傷
傷つきたかった女の子がいた。
傷つけたかった男の子がいた。
「利害の一致。」
「だね。」
被害者と加害者は、笑い合った。
「行くよ。」
「ん。いつでも、どうぞ。」
男の子は、手に、銀色がよく光る刃物を持っていた。
女の子は、笑っていた。
――どん。
女の子の腹部に、白い服越しに、赤が浮かんだ。
「これで、終わ、り、…………」
息がだんだんと上がってきても、女の子は笑っていた。
「…………こんなもんか。」
男の子は、息を吐くようにそう言った。
「ごめ、んね。」
まだ刃物を手にしている男の子の手を、女の子は優しく、まだ温かい手で包んだ。
「ありがと、う――」
だんだんと冷たくなる手が、いつかするりと落ちて、体ごと後ろに倒れる。刃物が抜けた場所から、血飛沫が上がる。
独り。部屋に取り残された男の子。
「思ってたのと、違う……。相手が嫌がらないと、意味がない……?」
息が止まって、冷たくなった女の子の横に座って、女の子の頬を撫でた。
「嫌がる相手を、合法的に……ああ、」
何かに気付いたように、男の子は、左手で女の子の頬に触れながら、右手で、赤い刃物を持って、ひとつ。
――どん。
「傷付くのを、嫌がるのは、俺か。」
まだ力が入る右手で、自分の中に刃物をねじ込む。その度に体は痛みを、心が快感を味わう。
「傷付けるって、こういう、こと、か――」
やっと理解した男の子は、刃物が刺さったまま床に倒れ込んだ。
赤が床に広がって、女の子の赤と混ざった時。
二人の意識がこの世から消えた。
本当に傷を付けたかったのは――