152話 展望
雫とセリカの戯れを横目にお茶を飲み終わって、休憩を終える。その後台所からお饅頭を持ってきて幼女に餌付けをしていたら、ようやく戯れるのを止めたらしく雫は俺の隣に戻ってきて、セリカは普通の服に着替えてくると言って部屋を移動していた。普通の服持ってきているのかよ。
あぐあぐとお饅頭を頬張る幼女の頭を撫でて癒やされることしばし。見かけは清楚なワンピース姿となったセリカが戻ってきて対面に座る。雪花は変わらず寝っ転がって饅頭を食べていたりした。
「さて、では報酬の話も終わったことだし、僕が何をしていたか説明しようじゃないか」
「あぁ、教えてくれ」
むふふと微笑むセリカに腕組みをして見つめる。あの黒いスケルトンはなんなのかな?
「あれは僕の作ったスケルトン。材料はこの世に広がるマナみたいなものかな?」
『セリカちゃん、やっぱり隠すところは隠すようですよ?』
『いつものセリカで安心したぜ』
思念で呆れた感情を伝えてくる雫さん。たしかに等価交換ストアに吸収しないとエレメントとはわかるまい。だが、雫たちからバレると思わないのか?
俺たちはポーカーフェイスで思念で会話していたが、セリカはニヤリと笑い俺の顔を覗き込むように見てくる。
「そのエネルギーの名前はホニャララ。もしかして雫たちは口にできる?」
「ん? ………そういうことか」
クラフト系統のスキル持ちのセリカは、知識が流出しないように禁則制限が雫たちよりも厳しいのか。
俺が理解したと悟ったのだろう。セリカは満足そうに頷くと顔を離してソファに凭れかかる。
「僕はエネルギーを溜めて固定化。スケルトンを作成していた。いや、本来はスケルトンではなかったんだけど。ダンジョンを破壊できる人形を作っていたのさ。人形ならスキル構成を自由に付与できて、最強の戦士になると思ったから」
「で、失敗して取り込まれたと」
あんなことになって、大変だったんだぞと抗議の視線を送るが、セリカは素直に頷かなかった。それどころか、腕組みをして顔をしかめて不思議そうに首を傾げてきた。
「……それがおかしいんだ。僕は取り込まれていた時の記憶がぼんやりとある。情け容赦なく攻撃してきた防人たちのこともね。あそこは愛しているとか叫んで正気を取り戻そうとしたりするところだったと思うけど」
「前金が足りなかったんだな」
セリカの恨めしい抗議を受け流しつつ、話を聞く。
「あれほど強力なスケルトンを作る気はなかったんだ。僕の目標は自立思考型ドローンを量産して世界のダンジョンを潰すことだったからね。だからあんなに大きなスケルトンになる設定はしていなかったし、そもそもダンジョンが作られるような設定はしていなかった」
ますます首を傾けるセリカは真剣な表情で言う。
「エネルギー収集のパラメーターをおかしな数値にしていた。なぜか。そんな設定にしたら失敗するのは明らかだったのに。不完全なダンジョンコアが生み出されて取り込まれた。空間に揺らぎを与えて、無駄にエネルギーを収集したんだ」
「………無駄に?」
俺の疑問にセリカは頷く。
「僕が取り込まれたスケルトンは収集したエネルギーの一部でしかなかった。他の場所にエネルギーが流れていった感じがするんだよ。違和感が残る……なんであんな設定をしたのか、さっぱり思い当たることがないんだ」
「ふ〜ん………。どうやってエネルギー収集装置を作ったんだ?」
今まで作らなかったのに、急に作ったのか?
「それは僕の地位が高まったおかげで、ブラスターと呼ばれる銃を数丁研究用に貰ったんだけど、その中に搭載されていた燃料電池を使ったんだ。ようやく手に入れたと喜んでいたんだけどなぁ」
へ〜………地位が高まって、あの危険な銃を手に入れたと。マジかよ。もしかしなくてもセリカの地位向上は俺も手伝っているから、俺も一因だったのか。まぁ、今更だ、歩みを止めずに前に進むしかないんだから、仕方ないよな。
「で、そのエネルギーはどこに向かったんだ?」
「空間の裂け目。ダンジョンが生まれる際の空間の裂け目に流れていったと思う。感覚的なものになるけどね。……大きなダンジョンを作るように、操られていたのかも」
「誰に操られていたんだよ?」
「僕たちは……ホニャララ。これは駄目なのか……。たぶんダンジョンだよ。雪花みたいに死んではいないから、僅かな干渉だったのだろうけど、致命的な失敗が発生するように機会を虎視眈々と狙っていたのかも」
セリカが眉根を寄せて悔しがる。自分に自信をもつ少女だ。知らぬ間に操られていたことがとても悔しいのだ。
だが本当なのだろうか? ダンジョンに? そんなことが……たしかに雫も雪花も操られていた。あり得るのか……。ダンジョンが? 自然の一部と言っていたが……本当にダンジョンなのか? 違和感があるな……。なぜかセリカはそこに疑問も持っていないようだし。
「雫、ダンジョンがそんな罠を仕掛けてくることがあるのか?」
「う〜ん………そこまで精緻な思考制御を肉体を持つセリカちゃんにダンジョンが行うとは考えられませんが……確率的に言うとあり得るのかも」
首をひねる雫だが、その意見は肯定的で、雪花もその意見に同意してくる。
「そうじゃな。魔物の時は、天才たる雪花ちゃんも操られていたからな。あり得るかもしれないのじゃ」
そうなのか……3人がそう言うならそうなのかもなぁ。ダンジョンがそんなことをできるとなると
「さきもりしゃん! おまんじゅーおかわりくれりゅ?」
お饅頭を食べ終わった幼女がペチペチと興奮気味に膝を叩いてくるので、苦笑しておかわりの饅頭を渡すと、フンスフンスと鼻を鳴らして頬張り食べ始めた。リスのようにちまちま食べるので癒やされるな。
「わかった。この話はおいておこう。考えても仕方のないことだし」
俺だけは他の可能性を考えておこう。記憶の片隅に保存しておくぜ。
「それじゃここからはこれからの話だ。セリカはこれからもスケルトンを作り続けるのか?」
何でもないふうに問いかけるが、これからも続けると答えた場合は残念だ。さようならとなる。あれはやばいものだからな。
僅かに雫が目を細めて、雪花が欠伸をしながら寝っ転がっているのを止めて起き上がる。
だがセリカは俺の言葉に苦笑混じりに否定してきた。
「この実験は未来がないと理解したよ。なぜならば僕の目指す強力なスケルトンを創造すると、きっと今回のようにダンジョンが発生するだろうから。エネルギーの余波でダンジョンが作られるなら本末転倒さ。固定化ができていないから、ダンジョンが発生するんだと思っていたけど、余波でもできるんじゃね。この実験はおしまい」
手を挙げてお手上げだよとつまらない冗談をニコニコと笑みを浮かべて言うセリカ。その言葉の裏にある意味を悟る。ダンジョンを発生させていやがったな、この少女は。
まぁ、正義感を見せて責める気はないけど。被害はもちろん出たんだろうが……。廃墟街では、理由がなくとも普通に殺し合いが起こっていたからな。平和な生活とは程遠い生活だったんだ。そしてそれを目にしても俺は止めることはしなかった。それどころか、等価交換ストアを設置する際に同じようなことをしていたし。俺の身内に被害が出ていなかったから気にはしないことにする。我ながら自己中心的な思考だなと自嘲してしまうが。
「それじゃ、これからはどうするんだ?」
「それなんだけどね、まずは内街で高位の権力を持つ。そして防人の手伝いを妻としてしようかなって。使い魔を研究させてくれないかなぁ、防人が乗っていたやつとか」
可憐な深窓のお嬢様風に薄く微笑み、マッドサイエンティスト的な提案をしてくるセリカである。
「最強のスケルトンは無理だったけど、防人の使い魔を解析すれば、量産型の」
「ぱーんち! ミケはあたちがまもりゅ!」
俺の膝の上から飛び降りて、幼女がプンスコ怒ってセリカにヘロヘロぱんちを入れていた。ミケと仲が良い幼女なので怒り心頭なのだろう。
「あはは、ごめんごめん冗談だから」
ぱんちを防ぎつつ宥めるセリカに、ふんふんと鼻息荒く俺のもとに戻ってくると幼女はよじよじと膝の上に乗ってきて、セリカを警戒して見つめていた。
うん、たしかに冗談ではないだろうからな。セリカに等価交換ストアの存在を教えなくて良かった。このアルビノの美少女は狂喜して狂気となって、様々な実験をしたいといってきそうだからな。
「とりあえずは諦めておくよ。でも、スケルトンは諦めたけど、今度は人形作りに精を出すつもり。プランBで、元々は僕はこちらを主に研究していたんだ」
「人形? なんだよ、そんなにセリカは若かったのか? お人形ごっこ遊びをするなんて意外だぜ」
「茶化さないでよ。機械に魔物の素材や魔法鉱石を使って自立したオートマトンを作るんだ。原理は違えどスケルトンと同じく量産を目指してね」
フフッと小さく笑うセリカだが、ゴーレム作りかぁ、そちらの方が平和そうだ。
「セリカちゃん、個人的な意見ですが、量産というのは最低で100機は欲しいと思うんです。セリカちゃんの目指すオートマトンは一機、1千億円ぐらいかかりませんか? 昔もそこを指摘されていたと思うんですが」
呆れたように雫がジト目になるが、何じゃそりゃ。そんなの量産できねーだろ。
「う〜ん……まずは一機作成してみてから考えるつもり」
「現実はアニメと違うんですよ? 量産機は試作機よりも性能が良くて、コストは安くなければならないんです。白い悪魔の量産機は本来は白い悪魔と同等以上の性能を現実では持たないといけないんです」
戦闘の専門家として、珍しく真面目に意見を言う雫に、セリカは気まずそうに頬をかく。それはセリカも理解しているのだ。単に作りたいだけなんだろうなと理解しちまうぜ。
「そこは理解しているよ。なので、僕の装備として作るつもり。乗り込めるタイプ。リビングメイルだね」
パワードスーツタイプか。なるほどねぇ……。
「セリカ、それは俺も頼む。この先の戦闘は生身だと危険な場合も多いだろうし」
「というかじゃの。雪花ちゃんたちの装備を頼もうぞ、主様」
敵が強くなるほど、魔法使いは生身だと対応できなくなり、瞬殺されることがあるのではと、俺の分も頼むと雪花が装備の一新を口にする。
そうだった。雫なんか全ての武器を失ってた。
「セリカちゃん、私たちの武器をお願いします。朧水の小剣は簡単に壊れたんです」
自らに原因があるとはちっとも思っていない雫さんの発言です。
「はぁ………そうか雫とまた仲間になるということは終わりのない武器のクラフトもしないと、ということだったね。そういえば、なんで僕から姿を隠していたの?」
雫の要求にセリカは慣れているのだろう、疲れたようにため息を吐くが、不思議そうに尋ねる。
「だってセリカちゃんは信用できませんから。長い付き合いなんです。自分の目的のためなら平気で親友も利用するでしょう? 担保がなければ姿を現すメリットがありませんでした」
ケロリと平然とした表情で答える容赦のない雫の回答に苦笑いをセリカは浮かべるだけで、そりゃないよとか抗議をすることはなかった。すなわちそのとおりなのだ。信用されているなぁ、セリカ。
「雫も同じことをすると、僕は信じているよ。それに防人も僕に隠し事がまだあるみたいだし」
「夫婦がうまくやっていくコツは、お互いに秘密を持つことらしいからな」
ジロリと睨んでくるセリカに笑ってみせる。雫さん、セリカに俺の秘密を伝えようとしないようにね?
「夫婦……聞いたかい、雫?」
夫婦の言葉に反応して嬉しそうに頬を赤らめてセリカが雫を煽る。
「えっ、なんだって?」
難聴になったらしい雫さん。俺の頬をつねりながら、尋ね返していた。
「夫婦は冗談だ。それじゃ話し合いは終わりだ。さて、俺たちも祭りを楽しむとしよう」
ソファから立ち上がり出掛ける準備をする。せっかくの祭りだからな。いつの間にか幼女がいなくなっているけど。まぁ、良いか。
「そうですね、さっきのアメリカンジョークはつまらなかったですよ防人さん」
ニコニコと笑みを浮かべて、俺の腕にコアラのようにしがみつく美少女パートナー。雪花も起き上がると、出掛ける準備を始める。セリカは手を出したり引っ込めたりしているので、なにか新手の体操をしたくなったんだろう。
「ここからはレイとなります。防人さんと仲の良いところをアピールです」
仮面をつけて宣う雫だが、何らかの意図が籠もったアピールとしか思われないだろうなぁ。言わないでおくけど。
さて、俺達も春祭りに行きますか。




