side A
本作は、黒森冬炎さま主催「劇伴企画」参加作品です。
King Gnuの「白日」をBGMにお楽しみ下さい。
どれほどの時が経ったのかわからない頃。
ようやく彼の口唇が離れた。
ゆっくりと瞳を開き、彼の顔を見上げる。
彼はじっと、何かに堪えるような表情で、私を見つめている。
私は彼のその視線に耐えられず、俯いた。
私の瞳に熱いものが溢れ、ぱたぱたと音をたてて、落ちてゆく。
「神崎……」
彼の右手が動いた。
しかし、その手は私に触れることはなかった。
何を考えているのか。
彼は、拳をぎゅっと握っている。
玲美さん──────
彼が私に重ねている女性。
彼にとって彼女がどんな存在なのか、私にはわからない。
けれど。
私は、「身代わり」になるのは嫌。
彼が、私の瞳の奥に彼女の存在を見ているのだとしたら、私には耐えられない。
それでも。
私は、彼の言葉が。
彼の愛撫が欲しかった。
息詰まる空気が流れていく。
守屋君──────
こんなことをしていても、彼の心は私にはない。
彼は、私に触れようとはしなかった。
「……帰る」
とうとう、私は踵を返した。
「神崎」
とっさに彼は私の後ろ手を掴んだ。
「離して!」
反射的に私は、彼の手を振り払おうとした。
しかし、男の彼の力は強い。
私の右腕を掴んで離さない。
私は、右腕を強く引き、彼に背を向けたままだったが、とうとう観念してだらりと腕をおろした。
「帰ろう。送っていくよ」
彼は、落ち着いてそう言うと、さりげなく私の肩を引き寄せた。
そんな慣れた彼の仕草さえ、私には憎い。
冬の夜の冷気が肌を刺す。
それは彼の心のようだった。
side B もよろしくお願いします。