うさ耳くんと、街のイベント ④
俺がその声を聞くことが出来たのは、これまで頑張って五感を鍛えていたからである。俺は五感を一部制限していても、問題なく動けるようにしようと色々していたから。
だからこうやってイベント中も五感を研ぎ澄ませていた。
――そして耳に聞こえた微かな声に、俺は反応出来た。
「ユーリ、どうしたんだ?」
「誰かが大変そうな声が声が聞こえたから! 勘違いだったらごめん」
俺がそう口にすると、兄さんは頷いてくれる。
……兄さんも俺と同じ獣人なので、人間よりも耳が良い。だけれどもこれだけ人が多くて、喧噪の中だからこそ聞き取れなかったのだと思う。
こういうある意味非常事態な状況だけど、特訓の成果が出たのだと思うと何だか嬉しい気持ちにはなってしまった。それよりも大変そうな声の主を助けなければならないのに。
そして駆け出した先は、街の中でも人気が少ないエリアだった。
イベントの屋台や催しがあるエリアから少しだけ離れている。今は、そちらに人が集まっているからそのあたりはほとんど人がいないのである。
そこに――男たちが女の子を囲んでいた。
なんだか前世で読んだ漫画などでよく見かけるようなもの。今世ではあんまりこういう展開見たことなかった。というかさ、女の子を数人の男で囲うのってかっこ悪くないか? 俺やノアレよりも少しだけ年上の女の子だぞ。
「何をやっているんだ!」
事情は分からないけれど、もし女の子の方に悪いことがあったとしてもこうやって囲うのは違う気がするんだよなぁ。よっぽど話が通じない相手とかだったら別かもだけど。
あとは騎士達が何らかの要因があって誰かを追い詰めているとかなら、俺だってこうやって邪魔はしない。だって幾ら見た目が可愛らしい少女でも犯罪者なんてこともあるだろうし。でもなんか、見るからにそういう感じではないから思わず飛び出してしまった。
兄さんも俺の後ろをついてきてくれる。それにしても一人だったらもっと俺は怯んでしまったと思うけれど、まだ兄さんが居てくれるから心強い。
俺の言葉を聞いて、男たちは驚いた顔をした。こうやって邪魔をされるとは思っていなかったみたい。
だけれどもすぐにその表情を変える。
「お前には関係ないだろう。餓鬼は引っ込んでおきな!」
そんな風に声をあげられる。
こういう言葉をかけられると、びくついてしまう。
こんな風に怒鳴られたりはあんまりないから。だけれども、此処で引くわけにはいかないと俺は声をあげる。
「関係ないって、その子が怖がっているから放っておけないよ!」
俺がそうやって告げると、男たちは驚いたようだ。流石に怖がって居なくなるだろうとそう思っていたのだろう。俺は周りの状況を確認しながら、これからどういう対応をしようかというのを思考する。
騒ぎを起こせば大人たちが駆けつけてくれるはずなので、俺は空に向かって魔法を放つ。無属性で使える魔法を行使する。こういう時に俺が光と無属性しか使えないことには何とも言えない気持ちになる。
色持ちの……例えば赤とか、青とかの目立つ色の属性が使えればもっと人を呼びやすかったのにって。
無属性だと、色がないからなぁ。とはいえ魔法が使われたことは確かに分かるし、遠目からも分かるように大きなものにしたから人が駆けつけてくれるとは思うけれど……!!
「お前、魔法が使えるのか!」
「ふざけるな!!」
男たちは当然怒りを表す。怖くないと言えば嘘になる。けれども意外に俺は冷静だった。それはこれまで強くなりたいって、訓練を続けてきたり魔物を倒しにいったりしていた結果だと思う。模擬戦以外でこうやって人と対峙することなんてまずなかったけれど――俺がこの世界で自由気ままに生きていくためにはこういう状況でもどうにか出来なきゃいけないとは思う。
ただ街に遊びに来ていただけではあるけれど、何かあった時ように武器は持っている。もちろん、俺のような子供が常に武器を所持していたら驚かれるから隠し持っていたのだけど。
それに男たちはこんな街中で普通に武器を出していた。兄さんも武器を取り出して一緒に対峙してくれる。
あくまで俺と兄さんがやらなければならないのは、大人たちが駆けつけてくれるまで頑張ることだ。倒さなければならないなんてそんなことは考えなくていい。というか、今の俺と兄さんだと加減なんてもちろんできないし、本気で抵抗をすれば相手を殺してしまうような事態になりかねない。というか、向こうはどうなんだろう? 俺達のことを殺そうと思うぐらい殺意があるのか。それともただ今回の件を邪魔されないように痛めつけようとしているのか。
……俺も兄さんも普段は村暮らしで、こういう街に来ることがまず珍しい。
だからこそ街のことはそこまで分からないけれど、人を殺しても何とも思わない連中が蔓延っていたらそれはそれで怖いなと思う。
そんなことを考えながら、俺は先手必勝とばかりに男たちにとびかかった。




