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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
12章 芽吹く世界

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226話 篩

 地面は湿地であり、ブーツが沈み込み、じわっとした感触が返ってくる。パーティーは泥をバシャバシャと跳ね上げながら、ボスであるジャイアントゾンビを半包囲した。


「マナを惜しまずに最高火力を叩きこんでやれ!」


「おう!」


「わかった!」


 丙が指示を出すと、大柄な体躯の甲がナイフを横に構えてジャイアントゾンビへと駆け出し、乙は弓を構える。


「わ、わかったよ!」


 松は魔法使いなのだろう。棍棒を杖代わりにして振りかざしマナを集中させていく。


炎矢フレイムアロー


 炎の矢が棍棒の前に揺らめきながら生み出される。


狙撃スナイプ


 それに合わせて乙も武技を使い矢を撃ち放つ。火の粉を散らし、炎の矢がジャイアントゾンビの頭へと向かう。その攻撃を意にも介さず、湿地の泥を跳ね上げながら、ドシンドシンと力強く風船のような体躯のジャイアントゾンビは進んでくる。


 だがダメージを気にしないその行動がゾンビの弱点でもある。頭に炎の矢がぶつかり、その窪んだ白目に矢が突き刺さると、視力が失われたジャイアントゾンビは足取りがふらつく。


「盲目状態は長くは続かねぇ。『再生』があるからな」


「充分よ!」


 梅は目の見えないジャイアントゾンビがむちゃくちゃに振り回す腕をかいくぐり、棍棒を胴体に叩きつける。腐った胴体が腐臭を発し、グチャグチャの粘液を飛ばして、大きく抉れる。耐久力はあっても、元が死体のために防御力はあまりないのだ。


「おらぁ!」

「ウォォ!」


 咆哮をあげながら、丙と甲もジャイアントゾンビの胴体にナイフを命中させ肉を抉っていく。抉られた肉体は血をじわりと流すだけですぐに塞がってしまう。『再生』スキルの力だ。


 火力が足りなければ、ジャイアントゾンビは延々と再生するので倒せない。そのために、実はアンデッドダンジョンは人気がなかった。ダメージは回復されて、徐々に疲労が溜まり、最後には冒険者たちが殺されてしまうのだ。


強撃ハードスラッシュ

骨砕ボーンクラッシュ


 だが、5人の冒険者たちは優秀であった。それぞれが役目を果たしジャイアントゾンビを追い詰めていく。後衛が魔法や弓にて執拗に頭を攻撃し目を潰す。その隙を狙い、前衛が頭を砕かんと力を込めて棍棒を叩きつけて、ナイフて首元を斬る。


 そうして戦闘が進み、しばらく経ち、ジャイアントゾンビは頭の半分以上を砕かれて、執拗に狙われた首元を切り裂かれて、ガクリと糸が切れたように泥の大地へと倒れ込むのであった。


「やったな! これなら白銀も夢じゃねぇ」


 リーダーである丙はヘヘッと鼻をこすり笑い、甲も乙も喜びガッツポーズをとる。その姿に松と梅は安堵したように微笑む。


「ほ、本当にたんにダンジョン攻略のお誘いだったんですね」


「良かったわ。本当は後ろから撃たれるんじゃないかと警戒していたのよ」


「へっ。たしかにそう思われるとは予想していたよ。だがなぁ、お互いに実力者だろ? 3対2で戦えば無傷とはいかねぇ。不意打ちだって、俺たちはお互いに警戒しているからできるわけがない。ハイリスクすぎる」


 丙が肩をすくめて答える。松はその言葉を聞いて、たしかにと頷く。大怪我を負う可能性も高いのに、殺しに来る可能性は低かったのだ。


 安堵して梅と顔を見合わせて、このパーティーの誘いに乗ったのは正解だったと喜ぶ。きっとこの3人から白銀に上がれることだろう。


「お、ダンジョンコアってのはこれか?」


 ボス部屋が虹色に変わっていき、巨大な水晶が現れる。妖しさと神秘さを兼ね備えているダンジョンコアを見て、一行は押し黙りその光景を見て感動する中で、空間は溶けるように消えていき、外へと移動するのであった。


「あ、ダンジョンコアにさっさと触らないとな。消えてしまうらしいぜ」


「私が触っておくわよ」


 梅がフンと鼻を鳴らして、ダンジョンコアに手を触れると粒子となって消えていき、その手にはガラスの小瓶が残っていた。梅は空に掲げて、ジロジロと眺めて微笑む。


「これ、スキルアップポーションよ。幸運だったわね」


 小瓶に描かれているマークから、スキルアップポーション、しかもレベル3へ上がる経験値10%アップポーションだ。なかなか手に入らない高価な物である。


「おぉ、やったな。俺たちはついてるぜ」

「本当だな」

「これでますます懐が暖かくなるぞ」


 甲乙丙が喜び、松も意外な結果に喜ぶ。ここまで上手く行くとは思いもよらなかったと。


「本当に幸運でした」


 片手を挙げてにこやかに言う。そして腕を振り下ろす。


「これで白銀になれますよ」


 と、同時にパァンと乾いた音が響き、丙が頭を仰け反り倒れる。


「なにっ?」

「これは……」


 タァンと連続して響くのは銃声であった。音からして遠距離からの狙撃だと慌てて甲と乙はビルの陰に隠れようとして


『蜘蛛の糸』


 梅が投げたアイテム『蜘蛛の糸』により絡め取られてしまう。剥がそうと二人はナイフで糸を斬ろうとするが、それは致命的な隙であった。連続して響く銃声と、飛来してくる銃弾を受けてその命を絶たれるのであった。


 3人が死んだのを見て、松はニヤニヤと薄汚い嗤いを見せる。


「貴方たちは優秀でした。実は貴方たちのことは冒険者ギルドの受付にこっそりと教えてもらっていたんです。白銀に近い攻略者だとね。でも困るんです、知ってました? 白銀ランクには定員があるとか。ライバルは叩いておかないと、特別試験期間は終わってしまいますからね。あぁ、貴方の伝手を使わなくても冒険者ギルドの奴を買収しているので推薦については問題ありません」


 口元を歪めて、楽しげに言う松に梅が近寄り頭を下げる。


「松永様。お疲れ様でした」


「あぁ、まったくこんな廃墟街でセコいライバル潰しとは、僕も落ちぶれたものだよ」


 このような小汚いところに自分が来るなんてと、松と名乗っていた松永は忌々しそうに口元を歪める。


 松永久秀。松永家の次期当主だった男は、されど組んでいた三好家のやったクーデターに巻き込まれて、財産を没収されて没落し廃墟街まで流れてきた。自身の家門を誇りに思い、周りを蔑んできた久秀にとっては耐え難いことであった。


 だが、久秀は軍学校を卒業した3レベルという高スキル持ちだ。ステータスも高い。その力を使えば、成り上がることができると、天津ヶ原コーポレーションの冒険者ギルドに入ったのだった。


「白銀になれば、報酬は跳ね上がる。まずはそこで資金を貯めて成り上がる準備をしよう」


「狙撃兵を呼び戻します」


「あぁ、殺した男の拳銃は回収しておけ」


 本名は梅沢という部下の女性へと頷き返す。今の久秀にとっては、部下はこの梅沢と狙撃兵の男のみだ。落ちぶれたものだと忌々しそうに顔を歪めてビルの壁に寄りかかり待機する。梅沢が銃を回収し、無線で連絡をとる。


 そうしてしばらく待つが………。


「おかしいな……。なぜ来ない? たかが500メートル程度しか離れていないだろ?」


 いつまで待っても狙撃兵が戻ってこないので、不審げに眉をひそめる。だが、同じように廃ビルの壊れた壁に座って拳銃の状態を確認していた梅沢から返事がこない。


「おい、梅沢?」


 見ると顔を俯けて静かであったので、寝ているのかと思い起こすかと近寄ろうとして、グラリと梅沢の体は傾いでドサリと地面に倒れ込んだ。


「な、なに?」


「あぁ、狙撃兵は来ないにゃんね」


 驚く久秀に、どこからか、からかうような少女の声が響いてくる。その声を耳にして、久秀は身体を翻し、慌ててビルの陰に隠れると辺りを見渡す。


「誰だ?」


 手のひらにマナを集めながら叫ぶ。気配がしないが、いつの間にか何者かに接近されたようであり、仲間は殺されたのだ。


 視界には梅沢と甲乙丙の死体だけが転がっている。が、敵の姿は見えない。


「白銀への枠は少ない。そんな戯言を信じる奴がいるにゃんてな」


 自分とは反対側にある廃ビルの陰から声が聞こえてきたので、久秀は躊躇いなく殺すことに決めた。


「チッ」


炎爆発フレイムボム


 舌打ちしながら手のひらを翳して、素早く魔法を使う。火球が声のした廃ビルの陰に向かい命中すると大爆発を起こした。本来の火球魔法は炎を撒き散らすが爆発はしない。だが、久秀の魔法はダイナマイトでも放ったように爆発し、コンクリートを破壊して勢い良く周りを燃やしていた。


 久秀の固有スキル『爆発』だ。炎魔法に爆発を付加させて強力な爆弾へと変える。ジャイアントゾンビには使用しなかった切り札でもあった。デメリットは炎魔法しか魔法系統は覚えられないところであったが、『爆発』はデメリットを補える強力なスキルだ。


「せっかく強力なスキル持ちだと期待したのに……」


炎矢フレイムアロー


 また他の場所から声が聞こえてきて、久秀は顔を険しくさせて魔法を放つ。炎の矢は爆発を起こし、壁を破壊して瓦礫を作るが手応えがない。


 そのことに焦る久秀であったが、チクリと首元に痛みを感じて飛び退る。


「これは……は、針?」


 手で押さえると、なにか細い物が首元に刺さっているのに気づき顔を顰める。


「くそっ! 誰だ? 誰なんだ?」


 焦りながら叫ぶと、廃ビルの一つからスウッと幽霊のように少女が現れる。相手は黒ずくめの姿の猫娘であった。猫化のスキルを持っているのだろう、強力なスキル持ちだ。


「白銀ランクへの事前試験だったんにゃけど……、主義、思想以前にライバルは殺すと考える奴は失格にゃんね」


「………受付の教えてくれた内容は嘘だったのか! 白銀は枠が少ないなどと嘘をついたな! しかも殺した方がランクアップ試験が楽になると唆して!」


 久秀はすぐにどのような事態になったか気づいた。買収した冒険者ギルドの受付が騙していたのだと、騙されていたのだと気づく。


「再起を図らなければならないか……」


「いや、お前終わっているにゃん。あちしの話を聞いていなかったにゃんこ?」


「いや、終わっているのは君だよ。姿を現すんじゃなかったな」


 久秀は地に手を付けてニヤリと嘲笑う。


炎地雷フレイムマイン


 猫娘の足元から火が噴き出して爆発する。その光景に冷笑を浮かべて久秀は肩をすくめる。視界内へと密かにマナを広げて魔法を仕掛けることが久秀にはできた。それこそが『爆発』スキルの能力だ。


「どちらが終わっているか……あ、ぁぁ?」


 死んだであろう猫娘へと告げてから立ち去ろうとして、よろよろとよろめき、膝をつき力を失いそのまま倒れ込むのだった。倒れた松永の胸にはいつの間にか銀色の針が刺さっていた。


「終わっているって、言ったにゃんこ。最初の『暗器』の攻撃でお前、死んだんにゃん。胸にも刺さっているの気づかなかったにゃんね」


 寒々とした少女の声が聞こえたのが最後の言葉であった。



 風魔花梨は、死んだ男を前に嘆息した。噴き出した炎の魔法には驚いた。今までの中でも強力なスキル持ちであったので、性格面で問題がなければ、白銀へとランクアップは可能だった男だったのだ。放逐した家門の男のために、要注意人物として花梨は監視するように軍から命じられた。


 わざと危険人物を押し付けたとなれば、天津ヶ原コーポレーションと内街との外交問題となるからだ。ついでに防人から試験の監視員もお願いされたので、バイト代わりに受けたのであるが……結果は散々だった。


 チラリと甲乙丙の死体を見ると、影となって消えていった。元々囮のための使い魔だったのだ。遠隔で防人が操作していたらしい。相変わらず器用な男である。


「しかし、この『影法師』の服。すんごい性能にゃんね。スキルの攻撃を完全に無効にするにゃんてな……」


 炎に包まれたのに焦げ一つない防人に貰った黒服を触ると感心しながら、死体から剥ぎ取りを始める。


「しかし白銀ランクにゃぁ……。優秀な奴こそ、ろくでもない性格なのは気のせいかにゃあ」


 まぁ、防人ならなにか考えるだろうと、花梨はフワァとあくびをすると剥ぎ取りを終えて帰ることにする。



 後には2体の男女の死体が残ったが、気にする者は誰もいなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 松永久秀と言えば爆発!でもこれでは小者過ぎますね。 僕は松永久秀にはちょっとうるさいので小一時間(略 久々にシリアスなにゃんこが見れたにゃんこ。
[一言] 妖精機達とその保護者も一般からすればろくでもない性格してるからね
[良い点] ニャンコ大活躍!!(´⊙ω⊙`)モフ愛でられ担当ではなかったのか!? それはそうとして(´ω`)なかなかハードな選別してますね天津ヶ原コーポレーション、まあクーデターの余波で名門からこぼ…
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