上官
ボルテは一介のオークだ。
魔王の国カルンで庶民の家から六男として生まれた。兄弟が40人いるなかでは上であったし、かといって家を残すことに気を使う必要もない立場であったから、給料のいい軍隊入りをするのは当然といえば当然だったのかもしれない。
体は普通のオークよりも大きく、戦いになると戦果をあげることができた。しかし30名規模の小隊長として昇進したはいいが、自らの母国のカルンが滅亡に危機を迎えた。
ヴィルヘルムが勇者に敗北し力が弱まったことにより、広かった土地は年々小さくなり500年たった今では500年前の何十分の一にもなってしまっていた。
ボルテは自分の死を決めた。
そんな中、ある一人の人間が御前会議に引っ張り出されていた。その人間はヴィルヘルム様に対しても一歩も引くこともなく話している、と彼は感心した。それだけにとどまらず、我々の軍の作戦をいつも考えているカルド様の作戦案を否定するのか、と驚きも隠せなかった。そして、その人間をヴィルヘルム様が登用したことも。
彼はそのままその人間の補佐を命じられた。
ボルテはその人間に興味はあった。だが正直、信用もおけなかった。だが自分の上官だ。従うのが筋だと思った、いや思うことにした。
「カイン隊長!偵察に行かれるのですか?」
僕の上官は答えた
「ああ、そうだ。悪いが足の速い奴を30名出陣の準備をさせてくれ」
「承知いたしました!」
与えられた命令は遂行する。
これが僕にできる最低限のことだ。
急いでメンバーを集め、準備をさせて隊長のところへ行った。
メンバーを見渡すと隊長は
「諸君ら!俺が信用ならないのは重々承知している。だが、俺はこの国で戦うことを決めた。給料分は働くつもりだ!だから、面従腹背の心持ちでいい。従ってくれ。」
皆、思うことがあるのだろう。しばらくの沈黙の後、各々肯定の意思を示した。
「ありがとう、ではこれから偵察に向かう。敵に見つからないように、敵情を探るぞ!」
偵察できる位置まで静かに移動した。移動してからの隊長の動きは手慣れたものだった。
そしてしばらく偵察を続けていると足音がした。
すぐさまに足音の主を捕縛したが、隊長は情報は聞き出そうとした。すぐに口を開いたものだから、正直魔物はそんなに口は軽くないぞと思いつつ、その姿を見ていた。
しばらく考えたようなそぶりを見せていた隊長は突然、
「これから陛下の城へ帰るぞ。ついてこい。」
そして振り返ったのでこの兵たちをどうするか聴こうとすると
「あ、その兵たちは殺しておけ」
と命令された。
命令通り殺して後を追っている時僕は、人間に対する甘さがないことに安心するとともに、この人に対する恐ろしさを覚えた。
この人は、例え味方であってもこうなのではないか?と、
ただそれ以上に自らの隊長を信頼することができた。
『人間は魔物の敵』と教えられてきた。実際、戦争の相手は人間だった。敵は人間だった。つい昨日まで。
だがこの人間を見ると、いい意味でも悪い意味でも自分たちに近いのではないか、人間とは自分たちとそう遠くない存在なのではと思った。
陛下への上申が終わったのであろうか。隊長は喜色の笑みをうかべながら玉座の間から出てきた。
あぁ、この人は僕たちに近い存在なのだなと確信に近い何かを持った。