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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼岸花に囲まれた一つのもの

作者: 水都莱兎

僕の周囲には、たくさんの彼岸花がある。僕はそこにあるものを置いて、後ろ髪が惹かれる思いで元来た道へ戻った。



ある学校の屋上で事は起こる。


「あんたさ、楓先輩に近づかないでよ!」


「楓先輩はみんなのものなの! 独り占めしていいものじゃないのよ!?」


「で、でも……」


「何、口答えしようとしてるの!?」


派手な女たちに囲まれている、一人の大人しめの女。派手な女たちは髪を染め、学校の制服を好きなように着ている。大人しめの女の方は、黒い髪で、制服をキッチリ着ている。しかも、大人しめの彼女は、学級委員をしていたはずだ。


「ちょっと!! 何逃げようとしているの?」


黒髪の彼女は、彼女たちの隙をついて逃げようとしたらしい。結局、失敗に終わったみたいだ。


彼女たちは黒髪の彼女を追い詰めていく。一つ重要なことを言っておこう。最近、屋上のフェンスが壊れたようで、屋上は立ち入り禁止になった。

彼女たちは黒髪の彼女をその壊れたフェンスまで追い込もうとしているようだ。


何をしようとしているのか、察しの良い人なら誰でも理解できること。


どんどん迫られ追い込まれていく黒髪の女。彼女たちに迫られて、逃れようと後ろに下がっていった。そのせいで、あと一つアクションを起こせば、空中に投げ出されるだろう。


黒髪の彼女がこちらを見た。屋上に上がるための階段が設けられたところ。屋上の突き出した小屋の上、塔屋に一人の男がいる。それが、僕。派手な女たちが、楓先輩と呼んでいた人物だ。

彼女は、僕を見ると、女たちに囲まれていた時より震え上がった。真っ青な顔をしている。どうして、と呟かれた口の形に僕は微笑みを浮かべた。


黒髪の彼女は派手な女たちのうちの一人に突き落とされて死んだ。


僕はそれを淡々と見ていた。ただ、冷たい視線を向けていたと思う。なぜなら、派手な女たちが勝手に僕のおもちゃを壊してしまったからだ。おもちゃを探すのは容易ではない。だから、彼女を壊した彼女たちには、罰を与えなければならない。苦しみ、足掻いて彼女たちは亡くなる。


壊れたおもちゃを壊して良かったのは、僕だけだったのにね。


醜いガラクタは慟哭する。叫んで、悲鳴をあげ、嗚咽する。僕はそれを遠目から見ていた。


たった一つの言葉は、たやすく一つの世界を作り上げた。それは、彼女たちには辛く悲しい現実の居場所。


「助けて! たすけてよぅーー!!」


届かない声を先に出したのは誰だろうか。



僕が残すのはたった一言のみ。


「僕の大切な子がね、派手な女の子たちに——」


クラスのみんなは僕の言葉を遮る。


「その派手な女の子たちの名前はなんて言うの?」


「人に危害を加えるなんて最低だよ! それも楓君の彼女にでしょう?」


「醜い嫉妬は嫌だよね〜〜」


面白いくらいに想定通り。クラスの人気者の僕の言葉をクラスのみんなは聞いてくれた。僕は、大切な子と言っただけで彼女とは言っていない。そのキーワードでより多くの人が動く。


僕の彼女になりたい子はたくさんいるからね。僕のおもちゃを壊した女たちを傷つけて、排除する。そうすることで、僕の彼女になれる可能性が出てくると思っているのだろう。その可能性はゼロなのに、小さな希望は人を動かす。それが、悪意のあるものだとしてもだ。


見えない、ありもしない相手に嫉妬しているのは、僕を好きな子たちも同様である。


クラスの男子たちは、人気者の僕に少しでも近づきたい。その思いが、男の子たちを動かす。人気者であると言っているが、本当に人気があるのは僕の持っている権力。それがなかったら、多くの人は僕に寄り付かない。


僕は、かっこよくもないし、頭がいいのが取り柄なだけ。ほんのちょっぴり顔がいいだけで、権力がなければ平凡な人間だ。


人気なのは僕ではなく、僕のアイテムである権力だ。権力は大きな効力を発揮してくれる僕のキーアイテム。何の権力なのかは、言わないでおく。



醜いガラクタたちは、無視されるようになった。普段のように学校生活を送ることができなくなったのである。派手な女たちの一人が話せば、無視するか、あるいはケラケラと下種な笑いが教室に響くか。彼女たちの一つの行いが彼女たち自身を苦しめることになった。


「ちょっと! やめなさいよ!!」


「髪をひっぱらないで!!」


「あぁ……ぁぁぁ。私の髪が……」


クラスの人たちに囲まれている派手な女たちのグループの一人。彼女は髪を強く引っ張られて、表情を歪めた。そして、髪を鷲掴みされていて、抵抗をしている。クラスの人たちの一人がハサミを持った。彼女に見せつけるように、ハサミの刃を開いたり、閉じたりしている。沈黙する場と静かに涙を流す彼女。ジャキンっと音がした後、パサリと多くの毛の束が落ちた音。肩より少し長かった彼女の髪が、今では耳の位置くらいの長さになっている。


「あははははははっ!」


「あんたの存在は迷惑だったのよ」


「そうよ! だって、私たちを見下して、傲慢な態度をとっていたもの。これは、受けて当然の報いよ!」


醜いガラクタが潰されていく。派手な女の一人はこれまで見下していたクラスの人たちに見下されるのだ。屈辱的な思いを味わっていることだろう。一人の絶望だけでは、おさまらない。派手な女たち、僕のおもちゃを壊した者たちが標的だ。


一人、また一人と醜いガラクタは処分されていく。心が折れて、死にゆく人もいた。家に引きこもる人もいた。諦めずに学校に来て、潰されていく人も見た。


「なんて、残酷な世界なのだろうか」


小さな風が吹いている屋上で、僕は空を見つめて呟いた。彼方まで広がる空は遠くまで青い。そこにある白い雲を見ては、あの形はアレに似てるなどと思う。僕は目を細めて、大きな青空を眺めた。


「今日の空はとても綺麗だ」


淀んでいる世界とは別に広がるのは輝き道底部景色。僕は、しばらく視界にその空を入れていた。規則正しい鐘の音が三度鳴り響くまで、僕は空だけを眺め続けた。



彼岸花が群生している場所に行った僕。そこに、僕は君との思い出の品を置いた。


「また会う日を楽しみにしているよ」


目的の品を置いてすぐにそこから立ち去る僕。

たくさんの彼岸花に囲まれている物は何であるのだろうか。小さな光が差し込んで見えた物は——。

キラリと光った、指輪だった。

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