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異世界きました!

スライムの攻撃!

寺堂じどう 望人もうどに1のダメージ!


「ほぐぅ!?」


鳩尾に激しい衝撃を受けうずくまりながら、彼は呻いた。


「う、うぐぅ…。 1ダメージなのに痛すぎる…」


目の前、その空中に浮かぶウィンドウ画面の『たたかう』の文字をタッチしながら望人は叫ぶ。


「てかスライムのくせに強すぎだーーーー!?」


寺堂 望人の殴る攻撃!

ミス! スライムにダメージを与えられない!


「くそ! またハズした!」


思いっきり殴ったのだが芯を捉えられなかったためか、先程から3回に1回くらいの確率でしか目の前の不定形生物スライムにダメージを与えられない。 しかも当たっても1のダメージときたもんだ。

その間こちらも相手の攻撃を受け、視界の端に映るおそらく自分のものであろうHPの値が減っていく。

戦闘開始前は15ほどあったのだが上手く攻撃を当てられないまま攻撃しては攻撃され攻撃仕返しては攻撃仕返されを繰り返し、あと残り3というところまできている。


「ちょっと触ってみようとしただけなのに急に襲ってくるなんて…」


先程の鳩尾と下腹部のあたりをなでるように触りながら望人は呟いた。

そう、なんだかぷよぷよとして可愛いと思いスライムに触ったところ、いきなり戦闘が始まり、開幕股間に体当たりをかまされ初回から3のクリティカルダメージを食らったのだった。

それ以降腕や足、腹などに激しい打撃を食らったのだが、全て1のダメージだった。 つまりまた股間に食らわなければあと2回は耐えられる計算だ。

スライムのHPバーは数字こそ見えないものの減り方からして最大値4、現在残りHPは1のようだ。 そして先程連続2回攻撃をハズしている。 つまり…


スライムの攻撃!

寺堂 望人に1のダメージ!


腕をクロスしてスライムの攻撃を受けた望人は、ニヤリとしながら言い放った。


「つまり、次の攻撃で俺の勝ちだ!」


自ターン開始のウィンドウが表示されると同時に文字をタッチし攻撃を選んでいく望人。 その動作が終了すると体が勝手にスライムに向かって走りだし、腕を振りかぶる。


「これで終わりだぁ!」


勢いよく繰り出したパンチがスライムの体のど真ん中にぶち当たる。 望人は勝利を確信した。


「ぃよっし!」


…しかし。


寺堂望人の攻撃!

命中! スライムに0のダメージ!


ゼロだった。


「へ…?」


しっかりと当てたハズなのに、スライムもちょっとひるんでいるように見えるのに、しかしバトルのシステムログにはハッキリとダメージが0であったと表記されている。

その状況に驚きを隠せない望人。


「ウソ、でしょ…」


続いてスライムの攻撃が始まる。 慌てて防御姿勢をとりながら自分のHPバーを見る。


「そ、そうだ。 まだHPは2ある! 玉にさえ気を付ければまだギリギリ1で耐えられる! 次なんとか当てられればいいんだ!」


そう自分に言い聞かせた瞬間。 望人の顔に激しい衝撃が走る。


「え?」


まるでゴム製の棍棒で殴られたような、そんな攻撃を頬に受け、望人の体は横に1回転する。 地面に倒れこむ辺りで望人の意識は途絶えた。






暗い部屋の中、スマホとタブレットとノートPCとテレビの画面の光がスウェット姿の彼を照らす。


「あぁ、もう次クール始まっちゃう。 早く前期のアニメとドラマと撮りためたバラエティも観ないと。 積みゲーも消化しないと来月にはまた新作出るし、ソシャゲのイベントも…」


時間が足りない。 そう呟きながらスマホとタブレットを両手で操作する。 無料のゲームアプリを起動しているのだ。


「よーし遠征終わってんな。 げ、新規イベント今日からかぁ。 …とりあえずクエストは全部autoにして、とストーリーは全スキップしてあとで読もう。 こっちは素材クエストのオートループを一旦止めて…っと。 日付変わったからデイリーの討伐ミッションをオートに。 えーとあとは…」


小一時間ほどゲームアプリを複数操作し、そのほとんどをオートモードに設定するとコーヒーを飲みながらテレビ番組を見つつ、たまにPCで仕事する。 ここ数年そんな生活がずっと続いていた。 ゲームが好きすぎてどんどん新作に手を出すのはいいのだが、かといって古いものをやめることは無くそのほとんどすべてをAUTO機能を使って進めている。

特にゲームの大半を占めているソーシャルゲームがヤバい。 基本的に無料で出来る上に、最近のビッグタイトルはやり込み要素は家庭用コンシューマの比ではない。

メインストーリーは元より、それを進めるためにキャラクターを育成する討伐クエスト。 武器や防具等を作成、強化するための素材クエストに加え期間限定のイベントが毎週毎月開催され、通称日課と呼ばれる日付が変わると更新 されるデイリーミッション、ウィークリーミッションが重なってくる。

それがほぼ全てのゲームにあり終わりが見えない。 それを助けてくれるのが、各ゲームに備え付けられたAUTO機能だ。

ゲームにより程度は異なるがそのほとんどがそれらのゲームの作業を代行してくれるため、テレビ番組も見たい仕事もしなくちゃいけない始めたゲームはやめられない、と三拍子揃った彼をおおいに助けてくれる。 もはやそれが無いと生きていけない程に彼の身体機能の一部と化していた。


「はぁ…オート機能最高。コレ考えた奴は天才だわ。 ふふふ… もしAUTO教というものがあったら俺はそこの信者だな。 しかも幹部かそれこそ教祖レベルで…」


ゲームをオートで放置してテレビ番組を観ながらたまにくるゲームの通知をテキトーにタッチして消していく。


『お知らせ』

人気キャラクターの新規イベント開催! 各クエストをクリアして集めた素材で限定装備をゲットしよう!


ハイハイもうそれぶん回してる、オートループで。


『お知らせ』

映画公開記念クエスト配信! 前日譚ストーリークリアで豪華報酬!


ハイハイそれもオートでスキップスキップ。 とりあえず報酬だけ受け取っとこう。


『お知らせ』

メインクエスト更新! 各素材クエストスタミナ消費半分獲得経験値5倍素材入手量3倍!


おーコレはヤバい、やっとかないと。 オートで。


『お知らせ』

緊急メンテナンスのお知らせです。 現在配信のイベント中特定の条件下で進行不能になる不具合が…


ハイハイスキップスキップ〜詫び石期待してる〜。


『お知らせ』

未受け取りの報酬が128件あります。


あ、さっきのイベントの報酬か。 もうそんなに回したか。 溢れちゃうから受け取らないとな、一括で受け取り〜っと。


『お知らせ』

一括で受け取れない報酬が1件ありました。


んん? めんどくさいなぁ、もういっぱいで持てないのかな? それとも選択式の報酬か。


『お知らせ』

異世界への召喚の権利を得ました。 受け取りますか?


ハイハイサッサと受け取り〜。


ポチッ。 ギュギュ〜〜〜ン。






…アレからどれくらい経ったのだろう。 ゲームなら序盤に出てきて難なく倒せるであろうスライムに倒されてから、襲われないように自身の身長ほどもある岩の上に座り、寺堂じどう 望人もうどは考える。

原因はどう考えてもあの妙な報酬を受け取ってからだ。 あの時の部屋着のままだし、ちょうどあの辺からの記憶が曖昧で気づいたらこの場所、砂浜にいた。

見回したところ大小の岩と多少の木々が生えているだけの10分も走れば一周できそうなくらい小さな島のようだ。 あとは周囲を何体かの不定形生物スライムがうろついてる。

どうやら触ったり近づいたりしなければ襲ってこないようだ。


「シンボルエンカウントかな」


そんなわけないか。 そうつぶやくと空中に向かって人差し指を上から下にスワイプする。 すると目の前にゲームでよくあるようなメニュー画面があらわれた。


「でもコレってやっぱりどう考えてもアレだよな」


その手のラノベや漫画、アニメなんかは腐るほど見てきたし自分がそこに行けたらなどと夢見た時期もあったがまさかまさかの。


「異世界転生だーーー!」


思わずガッツポーズをとる望人。


「あ、いや別に死んだわけじゃないから異世界召喚になるのか? でもなんか誰かに召喚された風でもないしなぁ。 ま、いいか」


いいのか? と自分で自分につっこみながらメニュー画面の前に座りなおす。 現状はさておき若干のワクワクを胸に画面を操作しはじめた。


「異世界に来てこーゆーのが操作できるってことはやっぱりなんか俺にも良さげなスキルがあったりするのかなぁ。 もしくはなんかのゲームのレベルとかステータスがそのまま引き継がれてて俺つえー状態だったり!? …あ、でもさっきスライムにやられたからそれは無い、か…。 じゃあやっぱりスキル会得してる説? なんか敵を食って相手のスキル奪って強くなるヤツとかここにいるスライムをテイムしまくったら最強!とかそんなんが良いなぁ…。 ブサイクになってその代わりに強くなる系はちょっと夢が無いっていうか、やっぱり多少は。 いや!できる限りはモテまくりたいし、モテまくりたいわけでしょ? 絶対そう! 職業とか何が良いかなあ。 やっぱり剣かな! 賢者とかで魔法バンバン撃つのも良いけどここはふた振りの剣を持ってズバズバモンスター切り裂いて黒いコーディネイトでキメちゃったりするのが良いよね! こんな…」


早口でひとしきり喋ったあと目に入ったステータス画面を見て彼は一気に落ち込んだ。 なぜなら…。


「こんな…まさか、ね?」


さっきまでの勢いはどこへ行ったのか。 しかしムリもあるまい。 なぜならその画面には、


寺堂じどう 望人もうど

プレイヤーランク1

称号 異世界からの転移者

職業 転移者

レベル 1


HP 15/15

MP 0/0

攻撃力 8 防御力 6

魔攻力 1 魔防力 1

移動力 4 素早さ 9


筋力 4

体力 3

頑強 2

知性 9

敏捷 6

魔力 0

精神 8

器用 7

信仰 5

魅力 5

運気 5


取得スキル


無し



…特に強そうな感じは一切無かったからである。


「ウソでしょ〜〜!?」


誰もいない島中に彼の叫び声だけが虚しく響いた。





夜が明けた。

あのあとちょっとヤケになってスライムに喧嘩を売ってボコボコにされて分かった事がある。

どうやらやられて戦闘不能になってもなぜか死ぬまでには至らないようだ。 先程もHPが0になって意識を失ったのだが、目がさめると最大まで回復しており戦闘中に負っていた傷などもキレイに無くなっていた。

戦闘不能と死亡は別物なのかよく分からないが。

あと異世界にきてから結構な時間が経つがなぜか腹が減らず状況に対するストレス以外の体の疲れのようなものもあまり感じられない。 バトルであれだけ動き回っているにも関わらず、だ。

そして戦闘中、コマンドバトルだからなのか『たたかう』などの攻撃コマンドを入力し終わるまでスライムが攻撃してこないことも分かった。 その間多少動いたりも出来るようだ。 まぁ逃げようと離れまくったら回り込まれてコマンドを入力してないにも関わらず殴られたが。

そして冷静になって気づいたのだが…。


「コレ、レベル上げたら強くなれるんじゃね?」


そうなのだ。 ステータス画面にはハッキリとレベル1と書かれている。 つまりなんとかしてスライムを倒すことが出来たならレベルが2になりステータスも上がるはず。 そうすれば何かしら有用なスキルや魔法などを修得することができるかもしれない。

そうなれば海に囲まれたこのほぼ砂浜しか無い場所から移動することも可能になるのではないだろうか。 望人はそう考えた。

少なくともステータスが上がれば数歩歩いただけでスライムにボコボコにされることも無くなるのではないだろうか。


「ただ問題があるとすれば…」


そうなのだ。 現状、スライムのHPはこちらの攻撃能力ではやられる前に倒すことが非常に難しい。 一体だけならまだしもエンカウントして二体現れるとまず戦闘不能は確定、またどうやらスライムのHPは個体差があるようで4なら運が良ければギリギリいけそうだが5あると倒すのはかなり厳しいと言わざるを得ない。 なんといっても殴られると非常に痛い。 泣きそうになるくらいに痛い。 クリティカルなぞ食らった日にはHPが残っていても気絶してしまい、そのまま殴られて戦闘不能になってしまう。


「今のところ遭遇したスライムはHPが4〜8といったところかぁ。 …3のやつがいればなぁ」


1発当てさえすればHPバーの減り具合から3だとわかるのでとりあえずの目標は3のやつを探してなんとか倒すこと。 現状それ以外にやることが全くないので、望人はそうすることにした。


「とは言ったものの…」


丸1日かけて戦い気絶することついに二桁。 目が覚め起き上がりながら呟く。


「全然いないし! なんなら4のやつも中々出てこねーし!もうこんなボコボコにされ続けるなんて嫌だー! わーーん!」


大人気なく泣きわめく望人を慰めるかのようにそばにそっと寄り添ってくるスライム。


「なんだよ、慰めてくれるのか?」


そしてつい手を出して撫でてしまった。


「え、やべ」


ブワッ! そのまま戦闘に移行してしまう。


「ひいー! もう勘弁してくれー!」


傷は治っても痛みの感覚だけはハッキリと残っているせいで正直今すぐ逃げ出したいが、どうせ逃げようとしても無理矢理回り込まれ一方的に殴られてしまう。 仕方なくたたかうコマンドを選んだ。

どれだけ精神が疲弊していても攻撃を選ぶと体は勝手に全力で攻撃を繰り出す。


寺堂 望人の攻撃!

ドカッ

スライムに1のダメージ!


「お?」


珍しく初回の一撃がヒットした。 しかも…


「お、おお? これは…!?」


HPバーが残り3分の2になっている。 どうやらついに目的のHPが3のスライムのようだ。

俄然テンションが上がる望人。


「よし! よっっっ…し!! キタキターー! うぐぉッ!?」


スライムの攻撃!

ドカッ

寺堂 望人に1のダメージ!


喜んでいようと問答無用で殴ってくるスライムにひるみながらもその目にはハッキリと希望が映されていた。


「初回から攻撃も当たってるし、コレなら倒せる!」


うおおお!っと勢いよくスライムに立ち向かい、なんだかんだギリギリまで粘られたが…。


「コレで終わりだぁ!」


寺堂 望人の攻撃!

ガスッ

スライムに1のダメージ!

スライムを倒した!


「…ぃよっしゃあああ!」


なんとか倒すことができた。 そして…


経験値を1獲得した!

ミッションを達成し、

プレイヤーランクが1上がりました!


戦闘に勝利したことでシステムログに表示がされていく。


「よっしゃ! レベル上がった!」


さっそく人差し指で空中をスワイプし、ステータス画面を開く。 しかしステータスは特に変化していなかった。


「ん??? アレ?なんかさっきレベル上がったよな? 1のままだ…。 こっちはなんだろう」


累計ミッションと書かれたタブを開くと、そこには


モンスターを初討伐した

報酬

プレイヤーランクが1上がる


と書かれていた。


「プレイヤーランク? レベルじゃないのか…」


期待していたレベルの上昇では無かったが、経験値はしっかりと獲得していた事を思い出し再度ステータス画面をチェックする。


「考えてみればいくらなんでもたった1の経験値でレベル2には上がらない、か。 そりゃそーだよな、それで上がるなんてどんなヌルゲーだよって話だ。 最初は大体10とか20とかせめて5は必要だよなぁ…」


普段からゲームをしていたせいか苦労して倒してもレベルが上がらなかったのにどことなく嬉しいような悲しいような、そんな気持ちを感じながら次のレベルアップに必要な経験値を見てみる。 しかしそれを見て驚愕した。


次のレベルまで、あと

1/10000


「い、いちま…」


望人は叫んだ。


「どんだけだーーーーーーー!!!」


スライムの経験値は1、 単純に考えてあと9999匹倒さないと次のレベルにはならない。 しかし倒せるスライムは現状かなり制限があるため一回のバトルで1匹倒す確率はかなり低いと言わざるを得ない。 しかもおそらく死ぬことはないとはいえ、バトル時にはそれこそ容易に気絶する事ができるほどの痛みを伴う。 1万匹倒すまえに精神が死んでしまうだろう。


「イヤイヤ無理無理、絶対無理だ。 1日がかりでようやく1匹倒せたっていうのにそれをあと9999匹? 毎日1匹倒せたとしてそれを約27年以上も? そんな事するより助けを求めたほうがいくらか現実的…」


そう言って辺りを見回したがこんな学校の校庭よりちょっと広い程度のほぼ砂浜のような島に一体だれが来るというのか。


「やるしかない、のか…?」


やらずとも腹は減らないし、死ぬことはない。 だがこの島にいる以上近づけばスライムは襲ってくる。 強くならなければただ殴られるだけだ。


「そうだ。 ただ殴られるくらいなら殴り返してやる…! こうしてたって他にやれる事もないんだからな!」


そう叫びながら腕を大きく横にふるった。 スワイプしたことになったのかメニュー画面が開く。


「おっと…! いや別に開くつもりは無かったんだけど。 どうせそんなに見るものもないし…」


多少なりとも視界がふさがれてしまうため慌てて消そうとしたがログの一部に何かNEWマークが付いていることに気づく。


「ん? なんか通知が来てるな…。 どれどれ、えーっとチュートリアルバトルを終え、ランクが上がったことで新たな機能が解放されました? 」


「これは…。 AUTO機能が解放されたのか。 てゆーかチュートリアルバトルのくせに難易度高すぎだろうに…」


しかしせっかくなので使ってみようと、メニューを操作していく。 メニューからAUTOバトル機能を設定できるようだ。


「ふむふむ。 じゃあ頑張んなくてもAUTOでスライム倒してくれるってことなのかな。 やった! じゃあもうあんな痛い思いをしなくて済むのか! さっそく設定しよう!」


先程までの暗い雰囲気はどこへやら。 ウキウキとした気分でAUTOの設定をいじる。 どうやら倒す対象を設定することが出来るようだ。


「対象も何も周りにはスライムしかいないからな。 スライムを対象に設定、と。 …うお!?」


設定し終えてメニュー画面を閉じると体が急に走り出す。 もちろん設定されたスライムに向かって、だ。


「もういきなりか! …おぉ、コマンドが勝手に入力されていく!?」


スライムに接触しバトルに入った途端、コマンドがすごい速度で選択され攻撃が始まる。 しかしその攻撃は自分でコマンドを選択した時よりも少し、いやかなり雑な攻撃であった。


「あ、あれれ〜? ちょっとAUTOさん? 攻撃テキトーすぎませんかね? 避けられてますよ? あ、ヤバイ、このままだと攻撃が…」


望人の攻撃は狙ったスライムのけっこう手前の地面に当たった。 もちろん望人の攻撃が終わったという事は次はスライムの攻撃だ。 しかも真正面だったためその攻撃は顔面にヒットする。


「ふごぉ!?」


そして直後にコマンド画面が現れる。 いつもなら痛みでしばらくの間動けずにいるのだが今回は違った。AUTO機能さんがコマンドが出た瞬間に攻撃を選択する。


「あ、ちょちょ、ちょっと待って…! あぁ!」


近くにいたせいか今度はスライムに命中しダメージを与えた。 すかさず次はスライムが望人の腹に体当たりをかます。


「ほぐぅ!?」


体がちょっと浮くほどの衝撃を受けたが、AUTO機能さんは間髪入れずに次の攻撃を選択し足下にいるスライムを踏みつけんと攻撃する。 しかしまた乱雑な攻撃だったためスライムには当たらなかった。


「げ、またハズして、ってあ! この位置はマズイって!」


踏みつけ攻撃を避けられたせいで望人は大股開きになってしまい、ちょうどスライムがその下から攻撃を繰り出す。 もちろんそんな位置から攻撃を繰り出せば当たるのは股間である。


「あ、あ〜〜〜〜!!」


捻りあげるような衝撃を下腹部に食らって空中を舞いながら、こりゃレベルが上がるより先に女の子になっちゃうな、と下らない事を考えながら望人の意識は途絶えた。




…AUTOモードを起動してから望人は戦い続けた。

正確には目を覚ましてはスライムの攻撃を無防備な状態で受けて気絶するためAUTOモードを止めることができずにいたのだ。 しかし約6ヶ月が経過したあたりで状況に変化が生じる。

攻撃を食らっても気絶していないのだ。

ここぞとばかりにAUTOモードのボタン押して一旦解除する。


「ふぅ…ふぅ…。 と、止まった…」


グッタリとした様子でその場に座りこむ。 まだ戦闘は終わってはいないが、コマンドさえ入力しなければ戦闘は進まずスライムも待ってくれている。


「や、やっと止まった…。 うぅ、やっと止まったよぉ…ふぇぇぇん!」


まるで美少女キャラのように大の大人が泣き叫ぶ。 とはいえそれも仕方ないのではないだろうか。 いくら死なず傷跡も残らないとはいえ毎日毎日死ぬほど殴られ、それが3ヶ月も続けば常人なら発狂していても不思議ではない。

とにかく自分の体が自分の思う通りに動く喜びを感じながらしばらく泣き続けた。


「はぁ…。 さて、と。 とりあえずこの戦闘を終わらせないとな…」


正直だるいが、このままずっとスライムに見つめ続けられても落ち着かない。 まだ相手のHPは見たところ4/5といったところだろうか。


「うぅ、勝てそうにないなぁ。 仕方ない、一旦やられるしか…。 どうせ逃げるのも無理だしな」


倒すにしろやられるにしろ攻撃を選ばなくてはいけない。 コマンドをタッチして攻撃行動に移る。


寺堂 望人の攻撃!

バキッ

スライムに3のダメージ!


「え? あれ!? 3!?」


続けてスライムのターンが始まる。 思わず両腕で防御姿勢をとる。


スライムの攻撃!

グワッ バシッ

寺堂 望人に0のダメージ!


「痛っ! くない? え、0!?」


多少の衝撃のようなものはあったが、両腕でガードしたせいかダメージを受けなかった。 思わず自分のHPを見ると19/20になっている。


「HPが、上がっている? もしかしてコレ!」


続けて現れたコマンドを操作し、攻撃を選択する。


寺堂 望人の攻撃!

ドカッ

スライムに2のダメージ!

スライムを倒した!

1の経験値を手に入れた!


「ウソ、でしょ…。 ハ、ハハ。 倒せた! 簡単に倒せた!」


今まで行ってきたバトルに比べて容易にスライムを倒す事ができた。 もしやと思いステータス画面を開くとやはりレベルが1上がっていた。

ステータスももちろん全般的に上昇している。 更にレベルアップする事で手に入るSPスキルポイントを消費することでステータスの向上はもちろんのこと、新たなスキルやアビリティを修得することができるようだ。


「どれどれ? 今回のレベルアップで手に入れたポイントは、と…」


ドキドキしながらステータス画面をひらく。



獲得SP 10000P


「い、いちま…!?」


こうして俺の最強への道は始まった。

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