うさ耳くんと、街のイベント ⑥
「それで何があったんだい?」
騎士の人は俺に向かって穏やかな笑顔で問いかけてくる。
俺が子供だからか、可愛い見た目をしているからか怖がらせないようにと気を付けてくれているらしい。確かに俺ぐらいの年の子供なら騎士を怖がったりするのは一般的かもしれない。
俺は剣を扱うし、魔物の討伐にも行くし、強くなろうと鍛錬ばかりしているから別かもしれないけれど。
「えっと……さっきの女の子の声が聞こえたからあわてて駆けつけたらあの男たちがいたとしか言えないです」
こうやって騎士に囲まれて事情説明をするのなんて当然だが初めての経験で、俺はどう話し出せばいいか分からなかった。
……こんなしどろもどろな説明しか出来ないなんて俺、駄目だな! もっとこういう時に説明を上手く出来るようにならないと将来冒険者になった際に面倒なことになるかもしれない。
ただ強くなるだけでは冒険者としては大成なんて出来ないよな。俺はそう思っているので、また課題が出来た。
「そうなんだね」
「はい。えっと、俺は獣人だからその声が聞こえて、大変な事態だと思って駆けつけたら男たちがあの子を囲んでいました。流石に女の子を大多数で囲んでいるのを放っておけなくて介入してしまったというか」
俺はそう言って説明をする。
「ユーリが女の子の声に気づくことが出来たのは、いつも訓練をしているからです。俺は気づかなかったのに、何か声がするって飛び出すから驚きました」
兄さんがそう言って俺のことを説明する。
「訓練?」
「ユーリは強くなりたいと言って、いつも変わった訓練ばかりしているんです。聴力も鍛えているので、すぐに気づけたのかと」
兄さんがそう口にすると、騎士達は驚いた顔を俺に向ける。
「そうなのか、小さいのに凄いな」
騎士の人から褒めるようにそんなことを言われると、何だか嬉しくなった。だってさ、やっぱり自分がこれまでやってきたことが認められている感があってもっと頑張りたいなと思う。
「俺、もっと頑張ります!! ああいう人たちにも負けないぐらいになりたいので」
騎士達が駆けつけた時には全て終わっているとかだと一番かっこいいと思うんだよな。俺は少なくともそういう存在になりたい。
「そうか。なら、頑張るといい。ただあんまり無茶な真似はしない方がいい。今回は大丈夫だったが、君の身に何かがあったら後ろの親御さん達が悲しむだろう」
騎士の人がそう口にすると、後ろに控えている母さんが勢いよく返事していた。父さんも心配そうな顔だ。
……俺は強くなりたいってそういう自分の望みのために、行動を起こしている。もう少ししたら学園にも行って、そしてきっと俺自身が強くなりたいと思っている限り、危険なことには飛び込むことにはなるかもしれない。
自分の命は当然大事なものだけど、何かあった時に自分の行動を遠慮せずに出来るような俺でありたいとそう思っているのだ。
「はい。ありがとうございます。家族に心配をかけずに済むように、頑張ろうと思います」
俺がそう口にすると、騎士はにこにこと笑ってくれる。
そんなこんな話していると、その部屋の中に別の騎士が入ってきた。あの女の子を連れて行った騎士である。ただその場に女の子は居ないので、事情だけ聞いてきたのかな?
考えてみると、あんな風に男達から襲われたのだから休んでもらった方がいいもんな。この世界が前世よりも殺伐とした世界で、人が亡くなりやすいとはいえ……そういうことに慣れてばかりの人ではない。
俺のように何れ自分の力でなんでも叶えていきたい! なんて思っていなければこういう風なことに巻き込まれることはないようだし。
「あの少女に関してですが、狙われた理由に関しての情報を聞きました。あの子のことを助けたあなたたちには情報共有をすべきとは思いますが……、知ってしまえば危険に巻き込まれてしまう可能性は十分にあるのでおおまかなことだけになります」
そんな風に言われて、あの子はそれだけ危険なことに巻き込まれているのか? とかなり心配になる。
だってあんなに小さい子が……って、俺の方が小さいんだけどさ、ああいうことに巻き込まれていて、騎士がこういう言い方をするってことはそれだけ大変な状況なんだろうし。
ただ騎士に保護してもらっているなら、基本は大丈夫なはず……。
「はい」
俺が頷くと、騎士の人がざっくりとした事情は話してくれた。
あの女の子の実家と敵対している家がそういう指示を出して襲われることになったらしい。どの家かなどは教えてもらえなかった。俺達家族はあくまで平民だしなぁ。
これが貴族とか、平民の中でも力のある家の出だったら、色んな情報を教えてもらったのかもしれない。けど余計な事に巻き込まれて家族が危険な目に遭うのも嫌だし、そのくらいの情報を聞くだけでいいかなと思っている。
情報を聞いた後は謝礼をもらって、その場を後にした。




