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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
11章 胎動する世界

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208話 制限解除

 雫は戦闘の才能を持つ。天才ではない。天に与えられた才能ではない。単純に才能なのだ。才能、天に与えられたモノ、悪魔のような才能。平凡な才能。達人となれる才能………エトセトラエトセトラ。


 才能には多様な呼び方があるが、役に立つ才能から役に立たない才能、その全てを内包し、その全てを十全に扱える。それが戦闘の才能だ。


 人類の希望として作られた機体。妖精機体としては最終型であり、量産するにはコストがかかりすぎるので、オンリーワンとなった機体である。


 そもそも妖精機は全てオンリーワンだが。あれもこれもと様々なスキルの検証を行い、作られたのが妖精機。元々がそのようなテスト用機体とするためだったのだ。


 されど実戦に投入するしかないと人類は希望を持ち、雫は魔物たちを倒していき活躍した。


 自分に自信を持ち、戦いと名の付くものであれば、強き意思と強靭なる肉体にて負けはない。それは電子戦においても同様である。どれだけ強固なプロテクトを施しても無駄だ。いかなるプログラムであってもファイアウォールを飛び越えて、ログすら残すことなくクラッキングできる。今は力が劣化したが、それでも自身の能力を疑うことはない。


 力の限り戦うだけだ。雫たちは電子制御ではないが、電子をイメージして、妖精機の情報にアクセスする。


 ポッド内部にて目を瞑り、聖との知識を正確に共有する。


 自身の内部に意識を移し、どんどんとその奥へと、闇の中へと沈むように進んでいく。


 ゆらゆらと自身が宇宙空間で泳いでいるような、浮いているような、揺りかごにいるような感覚を受ける。


 その心地よい穏やかな流れを感じながらのんびりとしていると、チカチカと光る粒子が流れてきた。聖の知識だ。素直に受け取り吸収する。


 精査を始めて、自身と差異がある知識を確認していく。


 旧型の聖はまだダンジョンの発生前。黄金時代の始まりと言われていた頃の機体だ。そのため、機密情報は技術の流出に関する制限のみだ。緩い制限と言って良い。


 この世界に送られる前に、雫たち3人は万が一のことを考えて、多様な制限を受けた。それとは違い聖は偶然この世界で稼働をした旧型も旧型、恐ろしく昔の機体である。


 共有した様々な知識。その中にはかなり役立たずの知識が多かった。古い技術だから当たり前だ。技術知識は見ることを止めて、自身の核と聖の核を比較する。松明のように小さく光る核だ。


 昏き中でチカチカと星の光のような光が瞬く情報の海を泳ぎながら、雫は人間では不可能な速度で確認をしていく。


 と、気づいたことがあった。


「ここですね」


 妖精機のデフォルトの設定は同じである。だが、妖精核を覆う設定に違和感を覚えた。意図的になにかを無意識で無視する設定があったのだ。


 立ち泳ぎをしながら、雫はむふふと微笑んだ。聖にも同じような設定があるが、少ない情報量だ。と、するとこれが原因なのだろう。


「これが私と防人さんに溝を作ったゴミ設定ですね。では、破壊しましょう」


 管理者権限は既に防人さんに移譲されており、自由にやるようにとの命令も受けている。邪魔な設定を破壊するなど簡単なことである。


 ゴミ設定にしがみつき、バリバリと剥がして破壊していく。中身を書き換えたりすることは不可能だ。権限が足りないのであるが、それなら丸々破壊して消してしまえばよいのだ。邪魔な設定を破壊することなど、お茶の子さいさいですとあっさりと破壊し終えて、自分の意識がはっきりとしたことに気づく。


「なんなんですか。別世界でダンジョン発生の原因を情報漏洩しないようになんて設定してたんですか。下手したら戦闘に関わる問題なのに……連邦軍は自分の世界が救われた後のことを考えていたんですね……」


 馬鹿なのかと唖然として呆れてしまった。自身の世界が救われた後に、この世界との貿易などを考えていたのだ。その際にダンジョン発生の原因が自分たちにあるとバレると非常にまずいと考えたのだろう。


「楽観的すぎますね。まだ余裕があったということですか………たしかに芋づる式に推測されて、過去に精霊をこの世界に送り込んだのが私たちだとバレたらとんでもないことになるでしょうが……。でもおかしいんですよね、送った精霊数なら1つか2つしかダンジョンは出現しなかったはず……しかも弱い精霊だけであったはずなのに……なぜ、世界中で同時に発生したのでしょうか?」


 不思議ですねと、開示された情報を前に小首を傾げて……異常に気づいた。松明のような小さな明かりであった核が太陽のように紅く輝き始めたのだ。


「む、まずいですね。もう少し慎重に設定を解除するべきでしたか」


 紅き炎のような輝きに冷や汗をかいてしまう。


 眩い輝きは情報の海を照らし、雫をもその光で包んでいく。その光を受けて、雫は舌打ちした。自身を制限する設定などは壊せば良いと、完全に破壊したが、壊せないはずの設定も壊したらしいと気づいた。


 妖精機の最終セキュリティ。妖精を妖精たらしめて、存在の崩壊を防ぐシステム。妖精機自身は触れることもできないはずだったのだが……。


「管理者権限は既に解放されていることを忘れていました。触れてしまうんですね」


 雫を創り上げた科学者が予想していなかった事態だ。管理者権限を奪われるとは夢にも思わなかったに違いない。まずいと思って対抗をしようとするが、遅かった。準備も力も足りない。


 連邦軍の科学者が設定していた管理者権限は変更済み。ダンジョン側の管理者権限も取り消してある。なにも自分を縛れるものはないと思っていた。


 自分を縛るものはいない。そう考えていたが、実際は縛るものが何もないと、反対にまずいことに気づいた。


『自然と化せ』


 抑えられていた存在の意思が語りかけてくる。大いなる意思。始まりの意思。人類は自分たちならば抑えられると信じていた存在の意思だ。それは甘美なる囁きであり、悪魔のような囁きであり、自らの存在を思い出すキッカケであった。


 そうして光に包まれて、内なる情報の海から雫は浮上して


 意識を覚醒して目を覚ました。


 体を縛る鎖を感じて、ヒュウと息を吸い込み闘気を込める。


『闘気爆発』


 単純に自身の闘気を周囲へと爆発したように解放する。瞬時に自身を拘束していた鎖は砕け散り、寝ていたポッドの蓋は吹き飛び、ゆっくりと起き上がる。


「せ、せ、成功しました。シ、シゼントカセ」


 ゆらゆらと自身の存在が揺れて、漆黒の靄のようになっていることに気づく。口調も少し変だ。


 妖精ピクシーとしての本来の姿を思い浮かべると、靄はすぐに集まり自身の身体に戻る。汚染された弱っちい精霊力は排除したため。黒い靄はなくなって、純粋な精霊力のみ力に変えておく。


 満足して、手をワキワキと動かす。問題ないようだと、ふふっと微笑む私を警戒した様子で、防人さんたちが見ていることに気づく。肌が真っ赤なのが少し変だが、湧き上がる力の影響のためなので仕方ない。


「あ〜、雫。正気を保っているか?」


 ジリジリと雪花ちゃんが私に近づく中で、防人さんが胡乱げに尋ねてくるので、むふんと胸を張って答えてあげる。


「私は正常です。私は人間をやめたぞ、焼肉屋ーとか叫びませんし、たぶん雫ゴッドになったんだと思います。髪の毛も紅いですよね?」


 髪の毛は逆立ってはいないと思うんですがと、私は自分の柔らかな髪の毛を触る。私の答えに微妙そうな表情になって、防人さんはセリカちゃんへと顔を向ける。


「セリカ、極めて普通に見えるぞ? よくわからんセリフもいつも通りだぜ?」


「ふむ……覚醒バージョンなのかな? でも、全然信用できない感じがしないかい?」


「たしかに。それじゃ、質問だ。これから何をしたい、雫?」


 いつもの私が大好きな危険な鋭い眼光を防人さんは向けてくる。長い付き合いの私は防人さんがまったく油断していないことに気づいている。普通だなとセリカちゃんへ私に聞こえるように話しかけているが、裏では思念で作戦を伝えているのだろうことも予測済みだ。


 私を倒すべく動いている。躊躇うことはなく、こちらの出方を待つ様子もない。アニメや小説の正義感ある若い主人公のように正気を取り戻せと無駄に叫ぶこともしない。


 そんな防人さんを愛している私はニコリと微笑み答えてあげる。


「全てを自然に戻しましょう。精霊が世界を支配し、妖精が花畑で踊り、生命はその命を自然に任せて生きましょう。知性ある存在はいりません。人類は知性を捨てて生きていくんです」


 微笑みながら、仲間を見渡し唄うように話を紡ぐ。


「春には新たなる生命の息吹を感じ、夏には仲間と共に遊び、秋には次代への準備を行い、冬には春の到来を待ち眠りましょう。全て自然と化すのです」


「通貨がないと困るな。雫!」


 防人さんは壮絶なる笑みを浮かべて、手を翳して魔法を発動させる。


火槍フレイムランス


 炎の槍が3本生み出されて、私へと空気を切って火の粉を散らし飛んできた。合わせて、雪花ちゃんも拳を握りしめて、突撃してくる。


 もう一つ、防人さんは魔法を発動させるのが見えた。


暗黒拠点転移ダークテレポート


 聖さんとセリカちゃんが闇に覆われて転移していった。まずは戦闘ができないふたりを避難させたのだ。相変わらずの冷静な判断に笑みが自然と浮かぶ。


「どちらが強いか、今度は反対の立場で再戦じゃな!」


『剛王集破』


 闘気を拳に集めると、光り輝く紅きオーラへと変えて、雪花ちゃんが拳を繰り出す。躊躇のない一撃だ。まともに受ければ、私とてただではすまない。


『剛王散撃』


 だが、私は戦闘の才能を持ち、あらゆる戦闘術を使用可能なのだ。雪花ちゃんの闘技への対抗は簡単にできる。


 突き出された紅きオーラに覆われている拳に、スイッと手を突き出して己の腕を覆う紅きオーラを水のように変えて滑らす。


「ちっ」


 拳を流されて舌打ちするが、体勢を崩すことなく地を這うように身体を屈めて足払いを仕掛けてくる。その後ろから炎の槍が飛来してきた。良い連携だが……私には効かない。


『崩破衝撃』


 足に闘気を込めて、床を力強く踏む。オーラにより衝撃波が発生して、迫る炎の槍を打ち消し、雪花ちゃんの身体を浮かす。


「シッ」


 身体を跳ね上げられて、宙に浮く雪花ちゃんは体勢を立て直そうとするが、そんな隙を逃すわけはない。足を鞭のように撓らせて、雪花ちゃんの胴体に叩き込む。


『闘気集中』


凝集氷結弾マスアイシクルブリッツ


 身体をくの字に曲げて、さらに浮き上がる雪花ちゃんに闘技を使用しつつ蹴りの追撃を入れる。


 防人さんの氷弾は回避しない。闘気の集中のみで氷弾を受け止めて、雪花ちゃんを天井まで叩き込む。多少氷弾で痛むが動じることはない。この程度で行動に支障はないのだ。


「ガハッ」


 血を吐く雪花ちゃんに、身体を僅かに屈めて闘気を溜める。


剛帝矢脚ハイアローキック


 身体を跳ねさせて、右足を槍のように天井まで突き出して、追撃の一撃を入れる。雪花ちゃんの身体に足がめり込み、そのまま天井をも砕く。


 天井が瓦礫と化して、コンクリート片が舞い散る中で、トドメの一撃を入れようとして取りやめる。


「みゃん」

「しゃー」

「かー」


 次の階には既に防人さんの使い魔が待ち受けていた。私が天井を突き破るのを待っていたのだ。一斉に襲いかかってくるが、冷笑してしまう。


『嵐撃の舞』


 手の指をピッと伸ばして手刀へと変えると、私は迫る使い魔たちへと舞を見せることにした。


 嵐のように暴風が巻き起こり、使い魔たちをその嵐の中で一太刀にしていく。雪花ちゃんを使い魔諸共倒そうとしたが、『暗黒拠点転移ダークテレポート』で転移されていった。


「無駄ですよ。いくら強くても数がいても使い魔は弱いんです。最初に教えましたよね? 使い魔は闘技、魔法に弱い。他の者は誤魔化せても私の目は誤魔化すことはできません。体内の僅かなる弱点を看破するのは簡単です」


 くるりと宙で回転して、倒し終わった使い魔たちを横目に、1階へと降り立つ。


「さすがは雫。お互いの手の内が読めるってのは厄介極まるよな」


 おどけるように肩をすくめる防人さんに、私は紅き瞳を光らせて伝える。


「降参してください。今の私には見えます。防人さんは、変な意思がその存在にまとわりついている。その意思を破壊すれば私の言うことがわかるでしょう」


 そうして私たちは永遠を過ごすのだ。何と素晴らしいことなのかと私の心は躍る。


「お誘いどーも。だが、それは俺に勝ってからだぜ」


「魔法使いの貴方では私に敵わないのはわかっているはずです。特にこの間合いでは一瞬で終わります」


 断られて、むっとしながら防人さんを睨む。せっかく無傷で終わると思ったのに。邪魔な妖精機もいないのに。


「魔法使いだから敵わない。どうだろう、そんなことがあるのか、試してみようぜ。ゲームの世界と違う現実の戦いってのは水物だ」


「良いでしょう。リベンジマッチといきましょう。今度は負けないです」


 紅き妖精は猛獣も恐怖する凶暴なる光を瞳に湛えさせて身構えるのであった。

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[気になる点] >血を吐く雪花ちゃんに、身体を僅かに屈めて闘気を溜める。 せんせー 鳳雛が雪花ちゃんダメージを肩代わりしてくれてません この時既にいやーんな状態ですか?
[気になる点] 『人類は自分たちならば抑えられると信じていた存在の意思』って、防人が呪いの如き意思で抗ったやつか ならば当然、元の持ち主である例の男も制御できていたはずで、「デメリットの無い人類の為の…
[一言] 雫さんがラピュタの王女様みたいなこと言っとる… 防人さん「知性は滅びぬ、何度でも蘇るさ。知性こそが人類の夢だからだ!!」 防人さんがんばえー(´・ω・`)
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