせながら、雪花が言う内容は説得力がある。説得力はあるが、その先の予想が簡単にできるので、苦い顔をしてしまう。


「嫌なことを言うな。なるほど、悪魔将が前線に立つなら、後ろにいるのは悪魔王ってところか?」


『そうですね。たぶん悪魔王『サタン』。ランクはAランク。推定総合ステータスはカンストの1万。全耐性を持ち、近接戦闘も遠距離戦闘もできる万能悪魔です』


「素敵な答えだな。俺の今の総合ステータスはいくつだっけか?」


『充分なステータスですよ、たぶん』


 真面目モードの説明係な雫さんの教えてくれる内容はあまり嬉しくない。最近は楽な戦闘が続いていたから、気にすることはなかったが、5250か………装備に、ダークモード込みならソロでも戦えるか? スキルレベルは勝っているかもしれないし。


「まあ、今は仲間もいるしな。聖、来い」


 指をパチリと鳴らし魔法を発動させる。暗黒の魔法陣が宙に描かれると、その中から金糸と銀糸で見事に刺繍された白いローブを着込んだ美女が現れる。ご丁寧なことに跪いて手を合わせて祈りの聖女モードだ。


「結城聖。防人社長のお呼びにより参上致しました」


「あぁ、よろしく。それじゃ、このメンツで悪魔王退治に行くぞ」


 勇者パーティーというやつだな。少しばかり楽しくなってきたぜ。雫が寂しそうな顔をしているが、君は切り札だから。秘密兵器だから。


 雑魚戦は、前衛雪花、中衛セリカ、聖、後衛俺で行こう。久しぶりに、なんだか物凄い久しぶりに『逆境成長』も発動するかもしれん。


 Aランク相手なら、発動もするだろ。今のアガレスとやらを倒したことにより、ステータスポイントが入っているくらいだしな。


「オーケーだ。それじゃ、砦観光の時間だ。1度こういった砦を観光してみたかったんだ」


『管理者権限により、この砦にダンジョンを適用します』


「は?」


 出発の合図を出そうとした時に、空間が虹色に歪む。全員嫌な予感を覚えて警戒するが、俺達の警戒は意味がなかった。入ってきた穴は埋まり、人がぎりぎり2人並べる程度の狭い通路が広がっていく。低かった天井も高くなる。


 みるみるうちに素人が建てたような砦が、巨大で古い歴史を感じさせる古代神殿へと変貌していった。


『全機召喚』


 異変に対応するために、作戦を変更して雫を呼び出す。煌めく艷やかなセミロングの黒髪、おとなしそうな目つきと、ちょこんと小さな形の良いお鼻、桜のような色の可愛らしい唇、可愛らしい顔立ちの小柄な少女が、ふわりと影から現れて、スタッと地面に足をつける。


「天野雫見参です! ちなみに見参とか参上って、本当は使い方を間違っているらしいです」


 決め顔で余計な一言も口にするパートナー。うれしさを隠さずに俺に花咲くような笑顔を向けてくる。可愛らしいなぁ、まったく。


「皆、この砦が変化した際の声を聞いたか?」


「はい。誰かがダンジョンの管理者権限を無理矢理発動させたようですね」


「こんなのは初めてだよ、いったいなにが起こったんだろう?」


 皆は俺と同じように、この空間に変貌する時の声を聞いたらしい。と、すると幻聴ではなかったと。まずいな。


 明らかにダンジョン内だ。なぜという疑問はとりあえずおいておく。それよりも厄介なことがあるからだ。


「砦は戦力がなくて、スカスカだったはずだ。だが、ダンジョン化したことで、戦力は充分になったはず」


「防人の言うとおりだね。恐らくはポップし始めるはず」


「それどころではないぞ、主様よ。ダンジョンを脱した自我のある悪魔もこのダンジョンでは存在する。ルールに縛られない奴らじゃ」


 険しい声音のセリカと雪花。俺もそう思う。もしかして6人パーティーの限界を超えた数の敵が襲撃に来るんじゃないか? 極めてまずい状況と言えるだろう。


「……悪魔のダンジョン。この古代レリーフの模様、通路の幅は大型の悪魔も通れるように……。わかりました、防人さん」


 ぶつぶつと呟き、俯いて考え込んでいた雫が顔をあげる。その瞳は真面目であり、以前の雫を思い出す。以前と言っても、ついこの間なんだが。


「ここはAランクダンジョン。地形は古代神殿、悪魔が棲息する邪悪なる神殿というダンジョンです。階層は5層。罠多数、宝箱も多いですが、ミミックも多数います」


 その内容は少しばかり受け入れ難い内容だった。


「Aランク? さっきまではBランクの悪魔たちじゃなかったか?」


「Aランクからはダンジョン一つ一つに個性があるんです。特に古代神殿はその彫られているレリーフに特色があります。考古学者が出土した遺物の破片から年代やどんな文明かを推測できるように。このダンジョンも私の知識にあるんです」


「そうか、ありがとう」


 静かな声音で告げてくる雫の顔を見て、素直に感謝する。そうしてゆっくりと深呼吸をする。


 1回、2回。すう、はぁと、深呼吸をすると気が落ち着いてきた。


 いつかこんな日が来るんじゃないかとは思っていた。盤上を自分の都合の良いように操るようなGMが、ルールに従わないプレイヤーを許すつもりはあるまいと。最近好き勝手をしていたし、そろそろわがままなGMは怒って排除に向かってきたか?


 それでも少しはルールに従っての行動みたいだが……そこはわからない。わかるのは俺を殺しに来ているってことだ。


「ダンジョンのマップはわかるか、雫?」


「悪魔のダンジョンは凝りすぎているので簡単なんです。レリーフが特徴的と言いましたよね? これ、同じレリーフはないんです」


「なるほど?」


「なので、わかりました。最短で1時間、ですが……」


 あっさりとダンジョンのマップを教えてくれる雫。頼りになる言葉だが、最後に言い淀む。が、わかるぜ、言いたいこと。


「ダンジョンを脱出した悪魔たちは自我を持っている。そして、ダンジョンにポップする悪魔を従えることができるとするとだ。広間に集結していると言いたいんだろ?」


「そのとおりです。私たちのパーティーを数で圧倒するつもりと推測します。それが確実です。小出しに戦力を逐次投入してくれるほど優しくはないと予想します」


「ゲームを楽しむことはしないってことか。だが、好都合だ。あいつらの知らないことが2つある」


 指をパチリと鳴らす。と、俺の影からにゃんにゃんと闇猫たちがぞろぞろと姿を現す。非常事態だ、本社に残していた残りの使い魔たちも呼び戻すしかない。本社の防衛戦力がなくなるが仕方ない。


「罠を看破しつつ、敵の待ち構えていると思われる広間に行くぞ。どこで陣を張っていると思う?」


「ボスがボスの間にいるか不明です。最悪ボスを同時に2体相手にしないといけませんが、ボス以外が待ち構えているとしたら4階層の階段前広場ですね。だいたい悪魔将がいました」


 頬にスラリとした指をつけて、コテンと首を傾げて答える可愛らしいパートナー。その言葉に頷くと皆に声をかける。


「聞いたとおりだ。にゃんにゃん隊を前衛に一気に敵を押し潰す」


「恐らくは4000は待ち構えていると思うよ、防人」


 セリカが不安そうに聞いてくるが、たしかに目の前で尻尾を振ってお座りしている闇猫たちは僅かに300匹。数でも質でも劣っている。普通に考えたら負けだろう。


「セリカ、奴らの知らない致命的なことがあるんだ。あっさりと片付けてボス戦と行こうぜ」


 魔法使いは多数に対してこそ、その力を発揮する。そして、切り札を俺が持っていることを予想はしていまい。


「広間の部下を倒されてもボスたちは、消耗している俺たちを倒せば良いと思っているだろうが甘い」


 『逆境成長』があるのだ。雫はAランクダンジョンと言っていたが、たぶんボスのランクはその一つ上、Sランクではないかと予想している。逆境成長の力でステータスを底上げしたらサタンとやらはどう思うかね。


 ゲームの魔王らしく、雑魚戦で勇者パーティーを強くしてしまったと後悔するんだろうか。


 面白いことにはなるだろうよ。きっとな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この面子が揃ってから初のフルメンバーによるダンジョンアタックにワクワク♪(・Д・)男女比がきわめてハーレムっぽい絵面なのは防人のストイックさや物語のハードさを知る読者には皮肉が効いていて、…
[一言] >にゃんにゃん隊 もうこれで正式名称でいいんじゃない?w これってシz…肉塊ちゃんが足を引っ張るってこと?w そんなポンコツ肉塊ちゃんがバカかわいいw ここを攻略した後、防人しゃんたちは…
[一言] >魔法使いは多数にこそ、その力を発揮する。そして、切り札を俺が持っていることを予想はしていまい。 > >逆境成長の力でステータスを底上げしたらサタンとやらはどう思うかね。 そこでモンスター…
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