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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
10章 大企業へ変わっていく

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174話 織田家

 広々とした板敷きの道場。武を極めるために日夜修練をするその神聖なる場所にて、一人の少女が真剣を振っていた。木刀でもなく、竹刀でもなく、刃引きされた刀でもなく。切れ味の鋭そうな輝きを放つ日本刀を振っていた。


 狐耳に狐の尻尾を生やす少女は、煌めくような汗粒を散らしながら、吐く息は鋭く。


 道着を着込み、美しい顔立ちの、美女と美少女の合間にある18歳の若い女性だ。


 摺り足にて、剣舞のように刀を振るう。右に左に軽やかに、それでいて鋭く動き、ピュンピュンと風斬り音をたてながら、袈裟斬りから横薙ぎに、下からすくい上げるように振り上げて、強き踏み込みからの大上段からの振り下ろしでピタリと止めた。


「おお〜」

「美しい!」

「さすがは剣聖陽子様」


 壁際に立って見学していた同じように道着を着込む者たちがパチパチパチパチと称賛の拍手をする。


 近寄ってきた者がタオルを渡してくるので、受け取って汗を拭う。


「素晴らしい剣舞でした。皆は陽子様の姿に感動し、より一層鍛錬に励むことでしょう。さすがは剣聖ですね」


「そうか。皆の励みになれば良い」


 武人然とした物言いの凛とした姿勢で立つ少女を、道着を着込む女性たちがキャーキャーと黄色い声でかっこいいわと騒ぐ。


 その様子をフッと微笑み、陽子は息を整える。


 織田陽子。内街の有力者である織田家の長女にして唯一の後継者でもある。『狐化』と『剣聖』スキルを持つ少女だ。


 『狐化』は珍しいとはいえ、そこそこ聞くスキル。狐の獣人となるスキルで、妖術などの魔法を得意とする。


 問題は『剣聖』スキル。唯一無二のスキルであり、天才的な剣術の使い手となる。過去に1人いたが、大型の魔物もあっさりと一刀両断したと記録に残っている。その強力なスキルを持つ陽子は、人々の注目の的だ。特に『武王』を持つ足利輝が戦死した今では。


 そして、ストイックに腕を上げるために、ひたすらダンジョンに潜り強くなっていた少女でもある。


 この道場では既に陽子に敵う相手はいない。それだけ剣聖スキルは凄いのだと騒がれていた。


 コアストアが発生した今の時代、高レベルのスキル持ちは今まで以上に厚遇されているために、皆から羨望と尊敬の念を込めて見られているのだ。


 それに加えて、陽子は織田家次期当主としての仕事もこなしている。しかも武人らしく誠実な取引をする内街では珍しく信用できると評判の少女だ。しかも美少女である。


 そのために同じ年代の女性たちに人気があるのはもちろんのこと、男性からはどうか結婚をと求婚者もあとを絶たない。


 騒ぐ周りの人々を陽子が優しい目つきで見ていると、道場に入ってくるメイド服の女性が目に入った。


「お嬢様、ご当主様がお呼びです。急ぎ来るようにと」


「そうか、わかった。すぐに行くとお伝えしろ」


 目を僅かに細めて、陽子が答えるとメイドは一礼して立ち去っていく。それを見送ると、陽子も着替えるために更衣室に向かう。


「あとは皆で練習を続けるが良い。それではな」


「はいっ!」


 皆が一斉に声を揃えて返事をするのであった。




 陽子は服を着替えて、当主の下へと向かう。織田家は質実剛健の武家屋敷だ。広々とした板敷きの廊下をスタスタと歩く中で、陽子は途中でピタリと立ち止まる。


「飛び加藤か」


「はいはい、あたいだよ」


 気安げな声と共に襖が開いて、赤髪の少女が出てきた。後ろ手に気軽な様子で現れるのは加藤翔子。優れた幻術の使い手として、裏の世界でも危険で有名な女性。


「首尾はどうであった?」


 皆には見せない狡猾そうな瞳を輝かせて問うてくる陽子に、翔子は肩をすくめて口元を歪める。


「駄目だった」


「駄目だった? 貴様がか? 天野防人の家には何もなかったのか? 何処の家門の者か、道化の騎士団の名簿もわからなかったのか?」


 翔子の意外なセリフに、陽子は驚きを隠せない。飛び加藤と呼ばれるだけあって、加藤翔子は凄腕の諜報員だ。それが失敗とはなかなか信じられる内容ではない。


 だが、翔子は口元を可笑しそうに歪めながら笑う。


「あぁ、最上階まで行くこともできなかったよ。途中でカモだと思っていたウドの大木にあしらわれたからね」


「む……そこまでなのか? 貴様があしらわれた?」


「そうさね。あのビルには力を隠して、いつもは間抜けを装う奴がいた。他にも大勢隠れているのかもしれないよ」


 その返答を聞き、ジッと陽子は翔子を見つめる。冗談を言っているのかと思ったが、ニヤニヤと可笑しそうに笑う翔子のその瞳は真剣そのもので、ふざけている様子はない。


「道化の騎士団の一員と出会ったのか?」


「そうさね〜。あの腕前は間違いなく道化の騎士団の一員だろうね。あたいをまったく相手にしなかったよ」


「それほどか……。わかった、ご苦労。報酬は前払い金のみだ。それでは、また頼む時もあるだろう」


 天津ヶ原コーポレーションは、聞いていたよりも遥かに厄介なのかもしれないと、陽子は眉をひそめて舌打ちする。


「誠実なる行いをする清く正しく美しいお姫様には見えないよ、陽子」


「貴様は私の性根を知っているから良いんだ。というか、私の性根を知らない奴は雑魚だ。気にする必要もない」


 ハッと馬鹿にするようにせせら笑い、陽子は再び歩き始めて、翔子もその様子を見てかぶりを振ると去っていくのであった。




 陽子は当主の部屋へと辿り着くと、声をかけて了承を得て中に入る。


「父上、お呼びにより参りました」


「あぁ、座れ。待っていたのだ」


 部屋の中には凡庸そうな中年の男が新聞を読みながら、胡座をかいて座っていた。威圧感もそれほどなく、人が見たら権力者の中でも有数の力の持ち主だとは思わないだろう。そんな平凡な男である。


 外見は、だが。


 中身はコールタールを煮詰めたような狡猾な男だと、娘である陽子は知っている。


 織田信広。織田姓でも信長を名乗るのではなく、信広を名乗るあたりにこの男の捻くれた性根がわかるというものだ。


 信広は僅かに苛立ちを見せて、新聞を陽子に放り投げる。


「その新聞を見ろ、陽子」


「もう読みましたよ。ですが、それほど言うならもう一度読みます」


 新聞を手に取り陽子は鼻を鳴らして読むふりをする。


「愚かな織田家。明智と名乗った方が良いか? 三日天下で終わる、ですね?」


「それもあるが、天津ヶ原コーポレーションの扱いだ」


 嫌味を言っても、応えない父親につまらないと思いつつ、陽子は己の考えを口にした。


「関東北東部に足利家は生存者の拠点を発見。10年ぶりの生存者の拠点! 平家、源家と合同で拠点に訪問。武装をしており、排他的な拠点であった。今までの生存者たちの生き残った経緯に鑑みて、哀れなる彼らの拠点は特別自治区として扱い、しばらくは話し合いをして様子を見ることにした、ですか」


 三面記事となって、その記事は載っていた。大柄な体躯で、顔に迷彩のペイントをして、牙のネックレスを首にかけて毛皮をかぶった大柄な男が木の棒を持っている姿が写真になっている。生き残っていた生存者Tと書いてあった。苦労して生き残った生存者のイメージにしてはふざけていると、微かに陽子は笑ってしまう。


「素晴らしい写真と記事ですね。哀れに皆は思うでしょう」


 クスクスと笑う陽子に、片目を細めて信広は腕を組む。


「おためごかしを言う必要はない。幽霊ゴーストとの付き合いが変わったと、有力者は確信するだろう」


 幽霊ゴーストとは廃墟街の連中のことを暗喩する言葉だ。あからさまに北東部の廃墟街の拠点が大きくなっていることから、遂に内街が重い腰を上げたのだと、一般人すらも考えるはず。


「それを美談として扱うとは、足利もなかなかやりますね。生存者の拠点を見つけたことにより、足利、源、平家で組んで生存者の拠点と話し合う。……他の家門は手を出すな、ということですよね」


「そのとおりだ。そして、拠点を見つけた功績を以て、足利義満が大将に就任……私の大将位はどこにいったんだ?」


「御三家全員が足利義満の大将位に賛成したのです。カラスは白いんですよ、父上」


 想定外であった。本来は父上が大将位に昇格。そして、空軍を支配する予定であった。


 足利家は無駄に天野防人と戦闘を繰り広げ被害を大きくして、凋落していくはずだった。


「どうやら、足利家の狸に負けたようですね、父上」


「悔しいがお前の言うとおりだ。ヘリでの戦闘を読まれていたな。三好家も潰されそうだ。裏取引とはいえ、御三家が不快感を見せたのだからな。あの御三家が仮にとはいえ、手を組むとは……」


 顎に手を当てて、しかめ面となる信広に陽子も顔を険しくする。


「天野防人の力を見誤りましたね」


「そのとおりだ、新田はこの状況に対して、こちらとの付き合いを疑問に思うはず。内街の御三家の基盤を固くしただけとなったからな。本来は大将位に就任にした祝いをしておるところであったのに……ままならぬものだ」


 深くため息をつく信広は呟くように言う。


「新田と織田が組めば、日本を手にしたも同然であったのだが………。仕方あるまい。今回は機を逃した。とりあえずは落ち着くまで様子見とする」


「このまま様子見を?」


「御三家に織田は警戒された。本来は足利がいなかったはず。さすれば、力の弱い織田家は小さく縮こまり気配を消して、平家と源家がツートップだと煽てて、権力争いを激しくさせればよいと考えていたが、思惑と違った展開となった。これ以上目立つことはできない」


 上手くすれば数年の間に平家と源家の力は落ちて、織田家が成り上がる。2家のみとなれば、争わせることなど簡単だと思っていたが、計画は白紙となった。


 ゆえに様子見だ。再び計画を練らねばならないだろうと信広は考え込む。


「陽子、習志野へ行け。新田に弁明をせねばならん。それとこれからのことも話し合わねばならない」


「わかりました。必要とあれば?」


 両手を畳につけて、眼光鋭く陽子は信広に尋ねると、重々しく頷く。


「うむ、手に入れられるのならば手に入れろ。遠慮なく、な」


「かしこまりました。織田陽子、当主の命に従いまする」


 礼をする陽子に信広は満足そうな顔となる。


「コアストアの力……それを解析して、ほとんどその秘密を解明しているらしい習志野の科学技術。その科学技術は内街の遥か先まで進んでいる」


「しかし……本当にコアストアの力を習志野は解明しつつあるんですか?」


「疑問に思うのはもっともだ。だが、奴らはコアストアの力を解析して世界樹の力を解放した。そして、その力を使いこれも開発した」


 懐から信広は小さな宝石を取り出して、陽子の前へと放る。陽子は宝石を手に取り、しげしげと物珍しそうに眺める。小さな水晶だ。薄い赤色の水晶である。


「その水晶を春の精霊石と彼らは呼んでいるらしい。マナを籠めてみろ」


 信広の言葉に頷き、陽子が水晶に力を籠めると、パアッと小さく光り輝くと人型の淡いピンクの塊へと変化した。


「これが……。習志野の自信の源ですか」


「そのとおりだ。精霊機と彼らは呼んでいる。今はまだ秘匿技術らしいが、これを作成する機械を稼働できたらしいからな」


「なるほど、わかりました。では、手練を連れていきましょう」


 目の前に浮く精霊機と呼ぶものを見ながら、薄っすらと嗤う。


「妖術使いの陽子にお任せください。きっと成果をお見せしましょうぞ」


 すっくと立ち上がると、陽子は体を翻して習志野へと向かう準備のために向かうのであった。

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剣聖と思わせておいて妖術使いか 器用貧乏は辛いな
[良い点] 歴史上、足利を倒すのは織田だったけど… 織田信広では力不足でしたかねー あと御三家は、さきもりしゃんと裏取引してるから… 織田はハブられてるからね、仕方ないね
[一言] 習志野に一体何が起こってるんでしょうか。 そして幼女にも一体何が起こってるんでしょうか。
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