表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/327

142話 行方不明

「花梨がいない?」


「えぇ、いつもはふらっと来ては世間話をして帰るんですが、まったく音沙汰ないんです。風魔興信所ももぬけのからでして」


 防人は、首を傾げて戸惑いながら勝頼の報告を自宅のリビングルームにて聞いた。他には雪花と幼女がいる。


 花梨にセリカとの渡りをつけてもらおうとしたところ、花梨自身が彷徨いていないのでコンタクトがとれないと報告が来たのだ。


 花梨との連絡方法は、いつもにゃんこが彷徨いているのを見つけるだけである。いつもは食堂にいたり、俺の家にいたり、市場を彷徨いていたりと、散歩が大好きな猫娘であったので、簡単に連絡がとれると思い込んでしまったのだ。外街に風魔興信所があるしな。


「聞き込みをしましたが、ここ1週間は誰も見ていないそうです。前回はケーキの試食会に現れたのが最後のようですね」


「試食会って、あいつ、そこらへんケチだよな。この界隈じゃ一番金を持っているのに」


 俺は除外。財布はいつも空なので。花梨は一番貯め込んでいると思うんだ。そんな花梨は常にせこい。しょっちゅう昼飯を食べにきて本社の食堂で飯を食っているから、1週間も顔を見せないなんて珍しい。なにかがあったと考えるのが妥当だ。


「そうだなぁ……。セリカとのコンタクトがとれないと困るんだが」


 腕を組んで困り顔になってしまう。どこに行ったんだよ、花梨の奴。


『セリカちゃんがいなくては、内街とのコンタクトはコノハに風香……。別にセリカちゃんがいなくても良いですね』


 空中にフヨフヨと浮いて、う〜んと、頭を傾げる雫さん。容赦ないよな、セリカは仲間じゃなかったの?


 だが、コンタクトがとれなくなるだけじゃないんだよ。あいつのクラフトスキルが欲しいんだ。


 それにしても花梨に会えない、か。う〜ん……なにかがおかしいな。


「さきもりしゃん〜」


 よじよじと膝の上に登ってくる幼女の頭を撫でながら、考え込む。いつもは花梨に会うことは簡単だったし、セリカもすぐに顔を出した。さっぱり会えなくなったのはいつ頃だ? そういえば、精霊石を手に入れた時か? 政宗の時も花梨に伝えたが、セリカは来なかった。なぜだ?


『精霊石の使い方を聞こうとした時に、セリカと会えなくなるってのは変じゃないか?』


 俺の疑問に雫もハッとした顔になり、目を細めて考え込むと答えてくれる。


『ふむ……鋭いですね、防人さん。たしかに会おうとしているのに色々と障害、いえ、偶然にもですか。あれだけ簡単に会えていたのに、急に本人に会えなくなるというのはおかしいですね』


 だよなぁ。雫さんの仰るとおり。う〜ん……。幼女を撫でながらその顔を見る。くりくりオメメで俺をニコニコと見てきて、フンフンと頬を膨らませて嬉しそうにする幼女。


 とっても変だ。なにかが変だ。偶然が重なりすぎている。


 だが………まぁ、良いか。もしも俺の予想が正しければ、こちらの得になる展開の予感がする。選択肢の中で良い選択肢を選んでいるという感じだ。なんとなく………。


『会ったらバッドエンドルートだったのかも。クリア不可能な超最高難易度から、クリア可能な最高難易度になった感じですね』


『素晴らしい難易度設定だよな。それに納得する俺がいるのが悲しい』


『人類はダンジョンに対して敗北を決定づけられている。ダンジョンという存在はイカサマダイスどころか、ゲームマスター権限で勝利してくる存在じゃ、難易度設定がクリア可能になったことに喜ぶべきじゃろうて』


 何ということでしょう。雫も雪花もクリア可能になったことを喜んでいます。過酷すぎるぜ、泣けてくる。


『精霊石をセリカに見せるなってことか……。だから、会えなかった?』


『そこまで強い力はないように思えますが、蝶が羽ばたけば、幼女が虫取りに来るかもしれませんからね』


 俺の胸に幼女がエヘヘと顔をぐりぐりと押し付けてくるのを見ながら苦笑してしまう。


 そのとおりだ。物凄い力を持たなくても、多少の力で分岐を変化させれば良い。最初に向きを僅かに良い方向に傾ければ良いのだ。後々にそれが大きく変化するのだから。


 それができるのが、この幼女の力のような気がするんだよなぁ。まぁ、良いか。


 俺が考え込んでいると思って、沈黙を守っている勝頼に視線を向ける。


「勝頼、雪花。俺は内街に潜入することにする。久しぶりに神代防人になるとしよう」


『苗字は気に入りませんが、仕方ないですね。私は雫大佐です。防人さん、潜入中は大佐と言ってくださいね』


『いつから雫さんは軍人になったのかな?』


 ふんすふんすと鼻息荒く、胸を張る雫さん。声は渋い声が良いでしょうかとか呟いて、いつも通りの美少女です。


「勝頼、しばらくはまた経営をよろしく」


「了解しました」


 至極生真面目に頷く勝頼。信玄の息子とは思えないほど、良い奴である。


 いつもいつもすまないねぇ。頭の良い政宗が領土を増やしに行っちまったからな。またもや勝頼に頼るしかないのだよ。


「それじゃ行ってくるわ」


 内街にご訪問と行きますか。厄介ごとが待っていそうだけどな。




 内街は相変わらずの外とは一線を画す世界だ。とはいえ、内街ではなくて、外がおかしいんだけどな。内街は昔と変わらない景色ってやつだ。


 春うらら、風も気持ちよく過ごしやすい。内街は人工で春の香りを作っている。幟に春のセールと書いてあり、店舗は春の衣服や食べ物を期間限定と売りに出している。


 ゴールデンウィークは旅行を! とか宣伝がはためいているが、どこに内街の連中は旅行に行くのかね? 旅行ねぇ、飛行機を使ったりするのかな。


「お客さん、どちらまで?」


「あぁ、神代ラボまで」


 そんなことをつらつらと考えながら、内街に入り込み、道で拾ったタクシーに乗ると、行き先を告げる。セリカの研究所兼本社のはずだ。一応住んでいる場所は聞いておいた。直接に行くことになるとは思わなかったけど。


「わかりました。貴方も神代ラボですか」


「あぁ、少しばかり野暮用でね」


 あっさりと神代ラボの場所に頷くタクシーの運ちゃん。その様子に人気があるんだなと、目を細める。セリカの奴め、順調に成り上がっているようだな。


 平和そうな表情で歩いている人々を見ながら、綺麗なアスファルト舗装の道路を進むタクシーの中で、内街は相変わらず暮らしやすそうだと思う。


 とても俺に似合わない世界だなぁと。


『血なまぐさい世界に慣れすぎたか……』


 世界の救世主になる男にしては、物騒すぎるよな。頬杖をついて苦笑してしまう。


『世界の救世主は、血なまぐさいものですよ。防人さんは知らなかったんですか?』


『違いない。自分の手を汚さないと救世主になれないってのは悲しいが。現実ってのは世知辛いからな』


 雫さんの言うとおりだ。ここはハードボイルドに肩をすくめるに留めておくぜ。


 しばらく進む中で世間話が好きなのか、ペラペラと喋り続ける運ちゃん。テレビや最近の芸能人を振られてもなぁ。だが、俺があまり興味を持たないのに気づいて、運ちゃんは色々とネタを変えて話をしてくる。


「農業ファクトリーが破壊された?」


 その中で、変な噂を聞いて眉をひそめる。運ちゃんは俺が食いついたことに気を良くして話を続ける。


「えぇ、最近野菜が高いじゃないですか。ダンジョンが発生したために、多摩区の大規模農園ファクトリーが何個も破壊されて、めちゃくちゃらしいですよ」


「ダンジョンが現れたなら、すぐに破壊されるだろ?」


 内街のダンジョンはすぐに破壊されるのに、虎の子のファクトリーを破壊されるなんて変じゃないか? 


「いやぁ、それがですね。ダンジョンはすぐに破壊したそうなんですが……。最初に現れた魔物が素早く散らばって、ファクトリーを破壊してしまったそうなんです」


「へ〜、そりゃ御愁傷様。だが、すぐにファクトリーは回復できるだろ?」 


「それがですね〜、なぜかファクトリーを修復しないんですよ。なぜかはわかりませんが」


 声を知らずに潜めるタクシーの運ちゃん。……ふ〜ん、なんでなんだろうな。いくつか推測はできるが……とりあえず記憶の片隅においておくか。


 ファクトリーが破壊されて修復しない。その影響を考えながら、タクシーの運ちゃんの話を適当に受け流すと、社屋に到着する。


 神代の会社はそこそこの大きさのビルだ。外観はクリーム色の壁で新築に見えるが改修したのだろう。10階建てで横に広い。なるほど、ラボと呼ばれると納得する、丸っこい半ドームのような形でがっちりとした作りに見える。


 タクシーを降りて、玄関ロビーから入ると、よく掃除されていて綺麗な大理石っぽく見せている床に、ホテルのような受付カウンター、そして受付嬢がふたり座っていた。金がかかっているなぁ。


 見渡すと、ふかふかそうなソファにテーブルがいくつか設置されており、何人かスーツ姿の男性が座って待っていた。


 あの人たちはセリカとの面会なのかなと思いつつ、受付ロビーににこやかな笑みで近寄ると声を受付嬢にかける。


「お世話になっております。神代社長にお会いしたいのですが」


 にこやかな笑みを浮かべる俺を見て、なぜか受付嬢は身を固くして、表情を強張らせる。失礼な、俺は善良な会社員だよ? 今日は普通のスーツ姿だろ。


『防人さんの顔は危険な香りを感じさせますからね。それが良いんですけど』


『慰めてくれてどうも』


 ふふっと愛らしく微笑む雫さんの言葉に、俺ってそんなに普段も怖いかなぁと思いつつ、受付嬢を見ると口元を引きつらせつつ、言葉を返してきた。


「か、神代社長とアポイントメントはおありでしょうか?」


「えぇ、この時間にお会いする約束をとっていますよ。神代防人と言います」


 たしかアポイントメントをとっていたよな、うん。


『慌てずに飄々と嘘をつける防人さんに拍手を。パチパチ〜』


『押し問答はしたくないんでね』


 パチパチとちっこい手で拍手をする雫さんをスルーしつつ受付嬢をみる。


「神代……防人様でしょうか?」


「えぇ、案内してもらえますか?」


「す、少しお待ちを」


 神代と聞いて、親戚の一人かと勘違いした受付嬢は恐らくは秘書室に確認をするべく受話器をとった。小さい声で、神代様と名乗っておりまして……と、何回かやり取りしている。これが他の苗字なら秘書も門前払いをするように命じただろうが、神代と名乗った以上、セリカに確認しないといけないよな。ふふん。


 数回やりとりをして、少し待っていたあとに、慌てたように受付嬢はにこやかな笑みになる。


「神代様、すぐに案内の者が来ますので少々お待ちを」


「わかりました」


 どうやら上手くいったみたいだ。良かった良かった。アポイントメントがないと門前払いされて、なんとかセリカに会うべく他の方法を考えるのは面倒くさいからな。


 程なくして、秘書だろう女性に案内されて、エレベーターで最上階に移動する。秘書は俺が何者だろうと、ちらちらと目線を送ってくるが無視。


 そうして、社長室に案内されて、秘書のノック後に許可が出て中に入る。


「やあ、防人。久しぶりだね。僕が恋しかっただろう。すまない、仕事が忙しくてね」


 ひと目見て高級だとわかる身体が沈み込みそうなソファに、アルビノの美少女が座って、俺に片手をあげて挨拶をしてきた。


「………『罠感知』。『対探知昏倒アンチサーチスタン』」


「ギャッ」


 流れるように魔法を使いソファに座る。空間に闇が現れてすぐに消えてしまう。そして、バタンと何かが倒れる音がドアの向こうから聞こえてきたが気のせいに違いない。


 暗黒魔法にスキルがパワーアップして、敵を混乱、昏倒などにする精神系統魔法も覚えたのだ。なかなか使えるっぽい。


「よ、容赦ないね」


「監視系統のスキルへの対抗魔法だ。便利だよな」


 顔を強張らせる対面の美少女を見て、はぁ〜と嘆息する。


「で、花梨、お前こんなところで何やってんの?」


 俺の目の前にはセリカの姿のマナの塊があり、その中に花梨がいた。


 なんで変装をしているんだよ、もう厄介事にしか見えないよな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] たまに出て来るが出来る男っぷりが際立つ勝頼の存在感(´ω`)廃墟の世界で戦国脳の信玄から育てられたと思えぬスマートさですよね、なんでもそつなくこなす様は武田勝頼って猛将っぽい名前より堀秀政…
[一言] 潜入任務といえばメタルなギアのネタをはさみつつ・・・内街の神代ビルへ 農場ファクトリー破壊とセリカの行方は関係性があるのか・・・? 農場を復旧しない・あるいは出来ない事情も気になりますね~ …
[良い点] 行方不明になってるのは花梨じゃなくてセリカというオチですね。面白い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ