セフィロス村③
本日2回目です,
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この村で生まれたものは、決まってひとつ魔法を女神セフィロスから享受する。それは15歳になる日の昼下がり、このセフィロスの木のもとで授かるのだ。これは世界でもこの村にだけ許されたことらしく、外部の人間や獣人、魔族でさえも魔法を唱えることは出来ない。
だが彼らは魔石の埋め込まれた魔具といった物を使って剣術、体術、呪術などを学んでいるらしい。
そしてついに待ちに待った今日、僕も新しく魔法を会得する。魔法を会得した後は妙な倦怠感に支配され、睡魔に襲われるらしい。そこで1つ年上のヒューリオ達に見守られながら身体が慣れるまでのサポートをお願いしていた。
因みに驚くことに僕もルーも今日が誕生日なんで、これはもう運命じゃないかとも思っている。
「どうしたのですケイム? 体調が優れないのでしたら後日でもいいのですよ?」
「いやいやなんでもないよ! ルーと誕生日が一緒で良かったなーって思ってさ」
「そ、そうなのですか! 分かりましたです……」
折角今日この日を楽しみにしていたのに、お預け食らうなんてたまったもんじゃない。それにこの日を楽しみにしていたのは本当のことだ。なぜそうなのかと言うと、その理由は3つある
1つ目は簡単だ。魔法を早く会得したい。先程も言ったが、カルスにヒューリオ、ミーナに加え、あのポムスケでさえも魔法を使える。
使えないのは僕とルーだけ。一年間彼らの魔法を傍で見ていて早く使いたいと思うのは自明の理だろう。
そして2つ目は大人と認められるからだ。この行事は成人の儀も兼ねていて、魔法を会得すること=大人になると言うことでもある。
つまり僕も大人の一員となるのだ。いつも子供扱いされている僕からすれば、一日でも早く大人になることを望んでいたから、延期するなんて考えは毛頭ない。
最後に3つ目だが、これは家族の影響が強い。実は僕の父さんと母さんは村内で随一の大魔法使いで勇者と一緒に旅をしていたんだ。恥ずかしくて本人達には言わないけど、僕も少なからず憧れている。
今より少し昔のことだけど、人間界は魔界と戦争をしていたそうだ。最初は魔族が人間界の土地を求めて進軍して来たことが発端とされているようで、そこからは戦争の毎日だったらしい。
魔族側の頭領である魔王を討伐せんと、人間界から様々な人が名乗りを上げて勇敢に立ち向かったそうだ。
その中でも世界的に勇名を馳せたのが僕の父、マグサ=フォーンと母サラ=ロンキヌスである。彼らはこの村出身の幼なじみで、僕達と同じような青春時代を過ごしていたようだ。
そして他の人は1つしか扱えない魔法を彼らは2つも所有していたようで、これは今まで類を見ない異例の事態だったらしい。
その後紆余曲折あって、勇者達と魔王を倒しに行くのだが、今はそんなことより自分のことに集中するとしよう。憧れこそあれど、どんな能力を覚えられるかは神のみぞ知ることだ。要は運次第なので一発勝負と言うことになる。
「で、どっちが先に能力を授かるんだ?」
「ルーがお先にどうぞ。 この日が来るのを待ってたんでしょ?」
これは最初から決めていたことだ。ルーも僕と一緒でこの日を楽しみにしていたし、その証拠に目の下に軽く隈ができている。きっと昨日は楽しみで眠れなかったんだろう。
「で、でも、それはケイムにも言えるのです! だからケイムが先にやるべきなのです!」
このようになったらなかなか先に進まない。今日一番早くここにいたのもこれが理由だと思うし、僕としてはルーが先にやるよう進めるのが紳士としての務めだと思うわけで……
「どうしたらいいかな? ヒューリオ」
考えても埒が明かない。こういった状況で正しい解決策を模索してくれるのはヒューリオだ。彼なら最適解へ導いてくれるだろう。
「そうだな。 どっちが先でもいいと思うが、それはお前達からして納得いかないのだろう?」
その言葉に僕とルーは首を縦に振る。何だかんだ言って僕もルーも頭が固いのは反省すべき点だ。
「それならコイントスがいいだろう。 カルス、コインを持っているか?」
「これでいいか?」
カルスは銅のコイン(10ブロンズ)をヒューリオへ手渡した。さすがに先の一件で頭が冷えたのか、ヒューリオの指示に大人しく従っている。
「あぁ、それでいい。 いいかお前達? 何も描かれていない無印が表で、反対の女神セフィロスが描かれている方が裏だ。 表が出たらケイムが先にやれ。 その逆がルーだ。 いいな?」
僕とルーはそれで了承することにした。これならどっちになっても不公平にならない。
「異論は無いようだな。 では始めるぞ」
そう言ってヒューリオはコイントスを開始した。空高く宙を舞うコインを凝視し、それはヒューリオの手の甲へと華麗に吸い込まれていった。残念ながら表か裏か肉眼では確認することは出来なかったが、さぁ結果はどうなった!?
「「結果はどう(なのです)!?」」
「まぁそう焦るな。 今見せてやる」
「裏だな」
「「え?」」
興奮冷めやらぬこの場で冷静に発言したのはカルスだった。実際にコインを確認するとカルスの言うとおり、表面には女神セフィロスが描かれていた。僕とルーは驚きこそしたが、どうしてカルスが表裏を当てられたのかすぐに見当がついた。
「カルス君は~、『身体強化』を使ったんだね~」
「ご名答っ! ミーナの言うとおりだ!」
『身体強化』、それはカルスの使う魔法の名前だ。面白いもので普通人間は100%の力が出せないように制御されている。何故かというと、その力を解放してしまうと己の肉体が耐えることが出来ないのだそうだ。
だがカルスの使う『身体強化』という魔法は、自分の力を300%まで引き上げることが出来るもので、100%以上の力を使っても平気なのだ。
恐らく今のコイントスでは、自分の眼に魔法をかけて常人では視認できないことをやってのけたんだと思う。そうでなければおかしい。
ヒューリオはコインを空高くに弾いていたし、僕の目からしても全く分からなかった。少なくともカルスの性格上、勘で当ててはないだろう。だってカルスは嘘が下手だから。
「でも何で魔法を使ったの? カルスの体力は無限だって知ってるけど労力に見合ってないじゃないか」
「そりゃあこれからお前らも魔法を使えるようになるんだから、場を温めるのは当然のことだろう?」
どうやら彼なりの気遣いだったようだ。確かにあんな人並み外れたような力を使えるようになるなんて.....高揚感は隠しきれないだろうな。今だってルーはニヤニヤしてるし。
「どうやらルーが先で良かったようだな」
「……まさかと思うけどヒューリオも魔法を?」
「さて、どうかな?」
「ヒュー君は~、『超念力』を使ってたね~」
「なッ!? 何故それを!?」
「さて何でだろうね~」
恐らく2人とも魔法を使っていたのだ。コインが裏になっていたのはヒューリオの『超念力』が働いたのだろう。
『超念力』は簡単に言えば物体を変幻自在に操ることが出来る能力だ。恐らくカルスの『身体強化』より凶悪なものだと僕は思っている。
何故かと言うと自分独りにだけ発動する『身体強化』に比べて、『超念力』は他人に干渉するからだ。
ましてや人体の動きを拘束するなど赤子の手をひねることと同じで、危険な魔法と断言することが出来るだろう。それでも僕達はヒューリオを信じているので悪用しないということは重々承知だ。
それに余談だが、いくら危険な『超念力』だとしても、カルスと戦う場合、結果は五分五分になるのではないかと思っている。
それくらいカルスの肉体は頑丈で、カルスが本気を出せばヒューリオの魔法が効くかどうかは定かではない。
結局の所いくら想像したところで机上の空論に過ぎないので考えないほうがいい。
またミーナの魔法は『千里眼』と呼ばれるもので、真実を見極めることが出来る。普段は目を開けていないが、この魔法を使うときだけ開眼するのが特徴的だ。
真実を見極めると言っても色々なものが見えるようで、先程のコイントス同様、目に見えないものを視認したり、相手の使う魔法を分析、解析するなど汎用性が高い。
ただしカルスやヒューリオと違ってサポート専門のため、戦いには不向きではある。
しかし、ミーナにはポムスケという頼れる味方がいる。ポムスケは『発光』の使い手だ。普段目を閉じているミーナとは相性が良く、相手を目眩ましさせることが出来る。
それでも攻撃力はからきしなので、今し方僕達を驚かせたように意識をこちらに向けさせるか、逆に敵から逃げる時に使うくらいだ。
「やはりミーナは凄いな。 まさか気づかれているとは」
「あはは~、それほどでも~」
今の流れで気づいていないヒューリオを心配するが、それよりも今は目の前のことに集中だ。茶番を繰り広げている間にルーは準備が整ったようだ。
「準備が出来た後に言うのもあれなのですが、本当に私が先でいいのですか?」
セフィロスの木の下で、膝をつき手を組んで祈りの姿勢を執るルーが再度確認を取る。何だかこの仕草も凄くかわいいので脳内メモに刻むとしよう。
「さっきも言ったでしょ? 裏が出たらルーだって。 いいから集中しなさい」
「はいなのです……」
何だか不満気ではあるが言うことを聞いてくれるようだ。そんな表情も悪くはない。……何だかさっきから変態みたいだな、僕。まぁルーが可愛いから仕方ないことなんだけどね。
「――どうしたケイム? やっぱり先が良かったのか?」
「い、いや何でもないよ! 単に緊張しているだけさ、はっはっは!」
「そうか? 具合悪いなら早く言えよ」
「あ、ありがとう……」
ヒューリオとは逆にカルスはこういう感情の機微に聡いところがある。単純だから誤魔化す事は出来るけど、いざという時はやる男なので警戒が必要だ。バレたら一生からかわれる。
そしてついにルーの成人の儀が始まった。
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