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159話 黒の森

 新潟に行く途上にて一機のヘリが墜落した。どうやら整備不良だったらしい。不幸な事故だ。やはりプコン製ヘリは墜落するのですと、雫はコクコクと頷いた。


 機体から煙は噴き出さないが、まるで操縦ができなくなったようで、ヘリは回転しながら森林へと墜落して木々をなぎ倒して爆発した。


『ホラーですね、防人さん。怖い目にあって思い知ったことでしょう。見えないふりをすれば助かったかもしれないのに見えちゃいましたからね。ふふふ』


『そういう幽霊的なものじゃないからな、俺の使い魔は』


 使い魔の操作を終えて、幽体モードの防人さんはふわぁとあくびをして、宙に寝そべる。視界を共有していた私は防人さんのかっこよさを見て満足だ。


『この大部隊、やっぱり科学者の言うことなど、欠片も信じていないようだな』


 くくっと悪そうな笑みを浮かべる防人さんに見惚れつつ、雫も内心で苦笑する。


『外向けのカモフラージュですね。習志野は本当に科学者の成果だと信じて内街に情報を渡したのでしょうか?』


『ある程度の成果はあるというアピールか、政治的駆け引きがあるのか………情報が足りないな。調べる必要があるか……花梨に調べさせておくか』


『情報を制するものが、戦場を制すると言いますものね。美味しいケーキ屋さんとかも今度調べさせましょう』


『ケーキ屋に今度連れていくか。市場にケーキ屋を作ろうとする動きがあるぞ』


 それは是非行きたいですねと、世間話に移行しようとするふたりであったが、叫び声が聞こえてくるので、顔を向ける。


「大変ですわよ! 1機墜落したわ、あれはどこの家門のものですの?」


 窓にへばりついて、墜落して爆発炎上、森の中で煙を吹き出している大破したヘリを見て、焦ったコノハは驚き騒いでいた。


「コノハさん、あんまり騒ぎ立てないでください。ヘリというものは墜ちるものなんです。10機もいるんです。1機ぐらい墜落しますよ」


 肩をすくめて、コノハに言う。ヘリとは墜ちるものなのだ。なんなら全機墜落してもおかしくない。


「そんなわけないですわ! 何かの攻撃ではないかしら?」


「お嬢様、ヘリは墜落するものなのです。たぶん整備不良かと」


「む………徒に騒ぎ立てるなということね……わかったわ」


 メイドの忠告に、椅子に座り直して黙るコノハ。不満そうに自分の金髪を弄り頬を膨らませるが、それ以上騒ぐことはなかった。これは事故なのだと理解したのだろう。頭は悪くない娘なのだ。


 他の兵士たちは、多少動揺しており、周りをキョロキョロと見る者もいるが、基本的に黙っていた。余計な口をきくと口封じされると考えている様子だ。賢明な選択肢と言えよう。多少顔色は悪いが。


 メイドがパイロットに話を聞いてきて、戻ってくると報告をコノハにする。


「わかりました、お嬢様。あれは和田の家門が搭乗するヘリであったようですね」


「あら、………不幸なことですね、最近の和田一族は不幸が押し寄せてきて気の毒に思います」


 メイドの報告にコノハは顔をしかめる。


 ふたりは話しながらも、問いかけるように私をちらりと見てくるが、スルーして窓から外を覗く。どうやらヘリは帰還することなく、当初の予定通りに向かうようだ。


 防人さんが、私をちらりと見て頷くので、以心伝心の良妻である私はその意図を汲んでコノハに問いかける。もはや、私と防人さんはアイコンタクトのみで意思疎通ができるのだ。偽夫婦のセリカちゃんでは無理であろう。


「コノハさん、ダンジョン攻略部隊に選ばれたことは理解したんですが、私たちが平家の代表なんですか?」


 ダンジョン攻略後の油田の所有権を持てるとなれば、普通はコノハには任せないのではないでしょうか? それほどレイが信用されているとは思えないのだが。


「? 私たちが代表ですわよ。この任務は功績のみしかありませんですしね」


「信用はされていないですが、戦力としては信頼されていると」


 石油の所有権を求められないように、コノハには真実は伝えられていないと。レイが後からこのことを知っても文句をつけられないようにとのことなのだ。まぁ、5億も報酬を貰っているのだ。文句もないですが。どうりでこれだけの報酬が出るはずだ。


『なるほどなぁ……油田……油田かぁ。設備がないと駄目だよなぁ。地形を変えることができても、鉄鉱山とか油田だろ。鉄や油がそのまま出てくるわけじゃない。採掘やら精製が必要だ。………もしかしたら、それが地形変更のデメリットか?』


 顎を擦りながら、防人さんが考え込む。地形通常変更スキルまで考えが及んだみたい。


『それはあるかもしれませんね。いえ、可能性は高いかと。そのスキル単体では役に立たないスキル。騎馬隊スキルはあっても、馬術スキルは無いとか、狙撃スキルはあっても、銃術や弓術スキルはないとかと同じかもしれませんね』


『そうか……そうかもしれないな。俺は地形と聞いて勘違いしていたのかも。もしかしたらダンジョンに作られるマップ内を地形というんだとしたら………。とりあえず面白いことを思いついたぜ。後で動いてみよう』


 そう言うと防人さんは目を瞑って寝る。


「平様、そろそろ目的地に向かうために他のヘリと別れます。ここからは戦闘ヘリの支援は受けられませんのでご注意を。ヘリは近辺で待機しますので」


 パイロットが振り返り、大きな声で言ってくるので、コノハはコクリと頷き了承する。


 そうしてヘリは他のヘリと別れて、一路目的地に向かうのであった。





 しばらく進むと、森林があった。森林の中に突き出すように洞窟が顔を出しており、辺りには何もない。


「ここは既に枯渇した油田の上に現れたダンジョンです。浅川油田と呼ばれていたらしいです」


「今はアンデッドが徘徊する世界となっていますわ。………着陸して大丈夫かしら?」


 森林の木々が黒いのだ。まるでタールに漬け込んだようにギトギトとしていて、枯れてもおかしくないのに、ドロリとした粘性のタールを木の葉から流しつつ、30メートルほどの高さを持つ木々は聳え立っている。


「あれはタールトレントですね。燃やせば簡単に倒せますが?」


「駄目ですわ、そんなことをしたら辺り一面大火事になりますもの」


「火気厳禁、本当にここを火器を使わずに攻略すると。いったいどれぐらいの部隊がダンジョンを攻略できるんでしょうね」


 冷ややかに雫は森林を見て言う。低レベルだとダンジョンを甘く見ていたら大間違いなのだが。


「では、火気厳禁なので、マガジンを集めておいてくださいね。隠して持っている人がいるなんてことはないように。嫌な人はヘリで待っていてください。きっとこの奥には集会をしている人たちしかいないはずなので」


「ダンジョンで集会なんてしませんわよ?」


 ふふっとからかうように言う雫にコノハがコテンと首を傾げて問うてくるが、あり得なくてもそう考える愚かな指揮官がいるのだ。映画の話だけど。


「あからさまに罠でも、マガジンを集めさせて調査に向かわす馬鹿な指揮官とかいるんです。最後に手榴弾で自爆して敵を抑えても無能なのは変わりません」


「はぁ……よくわかりませんが、わかりましたわ。全員銃は置いていきなさい。それなら弾丸を隠し持っても使えないですし」


 兵士たちは火気厳禁なのは理解しているので、素直に置いていく。まぁ、そこらじゅう油の匂いがしてくるのだ。ここでタバコを吸う者もいないだろう。


 タール塗れの森林から少し離れると、すぐに普通の地形となる。昔は建物があったのだろうが、緑に覆われて廃屋となっており、駐車場もひび割れて雑草が繁茂してる。そこにヘリは向かい、無事に着陸した。


 ハッチが開き、兵士たちがキビキビと動いて、外に出る。銃が使えないので、武器は剣や槍だ。銃よりも火花は散らないだろうが、少し危険だ。危険だが、そこは許容範囲とするしかない。それにそう簡単には燃えないはず。


「ガスマスクか酸素ボンベが必要ではありませんこと?」


 タールの臭いが周囲には広がっており、かなり臭い。そして、身体には悪そうだ。


「お嬢様、26式ガスマスクです。これをかぶってください。魔法式浄化フィルターが備わっております」


「やはり必要ですわよね。ありがとう」


 メイドがコノハにガスマスクを手渡して、あらかじめ貰っていた私もかぶって……。仮面が邪魔なので、さっと脱いでかぶる。正体は見られてはならないのだ。謎の美少女レイなのだ。幻想の指輪があるから問題ないが。


 26式ガスマスク。セリカちゃんが量産している製品だ。レベル1の浄化スキル持ちに作らせている。ひと呼吸程度の空気を完全に浄化する力は、ガスマスクのフィルターに付与すれば完全に毒やウィルスは浄化できる。ローコストでよく考えられている装備であると言えよう。こういう頭の良い使い方をセリカちゃんはするので感心してしまう。


「さて、では行きましょうか」


「わかりましたわ! 全員移動を開始しますわよ」


 コノハの指示に従い、緊張気味に兵士たちは頷き歩き出す。


 先頭に立ち、周囲を見渡す。タールの森は地面すらも真っ黒であり、歩くと靴にべっとりとタールがくっつきそうだ。このダンジョン攻略のための服装は26式戦闘服と軍用ブーツ。アシスト補正が微かに入るこの戦闘服は身体が軽く感じられて、結構使い勝手が良い。


 タールは薄く地面に広がっているが沼というわけではない。地面を薄く覆っているだけだ。行動阻害を受けるほどではない。


 黒き森。木の葉から真っ黒で粘性の高いタールがドロリと地面に垂れていく。不気味なる森林内を平気な表情で雫は進む。てくてくと歩きながら、身体を傾けると、ひゅっと音がして枝が通り過ぎていった。


 合わせるように、朧水の小剣の剣身を伸ばして軽く振る。その攻撃は、枝を振ってきた5メートルは太さがある木の幹をあっさりと切り裂く。


「タールトレントですね。ランクはF、単純に辺りを樹液代わりに流すタールで覆い、近寄る獲物に攻撃してきます」


 歩く速度を変えずに、雫はひゅっと小剣を振るっていく。黒きトレントたちは攻撃範囲に入る雫を攻撃してくるが、既にBランクにステータスが入った雫の相手にはならない。


 薪にでもされるようにタールトレントは切り裂かれて、ミシミシと音を立てて倒れていく。まるで無人の野を進むが如く雫はダンジョンまで進む。


「油田ダンジョンはマップ自体は簡単です。1時間もあれば攻略できます」


「わ、わかりますの?」


 驚くコノハにフッとクールな笑みで、雫は頷く。


「忘れたのですか、団長。私は奇跡を起こす道化の騎士団の副団長レイ! 劇場版になったら設定を覆す奇跡など簡単にできるのです」


「劇場版?」


 何かの暗喩なのかと戸惑うコノハを放置して、手をかざしてポーズをとる雫であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エイリアン2は非常に面白かったですね(; ・`д・´)! [気になる点] 最期自爆した指揮官の演技はモブとして良かった~ [一言] ありがとうございます!
[一言] 石油が出る油田を主人公さんたちに攻略させて石油を取り放題にする計画みたいですが、ダンジョンを攻略しても油田が復活するんですかな?? 主人公さんの性格だと、石油をなんらかの方法で取りつくしてお…
[一言] > やはりプコン製ヘリは墜落するのです え、エンディングなら落ちた事ないし(震え なお次回作のオープニングで落ちた事になってたりする模様
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