登用
しばらくして誰かが入ってきた。
俺を運ぶ係のやつが来たのかなと思ったが、鎧に身を纏った、これまた禍々しいオーラに包まれている男がやってきた。
容姿は鬼のような姿だが、俺を運んだやつより人に似ている。
オーガか。その中でも上位のようだな。
魔王はそいつが入ってくると
「カルド、作戦案が出来上がったのか?」
そいつは地図らしきものを広げると
「ははっ!陛下、敵はそれぞれ6000〜7000の兵を引き連れた3部隊で進行しております。
我らの国の中心都市である、ホランを占領させるわけにはまいりません。今現在、動ける兵はオーク部隊600、オーガ隊100、ゴブリン隊1,200、リザードマン隊400、後方支援魔法部隊が80です!ここを戦場とし、市街戦を繰り広げるが上策かと。冬を迎えればこの国はかなり冷え込みます。それまで持ち堪えることが大切かと」
俺は驚いた。
これからする戦いの作戦だろう。この国の冬は人が耐えられるものではない。中心都市とは言えど、ここは引いて冬を待つべきだ!
俺は思わず
「そんな作戦を取れば唯一の勝機を失う!ナポレオンが侵攻した時のロシアを見習え!」
ナポレオン?ロシア?なんだそれは?
自分の言ったことが理解できなかった。とにかく落ち着き考えようとしたがその隙もなく魔王が言った
「ほう、貴様は反対か?」
作戦を進言したオーガが、(カルドとか言ったか?)こちらを睨みつけてくる。
こうなってしまったからには言うしかないだろうな
「反対だ。次の冬まで1ヶ月、それだけの軍で持たせられるとは思えない。
この城まで進軍を遅らせつつ侵攻させ、冬になり帰る敵をゲリラ戦術で減らすべきだ!」
ガルドはただでさえ赤い顔をより赤くさせ槍を向けてきた。
そこを魔王が
「カルド、そこまでにしろ!貴様、名をなんと言う?」
カルドは間髪入れず
「このような人間の言う戯言聞くまでもありません!敵の策略に決まっています!」
魔王は落ち着いて
「そう言うな、この戦は負ける、この国は無くなるだろう。では、此奴にかけてみてもいいのではないか?もう一度聴こう、貴様、いや卿の名は?」
「カイン、アレキサンドル・カインだ」
「そうか、カイン、か。余の名は、ヴィルヘルムだ。卿に頼みたい。卿が人間なのも承知してこのことを頼むのもなんだが、テレシアを撃退してくれないか?」
俺もただで同族を殺すほどお人好しではない
「代わりの条件は?」
魔王はしばらく考えたあと
「我が国の軍人として雇おう、衣食住だけでなく領地もやる。ただ、余に忠誠を誓ってもらう必要があるがな」
確かに今の俺の状況から言えば、給料がもらえ、帝国からも身を隠せる。悪くない条件だ。
「いいだろう、これからよろしく頼む。いや、頼みます。ヴィルヘルム様。」
これによって俺は人でありながら唯一の魔族の国、カルンの住人となったのである。
もっとも、カルドを筆頭にかなりの魔物達の敵意を差し向けられながらのことではあったが、、、。
俺の記憶からは、完全に「ナポレオン」「ロシア」のことは忘れ去られていた、、、