130話 無効化
防人は目を開きソファから勢いよく立ち上がり舌打ちする。
「なにか強力な一撃で殺られちまった。なんだあれ?」
赤い光線が飛んできて、あっさりと灰になったよ? 強度はかなり高くしてあるのにあっさりと。
『ブラスターですね。超高熱により燃やされました。燃やされるというか、一瞬で灰になりましたね』
先程の攻撃を視界を共有していた雫さんが、敵の武器の正体をあっさりと教えてくれる。あれがブラスターか。
『酷い武器だな、あれ。……影法師で良かったよ』
稀に俺が使う人形だ。レベル4の今ならかなり滑らかに行動できる。それを【奈落】探索に向かわせた。雫が降りるなと忠告してくれたしな。
あっさりと殺られたけど。良かったよ、あの熱量ならおっさんも灰になっていたはず。
「防人、電気がまた消えたんだが?」
今いる場所は地下入り口に近い建物の一室だ。そこで椅子に座りながら、影法師を操っていたのだ。結果を政宗たちは待っていたのだが、電力が回復したと思ったら、すぐに消えたので、顔を顰めている。糠喜びさせたから無理もない。
「水晶ゾンビとか言ったか? あいつらを影越しに見ることも、攻撃すらも通じなかったぞ?」
「ん? いや、自動小銃なら簡単に倒せるし、見えないなんてことはないはずだ。ただ数が多いし地下に行けば行くほど強力になるが。そういや、闘技が通じなかった」
「行く前にそれを言ってくれよ」
「あぁ、ごたごたしていたからな。すまん。だが闘技なんて数回しか使えないから、問題ないだろ?」
そうだな。普通は闘技は数回しか使わないし、自動小銃で倒しているんだから、問題ないと思うよな。訝しげな表情の政宗は嘘はついていないようだ。と、するとスキルだけだと無効化されるのか。銃弾は通じると。
『たぶんスキルのみが無効になっているのかと。その場合はたんなる物理攻撃のみで倒すことになります。ああいう力を持った敵は他にもいるのでわかりました。クリスタルゴーレムとかは同じ能力でしたね』
『ようは机を持って影虎たちは戦えと。自動小銃が効いたし、スキル越しでなければ、水晶ゾンビとやらは見えるから気にしなかったのか』
『気づいても問題視しなかったのでしょう。なにかを挟めば、ダメージは与えられますしね。それに体内のスキルは無効化されないはず。今回は影法師も影虎もスキルの塊でしたから、ほとんど無効化されていたんですよ』
なるほどなぁ。そうなると……。
『スキルを使うマナや闘気も打ち消される? いや、体内ということは放出系統か、闘気やマナで武器や身体を覆うと駄目なだけか。物理で殴れと』
『魔法使いの天敵ですね。魔法はスキルの力を頼っていますし。私はすぐ壊れちゃうハンマーでクリスタルゴーレムを倒していましたし』
今の雫の言葉に考え込む。スキルのみを無効化する? スキルを経由させると無効化される? ふむ……。
「どうだったんだ? 俺たちが潜ろうか?」
「あいつらは登ってくるのか? スタンピードはないんだよな。地下入口でスタンバって警戒だけしておいてくれ」
「ジープのガソリンを借りても良いか? 荷台横の予備ガソリンのトランク、あれにガソリンが入っているんだろ? トラックに補給して、兵を運んでくる」
「あぁ、構わないぜ。請求書につけておくから」
「手加減してくれよ。それじゃ、儂は行ってくる」
潜っても政宗たちも殺される可能性が高いので、潜ろうとするのは止めておく。銃レベル5なのに、ここを制圧しなかった理由が少しわかるぜ。ブラスター……恐ろしい威力だった。
相馬と南部が目ざとく俺のジープのガソリンを見つけていたので、売ることにする。金額は勉強しておくぜ。
バタバタとふたりが走っていき、元研究員だか、子供だかは不安げにオロオロとしている。こいつらをよく放置していたよな。今は俺も放置しておこう。面倒くさいし。
それよりもスキル無効化はヤバい。考える必要があるな……。
『雫、少し試したいことがある』
『試したいこと、ですか?』
『あぁ、スキル無効化……物理、魔法無効化は闘気やマナによって行なっている。だが、スキル無効化って変じゃないか? なにを元に無効化されているわけ?』
闘気、マナ? それなら、それ以上の力で無効化の対抗はできる。さて、スキル無効化は?
『仕様でそう決められているはずです』
『ダンジョンは人類を弄んでいる証拠だよな』
例えて言えばゲームマスターにはゲームキャラは敵わないというやつだ。だが、内向きの闘気やマナ、スキルは無効化できないということは、だ。ゲームキャラとは俺たちは違うということだ。たとえ、ゲームマスターがコマンドを叩いて俺たちの力を制御しようとしても、俺たち自身はその意思で跳ね除けることができるんだろう。
与えることはできて、環境は弄れるが、それだけだ。と、すればだ。
『試してみようぜ。俺も研究者に転向してみよう』
『なにか思いついたんですね? 良いですよ。期待しています』
ワクワクして、キラキラした瞳を見せて、身体を乗り出して迫る美少女にニヤリと悪そうに笑う。
「政宗、もう一度アタックしてみる。駄目なら電力は諦めろよ。あそこはブラスター持ちが徘徊しているからな。たぶんビームでひと薙ぎされれば、灰になっちまう」
「……最上がゾンビになっちまったのか……その場合は、お前の会社から軽油を買いたい」
「売れるほどねーんだ。さて、試してみますか」
肩を竦めると部屋を出る。地下への再度のアタックと行こう。
地下入口の前に行くと、隔壁から中をそっと覗く。どうやら、電力は消されているみたいだ。なぜ、電力を止めることに執着しているんだ? ゾンビになる前の意識からか?
疑問はさておき、登ってはこなさそうだ。では試すとするか。
すぅと息を吸って目を瞑る。いつものようにスキルを使おうと体内の力に呼びかける。
いつもならそこから力をためて、スキルを発動させようとするが……。ちょっと力の方向を変える。心臓か、それとも魂かはわからないが力の源を強く感じ取れる。
与えられた力。そこからは介入できない力。
『魔法最大効率変換』
発動しようとするスキルに感覚的にスキルを使う。バチリと魂が震えて、身体が揺らぐ。意識が飛びそうになるが唇を噛みしめて耐える。予想よりもきついじゃんね。
『闘気法最大効率変換』
続いて闘気法最大効率変換も使う。吐き気がして頭がズガンと何度も殴られるような痛みが襲い、膝をついてしまう。が、止めることはしない。
「貰ったスキルにバックドアもゴミデータもいらないんだ。デバッグして、ウイルススキャンもかけておこうぜ」
微かに呟きニヤリと笑う。最大効率変換、俺のスキルであり、敵がミスったスキルだ。これは決して人間に与えてはいけなかったんだ。スキルは致命的な弱点はあれど、その使用に問題はない。設定された力を使えるからな。即ち、敵の介入を許すデータは俺にとって、いや、最大効率変換には邪魔となる。
最大効率変換という設定になっているからこそ、他の介入を許すデータをこのスキルは許さない。矛盾しているようで、矛盾していないスキルだ。
コウやミケに使ってから、自身の改変に使ってみたらどうかとずっと考えていたんだよ。スキル無効化なんて、やられたから決心がついた。
『バージョンアップは完了しました。以降、天野防人の権限は天野防人に付随します』
『続いて、保有機体のバージョンアップを開始』
『バージョンアップを完了しました。以降、全所有機体の権限は天野防人に付随します』
『等価交換ストアの管理者は天野防人となります。スキルレベルが足りないため、現行以上の権能は使用不可』
頭にメッセージが浮かんでくる。バージョンアップしたらしいと、ふらつきながら立ち上がる。
やっぱり自分の権限は自分で持っていないとな。今後等価交換ストアから貰う物は、データを書き換えたあとに貰える物になるはずだ。なんとなくそんな感じを自身の感覚で理解する。
「おい、防人! 大丈夫か、お前?」
そばに立っていた政宗が驚き心配してくるが、まぁ、そりゃそうか。傍目から見たら、いきなり苦しみ始めて、いきなり膝をつくおっさんだからな。救急車を呼ばれてもおかしくない。
「少し強力なスキルを使ったんだ。大丈夫、問題ない」
以前よりも気のせいか、身体が軽くなり、マナの力をダイレクトに感じる気がする。気のせいかも知らないけど。
『さ、防人さん。そういうことをするなら、前もって言ってください』
大の字に倒れるように、宙にフヨフヨと浮く雫さんが呻きながら力なく言ってくる。どうやら雫にも多大な影響が……。
『雪花、コウ、ミケ。大丈夫か?』
以前よりも繋がりを強く感じる雪花たちへと思念を送ると
『なにが起こったのじゃ……。雪花ちゃんは雷に撃たれたかと思ったぞ? なんとか大丈夫じゃ。うぅ、気持ち悪い……』
『ちー』
『みゃん』
大丈夫そうだと安堵をする。もしもボス戦中とかだったらヤバかった。すまん。
かぶりを振って立ち上がり、手をグーパーとワキワキさせる。ふむ……。いらないデータを消して魔法の威力が上がっていそうだ。スキル自体を変更することはできないようだな、残念。
買い取ったデータをクラッキングして、買い取ったメーカーの介入ができないように管理者権限を自分に設定しただけという感じだが。
「だが、少しだけ弄れたな。即ち、敵味方識別装置は俺のものという感じだ」
『武装影虎』
指をパチリと鳴らすと、新たに影虎を創造する。マナを150使って、3体。見た目が少しだけ変わっている。なんとなく艶めき、恐れよりも美しいと感じさせる毛並みだ。
背を撫でてみると……変わらないな。気のせいかな?
お座りをして、フリフリと尻尾を振る可愛らしい虎である。
復活した雫もお座りをして、ニコニコと頭を撫でてとアピールしてくるが、触れないから。お茶目な娘だなぁ。
「よし、もう一度試すぞ」
今までよりもすんなりとマナが手のひらに集まっていき、俺は魔法を発動させる。
『影法師』
ゆらりと人間そっくりの影法師が姿を現すので、自動小銃を手渡す。
「遠隔でもう一度チャレンジだ。今度は見れるはず」
失敗したら諦めよう。セリカに軽油を強請るしかないな。手のうちようがない。
『こういう場合はパワーアップした主人公自身が戦いを挑みに行くのでは? やめておけ、お前じゃもう俺には敵わない、と傲岸不遜にこの間までボコボコにされていた相手を嘲笑うんです』
『【奈落】は危険なんだろ? 遠隔兵器で片付ける。現実ってのはそんなもんだ』
敵の強度は自動小銃で倒せるレベル。時代は無人兵器だぜ。わざわざ俺が降りる必要はないじゃんね。影法師越しだと魔法は使用できないが、銃があるから問題はない。
『たしかにそうです。……ですが、私も試したいことがあるんです。敵を殲滅したら、少しだけ降りて発電機の燃料を回収できるか試してみませんか? たぶん水晶のはずです』
腕を組んで真剣な表情でお願いをしてくるパートナー。ふむ……もしかして発電機の水晶を回収できる可能性があると? コアみたいに?
『了解だ。警戒して行くか。パートナーのお願いはできるだけ聞かないとな』
『これができれば、面白いことになりますよ、きっと』
『そりゃいいね。それじゃ水晶を回収できるか試すためにも、ドローンを出撃させますか』
頼んだぜ影法師。リベンジといこうじゃないか。