シーフの俺が命の恩人にしてあげられること
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ジークは目を覚ますと知らない天井を見上げていた。白い天井に白い壁。白いカーテンが爽やかな陽射しと共にそよ風に揺れている。
自分とは縁の無いような場違いな環境にまだ頭が追い付いてこないようだ。天井に向かって手を伸ばすと手には絆創膏が貼ってあるのに気がついた。どうやら手当てされてるようだ。
久しぶりに長いこと寝ていた気がする。体が重く気だるい。
「目が覚めましたか、ジーク」
ジークは懐かしさすら覚える少し高い声を聞き、ゆっくりと声の主を探すと隣に本を片手に椅子に座わるアレクシスを見つけた。
「アレク…シス……」
「はい、そうですよ。体調はどうですか?」
アレクシスは笑顔で答える。
「ジークさん!! よかった! 目が覚めたんですね!」
その隣には嬉しそうに笑うリルの姿があった。
「あ、あぁ…」
ジークは他人に初めて心配された事に照れたのか少し戸惑いながら頬を掻いた。
アレクシスが笑顔で続ける。
「ジーク、リルには感謝してくださいよ。彼女が居なければ貴方は死んでいたでしょう。懸命なリルの神聖術が貴方の命を繋いだのですから」
「あぁ、そうだったのか…ありがとう…」
ジークが申し訳なさそうにいうと、頬を膨らませながら答えた。
「本当ですよ!! あと数分遅れていたらどうなっていたか!!ただ、もう左目は治せませんでした…」
「なに言ってるんだリル、あんたのせいじゃない。それに命を助けて貰っただけで俺は感謝しているよ。ニーナにまた会えるんだからな…」
そこまで言うとジークは思い出したかのように声を荒げ、身体を起こした。
「そ、そうだ!! 妹は!? ニーナは無事なのかっ!!」
アレクシスはジークを制止させながら答える。
「まだ本調子ではないんですから安静にしてください! それと、妹さんはこの病院で薬を処方され安静にしていますよ。しばらく入院すれば完治するでしょう」
「ジークさん、少しは自分の心配する事も覚えてくださいね…」
「病院…俺…金が…」
ジークは不安そうに呟く。しかしアレクシスは嬉々として答える。
「ジーク、お金の心配はしないでください。責任もって私が払いましょう。ただしですよ、ある条件が必要不可欠になるのですが……」
その時病室の外で騒がしい足音が聞こえたかと思えば扉が勢い良く開いた。
現れたのは衛兵だった。数人の衛兵は偉そうに部屋を見渡すとジークを見つけ、懐から令状を取り出し読み上げた。
「貴様がスラムのジークとお見受けした、勇者様の前で失礼だとは思うが貴殿を連行させて頂く」
リルはそれを聞くと怒ったように言い返す。
「な! なんの権限があってそんなことを!!」
衛兵が遮るように答える。
「お言葉ではありますが、罪状は数々の窃盗などの被害届を抜きにしても、勇者様の紀章の窃盗容疑が掛けられています。
王宮で審問にかけられた後………まぁ死刑でしょうな……」
「万事休すか…これも俺の蒔いた種だ…一度は捨てた命…覚悟はできてるさ…」
「ジークさん……そんな…」
ジークの諦めたような態度にリルは悲しみを露にした。
「本人も認めたようですな、ほら、立て」
「待ってください」
兵士が連行しようとジークに伸ばした手をアレクシスが掴む。兵士は心底驚いた顔で聞く。
「ゆ、勇者様!?なにを?」
するとアレクシスは笑顔を絶やさず答える。
「いえいえ、なにか誤解があったようなので訂正しようかと」
「はい!? と言いますと…!?」
アレクシス以外の全員が目を点にして驚く。
「ええ、紀章の件ですが…私はジークに預けていたのです」
「な、このような者に!?納得のいく説明は出来るのですか!?」
「ええ、できますよ。先日のレイグリッチ討伐の件にも関連するのですが、彼が私の紀章を狙っていたのです。
そこで私はこのジークにこっそりと紀章を預かっていただきました。誰が彼が紀章を持っていると思いますか?ええ、誰も思いませんよね!?」
衛兵は眉をひそめながら聞く。
「し、しかしなぜこのようなものに……」
「それはですね…彼が私の『パーティーメンバー』だからです!!」
「「「なんですと!?」」」
衛兵達が驚嘆の声をあげ目を見開く。
衛兵は何やら慌ただしく話始める。ジークは何を言っているのか理解できていなかった。
「あ、アレクシス…!?ど、どういう!?」
「ジーク、もう少し付き合ってくださいね」
「!?」
衛兵達は話がついたのか咳払いをして話始める。
「し、しかしレイグリッチが紀章を狙っていたのという証言は…」
「あぁ…彼は先日亡くなりましたね…」
「それに多くの窃盗に関与しているので、どちらにせよ王宮に…」
「その件ですが、魔王討伐の為にパーティーに同行させますので世界が平和になるまでは勇者の権限により恩赦免除されますね!! 世界が平和になったらその時に考えましょうか!」
「か、彼はその資質があるのでしょうか?とりあえずギルドに登録してるかなど確認するので城まで…」
「なにを言っているのですか! 先日のレイグリッチとの戦いでは彼はまだ傷ついているのですよ! 名誉の負傷で3週間は絶対安静なのです!! それでも勇者のパーティーメンバーを連行するとでも!? ねぇジーク?」
アレクシスはジークの方を振り返るとウインクをして目配せをする。ジークは察っしたように痛がって見せる。
「いた、いたたたた!!脇腹が!!痛いぃぃ!!」
それを見かね衛兵達は引き下がった
「わ、わかりました! 今回は帰りますが、資質テストは追って受けて頂きますからね!! こちらの手続きが済み次第通告を出しますので!! ジーク、お前は安静にして療養をするんだ、分かったな!!」
そういうと衛兵達はぶつくさ文句を言いながら帰っていく。慌ただしかった病室は急に静まりかえる。
後には三人の笑い声がだけが響いた。
「あはは! 良くやりましたね!! アレクシス!!」
「あっはっはっ! アレクシス! お前勇者にしては嘘がうまいな! ほんとうにっ!!」
すると笑いながらアレクシスは答える。
「あはは、なかなかの物でしょう? ただし嘘ではありませんよ?」
「くくく、本当にお前は…! …え?どういうことだ!?」
アレクシスの予想外の発言にジークは戸惑いを隠せない
「聞いたまま受け取ってもらっても構いませんよ、貴方には私のパーティーに入ってもらいます」
ジークは慌てて否定する。
「な、何言ってるんだ!?俺みたいな人間が勇者のパーティーに入る!?あんまりからかうんじゃねぇよ!」
アレクシスは冗談っぽく言う。
「ジーク、何を言っているんですか? むしろ私は貴方の人間性に引かれているのですよ。貴方にはパーティーに入れたくなる何かがあるのです。不思議と私のこういった勘は良く当たるんですが、勇者の勘って奴ですかね?」
「おいおい、そんなんで入れて大丈夫なのか…」
するとリルが笑う。
「ふふ、ジークさんがメンバーに入るのならこれから楽しくなりそうですね!」
「そういう問題か!?」
アレクシスは目を細めながら呟く。
「パーティーに入らないのならば紀章の件で少なくとも終身刑ですかね~、ニーナちゃん可愛そうだな~」
「て、てめぇ勇者の言動じゃねぇぞそれ!?」
続いてリルが悪い顔をしている。
「あーあ、もう入るしかないですねー?妹さん泣いちゃいますもんねー?」
「わ、わかったよ!! 入るよ!! でも俺に出来ることなんて本当に何も無いぞ!?」
アレクシスが答える
「まぁ、勇者のパーティーに入るのにもいくつか条件がありますけどね! まぁ、性格の資質テストは大丈夫だと思いますが、実技面が正直心配ですね…」
「あ、あぁ…アレクシスの戦闘を見た後じゃ言い訳できない高い壁を感じるぜ…」
「はは、そんなことはありませんよ。貴方は言うなれば戦闘の素人なのですから!伸び代は無限大です!」
「そんなものか…」
リルは慰めるように言う。
「ジークさん、アレクシスの強さは異常ですから参考にしないように!
それにパーティーとはお互いの弱点を補い長所を生かす仲間なのです。つまり純粋な戦闘力だけがパーティーへの貢献力とは限らないんです。」
「なるほどな、戦闘外の技術か…シーフスキル…」
アレクシスが続ける。
「そうだ、もうひとつの条件を言っていませんでしたね! もう1つの条件はいずれかの公的『ギルド』に所属すること、つまり貴方には正式に盗賊になって頂きます!
衛兵には3週間は絶対安静と伝えましたからそれまでに基礎技術を身につけてもらいますよ!」
「ジークさん!今日のうちに書類を出しに行きましょう!審査が通る三日後には入団できますよ!」
「あ、あぁ!でもその前にニーナに会わせてくれ!」
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昼下がりの純白の病室に爽涼の風が通り抜け、3人の笑い声が響く。
勇者の正式なパーティーになるためにギルドに入団することになり、3週間という短い期間に基礎技術を身に付ける必要があるのだ。
ジークは不安な気持ちとは裏腹になんだかワクワクしていた。勇者の為に自分に出来ることはなにか…今一度、己を見直す時だ。
そして三日の時が過ぎた。今日ジークは盗賊ギルドの門を叩く。
ありがとうございます!
つぎは1日か二日後に!