愛する人に守られてわたくしも幸せになります。
オルド第二王子との婚約破棄、フィルディス王と王妃が外遊から戻って来て、正式に王家から申し入れがあった。
それと同時にスタンシード公爵が長男、ベルトレッドとの婚約をシーリアに申し入れて来た。
レドモンド公爵としては、複雑な心境だったようだが、シーリアに向かって。
「仕方がない。スタンシード公爵家の権力は日毎に、大きくなってきている。
最近、急に増長したようだ。
我が公爵家も逆らえない位に他の貴族達も取り込んでいる。何より王家もいいなりだ。良いのではないか。シーリアがスタンシード公爵家に嫁いでくれれば、我が公爵家も安泰であろう。」
スタンシード公爵家に対して気概を持っていたレドモンド公爵も弱気の発言をした。
シーリアも同意して頷く。
「そうですわね。ベルトレッド様は怖い方です。わたくしは逆らうことなく、婚約を受け入れようと思います。」
しかし、シーリアは不安だった。
自分はどんな扱いを受けるのであろう。
婚約してからのベルトレッドは優しかった。それもシーリアだけにである。
婚約が結ばれると、学園ではシーリアを常に気遣い、昼ごはんも一緒に食べて。
共に図書館で勉学に励んだ。
休みになると、デートに誘われ、ドレスやアクセサリー等、色々な物をプレゼントされた。
とある休日、仲良くベルトレッドと買い物をしていると、そこへオルド第二王子が、
ラミア・シュレイド男爵令嬢と共に馬車から降りて、声をかけてきた。
「ベルトレッドと婚約したそうだな。シーリア。」
ベルトレッドがオルド第二王子の前に進み出て、
「これはオルド殿下。何用でしょうか?シーリア嬢は婚約破棄を殿下にされたのです。
私が婚約を申し込んで、それをシーリア嬢が受け入れた事に何か問題でもあるのでしょうか?」
「ふん。問題などない。行くぞ。ラミア。」
これ見よがしに、ラミアと腕を組んで、馬車に再び乗り込むオルド。
シーリアは呆れてしまう。
「本当に何用だったのでしょう。」
「君の事が気になるのであろう。私と仲良くしていることが気に食わないかもしれぬな。」
「まぁ…」
オルドに今更何を思われようとも、まったく関心がない。今、シーリアが関心があるのは、ベルトレッドだけである。
その夜、夜会にも連れて行って貰う。
ベルトレッドがプレゼントしてくれた豪華な真紅のドレスを身にまとって、現れれば、
会場の皆から、賞賛の声が上がる。漆黒の髪に色の白いシーリアに、そのドレスは良く似合っていた。
ベルトレッドも、シーリアをエスコートしながら、誇らしげに。
「本当に君は美しい。私は君と結婚出来る事を誇りに思う。」
「有難うございます。嬉しいですわ。」
他の貴族達はスタンシード公爵家の怖さを知っているのであろう。
婚約者だと、シーリアをベルトレッドが紹介すれば、皆、口々に祝いを述べた。
そして、将来の王妃になるであろうエレシア・スタンシード公爵令嬢。
今まで付き合いがなかった令嬢だが、スタンシード公爵家に招待されて、
そこで、とても仲良くなった。
エレシアは嬉しそうに微笑んで、
「貴方みたいな素敵なお義姉様が出来るなんてわたくし嬉しいですわ。」
「まぁ。エレシア様にそうおっしゃって頂けるなんて。」
そして、エレシアは口元を扇で隠して、小さな声で。
「邪魔者がいたらお兄様に報告を。我がスタンシード公爵家に出来ぬ事はありませんわ。父も貴方の父上の事、とても評価なさっておいでです。勿論、裏切ったらどうなるか…お父上にくれぐれも、我がスタンシード公爵家を敵に回さぬよう、釘を刺しておいて下さいませ。
そうですわね。あなたのお兄様。場合によってはこちらへ戻して差し上げてもよろしくてよ。
我が公爵家の身内になる方のお兄様ですもの。少しは情をかけて差し上げなくてはね。」
あああ…このスタンシード公爵家は…兄妹揃って、なんて恐ろしいのでしょう。
でも、味方にすれば、なんと頼もしい。
シーリアは頭を下げて。
「決して逆らいませんわ。わたくしもそして父も。ですから、兄の事、どうかよろしくお願い致します。本当にエレシア様の悪口を言うなんて、兄はどうしようもない男ですわ。わたくしはエレシア様の事、とても好いておりますのよ。」
エレシアの手を握り締める。
エレシアは心から嬉しそうに微笑んだ。
スタンシード公爵家はシーリアに取って怖い存在だったが、
それと同時に幸せでもあった。スタンシード公爵家はシーリアや、父レドモンド公爵をとても大事にしてくれる。
とある日、教室でシーリアが帰り支度をしていれば、急にオルド第二王子が教室に入って来て、シーリアの腕を掴み。
「シーリア。私が悪かった。あの男爵令嬢は他に男がいたのだ。だから、もう一度、私と婚約をしてほしい。」
「え???それは困りますわ。」
なんて虫のいい話であろう。
今、シーリアはベルトレッドの婚約者なのだ。
いかに王家とは言え、それは横暴ではないのか。
困っていると、ベルトレッドがエレシアと共に入って来て、
オルド第二王子の前に立ちはだかり、
ベルトレッドが一言。
「オルド様は我が公爵家の怖さを兄上や父上から聞いていらっしゃらないようで。」
「何の事だ?」
エレシアが扇で口元を隠しながら。
「我が公爵家を怒らせると、どうなるか…。我が公爵家は王家の影を取り仕切っているのですわ。」
オルド第二王子は頷いて。
「それは知っている。影は王家の為に汚い仕事もやってくれるのであろう。」
ベルトレッドは、オルド第二王子に、それはもう冷たい口調で。
「王家の為に働いてはいますが、しかし、我がスタンシード公爵家に害を及ぼすならば、貴方には死んでもらうしかありますまい。」
エレシアもにっこり微笑んで。
「そうフィルディス王にも、カルナード様にも言いましたなら、真っ青になっておりましたわ。レドモンド公爵家はスタンシード公爵家の物。従ってシーリアは兄上の物。貴方様は敵認定ですわね。」
オルド第二王子は真っ青になって。
「わ、解った。申し訳なかった。シーリアには手出ししない。」
慌ててオルド第二王子は逃げて行った。
シーリアはベルトレッドに抱き着いて。
「有難うございます。ベルトレッド様。そしてエレシア様。」
ベルトレッドは優しく髪を撫でてくれた。
「愛しいシーリアを守る事は当たり前の事だ。」
エレシアも背後から優しく声をかけてくれて、
「そうよ。貴方は大切なわたくしの義姉上なのですから。」
幸せだった。愛しいベルトレッドは守ってくれた。大好きなエレシアも守ってくれた。
いつか自分も二人を守ってあげられるような存在になりたい。
支えて差し上げるような存在になりたい。
2年後、エレシアがカルナード王太子殿下と結婚したと同時に、シーリアもベルトレッドと結婚し、スタンシード公爵家に嫁いだ。
ベルトレッドは、スタンシード公爵譲りの有能な男で、
エレシアと共に陰で王家を操り、それを宰相のレドモンド公爵も、そしてベルトレットの妻であるシーリアも良く支えた。
シーリアの兄のルークは辺境警備隊から戻して貰えて、レドモンド公爵家を継ぐことが出来た。
カルナード王太子が若くして王になると、フィルディス王国は有能な二公爵家のお陰で、今まで類を見ない位に栄えた。
シーリアの元婚約者のオルドは、その後、金銭関係と女性関係で不祥事を起こして、
王家を廃嫡されて、平民に落とされた。
平民になった彼のその後は誰も解らない。
もしかしたら、スタンシード公爵家によって亡き者にされているかもしれない。
そして、今、シーリアはベルトレッドとの間に可愛い赤ちゃんがお腹にいる。
「ねぇ、貴方…。わたくしとても幸せよ。」
「そうか?無理やり、脅すように妻にして、私は申し訳なく思っているが。」
「そうね。でもそれ以上に貴方はわたくしを大切にしてくださった。エレシア様にもよくして貰えたわ。だから…とても幸せよ。」
「有難う。シーリア。」
シーリアはベルトレッドに愛されて、沢山の子宝にも恵まれ、幸せな生涯を送ったとされている。




