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天使の涙―王子と奴隷娘―  作者: 星咲ののあ
3/18

―期待―

「なんで!」

 長い食卓のテーブルが置かれた広い部屋にデュオの大きな声が響いた。


「ぼくだけ街へ行けないってどういうこと?」

 デュオが勢いよく食卓テーブルから立ち上がった反動はんどうで、テーブルの食器が金属音をあげカタカタと鳴り響いている。

「カリフはよくて、どうしてぼくはダメなのさ!」  デュオは興奮こうふんした声でもう一度叫んだ。

「はしたないぞ! 座りなさいデュオ。お前は将来ハミルトンの王になるという重大な使命があるということを忘れるな。街で遊んでるひまなどあったら国務や戦の勉強をしたらどうだ。よく聞きなさい。私が見てきたイザックでは、あらそいがえぬ! 国民は貧しさに苦しみ、犯罪は後を絶たない。トゥリトスの国境こっきょう破壊はかいされ、死者は増えるばかり。各地で疫病えきびょう流行はやり、このままではハミルトンにもいつ……」


「国務国務ってなんだよ! 次期国王が一体なんだっていうのさ! ぼくは城下町に行きたい、ただそれだけだ」 

 

(ずっとずっと、半年もの間、食事と寝る時以外父上の言いつけどおり勉学に励んできた。勉強なら嫌というほどしたさ! まだ足りないっていうの?)

「父上はいつもいつも難しい話ばかり! ぼくには関係ない! 疫病とか、国境とかそんなの関係ない!」

(今はただ――)

 デュオは声を張り上げた。

 その時、パーンという音と同時にデュオの左頬ひだりほほに王の平手が飛んできた。

 事が起きた後、デュオはとてもびっくりした表情で父の姿を見やった。


「なんと! それでも次期国王か! もうよい、この分らず屋が」

 国王は厳しい表情でデュオを見た。


「デュオ、言い過ぎですよ。お座りなさい。お行儀ぎょうぎが悪いわ、カリフを見習いなさい。父上の言ったことが聞けないのですか? あなたは留守番なの」

 エマ王妃は白い布で口元をぬぐうと、何食わぬ顔で話し始める。


「なんで……」

「なんでじゃありませんわ。これは陛下とわたくしで話し合って決めた事よ」

「…………」 

 デュオと両親のやり取りにカリフは、ハラハラと落ち着かない表情で互いを交互こうごに見た。 

「みんな怒らないでよ……今日は折角せっかく家族が久しぶりにそろった日なのに」

 おろおろとカリフは不安な表情を浮かべた。


(いつも、いつもそうだ。家族が揃うと、いつもぼくだけ何故か取り残された感じがして、壁が出来る。父上も母上もカリフにだけは甘く、何かする時はいつもぼくだけが蚊帳かやの外なんだ)

「いつもいつも、ぼくはまだ十歳だ。そんな難しい話ばかりされったって……!」


「ねえ、一日くらいいんじゃないのかな。それにぼくたち楽しみにしていて、もう準備しちゃったんだよ、ほら!」

 カリフはそういうと、足元から鞄を取り出しぶんぶんと振って見せた。


「カリフは黙っていなさい。とにかくデュオは部屋へ戻って勉強しなさい。それと、今夜の宴にはしっかり出るように」

 王の言葉にデュオはくやしそうに顔を背けうつむいた。


「そんな……」

 カリフは落胆らくたんした声で言った。

 カリフが不安な表情でデュオを見るも、目が合うことはなく、デュオは下を向いたままカタンと椅子から立ち上がり荷物を持って部屋を出ていってしまった。


「本当にお行儀が悪い子。あの子には次期国王になるという自覚じかくもなければ、優しさもないわ。勉強はおこたるし、国王の器じゃないんじゃないかしら」

 エマは冷めた表情で言った。

「怠っていた? ……あの子が?」

 王は不思議そうに聞き返した。


「ええそうよ」

エマは顔色ひとつ変えずに返答する。


 ……聞いた話と違うな、と王は思ったが特に深くは考えなかった。

「わたしはあせり過ぎなのだろうか。トゥリトス国境が破壊された今、沢山の難民なんみんがイザックに押し寄せている……今回は奇跡的きせきに何事もなく帰城きじょうできたが、この先私にもしもの事があったら、そう思ったらどうしてもデュオには厳しく言ってしまう……。そうなったら、この国や民はあの子が守っていかなければならないのだ。そればかり考える……確かに、デュオの言うとおりあの子はまだ子供なのに……」


「貴方は何も間違った事などしていないですわ。

デュオは貴方あなた留守るすにしている間も少々口が過ぎますのよ。口の悪さにともい、日々勉学に励んでいたなんて全くのうそですわ。あの子の言う事にまどわされてはだめです。……それにしても、状況はそこまでお悪いのですね。イザックがそこまで危機的ききてきな状態だったなんて……疫病だなんて、この国に持ち込まれででもしたら……本当に恐ろしいわ、あなた」


「ああ、だからデュオには一刻も早く王の器を身に付けてもらわなければならない――」




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