魔法
予想より上手くいったな。
突然やってきた兵など警戒してしかるべきだろうに。
ボルテの補給線断絶もうまくいったらしい。
こっから先、よりこちらのペースに持っていける!
アシュカーとハルンゲストは補給線が絶たれたことを知ると、狼狽した。
兵は醜い同士討ちのせいで多くが還らぬものとなった。補給線が絶たれた以上、食料は現地調達するしかなかった。二人がすぐ近くにある敵首都、ホランを目指したのは必然であった。
ホルンへ着くと、その中はもぬけの殻だった。
魔物はおろか、食料は皆無だった。
二人の焦りは最高潮に達した。
食料はない、冬に近づいて日を追うごとにどんどん寒くなってきている。
この辺りの気候変動は激しいのだ。
二人は1時間ほどの作戦会議を経て、全面撤退を決意した。遅い判断ではあったが。
ホランをでて真っ直ぐ母国へ向かった。
食料不足により飢餓で倒れるもの、寒さで凍え死ぬもの、病にかかるもの。多くを失いつつ走り続けた。途中で何度も魔物たちのゲリラ襲撃をうけ、ついに母国の土を踏むことができたのは1500を下回った。
一方、カルン軍はゲリラ戦術の際に失ったゴブリン22名、オーク8名のみだった。
テレシアは大打撃を被った。
しばらく出兵は不可能だろう。
ヴォロイ王国に対する食料負債の件もある。これにより我らカルンはしばらく安泰だろうな。
城へ戻るとヴィルヘルム様は俺に土地をくれた、と言っても辺境だが。だが海もある、発展しやすいな。
ヴィルヘルム様は
「この土地を卿に預ける、発展させこれからも余のため、いやこの国のために尽くしてくれ。それと魔法指南長のゲルーテンとあとで会ってくれ。いろいろしてもらうことがある」
魔法指南長?
なぜ俺が会わねばならんのだろう?魔法なんて使えないのにな、、、。
魔法指南長の研究室、ゲルーテンがいる部屋へ入った。
異様な姿をした二足歩行の猫が仁王立ちしていた。魔物の国だからこんなものだろうとは思っていたが、猫が魔法指南長ねー、、、。
猫は突然
「あんた馬鹿にしてるじゃろ」
老婆のようなしがれた声で言われたもんだから正直驚いた。
「ま、まさかそんなことはありませんからご安心を」
苛立ったようにその猫は
「まぁいいわ。あたしが魔法指南長のゲルーテンよ。
あんたを呼んだのは言うまでもなく、『魔法』についてよ」
予想はしていたがなぜ俺になんだ?魔法なんて使えない一介の人間なのにな
「うーん、小官は魔法など使えませんが?」
ゲルーテンは
「いやそれがな、御前会議の際に見たのだがあんたには普通の人間にはない『何か』がある。で、最近実験していた薬があるのだが、それを飲んでみてもらいたいんじゃよ」
はぁ?実験台かよ、、、。かと言って拒否するわけにも行かないし。
「命の危険がないのならお受けしますが?」
「大丈夫じゃ、、、多分」
多分?そんなことじゃ困る!と思って断ろうとしたら後ろからいつの間にかいたオーガ二人に取り押さえられ強制的に飲まされた。意識が遠くなっていく中、こんな人生の終わり方あってたまるかと思ったがどうしようもない。
意識が戻るとさっきの魔法指南長室に仰向けになっていた。こちらを眺めているゲルーテンが
「さ、成功か見せてくれ」
と言ってきた。命は助かったみたいだが、別なピンチに陥ったかな?
ゆっくりと立ち上がるとゲルーテンが炎を出せる魔法の詠唱を教えてくれた。
試しに置かれていた的に向かって言われた通りにするとまさかとは思ったが手の数センチ先から炎がでて窓を燃やした。
ゲルーテンは成功じゃ!と躍り狂っていた。
正直何が起こっていたかいまいちわからなかった。
普通こういうのってもうすこし頑張って手に入れるものだと思っていた。
でも手に入れたことは素直に嬉しかった。
ゲルーテンに散々練習させられ地獄を見たが