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103話 再構築

 シンシンと雪が降り、大地は白く染まっており、積雪が既に20センチにはなっている。膝まで雪に潜っており、歩くのに苦労をするのは想像に難くない。


 3階建て程度の高さの、平屋のように辺りに広がる巨大な研究所のような施設と、ダンジョンが発生している証明である森林との境目にて、羽毛が入っている青色の防寒服に身を包み、頭にはフードを被りゴーグルにマスクを着けている男が寒そうに手を擦り合わせていた。隣には、やはり寒そうに青色の寒地用戦闘服に身を包んだ少女が立っている。


 二人とも背中にリュックサックを背負って、肩に自動小銃を担いでいる。天野防人と風魔花梨の二人である。


 雪花を採るイベントとやらに駆り出されて、足立区から遙か彼方。上層階級の住む多摩地区に防人は連れ出されていた。


「自動小銃を使った時点で、失格だから気をつけるにゃ、防人」


「一応安全は考えられているのな。了解だ。………しかし、内街にもダンジョンってあるんだな」


 肩に担いだ自動小銃は念の為にと渡された。保険として銃を持っていれば、死ぬ可能性は低くなるからな。この自動小銃はもう返さないぜ。


 目の前の森林の中にはダンジョンの洞穴が開いている。氷で作られている見たことがないタイプだ。いや、よくよく見ると凍りついているだけだな。花梨と一緒なので、内街はダンジョンなんかないと思っていたから意外だというフリをする。


「田畑は必要だからにゃん。ダンジョン周りって肥沃になるニャよね? だから、少数は残しておくにゃんよ」


「あれが田畑?」


 研究所のような施設には、農業ファームと書かれた看板が立てかけられている。


「そうにゃよ。何層にも分けた棚の上に土を敷き詰めて、育てているにゃんよ。根野菜は無理だけど、他はダンジョンパワーで簡単に育つからにゃ」


「そういえば、ダンジョン発生前に工場で野菜を育てるといったことが可能となっていたが、それを一歩進めたのか。技術が進んでいるようで何より」


 農奴のように人を使って広大な大地を耕す、みたいなことはしないのかと、ずっと不思議だったんだ。日本の国民性を考えると、農奴はないかと思ったが、そもそも第二次世界大戦前と後ではその国民性は20年ほどであっさりと変わった。壁を作り金持ちだけを内街に保護したんだ。その国民性も大幅に変わったと思ったんだが……。なるほどねぇ。農奴なんか必要ないわけだ。


「近くにダンジョンがないとだめだけどにゃ。今回の冬でこのダンジョンは駄目になったから、また新たにダンジョンがそばで生まれるのを待たなくちゃだにゃん。まぁ、ゴブリン程度のダンジョンならすぐ湧くにゃんよ」


 肩をすくめて寒そうに体を縮こませる花梨。たしかにそのとおりだが、なんでダンジョンが呑み込まれたんだ? 廃墟街では見たことないぞ?


『10万人以上の街にあるダンジョンが1年に1度、融合されるんです。それが融合スライムダンジョンの特徴ですね。恐らくは10個程度が融合されたはず。まぁ、ダンジョンを潰しておけば問題はありません』


『反対に管理しているダンジョンがある場合は、吸収されちまうと。リセットされるのか、もしかして?』


『はい。ゲームで例えるとシミュレーションゲームで広大な帝国を作っても、1年経ったらリセットされて、一からやり直しというやつです。全てのダンジョンが吸収されるわけではありませんが、吸収された分は数ヶ月後には一斉に、新たに発生するでしょう。ですが、このランク程度のダンジョンなら吸収されたことにより、ゴブリンたちは弱体化しているので、ボーナスダンジョンですよ』


 雫との思念のやりとりをしながら、この間雫が言っていたSランクのスペシャル魔物の出現条件を推察する。


『Sランクのスペシャル。Aランクのダンジョンとかと融合して現れるんだな? 通常Aランクなどのダンジョンは、魔物が強すぎてすぐに破壊するはずだが、もしも管理できるレベルの武力を持っていれば、希少なアイテムとか素材を取り放題だもんな』


 Aランクのダンジョンを管理できる。そんな凄まじい武力を持つ街ならば、相応のクラフトスキル持ちもいるだろう。そんな街があるとは信じられないけど。どれだけの科学力と高レベル戦闘スキル持ちがいるんだってことだ。


『そのとおりです。普段はボーナスダンジョンにしかなりませんが、その場合は『雪に蠢くモノ』と言われるスペシャルスノースライムが発生します。なので低レベルダンジョンしか管理できていないこの街は安心して良いかと。スノースライムのダンジョンは春になったら暑さで消えちゃいますからね』 


『だから、ショーとして扱われているのか。いやはや人間ってのは業が深いよな。人類を滅ぼすダンジョンでも使い道を探しちまう』


 思念を切って、疲れたように肩をすくめてため息を吐く。スペシャルスノースライムねぇ。たまに思うが、雫さんはどこの出身なのかね。未来? 別世界? まぁ、考えても仕方のないことだ。やめとこ。


「どうしたんにゃ、防人?」


「いや、問題はない。で、このスノーバイクで移動すりゃいいのか?」


 花梨がコテンと首を傾げるのでかぶりを振ると、雪のうえに置かれている新品のメタリックの光沢を見せるバイクを指し示す。スノーバイクだ。雪の中で移動するにはもってこいだ。もちろん、俺は運転免許なんかないぞ。


「そうにゃ。あちしが運転するから、防人はしがみついていれば良いにゃんこ」


「オーケーだ。それじゃ目標はスノーダンジョンの大ボススノースライム……ではなくて他のボスだからな? ダンジョンコアを荒稼ぎしたいんだ。手を抜いたら、腰にしがみつくのをやめて、もっと持ちやすいところに手を添えるからよろしく」


 手をワキワキと動かしてニヤリと笑ってやると、花梨は苦笑をして頷く。


「両方の意味でセリカに恨まれるから、手抜きはやめておくにゃんよ」


「もう影蛇に最短ルートを探らせてあるから、俺の指示通りに進むんだぞ?」


「早くも不正の自白……。相変わらずズルい男にゃ、防人は」


「今回の俺は花梨が雇った荷物持ちだからな。大量の荷物を運ばないといけないんだよ」


 花梨が前に座り、俺は後ろに座る。かなり大型のタイプのバイクはゆったりとしており、座っても狭くはない。


「バイト料が高い気がするニャンけど、準備はオーケーにゃ?」


「大丈夫だ。問題はない」


 アクセルを吹かせて、ドルルとエンジン音が響き、振動で身体が揺れる。


 レンタルされた通信機からは、なにやら司会進行役ががなりたてているが興味はない。あるのはスタートの合図だけだ。


 タブレット端末も特に持ってはいない。放送衛星が破壊されて以来、内街の範囲しか使えないから借りパクしても使い道がない。恐らくは他の連中はタブレット端末で馬鹿騒ぎをする中継とか見ているんだろうが。ハードボイルドなおっさんは気にしないのだ。


「開始から8時間で終了。今までの最速時間は5時間56分か。意外と時間食うんだな」


 開始が8時だから夕方には終わる見込みだ。にしても、スノーバイクがあればすぐにクリアできそうなんだが。


「Dランクの魔物は素早いし不意打ちでスノーバイクを壊すからにゃ。そこからは歩きにゃんよ」


「なるほどな。それと……俺たちのいるダンジョン入口は、他の参加者が見えないんだけど? 32個もダンジョン入口ってあるのか? そんなに融合したん?」


「今回融合したダンジョンは9個。氷の洞窟になっているからわかるニャン。スノースライムのダンジョン入口は使わないから、9個に公正にチームは配置されているにゃ」


 公正に、ねぇ。


「チームはだいたい何人ぐらいだ?」


「カメラマンを入れて、12人にゃね。ルールとは別にテレビ映えするようにカメラマンを連れているにゃ」


「そりゃいいね。俺たちは大人数でこれから攻略か」


 肩をすくめて、不敵に笑う。セリカも大変だねぇ。


「あちしらのオッズは最高にゃ」


「映画や小説なら、そこで逆転して優勝なんだろうが、適当に遊ぶぞ。逆境に燃えるほど若くはないんでね」


「期待はしていないから大丈夫にゃんこ」


 うにゃにゃと笑う花梨。ならば、なぜ俺を勧誘したのか理由がわからないな。………セリカめ、俺を使えない弱い奴だと内街の連中にアピールしたいのか? それなら理由はわかるが、まぁ、乗ってやると決めたんだ。


 通信機から、スタートですと声が聞こえて、花梨が発進させる。積雪を蹴散らして、一気に氷の洞窟へと入っていく。花梨の腹をしっかりと掴み、周りを確認する。


 洞窟の中だというのに、地面には雪が積もっており、スノーバイクの走った跡が残る。天井や壁は凍りついて、キラキラと光を反射して真昼のように明るい。氷のダンジョンってやつだ。


 幻想的な光景に見とれてしまう。なかなか見られないよな、こういう光景。


「スノーゴブリンにゃ!」


「あれは凍えているゴブリンっていうんだよ」


 前方に現れたゴブリンに花梨が注意を促すが、新種じゃないだろ。何しろ積雪の中を震えながらゆっくりと歩いてきている。アーチャーは手がかじかんでいるのか、弓を持っていない。哀れすぎるだろ。


「花梨、フルスロットルで突き進め。魔物はすべてスルーする! 道を案内するから不意打ちも気にするな!」


「了解にゃん!」


 スノーバイクをかっ飛ばして、魔物たちの横を通り過ぎる。ゴブリンたちが棍棒を振り上げる時には横をすり抜けていく。


 憎々しげにゴブリンたちが追いかけようとしてくるが、スノーバイクには追いつけない。そうして、既に調査の終えたダンジョンを俺たちは突き進み、氷の坂道を下っていく。


「そろそろゴブリンナイトやゴブリンシャーマンが出てくるはずにゃよ?」


「問題はない」


 3階層に入って、花梨が叫ぶが大丈夫だ。高いステータスを誇るナイトやシャーマンたちならば、それほど弱体化していないはずだが、俺は手のひらにマナを溜めるフリをして、通路の先から現れるナイトたちへと手を翳す。


「スノースネア!」


 その言葉と共にナイトやシャーマンたちはビクンと体を震わせてバタバタと倒れて雪の中に埋まる。


 慌てて敵は立ち上がろうとするが、やはりスノーバイクの速さは偉大で、無視をして通り過ぎることに成功する。


「い、今のなんにゃ?」


「俺の得意魔法。『雪転倒スノースネア』だな。敵は転ぶ」


 驚く花梨へとしれっと答える。転倒させればスノーバイクなら簡単に無視できる。俺たちしかいないからできる技だな。大人数ならば、誰かが捕まっていたかもしれん。


「そんな魔法も使えたのかにゃ? あちしは初めて聞いたんだけど」


「ソロで攻略するには、こういった魔法を使いこなす必要があるんだ。ボスのキングたちもそれでいくから、前衛よろしく」


「う〜ん……了解にゃ。どちらに転んでも大丈夫なように動いていたから、問題はないにゃんこ」


 花梨もしれっとした表情で、あっさりと頷く。狐と狸の化かしあい。俺の力がバレても、弱いと思われても、どちらでも良いってことか。


 いつものことだ。それよりもダンジョンコアを全て欲しい。


「ボスも全員転がすからな。しっかりと倒していけよ」


「そういうのは大得意にゃん。よろしくすべてを倒していくから安心してにゃん」


「頼んだぜ」


 二人で笑いあうとどんどん先に進む。弱体化したキングなぞ雑魚にしかならない。他のダンジョンボスも漏れなく倒していく。目標は3時間内だぜ。


「ちー」


 どこからかハツカネズミのような可愛らしい鳴き声がしたが、スノーバイクのエンジン音に遮られて誰も気づきはしなかった。

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[気になる点] オッズは最低じゃなくて最高の間違いでは? 猫が間違えるのは分かるけどおじさんが指摘しないのは違和感
[一言] 内街にもコアストアーを設置している防人は、内街にダンジョンがあることを知っているはずですが 花梨を誤魔化すための演技ですか?
[一言] ゴブリン…かわいそうだ…
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