快活童話
と、ここで何気なく振り向いたグリムと目が合う。
最悪だ。
「んお? 夢莉に優奈じゃねーか! お前らも杉川第一だったのか!!」
さらに話しかけながら近づいてきた。マジかよ。
「あ、あぁ…偶然、だな」
「? なんでそんなぎこちねーんだよ」
「あ、グリムくん、ちょっと」
優奈はグリムの手を引きながら教室を出ていった。
僕はそれを見送ってから、大きく息を吐いた。そう。僕は彼が苦手だ。それも、最悪の理由で。
僕は1度、いじめに対し、"見て見ぬふり"をした、と言ったと思う。
その時のいじめの被害者が、彼なのだ。
主犯格は当然、蜂篠。
手口はまた違った。
力で男子にかなわないと判断されたのか、机への落書き、上靴への画鋲の仕込み、女子による無視、などが主だった。
僕は優奈の時と同じく、"たまたま通りかかって"、優奈の時と違い、"無視した"のだ。
関わりたく無かったから。
あの時の彼の目は、今でも忘れられない。
もはや、何も見ていなかった、あの目を。
それが、僕の中で1番大きな後悔。
それがあったから、僕は優奈を助けた。
ただ、それだけの話。
僕は、優奈にだけ、それを話していた。
優奈は「大丈夫だよ」と、そう言ってくれたが、僕には全くそうは思えなかった。
そいつとまさか、ここで再会することになるなんて。
そこで、グリムと優奈が戻ってきた。
そして、グリムはまっすぐ僕に近づいてきた。
そして、口を開いた。
「お前、俺になんか後ろめたいことあるだろ」
「…いや、えっと…それは…」
「あるのかねぇのか、その二択だ。さっさとしろ」
「………」
僕はもう、諦めた。
「……………ある」
「嘘つけ、ねーよ」
…………………………………………は?
「お前が俺に対して後ろめたいことなんて1個もねぇ。あんな事気にしてたら生きてけねーぞお前」
そう言うと、グリムは僕の頭を小突く。その顔は、なんと笑っていた。
「まぁ見て見ぬふりってのは悪い事だけどよ? 結果的に優奈助けてんじゃねぇか。全然いい事じゃねぇかよ!」
「え、いや、僕は、お前を見捨てて…」
「気にすんなっつってんだろ? それに俺、親父の用で元々転校する予定だったし」
「あ、え?」
転校はいじめを苦にしてのものだと思っていた。
「まぁそれもあるけどな。別に俺はお前を憎んでねーし。憎むとしたらクソバチの野郎だなー。聞きゃ優奈もいじめられたんだろ? んじゃ夏休みにでもボコりに行こうぜ、な?」
そう言って、グリムは僕の肩を叩く。
「…あぁ、ありがとう」
「いーっていーって、気にすんな! …あ、ところでよ…」
グリムはぽんと手を打つ。
「どした?」
「今優奈から聞いたんだけど、お前ら付き合ってるってほんと?」
「………へ?」
「いやだって、超自慢気味に話してきたからさ」
「優奈、お前後で話がある」
「…………すみませんでしたっ!!!」
腹を抱えて大笑いするグリムに、頭を下げて動かない優奈、そして額を押さえる僕。
高校生活は、中々楽しいものになりそうだ。