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アースウィズダンジョン 〜世界を救うのは好景気だよね  作者: バッド
7章 雌伏する企業

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113話 練習

 防人は雪花の訓練風景を見るために雪かきをされた空き地を訪れていた。壁際には寄せられた雪が山となっており、ビシャビシャの地面が覗いている。まだ何も建てられていない更地だ。結構広いので、雪花は訓練場として使用するつもりになったらしい。


 メンバーには信玄は加わっておらず、若い連中ばかりだ。若いと言っても、中年のおっさんも加わっている。最近はダンジョンでの魔物討伐を繰り返しているので、中年辺りの年齢層がレベル1に上がってきているんだ。まぁ、大ネズミをなんでかわからないけどちまちまと退治していたからな、ペースは遅いが成長していたんだ。そろそろ上がってもおかしくない奴らが多かったんだろう。なにせ20年近くの話だ。


 自然なマナの吸収でスキルレベルが上がるとステータスも上がるのは体験済みだ。なので訓練場にいる奴らは他の連中と違い、身体能力が高い。そこに俺がステータスポーションを与えた精鋭もいる。ただし信玄は除く。あの爺、おばちゃん連中に混じって豚汁を作ってやがる。歳だからのぅ〜とか、言ってるんじゃないぜ。


「ほれ、こうして、こうやって、こうじゃ!」


 地面には細い木の棒が突き刺してあり、3メートルはある槍を雪花は手に持ち、素早い突きで次々と砕いていっていた。木の棒は横幅5センチ程度。そんな細い棒へ鋭い踏み込みで泥を跳ねながら、勢いを込めて槍の先端を確実に命中させていた。


『槍術なんてスキルは持っていないのにたいしたもんだ』


『武技は使えませんが、基本的な使い方はできます。なので雪花ちゃんは一通りの武器の使い方をマスターしているんです』


 珍しく嬉しそうな表情で雫が雪花を評価する言葉を言う。なんだかんだ言っても雪花を気に入っているようだ。


『努力家なんだなぁ。……あとはあの服装をなんとかしてもらいたいね。セリカに武具を頼むか……』


 改造されたチャイナ服のように無駄にスリットが入った着物をきた姿で動くから太もも丸見えなんだよ。ともすれば、それ以上も。


 遠巻きに訓練に加わらない男たちもいるんだよな、鼻の下をのばして。美女だからなぁ、仕方ないとは言えるけど。


『……くっ、誰かがきっと過去に改造着物姿と、のじゃ口調を勧めたに違いありません。酷い人もいたもんです』


 かぶりを振って、大根役者が悔しそうに呟いていた。


『なんで雫さんが、あの服装をディスらないのか不思議だったけど、今の発言で理解したよ』


 犯人が自供してくれたので、半眼になりつつ、雪花の動きを観察する。ダンジョンで見たフローキスの軽やかな動きと違い、動作の一つ一つが力強く、ダイナミックな荒々しい動きだ。猛将が槍を振るう様だと言われるとピンとくる姿である。


「マナを身体に巡らせて、ステータスの値どおりの力を引き出すのじゃ! やってみよ! まずは木の棒、1本から!」


 5本の木の棒をその荒々しい突きで砕くと、停止して、見ていた訓練生に怒鳴る。


「はい!」

「うぉぉ!」

「てやぁ〜」


 そのダイナミックな動きに見惚れていた面々は気合いを入れて、自分たちの目の前にある木の棒に槍を突き刺そうとする。何人かは命中させて、木の棒が撓む。

 

 だが、それを見て雪花は目をつり上げて怒鳴る。


「全力でやるのじゃ! 誰が命中させるのを重視しろと言ったのじゃ! 全力で踏み込み、全力で突き出せ!」


 命中させた何人かの頭をコンコンと槍で叩く。全力で攻撃をせずに命中させたと雪花は見抜いていたからだ。


「そなたらには基本的な槍の使い方を説明した。もちろん、今日教えて今日達人になれとは言わぬ。だが、ステータスに支配されているそなたらなら槍を使いこなすことはできなくても、全力での突きで木の棒ぐらいは命中させて破壊することも可能なのじゃよ」


 くるっ、と槍を手元で回して持ち直すと、雪花は木の棒に軽く突きを入れる。一瞬の風のように槍は木の棒を砕き、バラバラにしてしまう。


「そなたらへ望むのは技ではなく一撃の威力。技などは何年もかけねば覚えることはできんのじゃ。だが、全力攻撃はできる」


 おぉ〜と皆が感心する中で、雪花は人差し指を立てる。


「全力攻撃は第1段階。第2段階はマナの爆発じゃよ」


「爆発って、なんですか〜?」


 華の質問に、ニヤリと笑う雪花。


「物理的な全力は筋肉の爆発的威力。魔法的な全力はマナの爆発的威力なのじゃ」


「どう使うんですかい?」


 大木君が手をあげるので、さらに指を立てて雪花は説明する。


「簡単なのじゃ。マナを意識して筋肉を使うように全力を出すようにすること、なのじゃ。それにより攻撃力は倍加……は武技ではないのでしないが、1割から2割はアップする。消耗量は同じなのじゃから、これをしない手はない。物理的な全力と魔法的な全力。合わせて最大で4割は通常攻撃が増大する。さすればナイトやシャーマンも倒せるじゃろうて」


「せんせー、それをすればウルフも倒せますか〜?」


「アホウ。そなたの総合ステータスはいくつじゃ? ステータスが全てではないが、それでもその数値の力は出せるという担保でもある」


 肩をトントンと槍で叩くと雪花は目つきを強くして、質問してきた華を睨む。


「えっと、417〜。振り分けは平均的です」


「グラスウルフは推定じゃが、総合ステータスは100にも達していないはずじゃ。そこに槍を持てば無双できるレベルなのじゃぞ! 楽勝じゃよ。というわけで、1週間は全力攻撃のみを練習してもらう。弓も同じじゃ。全力で撃つために弦の張りを限界まで強くせよ!」


 はい! と生徒たちは強く返事をして、練習にとりかかる。馬場たちも自分の娘のような年頃の雪花に怒鳴られても素直に聞いて練習している。力に貪欲な連中だからか、不満も見せないし、怒る様子はない。


『脳筋戦法ですね。示現流ではありませんが、2の太刀要らずな戦法です。ですが、この戦法ならば、ゴブリンナイトやシャーマンなどとも戦えるでしょう。私なら支援魔法やデバフに頼って有利な地形で戦うことをお勧めしますが。仲間の一人が支援とデバフの天才的な使い手だったので』


『う〜ん……。知識がある戦い慣れている雫なら、搦手の戦法が良いけどド素人だからなぁ。雪花の教えの方が良いと思うぜ。慣れてきたら、搦手の戦法を教えれば良いんだ。それにしても全力ね……そういや、凝縮したり、操作系統は力を入れていたけど、全力はなかったかもな』


 ワイワイガヤガヤと雪花の生徒たちが練習しているのを見て、ふと思う。


全力水針マックスウォーターニードル


 手を翳して1本の木の棒に向けて撃ち放つ。水の針がチュインと木の棒に飛んでいき、半ばまで食い込むと周囲を濡らす。


『変わんねー』


『防人さんは普通にいつも魔法は全力でしたよ』


『あぁ、そうかもしれない。マナの全力ってわかりにくいのな』


 残念極まりないがたしかにそうだ。反対に手加減するときのほうが意識しているな。


『ここは、威力が高くなりすぎた魔法で木の棒を破壊しちゃって、あれ、俺なにかやっちゃいましたか? と頭をかいて逃げるところなのに、まったく目立っていないじゃないですか!』


『そういう意味のないアピールはしないの。ハードボイルドだからな』


 ふぐのように頬を膨らませる雫さんの様子に苦笑をしつつ、指をパチリと鳴らす。その瞬間、パンと水針の刺さっていた木の棒は弾けて砕け散る。


『お〜? 今のはなんですか?』


『炎球とかって、爆発とかゲームではするだろ? 現実ではなんで爆発しないのか、ずっと不思議だったんだ。全力でマナを固定化させて、着弾させたときに弾けさせれば良いと気づいたんだ。……だが、爆発は使えないかもなぁ。ほら、敵に着弾させたあとだから、どうしても威力が減衰するんだよな』


『………迫撃砲を連打できるように、ついになってしまいましたか。誰にも気づかれなかったのは残念ですが』


 ジト目で見てくる雫だが、これはちょっと使い方が難しい。爆発って味方を巻き込むからな。敵の集団のみしかいないときに使うか。






 1か月間、爆発系統って、敵しかいない場合は使える魔法だよなと、ゴブリンキングを吹き飛ばしたり、やっぱり普通のほうが使いやすいかと、ブレードタイガーを『魔法刃嵐マジックストーム』にて反対に切り裂いてやったりしながら、1日1個ペースでダンジョンを攻略していった。


 途中でダンジョンが尽きて、ほうぼうを走り回ったりもした。影烏に影拠点転移のポイント設置をして、神奈川廃墟街辺りに飛ばして、転移して今後もダンジョン攻略を続けていく予定。


 なぜか花梨に渡す予定であったポーションが3本もなくなったから、花梨へと渡すためにも稼いだのだ。ポーションは影猫が見張っていたのに、怪しい奴は感知しなかったんだ。凄腕に盗まれたらしい。


 擬装のために米袋に入れて、花梨に渡そうとしたら、箱の中身が空だったのだ。影猫に気づかれずに侵入できるのはマナの気配も隠すことができるスキル持ちだと雫に教えてもらったが、そうではなかった。


「さきもりしゃん、もっとじゅーすくだしゃい!」


 と、幼女が俺に元気よくお願いをしてきたので、話を聞いたら犯人だった。なるほどと納得しちまったぜ。俺の設定した条件は怪しい奴を見つけたら、連絡してくること、だった。幼女は怪しい人物には入らなかったのである。


 炎魔法スキルを持っているらしい。固有スキルは聞かないことにした。この娘のスキルは聞かないほうが良いはずだ。


 炎のスキルは平凡だ。致命的な弱点はない。……が、幼女が炎の魔法を使うなんて危ないことこの上ないので、どれぐらい使えるか試したら、手の周りを程よい温度に暖かくするだけだった。エアコンじゃないかと不思議に思って、好奇心が湧いて2にしたが部屋一つを暖かくするだけだった。ますます興味を持って3にしたが、家を暖かくするだけだった。


 家を暖かくする魔法らしい。幼女だから、危ない炎は本能で使わないのか、それとも特殊な炎魔法かは分からないが、便利なので1日2回かけてもらっている。効果時間は半日だから、それで保つのである。今では、自分の住む家の階層と俺の家にかけてもらっている。


 便利な魔法だなと、お礼にステータスポーションを一瓶あげた。やはり家屋全体にかけるとなると、マナをたくさん使うだろうし。総合ステータスは600になったと思う。たんにポーションを与えただけではない。たぶん、幼女が必要としたからだと考えたのだ。彼女は幸運の星の下にいるからな。


 それにマナや闘気をも隠蔽できる奴がいる可能性も示してくれた。それの対抗策として、雫さんの意見を聞いて少しだけうちには仕掛けをしてある。


 そうこうして、防人たちが冬を過ごしている間に、練習の成果は発揮された。


 ダンジョン3層にて、天津ヶ原コーポレーションの選抜部隊は魔物と対峙していた。


 ゴブリンナイト3体とゴブリンシャーマン3体。既にシャーマンは矢により頭を貫かれて倒れ伏しており、ナイト3体のみが残っている。


 対するは全てが鉄で作られている金属製の頑丈な槍を手に持つ部隊だ。3対3。人の方も3人だ。緊張状態で。


「ゴォォ!」


 鉄板を貼り付けたような継ぎ接ぎだらけの鎧を着込むゴブリンナイトが雄叫びをあげて、間合いを詰めようと鈍重そうな見かけによらず、素早い動きで槍持ちへと走り出す。


「新本多忠勝ファイブ参る」


 先頭に立つ大木君が負けずに咆哮する。


 前傾姿勢で槍を突き出す。力強い槍の突きはナイトの首元に迫るが、ナイトは剣を振り弾き返す。すぐに槍を引き戻すと強く左足を踏み込み、身体を捻り、その捻じりを腕に伝えて横薙ぎに槍を振るう。


 ゴブリンナイトの胴体に槍が当たり、その身体を揺らがせると、跳ね返る反動を利用して回転すると、反対側から槍を頭に叩き込む。ゴブリンナイトの意識が朦朧とした瞬間に、その首元に突きを入れる。コボッと口から血を吹き出して倒れ伏すのであった。


「やった〜。倒しました!」


 遂に一人でDランクを倒せて喜び飛び跳ねる。


 華が。


 他の面々は一人では無理なので、他の仲間が助けに入って、なんとか倒していた。


「うむ、まぁ、良いのではないか? 12人チームで戦えば問題ないのじゃ。槍持ち6人、弓兵5、斥候1じゃな!」


 大木君がナイトの攻撃で槍越しに吹き飛ばされたが、それは見ないことにして、雪花は胸を張る。まぁ、華はともかくとして、大木君も死ななかったし、大怪我も負わなかった。そして他の連中も2人がかりなら、ナイトを倒せた。充分すぎる成果だ。


「まぁ……これならいけるか? 順次、レベル1の奴らを集めて鍛えていってくれ。使えそうな奴はステータスアップポーションをプレゼントだ。これでDランクも稼げるか」


「やりました、防人さん! やったぁ〜」


 華が喜ぶのを見ながら、半眼となる。純がまた涙目になりそうだぜ。華には戦闘センスがあるようだな。


 まぁ、これで冬のやることは終わりだ。そろそろ春に備えておくとするか。その前に正月をゆっくりとするかな。

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― 新着の感想 ―
幸運って他人の思考にまで影響を与えるのか 怖いな
作品全体に言えることですが、幼女にダダ甘すぎるのもちょっとどうかと思います。 変な幼女だから良かったけど、普通の幼児ならポイント変な割り振りしちゃって致命的な問題を抱えかねないです。 あと人の物勝手に…
[一言] 座敷童系かな?
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