うさ耳くんと、街のイベント ③
こうやって美味しいものが手に入ると幸せな気持ちになる。普段の俺は訓練ばかりで、強くなろうとそれしか考えていない。けれどまぁ、こうやって街に来た時ぐらいは思いっきり美味しいものを食べまくりたいと思う。
正直、村だとそこまでの種類の料理はないからな。焼いただけの魔物肉も俺は好きだけど。
「ユーリ、タレを買ったの?」
「うん! このタレ、凄く美味しいんだよ。俺は気に入ったの」
母さんにタレの入った容器を見せると、驚いた顔をされる。
「そうなのね。こういう場所に来てタレを買うなんて、本当にユーリらしいわ」
母さんはそう言ってにこにこしている。
俺は母さんがにこにこしているのを見ると、嬉しくなった。
村に戻ったら俺が望んだ時にはこのタレを使って料理を作ってくれるとも言ってくれる。母さんはいつもそうやって俺の意思をちゃんと確認してくれる。親バカな一面もあって、俺のことをいつも褒めてくれて、無茶をしないようにとそんな風によく言われる。
学園に入学したら家族ともなかなか会えなくなるだろうから、それまで親孝行はしたいなとは思う。……俺は突拍子もない行動をよくするから心配はかけているだろうけれど。
その後は屋台の料理を家族で沢山食べた。
俺が食べきれない分は父さんや兄さんが食べてくれた。お腹いっぱいまで食べた後は、何か面白いものがないかと俺はずっときょろきょろしていた。あまりにも見渡しすぎて、道行く人たちに生暖かい目で見られてそれは嫌だった。本当に……前世の記憶があるのに、俺はどうしてこうも体に引っ張られているのだろうか。
「兄さん、あれ、見に行こう!」
俺がそう口にすると、兄さんは笑いながら頷かれる。
俺が目に付けたのは、旅芸人の催しである。こういうイベントの時は旅芸人の人達もきっと稼ぎ時なんだろうなって思う。
俺の住んでいる村は小さいからか、こういう旅芸人の人達が寄ることってないんだよなぁ。だからこういう催しを見るのは街に来た時だけだ。というか、今世では初かな。
俺が兄さんの手を引いてその場に向かうと、俺達が子供だからか前の方に座らせてもらえた。父さんと母さんは後ろの方で見ているみたい。こうやって前に座らせてもらえるのはとても助かる。だって俺は同年代に比べても背がとても低いのだ。確か兄さんは俺と同じ年の時にはもう少し背が高かったと思うのに!
俺はもっと背を伸ばしたいと思うけれど、母さんは背が低いし、俺も小さいままかもとやっぱり思う。
ちなみに旅芸人のお姉さんはなかなか過激な服装だった。人の目を惹きつけるためだろうけれど、そういう服装いいのかな……ってなった。
劇自体は凄く面白かった。
有名な冒険者の冒険譚。それでいてその冒険者の人は、女性との噂が事切れない人だったみたい。有名な人と一夜だけでもそういう仲になりたいって女性の人、それなりにいるっぽい。……俺はノアレが折角の機会だからなんていってそういう人と一夜だけの関係になるとかされたら滅茶苦茶落ち込むだろうな。
もう終わったことだから……というのもあるだろうけれど、劇のモデルになった冒険者の人は普通に人の奥さんとかともそういう仲になっていた。劇の内容は好きだけど、その辺は少しだけ微妙な気持ちになった。
ただ巨大な魔物をたった一人で倒したり……なんていうのを簡単に行える強さは本当に凄いと思う。なんだろう、その冒険者を演じている旅芸人のお兄さんの身体能力も本当にすさまじかった。
旅芸人を職種にしているから、戦ったりは実際にしていない人たちだとは思う。でもなんていうか、きっと武芸でも名をはせることが出来るのではないかと思うぐらいにキレッキレの動きだった。
ああいう動きも俺がこれから強くなっていく上では参考に出来るのではないかとそんな風に思っている。
結局のところ勝てればいいとは思う。死んでしまったら終わりだから、ただ生きて、相手に勝てればそれでいいはずだ。だけれどもかっこ悪い戦い方よりはかっこいい戦い方の方がいいよなと思ってしまう。
劇が終わったら、お金を見ていた人たちが投げていた。所謂投げ銭だ。
俺もお金を取り出して投げておいた。ちょっと楽しくなってもっと投げようとしたら流石に兄さんに「ユーリ、楽しかったのは分かるけれどやめておこう」と止められてしまった。
確かに……子供の俺が持っているお金なんて限られているから、あんまり使いすぎても問題かも。
そういうわけで一回だけの投げ銭で我慢した。俺が投げ銭をしたのは、旅芸人の人達にも知られていたみたいで、滅茶苦茶良い笑顔を向けられた。
それにしてもああいう劇って本当に楽しいものだ。学園に通うようになったら、そういうのももっと見れるようになるかな。学園がある場所って凄く人が沢山来るって聞くし。
そんなことを考えながら劇が終わった後、家族と一緒にぶらぶらしていると――、
「……してください」
小さく、俺の耳に一つの声が聞こえた。
それは切羽詰まったものだったので、俺は兄さんに「行こう!」と声を掛けて駆け出した。




