134話 帰宅
防人たちは地上に戻り、驚きながら出迎えてくれた政宗たちとさっきまでいた部屋に戻った。いきなり俺が目の前から消えたから、大混乱となったらしい。
外はすっかり暗くなり電力のない要塞は真っ暗闇である。
各々ソファに座り、宵闇の中で懐中電灯の光のみで話し合っている。
そして政宗たちは眉をひそめて、苦しい表情となっていた。帰還して、事情を話したのである。そりゃそうだ。頭を抱えてもおかしくない。
「その魔物、かなりやばかったんだな。元は最上か……哀れなもんだ、自分自身が研究対象と融合しちまうとはな」
ため息混じりに政宗が尋ねてくるので、頷き返す。
「本望だっただろ、研究者だったんだから。残念ながら発電機の燃料も喰われていた」
大食いだったんだ、あの魔物は。証拠としてクリスタルゴーレムのブラスターと融合した腕も持ってきたぜ。
「自業自得なのじゃ。あれで死ぬかと思ったからの」
俺の言葉に隣に座る雪花も腕組みをして、うむうむと頷くが、お前は最後に戦いに加わっただけだろ。まぁ、それで勝てたから感謝しかないんだけどな。
「転移か……そんな力を持つ魔物とはな。で、その娘は誰なんだ?」
発電機を喰われたと聞いても意外と素直に信じて、訝しげな表情で雪花を見てくる政宗たち。その様子にフフンと豊満な胸を張り、雪花は得意げに口を開く。
「雪花ちゃんの名前は天野雪花。天才たる雪花ちゃんと呼ぶが良いのじゃ。主様との関係は想像に任せるのじゃ」
「はぁ……? 主様?」
「俺も限定的だが、転移魔法を使えるんだ。こいつは俺の仲間の娘だ。主様呼ばわりはこいつは変なんだ。思春期特有の変なやつ」
「そうか。転移魔法を……なるほどなぁ。お前さんが一人で旅をしている理由がわかったぜ」
大人だな、政宗。雪花の追及はこれ以上はしないらしい。そんなことよりも喫緊の問題があるしな。
「要塞には通常の発電機がある。それを稼働させる必要がある。急がないと魔物の侵入を許すかもしれん」
「軽油を用意しろということだろ。俺のせいじゃねーからなと言いたいところだが、交渉を有利にするために請け負ったからなぁ。急いで本社に戻って軽油を用意しよう」
トラックやジープ他、工事用車両用や発電機用のガソリンや軽油を用意してある。よくよく考えてみれば………内街はもしかして石油を産みだす魔法具、あのエレメントとかいうやつを持っている可能性があるか?
『う〜ん………石油を作らなくても、エレメントを使えば良いですからね。そんな物はあるわけが……』
コテンと首を傾げて言い淀む雫さん。俺の思念を読むのがデフォルトになっていないか? まぁ、良いけどさ。
『本来とは違う使い方をされている機械があるのではないか? 雪花ちゃんたちが想像していない使い方じゃ』
雪花がニコニコと政宗たちに笑みを見せながら、思念で話に加わる。いつ見ても器用なやつだ。
『むぅ……たしかに。その可能性はありますね。なにをどうするかはわかりませんが』
ふたりの意見が一致したようでなにより。やはりクラフト系統の仲間が欲しいなぁ。せめて信用できる奴。
ないものねだりをしても仕方ないか。
「政宗。俺たちはテレポートで本社に戻る。雪花、装甲車はあるんだろ?」
「うむ、今日は使っていなかった。ちょうど休暇だったからの」
「オーケーだ。それじゃ少し休む。マナがもう限界だ」
疲れたからソファをこのまま貸してくれ。少ししたら戻るから。雪花、俺の護衛よろしくな。
バタリとソファに倒れ込む。無防備だが、そこは雪花を信頼しているから任せた。
そうして俺は1時間だけ休憩して、マナをテレポート分だけ回復させると、自宅へと帰還するのであった。
マナを回復させて、『影拠点転移』を使用して自宅へと戻る。真っ暗闇の自宅であるはずだが……。
なぜか煌々と灯りが点いていた。
「んん? ただいま?」
なんで灯りが点いているんだ? 不思議に思いながら入ると
「さきもりしゃん、おかえりゅ!」
てててと玄関に小さい手足を懸命に振りながら、幼女が駆けてきた。パジャマを着込んで寝る寸前だった模様。ん? なんで幼女がここにいるの?
「さきもりしゃんのおうちはあたちがまもりゅ!」
ふんふんと鼻息荒く、幼女は俺の足にしがみついて、よじよじと登ってきて
バチリ
と紫電が走る。一瞬痛みが走りなにが起こったのか混乱してしまう。
『妖精機666シ』
「あたちがさきもりしゃんのおうちをまもったりょ!」
ステータスの高さから高速よじよじで頭に登ってくる幼女。
『はい・いいえ』
「さきもりしゃん! おかえりゅ〜」
よじよじと登る幼女の速さに驚いて手を振る。
『はい』
そのまま顔にへばりついて、キャッキャッと笑顔で喜ぶ幼女に視界を塞がれて苦笑してしまう。
『当該機への管理者権限の変更を完了しました』
ステータスボードになにかが見えたような気がするが、幼女がまとわりついてくるので、それどころではない。
「よしよし、守ってくれたんだな。サンキュー」
「えへへ。あたち、がんばった〜」
肩車の体勢になった幼女の頭へ腕を伸ばして優しく撫でてあげると、キャイキャイとくすぐったそうに喜ぶ。癒やされるぜ。
「なぁ、なにか今ステータスボードに表示されなかったか?」
「ん? 気づかなかったが、なにか表示されていたのかの?」
雫は既に眠りについているので、雪花に問いかけるが、特に何もなかったようだ。クタクタだから気のせいだったか。
「本格的に寝るぞ〜」
「うむ。完全回復せねばならぬからな。とはいえ、用心深いの主様は」
「1時間だって、他の地域で寝るのは危険だぜ。なるべく安全に寝たいんだ。枕が変わると寝れないってやつだな」
飄々と言う俺に、クックと雪花は可笑しそうに笑う。
「そういうことにしておくのじゃ」
「あたちのおふとんももってきた! さきもりしゃんのおふとんのとなり!」
随分としっかりものの幼女だなと、俺の肩の上でふんすふんすと鼻息荒い幼女の言葉に苦笑を浮かべて寝ることにするのであった。ステータスを上げすぎたかな?
次の日。マナも満タンになり、逆境成長にて手に入れたステータスを割り振る。なんともはや、300も手に入っていた。クリスタルゴーレムはかなりやばい敵だったらしい。
天野防人
マナ800→900
体力100→150
筋力100→150
器用100→200
魔力700
天野雫
マナ300→400
体力300→400
筋力300→400
器用700
魔力200
天野雪花
マナ300
体力400→500
筋力400→500
器用400→500
魔力300
なぜかステータスポイントは全員に適用されるようで、皆でそれぞれ上げた。俺はもう少しマナが欲しく、筋力などにも振り、雫と雪花は順当な振り方。コウとミケは器用度中心だ。まぁ、少し強くなった程度か。
リビングルームにて、朝食としてパンに齧りつきながら、ポチポチと振っておいた。まだまだマナが欲しいなぁ。人間の欲ってのはきりがないよな。一緒に幼女が空で指を動かす俺の真似をして、ふりふりと人差し指を同じように振っている。その無邪気な様子に和んでしまう。
「だが、俺はいない時が多いし、いつもは純たちと寝るんだぞ?」
「あい! わかりまちた! たまにさきもりしゃんのおうちでねりゅ!」
パタパタと足を振って笑顔で答えてくるので、頭を撫でておく。キャアと嬉しそうにする幼女に微笑みつつ、次の行動をとることにする。
「朝食が終わったら全員を集めて、幹部会議だ。あ〜……筑波線要塞に誰か連れていきたいが、候補がいないんだよなぁ」
人材不足がもろに出てるぜ。勝頼は本社勤めにしておきたいし。勝頼の部下を何人か送るか。事務仕事をしている人間。
「とりあえず軽油を運ぼう。話はそれからだ」
そう呟くと、俺はパンの残りをコーヒーで流し込むのであった。
その後すぐにいつもの面子を集める。信玄、勝頼、竜子、馬場、純たちだ。大木君がお茶くみ係ね。
本社の会議室に集まった面々に、要塞の話を伝える。かなりの人数のコミュニティだ。うちよりも大きいがその分、横長に地域が広がりすぎてもいる。
「軽油はわかったが、内街からの軽油の仕入れが大量になるのではないか?」
信玄が不安げに顎を擦りながら聞いてきて、うんうんと他の面々も同意すると頷く。そうなんだよなぁ……。
「それに金を持っていないのは厳しいですよ、社長。稼ぐ方法を急いで考えませんと」
勝頼が困った表情で聞いてきて、うんうんと他の面々も同意すると頷く。そうなんだよなぁ……。
「軍人が仲間に入ると、俺はクビになっちゃいますよ。ここは取り引き相手にだけにしておきましょうよ」
大木君がクビになるのではと聞いてきて、うんうんと他の面々は頷き……頷かない。別の意見がある模様。流れから、皆は頷くと思っていた大木君がショックを受けているが、実にどうでも良い。クビにしないから。ただでさえ人材不足なのに。
「戦闘の専門家がいるのは良いとは思いますが、護衛をつけての移動となるんでしょうか?」
「あそこはコボルトやオークが道中で現れたからなぁ。輸送用の道路は安全を確保したい。自動小銃装備だな。それとあっちの軍人は強いから護衛任務を任せるつもりだ」
馬場の質問には自動小銃装備での対応だと答える。危険な場所だからな。またぞろ間引きは必要だが、魔物の要塞には手が出せない。多少北回りに迂回することになるだろうよ。
「でだ。平原に拠点を作りたい。建築状況はどうなっている?」
「魔法の水溶液の力と、わ、私のスキルの力もあって、大型アパートメントを建設完了。後ですね、わざわざ新築を建てなくても、まだまだ使える建物がありますので、それを修復しています。拠点の住人のための全員の住宅はあと少しで確保できます」
「それなら、確保ができ次第、平原に拠点を作りたい。田畑も囲んでな。できるか? 最初は小さめで良い。100人程度が住める拠点。ただし拡張できるように考えた作りで。要塞の住人に働いてもらいたいからな」
竜子の報告を聞いて、次の指示を出す。田畑も少しずつ作ろうぜ。
「わ、わかりました。用水路も作らなくちゃいけないですし……『城壁』を使って………夏までには」
「オーケーだ。それじゃ、その方向で行くとして、続きは要塞でだな。あちらの物資はかなり偏っている。トラックに食糧を満載させて、軽油を運ぼう。では行動に移るぞ」
了解です。と皆が椅子から立ち上がると、バタバタと慌ただしくなる。
「あ、純。純は爺さんに弟子入りしてみないか? 車の整備ができるようになってほしいんだが」
「車の整備士ですか?」
俺たちはいつもの仕事だなと帰ろうとする純を呼び止める。整備士になりたい奴らを募集する予定だが、純に覚えてほしい。
「今どき鍛冶職人はいないから、整備士だ。時代に合った職業だろ? 南部という爺さんをしばらく本社に常駐させる予定なんだ。……交渉が上手く行けばだけどな」
う〜んと悩んで純は華たちへと視線を向けるが、すぐにコクリと頷く。
「わかりました! 俺、頑張ります!」
「頼んだぜ。そうしたら、かなり助かる」
ホッと安堵をする。『金属加工』スキル持ちの純なら整備ができれば鬼に金棒だ。
「それじゃ、大木君、要塞に物資を運びに行くぞ」
「ええっ! 俺が?」
「当たり前だろ。他に誰が行くんだよ」
馬場の部隊とは別に大木君は部隊を持っている。護衛任務を与えるのは当たり前だ。なにを驚くんだか。
それじゃ、要塞に戻りますかね。
大木君の首根っこを掴みながら俺は要塞へと向かう準備をするのであった。