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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
11章 胎動する世界

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220話 強奪

 内街には飾り気もなく、刑務所のような無骨な装いのコンクリート製のビルがある。まるで要塞のような単なる四角い箱のようなビルは魔法付与が施されて、コンクリートを補強している魔法合金がさらに堅牢なる壁へと変えていた。


 多数配置されている警備員は自動小銃を装備しており、鍛えられた体躯をしている。ここまで堅牢な要塞のようなビルはなんなのかと、知らない人が見れば不思議に思い、興味を持った者は表札を探すだろう。そして、納得する。


『魔法具倉庫:関係者以外立入禁止』


 と、書かれているからだ。


 内街の最高峰の魔法具が格納されている最重要施設。この数十年で溜め込んだ魔法具の中でも、強力無比で内街が決して奪われないようにと建てた倉庫だからである。


 本来は分厚いコンクリート製の壁と、重厚な魔法合金の扉があり、多数の警備員が夜中でもいる施設は、だがしかし、今は過去形となっていた。


 警備員たちは死んでおり、10センチはある分厚い魔法合金の扉は強大な力で壊されたのか捲れ上がり、大きく開かれていた。


 真夜中のクーデター。その裏で密かに蠢く者たちがいた。





 薄暗いビルの地下室にて男はピクリと眉を動かす。偉丈夫の立派な体躯の男だ。


「……もう一度報告をしろ」


 深い低音の声音で男は報告してきた兵士へと顔を向ける。敬礼をしながら、感情の籠もらない声音で兵士はたった今受けた報告を繰り返す。


「はい。三好長慶は戦闘の中止命令を出しています。クーデター部隊に戦闘中止命令を繰り返し出しています、アレス様」


「ふむ……そうか。とするとだ、ウリエルの洗脳が解けたのだ……。残念ながら、4大天使は倒されたか。だから、止めておけと無能な司令には上奏したのだがな」


 顎に手をあてて、神機の一人アレスは呆れた声を出す。


「道化の騎士団。集めた限りでは、身元不明の集団、その強さと少女たちが多いとのことから、妖精機が混じっていることは明らか。あの戦闘狂が戦場に出ないなどと有り得ん。きっと4大天使は殺されると忠告したのだが……予想通りだ」


 そもそも創造する時に、一つのコアに4大天使を全て放りこもうという考えが間違っていたのだと、馬鹿なことを考えた愚かな司令を嘲笑する。量産機ならともかく、オンリーワンの機体なのだから、弱体化したとしか思えなかった。その予想どおりに、あっさりと殺されたのだろう。万能性を求めるなどと馬鹿げたことなのだ。


 だが内街は大混乱となり、戦闘中止命令が出ても、しばらくは騒ぎは収まらない。充分な結果だ。


『……時間稼ぎはできた。バッカス、解錠はできたか?』


 こめかみに指をあてて、思念を仲間の神機であるバッカスへと送る。


『あぁ〜ん? 今ちょうど解錠できたところじゃ。予想通り、ゲートクリスタルが保管されておったわ』


 不機嫌そうに答えてくるバッカス。バッカスは魔法具倉庫の最奥の部屋、強力な結界系魔法具で施錠されている部屋に侵入するために、結界系魔法具の解錠を行なっていたのだが、どうやら上手くいったらしい。


 さすがはクラフト系の神だと、アレスは満足げに頷く。


『良くやった。それならば、すぐに回収して脱出しろ。目ぼしい魔法具も持っていけ』


『了解だ。……だが、お前さん、どこにいるんじゃ? 本来は儂の護衛を命じられていたと思ったのだがな?』


 アレスを責める口調でバッカスが思念を送ってくるので、フッと笑って答える。


『銀行だ』


 地下室は地下室でも、内街の銀行の金庫にアレスはいた。筋骨隆々で彫刻のような立派な体格の偉丈夫であり、いかにも武人の見かけを持つアレスはほっかむりをして、せっせと袋に札束を詰め込んでいた。今のアレスを見た者は、そのせこい盗人のような姿にがっかりするのは間違いない。


『アレス。なぜ、銀行強盗をしているのです? 作戦とまったく違うのですが?』


 同じく神機であるフォーチュンの可愛らしい声が思念となって飛んでくるので、アレスは悪びれずに答えてやる。


『戦争の神たる我のやること、それはまずは軍費を調達することだ。資金が無ければ何もできぬ。そうではないか? 毎日毎日いつの物かわからない古いレーションを食べているのだ。耐えられるか? それに札束というのは魅力的だ』


 途中からうんざりしたように声を荒らげるアレス。


『最後の言葉が本音ですね? たしかにエレメントからエネルギーを吸収すれば、腹は空かないでしょ、と食事を気にしないあのおっさんの頭は解剖して中を覗きたいところです。あのおっさん、そこらを走り回るネズミを食べているんですよ? 高ステータスで病気に罹らないからと生で。信じられないのです』


 エレメントからのエネルギー補充は味気ないし、そのために気分も良くない。なので、普通に神機たちは食事をとる。量産機である機天部隊は食事など気にしないが、神機たちは食事をとるのだ。


 そもそも神などの概念は、大体宴会好きであり、酒好き、飯好きだ。アレスたちももちろんその概念を持っている。古臭い戦艦に仕舞われていた消費期限が100年であり、粘土のような見かけと、味気ない乾パンよりも酷いレーションの味に閉口していた。


 もう限界であるのだと、アレスは厳つい顔を怒りに変えながら、破った金庫から札束を袋に入れていく。


「これで袋は一杯です、アレス様」


「まだポケットが残っているだろ。襟や裾にも挟んでいくのだ」


 無感情で機械と変わらないエンジェルへと鋭い目つきで命令しながら、ぎゅうぎゅうと札束を押し込む。感情を持たないはずのエンジェルが呆れた目つきをしてくるが、軍費のためなのだ。断じて金が好きなだけではない。


「この作戦が終わったら、休暇を取り豪遊だ。そのためにも金は必要だ」


 繰り返そう。断じて金が好きなだけではない。贅沢に暮らすのも好きなのだ。


 見かけによらない世俗的な男、それがアレスであった。古代の神なので仕方ない。自分の根本を成す概念がいけないのだと、銀行強盗アレスは両手に袋を持ち、背中にも金のインゴットや札束を積んだトランクケースをいくつも担いでいた。


「よし、脱出する。命に替えてもその袋は持っていくように」


 直に戦闘は終わるだろう。せっかくそれぞれ顔を変えて創ったパワーやエンジェルたちは、無駄に倒されていったに違いない。


 いちいち大規模な作戦に全ての戦力を投入して、多くの損害を出す司令には苛立ちしか持たない。


 舌打ちをしながら、銀行を脱出することにする。足早にエンジェルたちを伴い地上へと上がる。


 エンジェルたちはおとなしくついてくる。機天部隊の量産型、戦闘スキルはレベル1でありステータスも低い。しかしながら工事や偵察、様々な雑用に使える便利でコストも安価なタイプだ。惜しむらくは感情を持つように設定がされていないことだろうか。まさにバイオロイドといった者たちだった。


 先頭に立ち、銀行内を走る。カツンカツンとリノリウムの床を走る音が響き、補助灯が仄かに光る通路を走り、顔を顰める。


「ふ、動きが早い。この世界の人間は我らがいた世界の人間よりも優秀なのか? いや、ハングリー精神があるのか」


 通路の角から兵士たちが走ってくる音が聞こえてきて、面白そうな笑みを浮かべて制止の合図を出して立ち止まる。


「止まれっ! 両手をあげて地に伏せろ! この火事場泥棒めっ!」


 自動小銃を持った兵士たちが姿を現して銃口を向けてくる。どうやら、どさくさ紛れに銀行強盗をする者がいると予想した者がいたらしい。


「陽動のために小学校に偽の爆弾を仕掛けるべきであったか。だが、問題はないな」


 フッと嗤うと、軽く足を踏み込む。


『崩壊衝脚』


 闘技により軽く踏み込まれただけのはずの床は地震でもあったかのように揺れて、敵へと向けて扇状に足元が崩壊する。


「なっ」

「なんてパワーだ!」

「クッ」


 兵士たちが床の崩壊に巻き込まれて、混乱しながら悲鳴をあげて瓦礫に埋まっていく。


「それではさようならといこう。戦う気はないのでな」


「待て、この泥棒共が!」


 瓦礫に埋もれながらも、自動小銃の引き金を引いて、アレスたちへと撃ってくる兵士もいたが、瓦礫で視界は塞がれており、あらぬ方向へと飛んでいくのみ。


「もう一撃だ」


『崩壊衝脚』


 今度は力を込めて、足を強く床に踏み込むと、ゴゴゴと建物全体が揺れて、瓦礫に埋まっていた兵士たちは地割れのようにさらに崩壊した床に呑み込まれて消えていった。


 援軍がないかとアレスは警戒をするが、倒した兵士たちだけであったようで、追加の援軍は来なかった。


 札束の入った袋を担ぎ直して、アレスたちは再び走り始めて、銀行を脱出する。駐車しておいたトラックに乗り込むと、運転席へと声をかける。


「この場での目的は達成した。すぐに脱出しろ」


「了解しました」


 運転席に座るエンジェルはコクリと頷き、トラックを発進させる。ガタゴトとトラックが揺れて進む。


「予想よりも動きが早い」


 外を眺めると、兵士たちが走り回り、銃撃音が響いているが、その音も段々小さくなっている。ビルの陰に隠れて、最後の抵抗をしている兵士たちがいたが、小さな黒猫がどこからか現れると、体当たりを敢行する。


「ふげっ」

「がふっ」

「ねこがはっ」


 黒猫の小さな体躯では、簡単に受け止められるだろうと思いきや、まるで砲弾のような速さで黒猫は突撃していき、兵士たちはボーリングのピンのように吹き飛ばされていく。


 たいした戦闘力だと、アレスは感心してその様子を眺める。レベル5はあるだろう、驚異的な使い魔だ。


「上手くここに入り込んだは良いが、ここまでだろう。ここは危険な土地だ。俺でも油断をしたら死ぬだろうよ」


 あれほどの戦闘力を持った無数の使い魔と合わせて、妖精が戦いに加われば、苦戦を強いられるのは間違いない。


 混乱している内街は門は開きっぱなしであり、あっさりと脱出できた。外街も内街の中から響いてくる戦闘音を聞いて、慌ただしい様子を見せていた。これならば、外街も問題なく脱出できるだろう。


『資金調達はできた。素材と食糧を買い込んだら関東から脱出する』


『奈落の攻略をあの男はやりたいようだぞ?』


 思念を仲間に送ると、バッカスが困った感じの思念を飛ばしてくる。たしかになと、アレスも頷く。奈落の研究ドームは、研究成果が、技術の進歩が全てだと思い込んでいるあの愚かな男にとっては喉から手が出るほどに欲しいに違いない。


『……今回手に入れた魔法具の解析を進めるように説得をしよう。フォーチュンやってくれ』


『了解なのです。ゲートが開けばいくらでも援軍が来ますからね。最善策として提言するのです』


『それで良い。それとだ、ピクシーたちを見たか?』


 フォーチュンならば問題はあるまいと満足して、それよりも気になることを尋ねる。


『情報は得たのです。今度、こっそりと偵察にいくのですよ』


『奴らがどうやって管理者権限を外したのか……その方法を知る必要がある』


 あんな無能の下にいるのは戦いの神としての矜持を持つ自分には耐えられない。なんとかしたいところだ。管理者権限が外れたことを知った無能の顔を見るのが楽しみだと、アレスはククッと含み笑いをする。


「戦の神に求められることはただ一つ。勝利のみ」


 袋の札束を取り出して、目を細める。


「勝利のためにも、資金がいくらあるか確認せねばな」


 1束、2束と豪快に札束を数えながら、やはり金は現金が良いと、手触りを楽しむアレスであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ネズミの踊り食いで病気云々よりも人間サイズで丸ごと食うには骨とか邪魔にならない?の方が気になっちゃったw 骨が喉に刺さりそうだw
[一言] 1907年チフリス銀行強盗事件でのレーニンやスターリン?
[一言] 初代コンハザから神が雑に負けるものなんだよな。 黒猫が強盗の盗品を持っていったりしないかな?
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