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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
11章 胎動する世界

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211話 回復

 天野防人こと、俺は雫さん曰く完全体になってはいないらしい。たしかにステータスを見ればさもありなん、だ。まだまだスキルレベルは低い。パワーアップイベントは、俺のスキルレベルを6に上げただけであった。ステータスも結構上がったが。

 

 等価交換ストアに貯まっている汚染されたとかいうエネルギーを俺は使えるようになった。呪縛が完全に解けて理解した。生命の意思から生まれる感情というエネルギーだ。汚染されてはいないと思うんだが、雫たちは汚染されたものだと考えていたらしい。……漆黒の粒子だからな、無理もない。というか、それを俺に吸収させていたような記憶があるが忘れることにしておく。


 アイテムやスキルなどに交換したあとにストア内部に残った漆黒のエネルギー。俺が子供の頃に繋がった純粋な力の意思とは正反対の力だ。


 等価交換ストアはしっかりとアイテムやスキルなどに交換する以外に手数料として、漆黒のエネルギーを回収して貯め込んでいたのだ。そして持ち主の俺は当然それを使うことができたのである。呪縛が完全に解けたあと、自然と化せとかいう詐欺っぽい意思を完全に排除して理解した。


 エネルギーを使う際に漆黒のオーラに覆われるので、雫曰く、ダークモードですねと興奮気味に言っていた。その効果はスキルレベルを1上げて、ステータスを1.5倍程度に上昇させる。


 気軽には使えないんだけど。等価交換ストアに貯まっているエネルギーだから、使えば減るのに、どれぐらい貯蔵されているか、等価交換ストアは教えてくれないから、使いたくないんだよ。


 まぁ、切り札が増えたと思っておこうと、俺はソファにごろりと寝っ転がった。


 雫との戦闘が終わり、次の日は身体を休めて、その次の日。俺は自宅のリビングルームのソファに寝っ転がって、床に車座に手をつないで座る妖精たちへと視線を向けた。


 雫、セリカ、雪花、幼女が手を繋いで座っている。忙しい聖は習志野シティへと帰還した。トップは忙しいうえに、地味に制限は雫同様解除されたからだ。


 今はセリカたちの制限を解除するために雫がアクセスしようとしている。一度行なったから、もう失敗はしないとか。さすがは俺のパートナーである。


「では、スーパーハイテンション妖精ゴッドになる儀式をしたいと思います!」


 ふんすふんすと鼻息荒く、心底楽しそうな輝くような笑みで宣言する雫さん。ますますアホっぽく……いや、悪戯な娘に見えるのは気のせいではないと思う。


 妖精ピクシー、気まぐれで悪戯もの。気に入った人間に取り憑いゲフンゲフン、気に入った人間のそばにいる。伝承とゲーム設定とかがごっちゃになっているが、そんな感じなのだろう。


 これが真の姿ってのが、さすがは現実だと言いたいけど。小説とかなら普通は覚醒したら冷酷になったり、頭が良くなったりするんだが、最初に出会った頃は冷静で冷酷な機械のような雫さんが、悪戯好きなアホになってしまった。現実は世知辛いよな、まったく。


 まぁ、活き活きとしている雫の姿は可愛らしいし嬉しそうだ。本来の姿を取り戻したようだから良かったよ。


 優しい目つきで、車座の4人を見守っている中で、雫は話を続けていた。


「では、皆さん。目を瞑ってください! 私がアクセスしますので」


 その言葉に全員が目を瞑る。シンと静寂がリビングルームに広がり、なにかが起こる感じがする。その中でカッと雫が目を見開いた。


「大変です! スーパーハイテンション妖精ゴッドになるには、5人の妖精が必要でした! でも、ここには4人しかいません。ここは私と防人さんが、コウノトリを召喚するまで待って、アイダッ」


「雫はきっとそう言うと思ったよ! 予想されたネタは面白くないからね!」


 アホなことを言う雫さんに、セリカが顔を真っ赤にして頭をポカリと叩いて怒鳴った。どうやら雫が言うセリフを予想していた模様。よくわかったな、俺はさっぱりわからないんだけど。それと前言撤回をしていいだろうか……。まったく。


「真面目にやるのじゃ、雫」


「やりゅの!」


「仕方ありませんね」


 渋々と座り直して目を瞑る雫。5人の妖精は必要ではなかったらしい。なんだったんだ?


 車座になった4人が目を瞑る。


「スーパーハイテンション妖精ゴッドに」


「真面目にやってよ?」


 まだボケようとした雫に阿吽の呼吸でセリカがツッコむ。さすがは親友同士だとわかる一面だ。


「レッドモード!」


 雫が叫ぶと同時に、その身体と髪の毛を纏うオーラが紅くなる。そのオーラの中で白や青、黄色などの色の粒子がキラキラと光りながら雫の体内から生み出されて、他の3人に紅いオーラと共に流れ込む。意思の力だ。漆黒の意思ではない。雫は選り分けて使えるようになったらしい。さすがは戦闘の才能持ちだ。


 が、むぅんむぅんと唸ったあとに、片目を開けて俺を見てくるので、最後の後押しが必要なのだとわかった。


 ツイッと人差し指をたてて、俺は漆黒の粒子を生み出す。


『意思を持て』


 3人へと粒子を放つ。パチリと音がして、3人の気配が変わる。


『セリカ、雪花、幸への管理者権限を全て放棄しますか?』


 レッドモードになった雫と普通に解除できた聖の時、意思を与える際に現れたログが表示される。放棄した場合でも、魂の繋がりみたいな物は残る。だが、放棄したら命令などはできなくなる。もはや一つの存在と3人はなるだろう。


『イエス』


 だが、これで3人の態度が変わればそれまでだったという話だ。俺の眷属は創造したペットのコウやミケで充分だ。今まで共に戦ってきたこいつらを縛るつもりはない。


 管理者権限が消えたことにより、3人はそれぞれ一つの存在となった。さてさてどうなるかな?


 寝っ転がっていると眠くなると思いながら3人を見ていると、セリカが目を開き一番に口を開いた。


 頬が紅膨し興奮気味に俺を見てくる。


「理解できた。本能で理解できたんだ。これで僕はようやく一つの存在となったと。完全に自由になったんだ!」


「おめでとう、セリカ」


 パチパチとおざなりに拍手をしてやる。と、体をくねらせて、もじもじし始めた。んん?


「僕は妖精だ。だから、気に入った人間……防人は人間か疑わしい存在だけど気に入った相手と一生そばそばそばに」


「セリカちゃんの蕎麦好きな性癖はスルーして、他の人はどうですか?」


 ヘタレなセリカをバッサリと斬る人斬り侍雫さん。その鋭い太刀にむぅと頬を膨らませるセリカだが、今は愛の告白の空気ではないので、雪花を見る。


「うむ……ステータスもスキルも上がったのじゃ。6になったの。それと固有スキルに『雪女』が入った。妖精固有だからデメリットはなく、氷系統の魔法の効果などが上がる……雪花ちゃんにはあまり使えないスキルじゃ。それよりもレッドモードになれそうにないぞ?」


 手をグーパーと動かして、不満そうにする雪花。それに対して、雫はふふんと悲しさを見せる胸を張る。


「レッドモードは戦闘の才能を持つ私しか使えないようですね。そうでしょう、そうだと思いました。意思から汲みだす力を持つのは私だけなんです。安売りセールみたいに、皆がスーパー化したりはしないんです」


 自慢げにする雫に、クッと雪花は悔しそうにする。あまり煽るんじゃない。すぐに使えるようになってやると、雪花は呟いているぞ。


「僕は妖精道具創造だね。マナの力により妖精の魔法具を創り出せるようだけど……あまりチートじゃなさそうだ。ポーションのような効果を持つ妖精の粉とか妖精金属程度かな? エクスカリバーはまだできそうにないな……」


 セリカも嬉しそうに自分の力を報告してくる。なるほど、面白そうなスキルじゃんね。エクスカリバー、湖の妖精ヴィヴィアンが持っている剣だったか? 妖精系統の物を創り出せるとしたら素晴らしい話だ。


「9999ダメージを出したいので、エクスカリバーを作ることができたらくださいね、セリカちゃん」


「投げるつもりの雫には絶対に渡さない」


 セリカが雫へとジト目を向けるが、エクスカリバーって投げて使わないだろ?


 軽口を叩き合い喧嘩を始めるふたりは放置して、最後のひとりだ。


 ぶかぶかローブに、すっぽりと頭をフードで覆われて顔が見えない幼女へと視線を移す。


「………緊張と心配を隠して、ソファでのんびりとしている演技をしなくても大丈夫。私たちの愛はもはや押し付けられたものではない」


 いつもと違うおとなしそうな静かな声音が幼女の口から漏れてくる。その声を聞いて雫とセリカはじゃれ合いをやめて幼女へと顔を向ける。雪花も真剣な表情となり、腕組みをして幼女を見つめる。


 俺はといえば、バレていたかと少し恥ずかしい。管理者権限を放棄した瞬間に、このおっさんめ、よくも私たちの感情を弄んだなと、年若い少女たちに怒鳴られて罵られたら精神的ダメージが少なからずあるからな。セリカたちにはそれだけ情を持っているんだ。


 誤魔化すためにソファで、寛ぐふりをしていたんだが幼女はお見通しだったと。たぶん雫も。


 人間としては当然だよなと肩をすくめつつ、フードで顔が見えない幼女を見つめる。


「………時は来た。もう天野防人の運命に他の者は介入不可能。未来は見えず不透明となった。喜ばしいこと……。たとえ滅びる未来だとしても、私は喜ぶ」


 パアッと幼女の身体が輝き始めて、白金の粒子が舞い上がり、リビングルームを埋め尽くす。


 その身体が輝きと共に変わっていく。胴体が大きくなり、手足が育ち、髪の毛がフードから漏れるように流れて伸びていく。


 酷く幻想的な光景がそこにはあった。神秘的で触れてはならぬ者が顕現しようとしていた。


 光が収まり、成長が止まった幼女がフードをはらりと脱ぐ。そこには流れるような艷やかで美しい白金の髪の毛を腰まで伸ばし、ぱっちりとして金色の瞳に、スラリとした鼻梁の、可愛らしく微笑む美少女がいた。


 穏やかそうな瞳を俺に向けて、顔にかかった美しい髪の毛を払い、ニコリと微笑みながら言葉を紡いでくる。


「………私こそが妖精女王シルキー。数多の妖精を統率する妖精の頂点に立つ者」


「嘘ですよ」

「嘘だね」

「嘘なのじゃ」


 神秘的な少女へと容赦ない3人である。シルキーはむぅぅと頬を膨らませて不機嫌な表情になったが、すぐに胸を張って立ち直った。


「むふーっ。防人しゃんは私の真の姿を見て、その美貌に驚いたと思う。隠していたけど、これが私の真の姿。名前は天野幸あまのさち。防人しゃんが惚れるのも無理はない」


「あーうん、成長したな。幸だったっけ? 改めてよろしくな幸」


「………防人しゃんは私に一目惚れ。残念だが雫もセリカも失恋」


 むふんと得意げに雫たちへと顔を向ける幸。自信満々の様子だが………。


『背が10センチぐらいしか伸びてないぞ? ちんまいのは変わらないんだが?』


『シッ! 駄目ですよ防人さん。さっちゃんの中のイメージはきっとボンキュッドカンなスタイルなんです。なぜか昔からそうでした。言わないであげてください!』


 思念を雫に送ると、ウィンクをパチリとしてくる。セリカも言うなと視線で伝えてきて、雪花は目を気まずそうにそらした。優しい奴らだな!


「………真の姿を取り戻した私が説明をする。この世界のダンジョンと私たちの目的を」


 とりあえず黙っておこう。この話を聞き終わるまでな。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ボンキュドカン え?ボンキュボンじゃないの? あ、えーと、とても安産型ですね?
[一言] 「もどしてっ!!」(魂叫)
[気になる点] このようじょ しれっと天野姓を名乗ってますが ようじょ「天野幸でしゅ」 武田信玄「防人…お前って実は…」 防人「誤解だ」 [一言] >それと固有スキルに『雪女』が入った。妖精固有だか…
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