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148話 灰

 身代わりの指輪の効果とはなにか? 俺は子供の頃にゲームを少しはやったことがあるから知っている。すなわち致命的な敵の攻撃を一度だけ防ぐ魔法の指輪だ。


 即死攻撃を受けた際に、指輪が代わりに砕けて、装備している持ち主は命が助かるという性能だ。


 だがそこに疑問が残る。即ち、致命的な敵の攻撃とはどこからどこまでを判断されるか? 


 例として致命的な灼熱の息吹を受けたとしよう。100億度の炎が自分を燃やすとする。致命的な一撃であるが、息吹は数秒、もしかしたら数十秒は吐かれ続ける。その場合、炎に触れた途端に指輪が致命的な一撃と判断して壊れれば、継続して吐かれている息吹によって指輪の所有者は死ぬだろうことは間違いない。即ち身代わりの指輪の性能は一撃を防いだということにはならない。一瞬だけ防いだということになるはずだ。


 だが、魔法道具は杓子定規。一撃を身代わりになって防ぐという性能ならば、炎の息吹自体を身代わりになって防ぐということなのである。致命的な一撃以外は防がないといったデメリットの性能がある反面、致命的な一撃は確実に絶対に防ぐ。それが身代わりの指輪なのである。


 そのために現実となった身代わりの指輪の効力は、実際はどうやって発動するか?


 解決方法は簡単であった。致命的な一撃で死んだ状態に指輪の装備者はなる。そうして、しばらくして安全だと判断した後に持ち主を元の身体に再構成して蘇生させるのだ。


 蘇生されたセリカの場合は異物がない、即ちコアに融合していない元の身体に再構成するのである。……まぁ、そこは賭けでもあったが。


 もしかしたら、コアも一緒に再構成されるかもと思ったが、服や武具などは再構成の対象外と聞いていたし、そのとおりにコアは再構成はされなかったので、ひと安心だ。


 どう考えても、セリカは救いようがない状態であったので、身代わりの指輪の意外な性能を聞いて、使うことにしたのだ。闇猫にこっそりとセリカに近づいて指輪をその身体に取り付けるようにと命令した。どこにつけたのかはわからないが、髪の毛だろうと想像しておきます。


 正直、失敗する可能性が高かった。致命的な一撃ってのは、強ければ強いほど発生しないだろうから。死ぬ前にひと呼吸でも行動ができれば致命的な一撃とはならないのだから。身代わりの指輪にとっての致命的とは、即死攻撃のことを示すらしい。


 だが、雫はそれをやり遂げた。まったくびっくりするほどの腕前だぜ。


 感心しきりにセリカの裸を見せまいと、せっせと灰で覆い尽くそうとするパートナーを見る。あれがなければ完璧なんだけど。


「雫さんや、そこらへんにしといてくれ。これから脱出するんだから」


「背負うのは雪花ちゃんですよね? まさか全裸の変態を背負うことを防人さんはしないと信じています」


 ニコリと慈愛のある優しい微笑みを見せる聖女雫。その瞳は魔王かと思うほど凍えていたりもする。雪花が苦笑して頷くので、悪いが任せた。


「セリカは雪花に任せるとして、この壊れたコアは吸収できるかなっと」


 ふたつに別れたコアに手を伸ばすと、等価交換ストアに吸収された。


『分断されし廃棄レアエレメントAを入手しました』

『分断されし廃棄レアエレメントAを入手しました』

『修復開始………』

『修復完了』

『レアエレメントコアBを入手しました』


 おぉ、とその結果に驚く。Aランクではないが、Bランクのレアエレメントコアを手に入れたので満足だ。


 なにに変換できるかと、ラインナップを確認しようとして


「防人さんっ!」


 鋭い雫の声に顔をあげる。なんだと問う声も出せなかった。なぜならばセリトンの灰が渦巻き、俺の身体を覆ってきたからだ。


「な、なんだこりゃ……意識が……」


 灰がどんどん身体に入ってくる。いや、等価交換ストアが吸収していく。それを見て慌てふためく雫たちを見ながら、俺は強烈な熱さを体内から感じて……。


 意識を落とし、暗闇の中へと眠るのであった。雫も慌てることがあるんだなぁと思いながら。






 目覚めた時には、周囲は暗闇であった。真っ暗だ。なにも見通せない。自分自身の身体でさえも。


「ここはどこだ?」


 呟く声が周囲に吸収されて消えていく。暑さも寒さも感じずに、なぜか毛布に包まれたような安らぎと眠気と幸福感を感じさせた。


 強烈な睡魔が俺を襲い、ゆっくりと目を閉じて寝てしまう………。


 どれぐらい時間が経過したのだろうか? 微睡みの中で俺は浮遊感と幸福感を覚えていた。


「退屈だ。そろそろ出る方法を考えるか」


 飽きた。寝るのもいいが、もう飽きた。俺は世界の救世主になる予定だし。背伸びをして肩を回して行動しようと決意する。


『まだ数時間しか経っていない。飽きるのが早くないでしょうか?』


 と、何も見えない中で声が聞こえてきた。不思議とどのような声音かわからない。男女どちらかも、何歳ぐらいかも、声音から性格なども想像できない。


「俺はあんまり長く寝ると頭が痛くなるんだよ。ほら、もう歳だからさ」


 動揺を見せずに飄々と答えると、相手が苦笑したような雰囲気を感じた。


『その歳は外見のみ。中身はすっかり健康な力溢れる存在になっているとは思いますが……貴方がそう言うなら、そういうことにしておきましょう』


「どーも。で、お前は誰だ? 等価交換ストア?」


 推測をあっけらかんと口にすると、相手は驚いたようで一瞬空気がざわめくがすぐにおさまる。


『私が誰かは証明できないでしょう。では、貴方のやるべきことを終わらせてしまいましょう』


『妖精機665ナジャの管理者権限を変更しますか?』

『はい・いいえ』


「セリカには悪いが、はい、だ。奴隷になったりしないよな?」


『その権限はありませんということにしておきましょう。どうせなにもしないつもりでしょうし』


「俺の性格をよく知っているんだな」


 管理者権限とやらを変更しても、何かをするつもりはない。自由意思ってのは人間にとって大切なんだぜ。


 俺の意思を読み取ったのか、嬉しそうな雰囲気を相手は返してくる。


『妖精機665ナジャの管理者権限を変更しました』


『これでナジャは深層意識にある指令から解かれました。後は好き勝手にしていくでしょう』


「もしかしたら、その指令に囚われていた方が平和だったかもしれないけどな」


 あいつが好き勝手にやっていく未来はどう考えても平和とは無縁そうだ。大丈夫かなぁ。多少不安を覚えるのは仕方ないよな?


『そこはナジャの首に首輪でもかけるか、指に指輪を嵌めてあげれば手綱はとれると思いますよ?』


「検討しておくよ。で、ここから長い話が続くのか?」


 あんまり長い話はしないでほしい。何やらの命運とか、そういうのいらないんで。興味もないし。俺に関係して、聞いても利益か不利益になる話だけ聞くよ。過去話となるならいらないんで。


『ふふ。そうですね。貴方は伝えなくとも真実に至ることができるでしょうし、今聞いても頭を悩ますだけになるでしょう。では、一つだけ。ダンジョンは自然の一部。人類は敗北を決定づけられているんです』


 静かなる声音で俺へと謎の相手は告げてくるが


「んん? 意味がわからないな? 勝つことはできないってことか?」


 まぁ、今までの雫からの情報や、戦闘内容を考えれば、そのとおりなのかもしれないが。だが、敗北を受け入れることはできないぞ?


『考えてみてください。戦闘、生産、運命の3つを揃えた貴方ならば、きっとダンジョンに勝利することができるでしょうから』


「今、敗北を決定づけられていると告げておいてそれかよ。意味がまったく……。いや、考えることにするか」


 抗議をしようとして止めておく。言いたいことはわからないが、この謎掛けは深く考えることが必要だろうから。


「まぁ良いや。聞きたいことはもう一つ。残機スキルってのは、本当の性能は妖精機を、生き残った妖精機を操るスキルなのか?」


 なんとなくそう思うのだ。もう4体の妖精機を保護したことだし。残機スキル。その名のとおり生き残った機体を保護するスキル。表の性能に隠れて、真のスキルの性能はそれではないかと、ずっと考えていたのだ。雫、セリカ、幼女、雪花。あの幼女が妖精ではないなんて、そんな間抜けな考えは持たないぜ。あいつは不自然すぎる存在だからな。名前もまだ知らないし。なぜだか、最近になってその不自然さに気づいたんだけどな。


『……貴方の一番の強みは、魔法の才能でなく、その頭の良さだと、改めて実感しました。では、さようなら防人さん。貴方とはいつか再び会うことになるでしょう。あぁ、それと灰を吸収したことにより、レベルアップしました。今後ともよろしくお願いしますね』


 その言葉と共に光が射し込んできて、周りが明るくなっていき……。


 俺は目を覚ました。



『等価交換ストアのレベルが5になりました』


 ステータスボードに嬉しい表示がされているので、俺は寝そべったままラインナップを選択する。と、面白い機能が目に入る。


『販売スキルの結晶化:エレメントコアC1。結晶化代が含まれるので、値段は倍になる』


どうやらエレメントコアの使い道ができたらしい。今の手持ちは3個。だが、迷わずにゲットしておく。


 これは通常買うスキルは買った人物しか身につかないが、結晶化して誰かに渡すことができるらしい。結晶化代は高いが……仕方ない。チェーン店販売するには、販売ロック解除にレアコアを1000個も集めるなんて、困難だし、一般に売るつもりもないからな。


 よしよし、もしかして魔物から吸収するより、あの灰の方が経験値的な物が高かったか………等価交換ストアが掃除機みたいに吸い込んでくれなければ危なかったかもしれないが。


 体に巡るマナを集中させて、スキルレベル5に他のスキルも上げることにする。深呼吸をして息を深く吸い込むと意識をスキルに向ける。


 小さな火花を頭に感じさせると、カチリと何か音がしてスキルが全て5になった感触があった。


『全体に共有』


 自らの支配下にある者たちのスキルも等しく上げておく。なんとなくレベル5になってからできる感じがしたのだ。感触が返ってこなかったのは、元々スキルレベル5であった者なのだろう。すなわちセリカだ。


 後でスキル5の力を確認しなくちゃなとニヒルに笑う。


「えっと……僕が膝枕をして、防人の髪を穏やかな顔で梳いているのに、なんで無視するのかな? ちょっと何をしているか説明してほしいんだけど」


 どうやらやけに柔らかな感触の枕だと思っていたらセリカの膝枕だったらしい。あと、俺の髪の毛をさわさわと触っていたのはアルビノの少女だった模様。それと、なぜかセリカは等価交換ストアが見えないようだ。雪花は見ることができるから、元からいる奴とはスキルを共有できないのか?


『等価交換ストアの閲覧権限を神代セリカに与えますか?』


 もちろん『いいえ』。素知らぬふりをしてセリカに顔を向ける。


 顔を僅かに赤く染めて、頬を膨らませて不満そうなセリカが顔を近づけてくるが、そんなのは当たり前だろ。


「俺はそんなことよりも、自分の利益や報酬を先に確認するんだ。お前のイベントシーンはカットでも構わないぜ」


「酷いなぁ。ここはお帰りとか、優しく微笑むところじゃないのかい?」


 どうやら俺は気絶をしたみたいだ。クリーム色の天井に、小綺麗なリノリウムの床。見覚えのない床に寝かされているが、本来の地下5階なのだろう。横には呆れた様子で雪花があぐらをかいており、タイムリミットが来たのか、雫は幽体となってセリカを睨みながら浮いている。


「自爆した奴にかける優しい言葉はこれしかないな。報酬はいくらだ?」


「この僕が報酬さ! まさに価値のつけられない報酬ってわけだよね?」


 両手をあげて、オーバーアクション気味にセリカが嬉しそうに微笑む。


 なるほど、そうきたか。たしかにクラフトスキル持ちが仲間に入れば心強い。問題はこいつはさっぱり信用できないという点だが……。


「まさにプライスレスだよな。報酬をよろしく」


 金払いが良ければ信用しても良いぜ、セリカよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど。セリカが破滅的な行動を繰り返していたように見えたのは、ダンジョン側によって無意識下で操作されてしまっていたからだったのですね。ということは、主人公が自己の管理権限を奪取するまでは、…
[一言] 戦闘、生産、幼女!すべてが揃いましたね
[一言] 残(党妖精)機スキルであったか
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