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21話 スタンピード終結

 晴れ間が地上に光を落とし、水たまりを照らす中で、信玄のコミュニティは忙しなかった。バリケード下に倒れ伏すゴブリンや大鼠の死体を解体してコアを抜き取ると、炎の中に放り込んでいく。


 未だに戦闘は小規模に続いているが、両目を潰されたゴブリンたちに勝ち目はない。そして、大鼠たちはチゥチゥと魔物香に集まっており、動くことはない。


 戻ったおっさんこと防人はそれを見ながら手伝おうか迷う。炎の中に入れるのがゴブリンだけなんだよね。大鼠はなぜ他の場所に持っていくのかな? 俺が炎の中に放り込んであげるよ?


 やだなぁ、ますます燻製肉が嫌いになるぜ。


 のそのそとおっさんは疲れた身体を引きずるようにコミュニティへと歩いていく。マナは3しかない。倦怠感が体を襲い、もう眠りたい。雫は幽体にもならずにすやすやと別次元で寝ている。片腕を斬られて、苦痛にのたうち回るわけでもなく、平然としている雫には驚きしかないぜ。


 俺が雫と同じ立場なら……う〜ん、きっと同じ行動をとったかもしれない。ゴブリンキングは強敵だった。あの一瞬の攻防は楽勝に見えたがそうではない。雫が片腕を犠牲にしなくては勝てないと判断したのだから。


 ステータスが大幅に上がっても、雫ではコンクリートの床に踏み込みだけで穴を空けることはできない。攻撃力も瞬発力も圧倒的にゴブリンキングが上であったのだ。恐らくはレアDコアを使い、ステータスアップポーションDを使用すれば、制限されているステータスが表記されるはず。そこで判断できる。Dランクの魔物がどれほど強いかわかるだろう。


 レアDコアの交換品から、様々な情報が手に入るだろうと、到着すると、働いていた人々がこちらに気づく。


「おい、英雄様のお帰りだぞ!」

「おぉ〜、怪我一つ負っていないぞ」

「すげえ!」


 わぁっ、と歓声があがる中で、疲れた息を吐くと手を上げて適当に振る。のそのそと歩くおっさんは喜びを顔に出さないものなのだ。その方がハードボイルドだろ?


「よう、その様子ならキングを倒したらしいな?」


「あぁ、後でキングの武具を回収する。いや、回収しておいてくれ。シャーマンの杖もだ」


 槍を振るってゴブリンをなぎ倒していた信玄がニヤリと笑いながら話しかけてくる。まさに戦国武将まんまである爺さんだ。


「あぁ、使えるのか?」


「一応訓練しておく。キングの剣なんか手に入れたこともないしな。恐らくは魔法がかかっている」


 魔法武器。たしかに存在はするが使えない武器だ。使用するのにマナも魔力も、いや筋力や体力、ゲームでいえば、ステータスが人類は足りないってやつで使えないらしいが。


 それに滅多に手に入らないのにハンドガンに負ける。意味のない武器であるのだが、雫なら使えるかもな。持ち運びに問題はあるが。


「たいしたもんだ。お前は人間をやめちまってるぜ?」


「銃弾を喰らっても生き残れるようになったら、そうかもな」


「がっはっはっ! ちげえねぇ。よし、祝いの宴を開くか?」


 バンバンと肩を叩いてくる信玄に痛えだろと、突き放す。宴ねぇ。少し考えて頷く。


「良いだろう。それじゃ明日な? 今はマナが枯渇している。無用心に外を出歩きたくない」


「そうか。こちらも死者が出ているし、後片付けをする必要がある。それじゃ明日だな」


 アーチャーにやられたのか、運ばれている死体を見て、肩をすくめる。運が悪い者がいたようだ。


 よくある俺がもう少し早く到着していればとか、昔の映画とかで苦しむ主人公のように思えない。考えられない。淡々とその様子を見る俺は冷たい奴なのかなぁと思うが、信玄たちも平然としている。見た目は。


 良くも悪くも隣り合うようにある死に慣れすぎているのが廃墟街の面々である。


 悲しむ者は知り合いか、身内関係なのだろう。気の毒に思うが仕方ない。


 それじゃあなと、忙しなく働く面々を尻目に、おっさんは帰宅の途につくのであった。手伝う? それは報酬外だな。


 マナもないしなと、さっさと帰るおっさんであった。今の俺は力が無い。マナのない魔法使いは陸に打ち上げられた鮫みたいなもんだからな。


 それに……。レベル3の力を使いこなす練習も必要だろう。




 次の日である。居酒屋風林火山にて、宴は開かれていた。珍しく酒瓶が並び、大量の料理が置かれている。


「それではスタンピードの勝利を祝って、貴様ら今日は食べて飲んでくれ! カンパーイっ」


 信玄がグラスを掲げて叫ぶと、居酒屋にいる人々はグラスを掲げてカンパーイとカチンカチンと合わせてグイッと飲み始める。


「乾杯……」


 防人は信玄とおなじく上座に座ってグラスを掲げて、もう片方の手で燻製肉の乗っている皿を押しやる。俺はこれいらんから。


「まさかあれだけの魔物たちをものの数分で片付けるとは驚きだぜ。強い強いとは思っていたが、あんなに強かったとは思っていなかった。いや、恐れ入ったぜ防人」


「雨が降っていなかったらやばかったかもな」


 ウェイトレスがうふんとウィンクしてボウルを持ってくるので、ジト目になりながら氷を作ってやる。


 ありがとうねと、頬にチュッとキスして離れていくウェイトレスへと適当に手を振りながら信玄に向き直る。


 雫が寝ていてよかった。完全回復まで死んだように起きないようで、すやすやと寝息しか頭には聞こえてこない。


「雨もまた幸運だったか。儂たちは敵を視認できなくて困ってたんだがな」


 苦笑しながら、信玄がウイスキーを呷る。たしかに通常ならそうだろう。だが、得意な属性の地形で戦う魔法使いはレベル以上の力を発揮するもんだ。影魔法なら暗闇が得意だ。影に境界がなくなるからな。魔力の許す限りの効果範囲とはなるが。


「まぁ、これで信玄のコミュニティもしばらくは大丈夫だろう。ゴブリンをあれだけ倒したんだ。一番近いダンジョン周りにはもはや敵はいないはず」


「だろうな。まぁ、しばらくは、だろうが。またダンジョンから溢れ出てくるだろうからな」


 ふむ、とグラスからウイスキーを呷る。苦いアルコールの味が口の中に広がっていく。


「いや、これはチャンスだ。ゴブリンのダンジョンを攻略してみたいと思う」


「あぁん? ゴブリンのダンジョンをか? なるほど、キングを倒せたならいけるかもしれねぇな?」


 ゴブリンのダンジョン。待ち受けるキングは銃持ちなら楽勝だが、ダンジョン自体かなり多い。低レベルのダンジョンは高レベルの敵が現れるダンジョンよりも遥かに多く、ポコポコ湧く。


 そして脅威度は高レベルのダンジョンの魔物よりも遥かに低い。内街の連中にとっては。ただ、攻略に弾薬を大量に使用するだけだ。そして、内街の軍にとっては一番困るのが、弾薬を消耗することなのだ。


 なので放置されており、廃墟街の人々にとって脅威となっている。今までは、ゴブリンキングが倒せないので奥に行くことはできなかったが……キングを倒せればダンジョンコアが手に入る。これはチャンスだ。既にダンジョン周りにはゴブリンはいない。マナの消耗を抑えることができる。


「攻略しても、なにもねぇって噂だぞ? 宝箱はあるかもしれないが、1、2個でこれまでの噂からゴミのような物しか手に入らないだろうしな」


「一回は試してみたい。ダンジョンコアに何か意味があるのか。それに、自分の新たな力を試す良い機会だ」


 俺の力はどれぐらいになったか、検証するにはちょうど良い。それにダンジョン攻略なんてワクワクするぜ。


「レベル3ねぇ………。どれぐらいの力があるんだ?」


「そうだな。2と違うところは攻撃力がかなり増大した。この攻撃力ならば、ゴブリン程度ならば相手にならない」


「ふぅん。それならば良い機会だな? 今回の報酬だ」


 バサリと紙束をテーブルに置いてくる信玄。なんぞこれ?


「土地の権利書かなにかか? あ〜……。んん? 履歴書?」


 なんだこりゃと見てみると、履歴書だった。懐かしの履歴書だ。十年以上見ていないぞ? 数十枚はあるけど、これなんだ?


「揃えることができたのはそれだけなんで勘弁してくれ」


「どういうことだ?」


「儂たちを天津ヶ原コーポレーションに採用してくれってことだ。このコミュニティ全部をな」


 ……はあ? 今、このお爺さん、なんて言ったのかな? 俺の聞き間違い?


「信玄、ついにボケたか? なんだ、3年間ボケたことを秘匿すればよいか?」


「上手い切り返しをどうも、防人。儂はまだボケてねぇよっ」


 バンとテーブルを叩くと信玄は真剣な面持ちに変える。


「お前がゴブリンの大群をひとふりで倒した時、廃墟街での守役ってのはこういうやつなんだろうなって、思ったんだ。儂だけではなく、ここの奴ら全員でな」


「はぁ………?」


「それで思ったんだ。ここから先生き残るには誰についていけば良いか。きっと皆はそう考えた、あの戦いでな。というわけで履歴書を書いたんだ。儂たちは使えるぞ? とりあえずお前がダンジョンに潜っている間に女子供を守るぐらいはな?」


 周囲で騒いでいた連中も、気づけば注視していた。はぁ、そうなの。


 これは予想外だが……。畑もあり人手もある。ストアのラインナップを増やすつもりだが、ちょうど良いだろう。


 想定外ではあるが、困りはしない。信玄のコミュニティは人数1000人程度。会社として、市場として、考える。会社は良い。上手く人を使えば養うことは可能だ。それよりも廃墟街に市場を作れば……きっと周りは驚くぞ。


 武田信玄があっさりと膝をつく。戦略シミュレーションゲームならあり得ないけど。信玄の『騎馬隊』のスキルも有用だ。


「良いだろう。え〜武田信玄? きみきみ、写真が添付されていないようだが? 面接を甘く見ているのではないかね?」


 コホンと咳払いをして、注意をしてやる。俺って優しい面接官だからな。


「ふざけんな、写真なんぞ今の世で手に入るかっ!」


「採用はおって連絡をします。ところで祈りという漢字を知っているかね?」


 コホンと咳払いをして、ニヤリと笑ってやる。


「お前、喧嘩を売ってやがるな?」


 拳を繰り出してくる信玄を受け流しながら、さて、これからどうしようかと防人は考える。


 まずは……そうだな、大鼠の狩り方から教えるか。




「あの、お館? 俺も飯を食いたいんですが」


 大木君が縄でぐるぐる巻きにされて倒れていたが、無茶をした罰なので皆は放置した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 燻製肉、おいしいよね(白目)
[一言] 毎回先が気になりますね~、面白いです! 防人さんの性格もですが、雫がアホ成分補充しつつ謎めいてるのも良い感じですし。 仲間とテリトリーが増えてどうなるのか、本当に続きが気になります( ´▽`…
[気になる点]  注意、ですよ? >上手く人を使えば養えることは可能だ。  “養える”だけで、“養うことは可能だ”の意味になりますので、使うならどちらかで十分です。
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