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スタンシード公爵令息から婚約申し込みされましたわ。

シーリア・レドモンド公爵令嬢は、学園から馬車で急ぎ帰宅していた。

急がなくては急がなくては。

屋敷へ着くと、扉をバンと開き、中へ飛び込む。

出迎えた使用人達を手で制して、結い上げた黒髪を振り乱し、ドレスの裾をたくし上げ、廊下を走る。

公爵令嬢にあるまじき行動だが仕方がない。


今日はフィルディス王国の宰相の父は、休みで屋敷に昼もいるはずである。

父の書斎の扉をバンと開けて、


「父上。外遊から王が帰ってくる前に、この手続きを済ませて下さいませ。」


書斎の机の前に座っていた父、レドモンド公爵に書類を急ぎ差し出す。


そこには、この国の第二王子、オルド王子のサインがしてあり、

王家の契約書類で、レドモンド公爵家シーリアとの婚約破棄を命じると書いてあった。


レドモンド公爵は驚いて、


「当然、フィルディス王と王妃様は知らないのであろうな。」


シーリアははっきりと断言する。


「それはそうです。つい先程、教室で言われた事です。わたくしは、この婚約破棄、とても嬉しく存じます。だって、オルド様はどの令嬢にも優しくて、モテますもの。わたくしを婚約者だからといって特別扱いして下さった事、ありませんでしたわ。」


そもそも王家は昔から宰相を務めるレドモンド公爵を重用しており、娘のシーリアを第二王子オルドの婚約者とすることを、シーリアが幼い頃から決めていた。


「お父様。わたくしは、一度もオルド様を愛しく思った事はありませんわ。

あんな誰にでも優しいどうしようもない男。婚約破棄を言ってくれて万歳ですわ。

今回は真実の愛を見つけたとの事。とても嬉しく思っております。

だから、この機会を逃さずに。どうかお願いですから。婚約破棄を受け入れて下さいませ。

王の耳に入りましたら、反対するに決まっております。」


レドモンド公爵は困ったように、


「これは政略だ。お前の気持ちは解るが、王家と縁続きになる事は、我が家にとって有難い事だ。お前の兄ルークは、王太子殿下の婚約者でもあるスタンシード公爵令嬢の悪口を言っていた罪により、辺境警備隊に飛ばされしまった。ここで、スタンシード公爵家と我が公爵家の差を広げたくはない。だから、私は王が帰って来たら相談しようと思う。婚約破棄をされないようにな。」


「お父様。わたくしは嫌でございます。」


父の言う事は良く解る。政略だって事も良く解っているつもりだ。


だが、どうしてもあの誰にでも優しいオルド第二王子が、シーリアは元々好きになれなかった。

オルドはとても優しい。良く花を贈ってくれるし、デートにも連れて行ってくれる。

だが、他の令嬢数人とも、同様に仲良くしているどうしようもない王子なのだ。


レドモンド公爵は宥めるように、


「シーリア。我慢をしておくれ。我が公爵家の存亡がかかっているのだ。いいな。」


悲しくて悲しくて涙が流れる。


シーリアは、頷いて、自室に戻り、ベットに突っ伏して泣いた。


シーリアの母は早く亡くなり、父が再婚もせずに自分と兄ルークを育ててくれた。

出世をし、国の宰相と言う重職に就きながらも、子供達には時間が許す限り愛情を注いでくれた優しい父である。


父が焦る気持ちは解る。

王家の影の総責任者であるスタンシード公爵。

宰相としての仕事に、スタンシード公爵が反対を唱える事もあり、

レドモンド公爵にとって、目の上のコブであるスタンシード公爵であった。


スタンシード公爵令嬢エレシアは、カルナード王太子殿下の婚約者であり、

未来の王妃である。


せめて、シーリアにはオルド第二王子の妻となってもらい、スタンシード公爵家を増長させないように、宰相として釘を刺したいという気持ちがレドモンド公爵にはあった。


それが痛い程解っているから、これ以上何も言えない。


婚約破棄の理由は、本当に愛しい女性が出来たというよくある理由である。

しかし、婚約破棄をオルド第二王子から言われた時はとても嬉しかった。

あの誰にでも優しいどうしようもない王子と、結婚していい関係が築けるとは思っていなかったし、ましてや、愛しい女性が出来たとならば、余計、結婚したいと思えなくなっていた。


フィルディス王と王妃が外遊から帰って来たら、必ず婚約破棄に反対される。

だから、父に頼んで急いで受け入れて貰おうと思ったのに。



翌日、学園へ行ってみれば、オルド第二王子は、ラミア・シュレイド男爵令嬢と仲良く手を繋いで廊下を歩いていた。


シーリアを見ると、オルド第二王子は一言、


「この女性が私が愛しているラミア・シュレイド男爵令嬢だ。美しいだろう。」


ピンクの髪の胸の大きい令嬢は、シーリアの方をこれ見よがしに見ながら、微笑んで。


「ラミアです。わたくし、殿下の真実の愛の相手なのですのよ。」


愛し気にオルド第二王子は、ラミアの頬を撫でながら、


「必ず、父上母上にシーリアとの婚約破棄を認めさせて、ラミアを娶る事を約束しよう。」


「嬉しいですわ。オルド様。」


大した美人とは思えないが、シーリアに取ってどうでもよかった。

婚約破棄を受け入れたい。今はその思いで一杯で。


いちゃつく二人を無視して、教室の中に入る。

まだ朝が早いという事で、誰もいなかった。


ハァとため息をついて、教室の席に座っていれば、声をかけられる。


「婚約破棄を受け入れたくはないだろうな。君の父上は。」


声をかけてきた相手を見ればそれは、今年3年生になるスタンシード公爵令息、ベルトレッド・スタンシードである。


金髪ですみれ色の瞳の彼は、美男のカルナード王太子殿下と並んで、女性に人気のある男性であり、王太子の婚約者、エレシア・スタンシードの兄であった。


「ベルトレッド様でしたわね。確か。」


「私がベルトレッド・スタンシードだ。」


スタンシード公爵令息が自分に何の用があるのだろう。父の政敵ではないか?

ちなみに、エレシア・スタンシード公爵令嬢と、シーリアは付き合いがない。

クラスが違うので接点が無いのと、夜会で見かけても、互いに政敵の娘なので、

接点を持たないようにしていた。


よって、スタンシード公爵令息であるベルトレッドとも話を今までした事はない。

顔位は見かけた事はあるが、彼もモテていて、夜会でも学園でも色々な令嬢に囲まれていた。

何故か未だに彼に婚約者がいないのが不思議なくらいである。


シーリアは首を傾げて、


「わたくしに何の用かしら。」


「オルドの婚約破棄、私が力を貸そうか?」


「え?」


「勿論、こちらの思惑もあるがね。」


「お断りします。わたくし、我慢する事にしたのです。これ以上、国をスタンシード公爵家の思うがままにしたくはありませんわ。」


ベルトレッドに髪を触られた。

優しく頭を撫でられる。


「美しい黒髪だ。シーリア嬢。私の婚約者になって貰えないだろうか。」


「スタンシード公爵家は、レドモンド公爵家を取り込もうとしているのですね。」


耳元に唇を寄せられて、


「王家の影、知っているだろう。我が公爵家がその支配の責任者だという事も。

本当にレドモンド公爵家が邪魔ならば、君の父上は生きていないだろう。

利用価値があるから生かしている。そして、君も…

オルドにくれてやるのはもったいない。そう思っていた。

私の物になれ。シーリア。断ったその時は、どうなるか…。君の兄上は命があっただけでも儲けものだったな。フフフフフ。」


ぞっとした。スタンシード公爵家は恐ろしい力を持っている。

頷くしかなかった。


「解りましたわ。オルド殿下との婚約破棄を我が公爵家が受け入れられるようにして下されば、貴方様の物になります。それで父とわたくしを生かして下さいますわね?」


「勿論だ。やっとシーリアが私の物になる。なんて幸せなんだろう。」


いつから、彼に執着されていたのか、シーリアは心当たりが無かった。

だが、彼に逆らう事は得策ではない。


頬にチュッとキスを落とされて、教室を出て行く、ベルトレッド・スタンシードの背を見送るしかなかった。


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