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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
8章 市場を増やす

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137話 政治家

 政治家というのは、いつの頃から尊敬されないが、それでも羨む職業と呼ばれるようになったのだろうと防人は思う。


 子供の頃は俺も政治家になってみたかったと、昔のことを思い出して苦笑する。特に国を変えてやるという気概からではない。政治家の年収を聞いて、国会でのやり取りを見て、そう思っただけだ。中心人物になりたいわけではない。中堅クラスの議員で、マスコミに注目はされないが、選挙で落選もしない地盤を持つ立場になりたかった。


 だって、周りの大人に聞いてみたのだ。テレビで与党と野党との怒号の飛び交う素晴らしい話し合いを見て、政治家って大臣以外は何をしているのと。大臣はなんとなくわかる。それぞれ仕事が明確に割り当てられている。だが、他の政治家は? 賛否を決める際に立ち上がるだけの仕事なの? と。


 大人は決まってこう答える。


 なにかわからないが、きっと大変な仕事をしているのだよと。きっとなにかの調整などをしているのだと。


 決して、そのなにかがどんな仕事なのかを明確に答えてくれる大人はいなかった。子供心に、楽な仕事そうだと思ってしまったのは、俺だけではないだろうと思う。


 今はどうだろうか? ダンジョンに住処を押しやられて、壁に閉じこもる人々の選んだ政治家の仕事とは。


 きっと昔よりは明確に答えられる。


 今の政治家は権力と甘い汁を求めて、いらない人々を切り捨てることに罪悪感すら持たない人間だと。


 目の前の偉そうに口髭を生やす小肥りのおっさんのように。





 あれから一週間後。花梨に内街のお偉いさんと話したい元軍人がいると伝えて一週間後である。


 筑波線要塞の居残り組が難民の救済のために話し合いたいと伝えてくれとお願いした。1万人近い難民を受け入れてはくれないだろうとは思ったが。


 そうして、セリカが調整をしてくれた結果、目の前の政治家が姿を現した。曰く、足立区、台東区周辺の地区から選出されたお偉い政治家さまとのこと。


 名前はたしか三好……なにがし。もう会うこともないだろうと、下の名前は覚える必要もないと、聞き流した。


 会談場所は内街の料亭だ。鹿威しが小気味よいカツンという音をたてて、侘び寂びの利いたよく整えられた庭園と趣味の良い調度品がさり気なく置かれている畳敷きの部屋にて、置かれているテーブルすらも幾らするかわからない、その上に並ぶ料理もそうだが、料理を乗せている皿もきっと高価なのだろうと思わせる、そんな料亭で俺と政宗は三好という口髭を生やして偉そうな小肥りの男と会談していた。


 料亭の金は俺持ちだ。とりあえずは目だたないようにちょっとした変装済み。今の俺は伊達政宗少佐の部下のおっさんという立場にしてある。


 料亭の金は俺持ちだ。大事なことだぜ。料亭の金は俺持ちだ。なので、話をろくに聞かずに飯を食うことにしています。この突き出し美味い。


「ふむ……話はわかった。筑波線要塞に心ならずも残留してしまった難民と軍人を保護してほしいと?」


 やけに甲高い声音で、見下すようにこちらを見てくる三好なにがし。


 三好なにがし。セリカに頼んだら現れた政治家だ。代議員とか言うんだったか。もう政治家なんて昔の話すぎて覚えていない。俺に関係ない存在だったし。


「そのとおりです。私たちは難民の保護及び受け入れを求めます」


 ピシッと糊の利いた皺のないスーツを着込んだ政宗が至極真面目な表情で頷く。それを見て、余裕そうに鼻を鳴らしながら、三好なにがしは言う。


「よろしい。資料は読んだ。君たちを保護し内街に受け入れよう」


 意外な返答のような感じだ。単純な男なら、ありがとうございますと騙されるだろう。しかし、短い付き合いだが政宗ならば騙されないことを俺は理解している。そもそも、三好なにがしは騙すつもりで言ったのではないこともわかっている。


「三好議員。それは、筑波線要塞に住む全員と考えてよろしいのでしょうか?」


「ん? もちろんだ。当然だろう? 国民の幸せを第1に考えるのが、儂らの仕事だからな」


 見え見えの作り笑いで三好なにがしは頷く。何を当然のことを聞いてくるのかという態度だ。これにて、俺の商売は政宗とは打ち切りになる。そんな満額回答。あ、次の皿が来た。


「1万人全員を保護してくださるのですね?」


 念を押すように目つきを鋭く変えて政宗が確認するが、三好なにがしはキョトンとした表情となった。


「何を言うんだね? 難民は500人、そして君たち軍人300人だ。それ以外は身分証明書もなく税金を支払っている様子もない。即ちいない人間。幽霊ゴーストというわけだ」


 三好なにがしにとっては、当然のことなのだ。現代に現れる幽霊ゴーストってのは随分と生きがいいらしい。素晴らしい政治家だことと、俺は料理を味わっていた。


 政宗も想定していた答えなのだろう。怒ることもせずに、冷静に手にしている箸を折った。その箸は高そうなんだが。俺が弁償しなくてはならない予感。


「私は要塞の全員を受け入れてほしいとお願いをしたはずですが?」


「あん? あぁ、そういうことか。わかったわかった。後から受け入れることを検討するから、まずはお前たちが内街に来るように。儂に感謝して働くのだな。優秀な軍人だが、命令違反が多かったとか。儂の下ではそんなことを許す気はないから、覚えておくと良い」


 三好なにがしは政宗の言葉を建前上だと勘違いしていた。この話を耳に入れて習志野まで問い合わせたところ、難民のために残った馬鹿らしい正義感の持ち主だったらしいと三好なにがしは聞いていたが、それでも気にはしなかった。


 完全撤退から1年。悲惨な暮らしから戻ってきたいと泣きつきに来たのだろう。調べたところ、この伊達政宗はスキルレベル5の持ち主だ。ダンジョン攻略戦の最前線に送られた戦車乗りらしいが運良く生き残り、様々なスキルとレベル5の持ち主となったらしい。


 三好なにがしにとっては、窮地に天から垂らされた蜘蛛の糸でもあった。雪花事件で三好家は高レベルのスキル持ちを数多く失った。そして、今はコアストアのせいで、高レベルのスキル持ちは各家にとって重要な存在となっているのだ。


 この男を、そして後ろにいる軍を丸ごと抱え込めば、三好家も凋落を防げて、自分もその功績で一気に立場が良くなるに違いないと、この話を神代セリカから奪い取ったのだ。


 こき使って、自分の子飼いのためにスキルレベルアップポーションを集めさせてやるとほくそ笑んでいた。


 正義感のある男だったと資料には書いてあるが嘘くさい。どうせ要塞司令官の地位が欲しかっただけなのだろうが、難民のためにと気遣う体で要塞に残ったのだ。このまま自分たちだけが内街に戻るのは外聞が悪いと考えたに違いない。


 これから、こき使うのだからと、三好は気を利かせてやることにした。玉虫色の答えだ。残る難民たちのうち研究員たちは口座にかなりの金があり内街に迎えるのは問題ない、他の難民たちは、受け入れを検討させると答えておけば、それで気がすむだろうと考えたのだった。儂の頭の良さに感謝しろよとも思っていた。


 その横暴にして、自分を基準に考える三好なにがしの態度を見て、政宗は理解した。


 この内街は腐っている権力者に支配されていると。


 俺をちらりと見てきて、微かにため息を吐く。なんだよ、内街はこんなんだと伝えておいただろう? 三好なにがしさん、とっても良い人みたい。

 

 俺の視線に諦めの息を吐いて、政宗は三好なにがしへとニコリと笑顔で朗らかに話しかけた。


「わかりました。それでは難民500人の収容をお願いします」


 その言葉と態度にコロッと三好なにがしは騙されて、うむうむとわかっているよと、醜悪な笑みになる。


「お互い妥協しあえるところは、しなくてはならない。君はよくそれを理解しているようだ」


「ありがとうございます。それでは、順に連れていきたいと思いますが、輸送用トラックとバスを用意していただいてもよろしいか? 既に要塞には武器弾薬も尽きて、ガソリンもありませんので」


 にこやかな笑みで強面の政宗は下手に出るように三好なにがしへと問いかける。その要求を聞いて、三好なにがしは顔をしかめて嫌そうにしてきた。


 料理を食べながら、しばらく沈黙が続く。この魚って、一口で食べて良いのかなぁ? 少なすぎない?


 焼き魚にしても、小さい魚だなぁと、バリバリ食べていると、考えがまとまったのか、三好なにがしはエヘンと咳払いをすると胸を張り、渋々ながら口を開いてきた。


「要塞には車両は残っていないのかね?」


「残念ながら、全て魔物との戦闘でほとんどの車両が破壊されました。そのために、三好議員殿のお力を得ることができればと。護衛の兵士もお願いいたします。私は部下と共になんとかここに来れましたが、難民は疲労困憊、我が兵士も疲れきっておりますので」


「ふむ………そうなのか。君たち以外にはここには自力で来れなかったと?」


「そのとおりです。三好議員。筑波線要塞の目の前は魔物が作り上げた要塞がありますので外に出るのも命懸けなのです」


 苦しげな表情の政宗。そんなに要塞は大変だったのか。そりゃ大変だ。俺も初耳だぜ。


 苛立ちを示すように三好なにがしは乱暴に料理を口に入れて咀嚼すると、嫌味そうにごくりと飲み込む。


 想定と違うと、もっと簡単に兵士が手に入ると思っていたために、余計な出費が出ることが心底嫌に思いながら三好なにがしは政宗を睨むように睥睨する。


「わかった。それではトラックを用意する。護衛兵士もつけるし、武器弾薬も用意しよう」


「ありがとうございます。要塞の難民も喜ぶことでしょう。では、私たちは要塞に急いで戻り、難民に国の助けが来ると伝えます。よろしいでしょうか?」


 至極真面目な表情で、背すじをピンと伸ばして睨むようにみてくる政宗に、三好なにがしは居心地悪いように顔を背けて、それでも偉そうに頷く。さすがは政治家だ。自身が上だと信じきって、政宗の威圧に負けていない。肩が震えているようだが、気のせいだろう。


 後はほとんど無言で話し合いは終わり、俺たちは料亭を出た。美味かったなと、玉砂利の敷かれている品の良い道を歩き外に出る。


「何も聞かないんだな、お前は」


「国の支援がないと教えるためだろ? 未だに難民たちは国の助けがあると信じているみたいだからな」


 国が言う難民を救助しに軍隊が来るのだろう。助けに来たと喜ぶだろう本当の難民には悪いが、現実を知ってもらう必要がある。死人が出ないように気をつけないとな。


 俺の顔を見てきて、ため息を政宗は吐く。なんだよ、人の顔を見てため息を吐くなんて失礼じゃんね。


「要塞に帰還中、俺は魔物との戦いで死ぬ。部下もほとんどが死ぬだろうよ」


「あ〜、はいはい。それじゃ、同姓同名の新人を後で天津ヶ原コーポレーションは雇用するぜ」


 そういうことね。なら、当てつけに名前も変えないでおこうぜ。


「……お前の頭の良さには頭が下がる。どこまでお前の考えだったんだ?」


「さぁ……それよりもだ。苦労をしないで儲けた人間がいるんだ。あいつ、これで仲介手数料も求めてきそうだな……」


 苦笑いしつつ推理する。三好なにがしに政宗を紹介することで手数料を手に入れる。三好なにがしは骨折り損のくたびれ儲けという結果になるだろうし、弱体化もするかもしれない。


 政宗をよく調査すれば、1万人の難民を受け入れなければ懐に入れることは不可能だと推測できるはず。即ち、俺がコンタクトをとりたかった源家は、この罠にかからずに済んだ。そして三好家の弱体化も土産に受け取りウハウハだろう。


 その謀略で功績をあげたセリカは報酬を貰うに違いない。俺に貸しも作ったと考えて、それを平家に押されている源家へとアピールもできるはず。


 あれぇ? 俺はクリスタルゴーレムを命懸けで倒して苦心惨憺しているのに、あいつは何もしていないような?


「お前はお前で厄介な相手と付き合っているらしいな」


「……狐と狸の化かし合いって感じかもなぁ」


 呆れるような可哀想な奴を見るような目で、政宗が言ってくるが、そうだなぁ。


 こういうやり取りは脳の運動になって良いんだぜ。


 そういうことにしておこう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オールオッさんズによる腹芸政治劇(´Д` )こーゆーのしっかり書いちゃうからむせる世界が読者にも良く伝わって来ます。爽快でスピーディーな無双譚は他のローファンものがガンガンやってくれている…
[一言] 政治家の大事な仕事は必要な仲介をすることなんで、セリカは正しく政治家してますなあ。 え?法案?行政?そういうのを作るテクノクラートの考えを他の政治家に紹介するのが仕事で、そういうののを考え…
[一言] 最上マダムとか一部の研究員の家族は内街に帰してしまった方がいいかも・・・ね なんと 伊達政宗が おきあがり なかまに なりたそうに こちらをみている! なかまにしますか? はい いいえ 防人…
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