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シーフの俺が今、唯一してあげられること

ごりごり添削お願いします!描写膨らませるのもありがたいです!


 夜も更け、街も静まり返った頃にジークはやっと棲みかに戻ってきたようだった。


 ジークは疲労しきった体を引きづりながらニーナのベッドの隣に座り込むと、何処からか盗んできた食糧袋をわきの樽の上にそっと置いた。


 妹は咳き込んでいるようだ。静まり返った部屋にコンコンと乾いた音だけが木霊している。


「おかえり…ジークお兄ちゃん…」


 ジークは妹の包み込むような声を聞いてはっと我にかえった。まるで誰かに意識が乗っ取られていたように虚ろだった事に気づく。


「起きていたのか?」


 優しくジークが問いかけると


「ううん、本当は起きて待っていたかったんだけど…寝ちゃってた…」


 ニーナは決まりの悪そうにそう答えた。帰りの遅いジークを心配したのだろう、そんな妹の気遣いが、心底愛おしく思える。


 ジークはそっと妹の手を包むように握った。


「ニーナ、体に障る。もう寝な……」


 すると妹は少しだけ物悲しい表情をみせた。


「どうした!?気分でも悪いのか!?」


「……ううん、ちがうよ」


 何か隠し事でもあるのだろうかと心配になる。悩みの種はできる限り取り除いてあげたいのだ。


「あのね、お兄ちゃんが辛そうにしてるから…悲しくなるの……」


 ジークは言葉を失った。この十歳にも満たない少女になにもしてあげられない無力感に怒りに似た感情すら覚える。


 それと同時にやはりこの「出来た」妹を死んでも守ると決意した。もうなりふりを構ってはいられないほど追い詰められている。


 例えどんな結果になろうと妹が幸せに笑っていてくれる未来があるのならそれでよかった。


 初めから分かっていたのかも知れない。ただ意を決するまでにほんの少し時間が欲しかったのだ。


 ジークは優しくニーナの髪を撫でる。

 

「もう寝るんだ、ニーナ。全部解決するさ。薬だって手にはいる」


 落ち着いたのか妹は安らかな表情に戻っていた。


「本当に?病気治るの?ゴホッ」


「あぁ、きっとな。そしたら外にだって出られるようになるさ」


「そうなんだ、夢みたい。昔みたいにジークお兄ちゃんとお外を歩けるんだね!」


 ニーナは思い出すかのように呟いた。そして嬉しそうに続ける。ジークは優しく妹の額に手を当てていた。


「そうだ…!そしたらまた…あの町外れの大きな木の下にいこうよ、涼しい風が吹いて、目の前いっぱいに麦畑が見えるところ!


 わたし好きなんだ……あそこ……そしたら……また一緒に…果物を……」


 ニーナが自然と眠りについていったのを確認すると、ジークは妹が起きないように細心の注意を払いながらゆっくりと立ち上がる。


「ごめんな、ニーナ。その約束は守れそうにない。」


 そう言い残すとジークはそっと家を抜け出した。


~~


 次の日の早朝、アレクシス達は昨日の大噴水の前にいた。早朝とはいえ、音を立てて人が行き交う。


 そんな人の多さを見てなにやら怯えているアレクシスの態度を見てグレースがニヤニヤと声をかけた。


「アレクシスぅ、今日は巻き込まれるんじゃないぞ、迷子になっても見つけられないからな」


「わ、わかっていますよ。私も勇者として堂々と皆さんの後ろを付いていきますから」


 グレースは苦笑する。


「それは堂々と……なのか?」


 不意にリルが話に割り込む。


「それよりジークさん遅いですね、そろそろ来ても良い頃合いだと思いますけど」


「そうですね。ジークは昨日私達より先に着いていましたが」


 グレースは眉をひそめなが答えた。


「まぁ、所詮こそ泥だろ?ちょっと仲良くしたって明日くるとも分からないと思うけどな」


 するとアレクシスは当然のように答える。


「それはありませんね。少なくとも一度した約束をすっぽかすほど、適当な人間には見えませんでした」


 グレースは呆れたように口を開く。


「そうは言ってもアレクシスはチョロいからなぁ。誰だって信用するだろう?」


「そんなことはありません、信用に足るか、これでも見極めているつもりですよ。」


 するとリルが少し声を荒げた。


「そうですよ!それにジークさんはギルドに入りたがっていたんですよ!グレースは寝ていて知らないかも知れませんが!!」


 するとグレースは落ち着いてなだめる。


「おいおい、落ち着けよな。なにも悪者だって言っているわけじゃないよ」


 アレクシスは少し笑いながら


「そうです、もう少し待ってみましょう」


 リルも納得したように答えた。


「そうですね、それしかないですし」


『あんたたち、勇者一行だな』


 不意に声をかけられ皆の視線が集まる。顔を半分ローブで隠した一人の男が人目を気にするように立っていた。


「あ!あなたは昨日の情報屋さんですね」


 アレクシスが思い出したように答えると、情報屋は慌てたように人差し指を己の唇にあてた。


「しー!ジークの頼みだ、なにも聞かずついてきてくれ!」


「え?ジークの?」


「ジークさんに何かあったんですか!?」


 二人は驚いた様子を見せるが、グレースは怪しむように黙っていた。


「話しはあとだ」


 そういうと、男はスラム街の方へと足を早めた。


~~


「ここだ」


 スラムに入ってから十分ほど歩いただろうか、そこには石造りのお世辞にも綺麗とは言えない二階建ての建物があった。所々に朽ちた箇所が見える。


 辺りにはスラムの住人がちらほらと見える、こちらを警戒しているようだった。ボソボソと話し声が聞こえてくる。


「気味の悪いところだな」


 グレースが辺りを警戒しながら呟く。すると情報屋が重い口を開いた


「いいか、俺は本来こんな仕事はしない。だがジークがどうしてもと夜明けに頭を下げてきたんだ。プライドの高いアイツがだ、だからこうしてお前さん達を連れてきた」


 アレクシス達は真剣な面持ちし、静聴した。


「これは奴からの頼みだ、報酬金もねぇ、もちろんあんたたちにもだ。ただの願いなんだこれは、だからあんた達は話を聞いた後にこの場から去って全部忘れて貰ってもかまわない。


しかし、しかしだ。俺はあんたらに出来れば力になってほしいと思ってる。だからこそ聞いたからには実行してほしい。これがあいつの最後の望みだから…」


 そこまで言うと情報屋は声をつまらせた。


「さすがに自分勝手な話だなぁ…たしかに勇者の本分は人助けだけどさ…話も聞かずに了承はしがたいよ」


 グレースがもっともな事を言うと同時にアレクシスがいい放つ。


「もちろんお力添えしますよ。なんたって彼は私達のよき友人ですからね」


 勇者は真剣な面持ちで純真な瞳を真っ直ぐに情報屋へと向けた。


「そうか、さすが…勇者様だな…ついてきてくれ」


 そういうと男は鍵もかかっていない戸を押し開けると、一行を中に招き入れた。


 薄暗い殺風景な内装だ、小さな石造りのキッチンはあるが炉にはクモの巣がかかっており長い間使われていないようだ。部屋のすみに脚の折れた椅子が倒れている。こちらにも同じくクモの巣がかかっていた。


 情報屋は恐る恐る二階へと上がっていく。一行も静かについていった。


 誰かの咳き込む声が聞こえてくる。薄暗い部屋の角にはベッドがあり女の子が横になっている。


「だ、だれ?」


 こちらに気がついたのか驚いたように少女が声を出した。情報屋は冷静に刺激しないように答えた。


「私達はお兄さんに言われて来たんだ」


「ジークお兄ちゃんに?」


 少女は何が起こっているのか分からないという表情で悩んでいる。


「君がジークの妹のニーナちゃんですね、話しは伺っていますよ。私たちはジークの友達なんです」


「そうなんだ、私ベッドから出るとジークお兄ちゃんに怒られるの。横になったままでごめんね」


 アレクシスの優しい声や表情を見てニーナはいくらか安心したように答えた。リルは頃合いを見て話しかけた。


「はじめまして、ニーナちゃん。私はリルよろしくね。咳が酷いみたいだけどどうしたの?」


 リルは神官(プリースト)で多少医学にも精通している。どうやらニーナの体調を見かね診察するようだ。


 グレースが待ちくたびれたかのように聞く。


「それでおっさん。結局のところ要件ってのは何なんだ?早いところ本題に入ってくれないか?」


 情報屋はニーナに聞こえないようにトーンを落として話し始めた。


「ジークの頼みって言うのは簡単だ。この少女。ジークの妹をを護衛してほしいそうだ。このスラム街を仕切っている組織。レイグリッチファミリーの手下がおそらく襲ってくるという話だ」


 グレースは眉間にシワを寄せ苛立ちを見せる。


「おそらく?なんだその曖昧な話しは?かもしれない、とか、もしかしたら、とかそんな話が一番嫌いなんだよ」


 情報屋はそのまま続けた。


「そしてもう一つ、聞いた通りに伝えるぞ……


『アレクシス、妹を任せたぜ……自分勝手な頼みなのは百も承知だが、世界中で恐らく、お前にしか頼む気になれないと思うんだ。会ったばかりのお前の優しさに漬け込むようで汚いよな。でもお前には勇者の階級がある。きっと妹を病からも助ける手段があるはずなんだ。出来れば、妹だけは人並みに幸せにしてあげてくれ……』


そう言付かった、ジークは何かを悟ったような面持ちだったよ……」


 グレースは溜め息をして少しうつ向いた。


「なんて自分勝手な野郎だ…気に食わねぇ、あとは勇者様の善意に自分の実の妹を預けようって、ことかよ…それに階級っていうが記章だって……」


 その時リルは大きな驚嘆の声をあげる


「あっ!!これ!!!」


 一同は驚きつつどうしたとベッドの方へと視線を集中させた。リルは恐る恐る手をみんなの方へと向けた。


 その手には紛れもなく勇者の記章が握られている。リルは状況が分からないといった表情で声を発する。


「ニーナちゃんの毛布の中にこれが…記章があって…」


 勇者一行はそれが何故そこへあるのか考えを巡らせるように悩む。しかしその沈黙をグレースの怒りに任せた声が引き裂いた。


「あのくそったれ!世界で一番やっちゃいけない事をやってしまったな!!勇者の記章泥棒はよくて終身刑!!普通なら死罪だぞ!!人類への反逆行為なんだからな!!」


 リルが慌ててなだめる。


「グレース!ニーナちゃんの前ですよ!!それにそうと決まったわけでは!!!」


 そこで情報屋の男が崩れ落ちながら声を絞り出した。


「仕方なかったんだ!!アイツは妹の命と引き換えにレイグリッチからこの仕事を請け負うしか無かったんだよ!!


俺だってそれからジークを調べた!そしたら妹の病気が悪化してるっていうじゃねーか!!あんただって人の子だろ!!そうする以外どうするっていうんだ!!


そりゃあ俺は裏の情報屋じゃねぇからそんなに関わりがあるわけでもねぇ!!だがジークがどんなやつかは大体わかるんだ、他の情報屋だってきっとそうさ!!」


 そこまで吐き出すと男は息を切らしながら拳をギリギリと握り込んだ。


 グレースはそれを聞くと考えるように黙り込んだ。グレースも人の命には敏感なのだ。


「ジークお兄ちゃんどうなっちゃうの?」


 ニーナが消え入りそうな声でリルを見た。


「きっと、きっと、大丈夫だよ」


 リルは優しく少女を抱き締めた。


 アレクシスは膝をついて崩れ落ちた男にそっと聞いた。


「ジークは今どこにいるのですか?」


 男は震えた声で答える


「アイツは……レイグリッチの屋敷に行った。もう約束の時間をとっくに過ぎてる。記章も持って行ってない所をみると……もう……アイツは…」


 リルが叫ぶ。


「行きましょう!!今すぐその屋敷へ!!」


 その目には強い信念が感じられる。しかしグレースが冷静に切り返す。


「いってどうする?もうとっくに死んでいる可能性すらあるんだろ……それにアイツを返してくださいって言って返すような相手か?


それに、アレクシス。お前は大事な事を頼まれているじゃないか、ニーナを守らないで屋敷に行ったとして、アイツは本当に納得するか?


敵の数も時間も分かってないんだ。最後の願いを聞いてやらないのか?」


 アレクシスは立ち尽くしていた、大きな選択だ。


「ジーク……貴方の命をとした願いを、私は尊重したい。どうか生きていてください……」


 そう言う勇者の肩は震えていた。


~~


 朝のスラム街は一段と静かだ。人がいるかも分からないような廃屋にも優しく朝日が射している。こんな風景がジークは嫌いではなかった。


 しかしレイグリッチの屋敷が見えた途端にこれまで穏やかだったジークの雰囲気は一変し表情にも緊張感が増す。


「よう、入れてくれ。朝飯に招待されてんだ、客人だぞ」


 屈強そうな門番に伝えると、またこいつかと言わんばかりの顔をし正面を開ける。


 入れと無愛想に言うといつもの門番はそろそろ交代の時間だと何処かへ行ってしまった。


 ジークは応接間の大扉を開ける前に大きく深呼吸した。この扉の向こうにはレイグリッチが座していることだろう。完全に覚悟が決まり、扉を押し開ける。


 床と扉の金属がすれると派手に音が響く。いつもの趣味の悪い絵を横目にスルリと中に入った。


 レイグリッチは嬉しそうに肘をついてこちらを見ていた。


「時間通りだな、ジーク」


 するとジークは自信ありげに答えた。


「俺は今まで一度しか時間を破ったことがねぇからな」


 レイグリッチはすこし意外そうに言った。


「ほう?そのお前が時間を破るとは、相手は相当の下衆だったか?」


 するとジークはすこし笑いながら冗談っぽくいう


「いいや、かなりの聖人だったぜ…」


「くくっ、そうか……そして記章は手に入ったのか?」


 レイグリッチはにやりと顔を歪めた。


「あぁ、実はかなり簡単に手にはいったんだ」


「ほう、やるじゃないか。日数を残して達成するとはな……それでは記章を見せてもらおうか?」


「まぁ、そう焦るんじゃねぇよ」


 ジークはおもむろにポケットから取り出してレイグリッチに見せつけた。


「ふざけているのか?」


 レイグリッチの目は笑っていない。


「あれ?頭の悪い奴には見えない勇者の記章ってやつだが?もしかして見えないのか?」


 ジークはここぞとばかりにおどけて見せる。


「ふざけるな、早く見せろ。次はないぞ」


 レイグリッチは怒りを隠しきれていない、額に血管が浮き出ていた。


(どうせ、最後だ…目一杯の仕返しをさせてもらうぜ…)


 レイグリッチ御付きの男が怒声を飛ばす。


「お前死にたいのか!!今度ばかりは冗談じゃすまねぇぞ!!」


 強面の男の方は怒りを露にしているようだ。


 ジークは諦めたように何かを探し腰に手を伸ばした。レイグリッチは瞬きもせずに睨み付けている。


「そうそう……これだった……なっ!!!」


 そういうとジークはレイグリッチに何かを投げつけた、風を切り裂くような音がすると同時に鈍い音がした。


「てめぇ、椅子が台無しじゃねぇか……」


 それは投げナイフだった、レイグリッチは眼前で避け、頭のあった場所には小振りのナイフが突き刺さって反動で音をたて振動してる。


 それを見た瞬間に屈強そうな御付きの男が怒声をあげながら動き出す。

   

 しかしその一歩が踏み出される前に右の太ももにナイフが突き刺さる。


 男はそのまま低い唸りをあげながら倒れ込んだ。


「おっさん、もう動かないでくれよ?俺は狙うのが苦手なんだ、なんとかうまくいったようだがな」


「うぐぐ……」


 レイグリッチは冷静に、しかし沸々と怒りながらジークに問う。目は血走っているようだ。


「なにをしたか分かっているんだろうな、俺に歯向かえばこのスラム……いやこの街じゃあ生きてはいけねぇぞ……?」


「俺自身なんでこんなバカな事をやってるのかわかんねぇよ……でも…あんたにだけはあいつの記章を渡しちゃいけねぇ気がしたんだよ! いや、相手が誰だろうと勇者の権限を奪うことはいけねぇんだ! この世界の為にもな!!」


 それを聞くとレイグリッチは体を反らせるように哄笑した。


「くはぁっはっはっはっはっ!! これはこれは何を言うかと思えば! とんだ茶番だな!!


もしかしてお前は勇者に会い、生温い馴れ合いにさらされて自分も聖人になったような気がしてるんじゃないのか? お前も俺と同じスラムのドブネズミだという事を思い出せ!!


お前は追い詰められれば、常人の考えられないことをして見せる馬鹿だったが、まさかこういう形になるとはなぁ!! 実に面白い!! いつでも私を飽きさせない! やはり最高だよお前は!」 


 ジークも負けずに低い声を張り上げる


「俺だって自分がドブネズミだって事は理解してるんだよ!! 人様に顔向けできねぇ事だってしてきた! でもな!! 一度優しさを知っちまったら捨てるのは……! 馬鹿みたいに難しいんだよぉ!!」


 レイグリッチは目を血走らせて言葉を放つ。


「その甘さがお前の妹を殺すことになるんだ!! その現実をどう受け止めるつもりだ!? それでもなお、お前はその正義を全うできるのか!? 優しさ等と言う甘言を擁護できるか!?


わかっているだろうがもうお前の妹も終わりだ!! 多くの手下が向かっているぞ!! あらゆる残虐な手を使って見せしめにして殺すだろう!!


レイグリッチファミリーに逆らうとどうなるかとな!!」


 ジークは絞り出すように返す。


「さぁな、優しさや正義なんて俺なんかには勿体無くて理解すら出来ないだろうぜ……


でもな!妹が…ニーナが無事だって事だけは理解してるんだ!! 世界一信頼できる奴がついてるからな!!」


 レイグリッチはおかしな奴を見るような目で嘲る。


「お前に信頼できる奴なんていない、どぶねずみを信用する奴もいない!! それは間違えなく、まやかしだ……!


しかし、それも今となってはどうでもいい事だ。お前は用済みだ! 選択を誤ったな、ここで死ねジーク!!」


 かなりの数の足音が近づいてくる、レイグリッチの手下達だろう。こうなっては逃げることは叶わない。しかし初めから逃げる気など毛頭無い。ここで死ぬ覚悟はもう出来ていた。


 勇者の記章のためといえば大それているかもしれないが、妹ニーナのためでもあるのだ。


 今一度ジークは固く決心した。そしてレイグリッチを見据え言い放った。


「俺は死んでも良い、だがせめてあんたの命は貰っていくぜ、レイグリッチ……」


 レイグリッチは呆れたように笑う。


「ほざけ、あまっちょろいガキが……やっちまえ!!おまえら!!」


 それを合図に、けたたましい音と共に大扉が蹴り開けられる。同時に大勢の手下が広々とした応接間にどっと溢れた。男達はナイフや剣、こん棒などを手にしてはいるが、防具のようなものはしていないのを確認する。


 大扉はすぐに閉められ男達も逃がす気はないようだ。


 ジークは先手必勝とありったけの投げナイフを力任せに集団に投げつけていく。しかし、ストックも少なく命中率も高くはない。苦痛の声がちらほら聞こえ、先頭の二人が倒れたばかりだ。


 肩に刺さっただけで行動不能になっていないような奴もいる。


「てめぇ!姑息なガキめが!!」


「ぶち殺して内蔵を豚の餌にしてやる!!」


 ジークは素早く逃げるように後退していくと、男達が叫びながら素早く近付いてくる。


 ジークは真っ赤な絨毯の縁を掴むと力一杯持ち上げた、波を打つように絨毯の壁が男達に向かうと、その瞬間ジークは素早く腰に帯刀している大きめのナイフを抜くと地を這うような低い姿勢で素早く回り込むように集団に近づいた。


 男達からみると絨毯の波が消える頃にはジークの姿が消えていた。「消えたぞ」などと声が聞こえた時には集団の後方から悲痛の叫びが上がる。


「ぐわぁ!!」


「足が!!」


 三人ほどが崩れるように倒れ込む、後ろからざっくりと足を切り裂かれて鮮血が舞う。こういった乱戦でナイフで致命傷は取りにくい事を理解していたジークは、相手の機動力を殺して戦闘不能にしていこうという算段だ。


 間髪いれずにジークは飛び上がるとナイフを一人の男の頭上に突き立てた。しかし、男も間一髪でナイフで受け太刀した。その瞬間男の顔が鼻血を吹き出しながら後方に弾け飛ぶ。


 ジークの強烈な膝蹴りが入っていた。しかしその刹那、左の脇腹に激しい鈍痛を覚える。目の前に星が舞い、体がそのまま投げ出され床に叩きつけられた。


「ガハッ……」


 息が出来なかった、うつ伏せに踞る。誰かの棍棒を脇腹に受けてしまったのだ。目の焦点が合わない。一人の男がジークの茶色の頭髪を強引に掴み、レイグリッチに向かって顔をあげた。


「どうしますか?殺していいですか?いいですよね?」


 男が鼻息を荒くしながらレイグリッチに問いている。誰かが殴られた脇腹を更に蹴りあげる。ジークはたまらず唸るような悲鳴をあげ仰向けに転がった。

 

「まぁ、まて。こいつにはチャンスをやろうじゃないか」


 見上げるとぼやけた視界にレイグリッチらしい人影が映った。


 レイグリッチは心底楽しそうに嗤った。


「よろこべ、一対一の決闘だ……私を殺せれば逃がしてやる」


 男達から少し不服の声が漏れるが逆らえず、ジークとレイグリッチを残し広い輪を作るように広がっていった。


 ジークは回りの歓声のような罵声のようなものがぼんやりと聴こえていた。それが少しずつ、はっきりとした輪郭へとなっていく。


「死ねくそガキ!」


 不意にはっきりと聞こえ意識が完全に戻る。目の前には金の飾りが施してある短剣を手にしたレイグリッチがいる。辺りは手下に大きく囲まれていた。


 ジークは一騎討ちだとやっと理解してナイフを逆手に強く握り直す。腰をすこし落として眼前で手首を交差するように構えた。


 レイグリッチは余裕そうな表情でこちらを伺っている。剣先が上下に揺らいでいる。


 脇腹のひどい痛みが強くなっていく。息をする度に体が軋む、運良く状態が良くても骨折はしているだろう。激痛を堪えながら摺り足でレイグリッチの回りを旋回する。


 戦闘は素人だが隙がないのは直感でわかった。痛みと緊張で一筋の汗が頬を伝う。


 絶望的な状況だが死ぬ覚悟は出来ている。ただこの男、レイグリッチだけは殺さなければ気がすまなかった。でなければ死んでも死にきれないのだ。妹も更なる危険が迫るだろう。決断するしかない。


 ジークは意を決したように低姿勢で突っ込む、しかしこれは敵の反撃を避ける為のフェイクだった。


 誘い通り、カウンターの素早い縦斬りが眼前に迫りくる。ジークは体を右に捻るように翻して間一髪で避ける。体が回転しレイグリッチと目が合う、完全にがら空きなレイグリッチの首を引き裂こうと、体の回転を乗せたままナイフを叩き込もうとしたその時だった。バリバリと嫌な軋音が全身を駆け巡った。


 無理な体勢に傷が耐えられなかったのだ。一瞬の激痛がナイフを止めレイグリッチに体を蹴り飛ばされる。


 ジークは目が眩むような痛みに堪えながらなんとか体を持ち上げた。レイグリッチはまたも嘲笑うように口を開いた。


「残念だったな、今のが本当に最後のチャンスだった。私もお前の予測不能な動きにはヒヤリとしたぞ。


しかしな……お前と私には越えられない高い壁があるのだ。何かわかるか?」


 ジークは答える気にすら慣れなかった。


「私はスキルを身に付けているんだ。若い頃は盗賊(シーフ)ギルドで切磋琢磨したものだよ。


お前は本当に私が金と(ここ)だけで今の地位に登り詰めたと思っていたのか? 金と力だ。どちらが不足していても権力はない。すくなくともスラムではな……」


 ジークは痛みに堪えながらも意識を保とうと息も絶え絶え答える。


「はは……金を…持っているのは…知っていたが……まさか…人の言葉も…話せる…とはな…」


「ふん、最後まで口の減らないガキだ。好きに打ってこい。冥土の土産に見せてやる」


 ジークはナイフを拾い、再び逆手に力強く握る。


(お望み通り殺してやるよ……)


 ジークはこの攻撃に全てをかけようとしていた。もう長く戦闘はできない事を直感で分かっていた。それならば体がどうなろうとここで全力を出すほかないのだ。


 レイグリッチはこちらの負傷を見越してか舐めたように隙だらけの構えだ。


「いくぞおおおお!!」


 ジークは雄叫びをあげ、なりふり構わず決死の思いで体を回転させた。


『スキル……心眼…』 


 レイグリッチが何らかのアクションを起こす。しかし、回転は止められない力任せの回転斬りがレイグリッチを捉える。


 しかし、それは金属音と共に空を斬る。それは予想のうちだった、ジークは地を蹴りさらに回転する。


 (俺の体が尽きるのが先か、お前を斬るのが先かだ!)


 更に二度三度と角度を急速に変えながら叩き込む。しかし全て金属音と共に空を斬った。


 四回転目だった。ジークは目を疑った、ナイフの剣筋が初めから分かっていたように、レイグリッチの短剣に吸い込まれ、いなされたのだ。それと同時にジークの体が悲鳴をあげ回転が止まる。その瞬間、視界が半分暗転した。


 その刹那、焼けるような鋭い痛みが左目を襲う。


「ああああああああッッ!!!」


 叫声をあげ倒れ込む。


(あつい!いたい!!あつい!)


 左目を短剣に刺されたのだ。ジークはあまりの激痛に転がり。動かなくなった。


 もう一歩も動ける気がしなかった。体が鉛のように重く感じる急に胸が熱くなり何かが込み上げてくる。


 「ゴベッ」


 大量の血が口から溢れた。ヒューヒューと嫌な呼吸音を立てるジークは意識が朦朧としていた。


「お前は頑張った方だ。これだけの人数を相手に何人も戦闘不能にした。素人にしては大戦果だ。あの世で妹に自慢をしろ」


 レイグリッチの短剣が非情にも天を仰ぐ。息の根を止めようと振り下ろされたその時だった。爆音が轟き入り口が吹き飛ばされる。


 あまりの衝撃にその場にいる全員が指一本動かせない静止を余儀なくされた。


「すこしばかり失礼な登場をお許し下さい。なにしろ急いでいますので」


 雲煙が立ち込めるなか、場違いな優しい声が響く。その輝くブロンドの髪に、透き通るような蒼の瞳をジークが知らない訳がない。


 ゆっくりと歩みよるアレクシス。小さな悲鳴が聞こえた。


「おっと、何かを踏んでしまいましたね。煙で足元が見にくくて。生きてますか、ジーク」


 ジークは挨拶代わりにぎこちなく震える手をあげた。


「大丈夫みたいですね。あ、苦情はお聞きしませんよ。ニーナちゃんは強力な私の仲間がお守りしてますからね。守れとは言われましたが私に守れとは言ってませんでしたよね?」


 ジークは半分の視界も潤み見えなくなっていた。涙が自然と溢れ出る。自分の安否ではない、妹が無事だとわかったからだ。願いに答えてくれた事が嬉しいのだ。


「だ、だれだてめぇは!?」


 ゴロツキが叫ぶ。


「さてさて、所でみなさんは私の大切な友人に対して酷い仕打ちをしてくれたようですね」


 アレクシスはゴロツキの言葉など完全に聞いてはいなかった。


「正直それだけで万死に値しますが、今回は私に相談しなかったジークにも責任がありますし、貴殿方も命令されただけなのかもしれません。それに勇者の本分は人を生かす事ですから。


今すぐ黙ってこの場を去り、二度と己からジークに近づかないと約束してくださるのであれば、貴殿方、三下さん達の命は取らないでおきましょう」


 アレクシスは冷静に平然と辺りを見渡しながら言う。しかし返ってきたのは罵声だった。


「三下だと!?馬鹿にしてるのか!?」


「誰だかしらねーが、この人数相手に生きて帰れると思うんじゃねーぞ!」


 およそ十余名の動けるゴロツキたちが一斉に叫びながら力任せに飛びかかった。


 その瞬間、辺り一帯は噴き上げる鮮血で血の海へと化した。時間にして一秒あっただろうか。その間に近づく者からバラバラの肉塊になって行ったのだ。やはり留まるという判断すら許さない一瞬の出来事だった。


 気づいたときには何事も無かったように剣は鞘に収まっていた。


「すみませんが二度は言いませんよ。今日は少し頭にきているので」


 アレクシスは笑顔のまま静かに肉片たちにいい放つ。その体には一滴の血飛沫すら浴びていない。アレクシスを中心に外へと血が波状に延びている。


 ジークのナイフで動けない者達は恐怖にうちひしがれ。震えていた。


「さて、貴方ですが…レイグリッチ」


 レイグリッチはこの惨状を目にしてまだ冷静に振るまえていた。


「ほう、勇者様にまさか名前を知って頂けているとは……」


「貴方の事は調べがついています。ある事件を犯し盗賊(シーフ)ギルドを抜けたあと、この街であらゆる犯罪行為を行いながら資金を調達し、スラムで権力を持っていったようですね」


「くく、それがどうした」


「残念ですね、現役中は数少ないスキル・心眼の使い手でかなりの猛者であったと記録が残っているのに……」


「くく……そうだ心眼があれば最強だからな……相手の次の攻撃予想箇所が手に取るように分かってしまうんだからよぉ!!


それにこの短剣と俺の百戦錬磨の実践経験で作り上げた鉄壁の防御術からの、スキル・神突による正確無比な突きでのカウンター!!


対人戦績ではほぼ黒星がついたことがねぇぞ?勇者様よぉ、あんたはどうだ?」


 自信たっぷり獣のように舌を出しながら問うレイグリッチにアレクシスは笑顔で答えた。


「対人戦績ですか?何度も何度も負けましたよ。それより私の大切な友人が急を要するようなので早く始めませんか?


貴方はデッド・オア・アライブ。手配書は生死を問われていません。勝手ではありますが時間がないので死して頂きます」


 そういうとアレクシスは初めておもむろに剣を抜いた。ドラゴンの細工がしてある白を基調とした物々しい剣。両刃で刀身がギラリと光を反射した。


「俺は無敵だ……」


 レイグリッチは体を斜に構え、剣を前に付き出す。本当の実力を出すのだろう雰囲気がジークと戦った時より張りつめている。


「来ないのなら私から行きますよ」


 アレクシスはなんの構えもせずに距離を積めていく。そしてレイグリッチとの間合いに入ろうとしたときやっと剣を左脇に構えた。


『スキル・心眼!!』


 レイグリッチは心眼を使い攻撃予想位置を割り出す。相手の微細な動きを関知する。


(くく、勇者だろうが心眼で止められねぇ訳がねぇ……そうだ、見える……脳天か、単純だな……いや、首も……な、心臓も!!どういうことだ!!)


 レイグリッチはその瞬間を永遠のように感じた、予想地点が赤いラインで見えるはずだ、しかし、一対一において複数箇所同時に見えた事など一度も無かったのだ。


 次の瞬間レイグリッチが頭部を剣で守り金属音が弾けた。


 しかし首と心臓の両方から鮮血が吹き出す。アレクシスは血を浴びるまいとするり横にみかわした。


「な、なぜだ!?こんなこと一度も……」


 レイグリッチは目だけでアレクシスを追う。


「斬る場所がばれているのならば、防御出来ないよう複数回、ほぼ同時に斬ればいいだけしょう?


そもそも、反応速度の上から斬るという手もありましたが。結果は変わりませんね」


「ば、化け物め…」



 それだけ聞くとレイグリッチは白目を向き前に倒れ絶命した。


「すいません、遅くなりましたね。来るのが……」


 アレクシスは何事もなかったかのようにジークに近寄り心配そうに声をかける。


「いい…よ…こんな物…かすり…傷……だ…」


 ジークは最大限の強がりをいうが目もあまり見えていなかった。


「話しは後のようですね……ですが安心してください。うちの優秀な神官(プリースト)がすぐにくるはずです。そしたらもう安心です。絶対に死なせはしませんよ。」


 そういうとアレクシスの手から碧光が溢れジークの脇腹を優しく包んだ。


『私はあなたをパーティーに入れると決めたのです。ジーク』


 その言葉はもう青年に届いてはいなかった。


 昼下がりのスラムで、起こった惨劇は語り継がれる事となる。勇者一向にスラム出身の盗賊(シーフ)が入るきっきかけの場所として。


 しかしそれはまだまだ先のお話であった。



次は明日か2日後!



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