191話 戦利品
俺は聖女な聖の後について、またもやコンクリート打ちっぱなしの殺風景なビルに案内された。ここの住民って、本当に内装とか拘らないよな。何が楽しくてトップにいるんだろうか。
扇風機が懸命に首を振りながら温風を部屋に吹いている。夏の暑さはクーラーが欲しいよな。ソファやテーブルは高価そうではあるが。
俺は少佐なのに、なぜかソファの真ん中に座り、対面に座る聖と相対している。隣に風香だ。他には座る人はいない。非公式の会談だからだ。壁際に丸目大佐と狐のぬいぐるみを頭に乗せた猫娘が立って警護についている。聖側も2名警護に立っていた。この暑さの中で汗一つかいていないのは感心するぜ。
「あちーにゃー」
猫は人に数えないから。小声で言っても聞こえているぞ。
「今回のダンジョン発生に伴う我が街の混乱。よくぞ、ダンジョンを攻略してくれました。ありがとうございます、撤退をしていたら、この街は滅亡していたでしょう。これも道化の騎士団のお陰です」
再度のお礼に、俺は平静な表情で風香へと顔を向ける。
「その功績は源風香様の采配によるものです。お礼は源風香様に」
考えた結果、源家に手柄を譲ることにした。少しばかり、源家に貸し付けをしておこうと思ったのだ。内街との取引はこれからも重要だからな。
風香は打ち合わせもなく、突然ふられたにもかかわらず、コクリと頷き口を開く。
「習志野シティも日本の一部。支援をするのは当たり前です」
「ありがとうございます。共闘して頂き、大変に助かりました」
ふたりはにこやかな笑みで顔を見合わせるが、火花が散っている。闇猫で確認していたから知ってはいるが特区の話だろう。
支援をいらないとたしか言っていたよな、それを支援と言われては困るというところだろう。支援を受けたことにより日本の保護にあるということになり、特区の話が流れたら困るというわけだ。かなり無理矢理な要望だったから、特区の話は風香には無理だと思ったが、しっかりと風香はこのチャンスを逃さなかったのだ。
それに対して、聖はあくまでも共闘であり、支援を受けたわけじゃないぞと答えたというわけ。
だが、支援を受けなければ、結構まずいと思うんだが。兵器類が軒並み破壊されたからな。
どうするんだろ。いや、答えは一つしかないか。
「共闘のお礼は後ほど。利休様、現在、習志野シティは混乱のさなかにあり、聖獣様のお陰で辛うじて魔物を迎撃しているのです。聖獣様をこのままお借りすることは可能でしょうか?」
風香へ向けていた視線を俺へと切り替えて、お淑やかな微笑みを向けてくる聖。
風香の相手はしても無駄だと考えたに違いない。やけに胸元を強調しながら。胸元に汗粒が垂れてエロい。
『魅了スキルをレジストしました。デスを使用可能です。デスを使用して聖を殺しますか? ハイかイエスを口にしてください』
『ログの声みたいなふりをしてくれないかな、雫さんや?』
『魅了スキルもちは殺される。そして寝盗りも殺される。それは寝盗り勇者の最後を見ても当たり前ですよね』
『どこらへんが当たり前かわからないが、寝盗りが危険なのはわかるぜ』
無感情に俺へと淡々と伝えてくる雫さん。新たなる技を手に入れた模様。無感情に見えて、目は嫉妬の炎がメラメラと燃えています。あと寝盗りは良くないと思います。この荒れ果てた世界だと殺されるかもしれないじゃんね。
風香がにこやかに、丹羽長秀は内街の軍人なので、私を通してくださいと口を挟む。あらあらと頬に手を添えて、聖が丹羽長秀さんではなく、土野利休さんと話をしたいのですと言う。
俺の名前まで知っているのはおかしいが、早くも結城家と伝手を作った狐がいたら可能だよな。動きが予想よりも早いな。それだけ狐娘は有能だと。
再び火花が散る中で、気になることを雫に尋ねる。
『雫、ニンフってどんな妖精なんだ?』
『………ニンフは木の妖精機です。私の知識では初期型で、まだまだ手探りの時代に製造されました。製造された際の目的は人間の支援ですね』
『支援とは優しい言い方だな。世界樹の研究の手伝いをしていたのか?』
尋ねる風を装うが、断定だ。馬鹿でも関連性があることに気づくだろ。
『たしかに世界樹を育てることを目的に製造されました。ダンジョン化したのは想定外であったと予想します』
『そうだろうな。春の花などは俺が作ったから、それを肥料にしての結果は想定外だったんだろう』
真面目な表情で答える雫さんに同意したいが……。少しばかり気になることがある。
『だが、ニンフはどうやって結城家の人間と入れ替わったんだ?妖精機だろ?』
そういやセリカもそうだったな。人間としてこの世界にいた。他の世界か、未来から来たかはわからないが、おかしくね?
『……ニンフが、魔物か人間かは不明です。恐らくは人間だと思いますが……ニンフって擬態スキル持ちなんですよね』
『記憶を持って擬態できるわけじゃないだろ? 人間だとしたら、どうやって体を乗っ取った?』
目を細めて少しだけキツめに尋ねる。目の前では風香と聖が言い合っている。お互いに譲る気はないらしい。
『それは禁則事項です』
テヘッと笑顔で人差し指を口元に当てて答えてくれる優しい雫さん。教えてくれないらしい。体を乗っ取っているとしたら、危険だよなぁ。なにかしら条件があるのか?
管理者権限を使っても開示されない情報なのだろう。とりあえず諦めておくか。魔物の場合、面倒くさいことになるんだが………。
「コウ様は街の守護者です。既に聖獣として街では騒がれて敬われています。この街にしばらくは居ていただくことは必須なのです」
「聖獣とは、どこかの聖女様が話を広げているからでは? コウの配備に関しては、内街でも検討したいので、ここでの話はここまでです」
「そう言って撤退されては困るのです。市民たちにはわかりやすい守護者の姿に頼りに思う者も大勢います」
どちらも譲る気はなさそうだ。う〜ん……コウの力を見せつけすぎたか。
話は終わらなそうだし、雫さんはプロテクトが掛かっており、教えてくれない。仕方ないから、今回の成果をこっそりと確認、と。
思念のみでステータスボードを開き、『逆境成長』の成果を確認する。トレントを大量に倒して、シロアリも倒したことにより、ステータスポイントは800も増えていた。アリキングを倒した際のポイントも今回は手に入った模様。
『よし、これならばBランクカンスト目前だな』
『そうですね。やはり逆境成長はチートスキルです』
うんうんと喜ぶ雫に頷いて、ステータスの割り振りをする。雪花たちへも思念を送り上げておくように連絡をしておく。
天野防人
マナ1000
体力150→300
筋力150→300
器用200→400
魔力1200→1500
天野雫
マナ400
体力500→600
筋力500→600
器用1100→1500
魔力200→400
天野雪花
マナ300→500
体力700→800
筋力700→800
器用700→900
魔力300→500
今回、全員平均的にステータスを上げた。セリカはヒ・ミ・ツと思念が返ってきたが、どうせマナと器用、魔力を上げたんだろう。コウたちも平均的に上げた模様。
これでスキルレベルが上がれば良いんだが、そう上手くはいかないらしい。まだ体が熱くなる感覚がないし。現実は世知辛いよな。そう都合良くはいかないらしい。
さて、次はというと……闇猫たちがこっそりと集めた汚染されたエレメントコアだ。きっと、倉庫に仕舞ってあったエレメントコアが無くなっていると大騒ぎになっているだろうが、逃げた戦艦が盗んでいったと思います。
いつ終わるかわからない話し合いを放置して、既に仕舞ってあった、エレメントコアを閲覧する。浄化中だったんだよな。
『汚染されたエレメントコアDを浄化中……』
『汚染されたエレメントコアDを浄化中……』
『汚染されたエレメントコアDを浄化中……』
『浄化完了しました。エレメントコアEを2463個手に入れました』
おぉ、と軽く驚く。かなりの数が手に入った。Eランクだけど。精霊石に変換。そして、使用可能なものを閲覧したが、表示されたのは前回の精霊石と同じだった。効果が違うだけなのだろう。地形変更……ふむ。
では、本命といきますか。アリキングのレアモンスターコアBとエンシェントトレントのレアモンスターコアAにダンジョンコアAだ。遂に高位コアの交換ができるぜ。
『胸がドキドキしますね、防人さん』
『あぁ、楽しみだ。というわけでおすすめある?』
『お任せください。一覧を見ますね』
とりあえず雫さんに尋ねてみる。頼りにされて嬉しい雫さんは美しい舞を見せながら器用に一覧を見ていく。かなりの数があるのだが、見ているのか不安を覚えるほど素早くスクロールしながら見ていく。
だが、一覧を見て目を細めて顔を険しくさせて考え込み、その後に決めたスキルを見せてくれる。
『これですね』
『隠蔽看破:レアモンスターコアB』
『眷属小加護:レアモンスターコアA』
『状態異常小耐性:ダンジョンコアA』
意外なスキルだと、俺は少しだけ驚く。これ、汎用スキルだよな? 折角の高位コアなのに汎用スキル?
『意外に思うことでしょう。私も意外に思いました。でも、これってこの先で絶対に必須なんです。このスキル群が高位に入っているとは予想をしていなかったんですが……』
『高位コアで交換する意味があると?』
雫も予想をしていなかったとは珍しい。あれば便利なスキルだよな、これ?
『マナ感知では気づけない敵が高ランクではいるんです。なので隠蔽看破は必須。看破スキルとは違い隠蔽に限定されているのでデメリットは少ないんです。使用時に敵に看破されたことを気づかれるぐらいです』
『なるほど必須だよな』
『そして、状態異常耐性はデメリットとして他の耐性を下げるんですが、小耐性ならほとんど耐性ダウンはありません。防人さんのマナ操作なら、うち消せるどころか、反対に上げることができます。なぜならば状態異常小耐性という耐性を上げられるきっかけがあれば、マナ操作で耐性を上げられるようになるからです』
『耐性を弄ることができるスイッチを手に入れたということか?』
雫の言葉にピンと来た。耐性をマナ操作にて変えられる………素晴らしい。ダンジョンコアAランクなのも納得だ。汎用スキルの裏技的使い方だな。
『そして眷属小加護は眷属に自分の耐性などのステータスなどの補正スキルの効果を数%分け与えます。デメリットは数%与えた分の耐性などの補正ステータスが下がります』
全ての耐性を……。なるほど、眷属も耐性スキルを持つと。それならば同様にマナ操作にて耐性を強化できる。
『さすがは雫さん。完璧なスキル編成だぜ。毒や病気、精神攻撃も防げるし、物理耐性、魔法耐性も上げられるなら、頼りになるスキルだ。話し合いが終わって一人になったら覚えることにする』
『ふふん、私のスキル編成は完璧です。これならばニンフの本気にも対抗できますよ』
ご機嫌な雫さんの舞を見ながら、俺は微かに口元を歪める。
『オーケーだ。人間でなければ殺すだけだし、人間なら管理者権限を変更するとしよう』
夜中に訪問は外聞が悪いだろうが、我慢してくれ、聖女様。たぶん真のボスなんじゃないかと予想をしているんだ。
まぁ、まずは自室にてスキルを覚えておきますか。